機動戦士ガンダムSEED_CHILDREN   作:千葉 仁史

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いつか終わる物語

 

 自身がキラ=ヤマトとラクス=クラインの息子ではないと知ったときに感じたのは、困惑でも悲しみでもなく、ただひとしきりの安堵と解放感だった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「エンデ!」

 

 名前を呼ばれる。正面から一つ歳下のナデシコが此方へとレールを伝って近付いて来ていた。宇宙空間の安定の無さは僕らにとっては当たり前のもので、地球の重力こそ締め付けられるようで僕は好かなかった。父譲りの藍色の髪をポニーテールにし、母親譲りの負けん気の強い瞳を持った彼女は止まることなく、勢いのまま僕に抱き着く。

 

「十八歳でネブラ勲章だなんて凄いじゃない! しかも最年少!! 流石、ヤマト准将とラクス総裁の息子ね! 私も負けてられないわ!」

 

 昔馴染み特有の距離感の無さに、僕は溜め息すら噛み殺した。

 

 二十数年前にファウンデーション王国が大量殺戮兵器を以て世界を支配しようと企んだように、ここ最近において同じことを目論んだ組織があった。それを潰したのが十日前のことで、一番に活躍した僕はネブラ勲章が贈られることが決まり、今はその授与式が終わった帰りだった。

 

 授与式では、最年少だからといって奇異の目は全く無く、スーパーコーディネイターとアコードの息子なのだから当然のことだと言わんばかりの空気が真四角に圧縮されていた。その息苦しさは今まで以上のもので、式の間はずっと頭痛が鳴り響いていたぐらいだった。

 

 そんな酸欠気味な式がようやく終わり、解放されたことに安堵の息を吐く間もなく、ナデシコは何のてらいも無く、天性の無邪気さで僕から深呼吸のタイミングを取り上げる。

 

『人殺しの勲章が欲しいならくれてやるよ』

 

 八つ当たりじみた言葉も舌を噛み切るような気分で耐えた。せめてものとナデシコを無言で引き剥がすと、僕は背を向けて立ち去ろうとした。何も言い返さないことに逆に許されたのかと思ったのか、トレーニングルームへ向かう僕をナデシコは追い掛ける。

 

「ねぇ、エンデ、この前の戦い、本当は種割れやアコードの能力を使ったんでしょ? どんな感じか教えなさいよ。種が割れる瞬間って、どんな感じ? 私、種割れはまだだから知りたいの。それが出来れば私だって、もっと強くなれるはずだから。そういえば、アコード特有のテレパシーや未来予知はどんな風に感じ取れるの?」

 

 ガンガン話し掛けてくるナデシコに苛立ちが募る。こんなにも無視を貫いているのに、どうして彼女は諦めが悪いのだろうか。きっと伯母に似たに違いない。父親も伯母の気の強さには、いつも押されてばかりだった。なら僕も押されているというのか? 冗談ではない、僕は敢えての沈黙を選び続けているだけだ。だが、そんな決意も『妹』の登場で揺らいでしまった。

 

「トーチカ」

 

 母親に似たピンク色の髪を編み込みにした十五歳の少女が遠くから僕らを見つめていた――否、睨み付けていた。あからさま過ぎる嫌悪の表情は既に見慣れたはずのものであったが、だからといって決して慣れるものではない。

 

「トーチカ! 授与式に参加してくれていたのよね! 貴方のお兄さん、本当に凄いのよ! いつか貴方も――」

「ナデシコ、そんなに楽しい? スーパーコーディネーターとアコードの娘なのに出来損ないの私を見下げるのは」

 

 トーチカの冷ややかな視線に流石のナデシコも一瞬押し黙った。そこで沈黙を選んでくれれば良いのに、ナデシコは相変わらずの諦めの悪さを見せた。

 

「私は昔みたいに仲の良い三人に戻れたら良いなって――」

「やめてよね。軍学校のパイロットコースから外れた私に、コンパスのツートップパイロットが何を言っているの? 憐れみなら結構だわ」

 

 軍学生であるトーチカが成績不振によりパイロットコースから外され、オペレーターコースになったことをナデシコは知っていたはずだ。「それでも」と食い下がるナデシコに、トーチカは「ウザい」と切り捨てる。

 

「アコードの母様が優秀な息子のネブラ勲章記念にご馳走を用意するってさ。私はその輪に入れないから、優秀な者同士で楽しんできたら?」

 

 ひらひらと手を振り、自棄っぱちに放つトーチカにナデシコが「トーチカも参加しようよ?」と誘う。どうしてナデシコは剥き出しの地雷を躊躇無く踏めるのだろうか。

 

「バッカじゃないの? 同じスーパーコーディネーターとアコードの子供なのに、方やネブラ勲章、方やパイロットコース落ちの私が同じ空間にいられる訳無いでしょ?」

「トーチカ、私たち『同じ』家族や仲間として――」

「私はアンタらと『同じ』優秀じゃない!!」

 

 トーチカの怒声が廊下に響く。その声に誰かが寄ってくる前にトーチカは去り際、僕に向けて言った。 

 

「死ねよ、アンタが兄じゃなければ良かったのに」

 

 妹からのストレートな暴言に僕は何も返さなかった。返したところで、彼女が更に自身を卑下するようになるだけだからで、僕の言葉は彼女に何の響きも齎さない。

 

「待って、トーチカ!」

 

 ナデシコが立ち去るトーチカを追い掛ける。

 

「ナデシコ。僕とトーチカの間を取り持とうとするのは、もうやめてくれ。近付くだけ互いに傷付くだけだ」

「なに悟ったようなことを言ってるのよ! エンデもエンデよ、黙ってばっかりじゃないの! 私、知っているのよ。テルフレンドのアイフィだっけ? 彼女相手には凄くお喋りするのに私なら駄目っていうの? でも、私は絶対に諦めないんだから!」

 

 忠告するがナデシコは自らの意思を変える気は全く無いようだ。遠ざかっていく二人の背を見送りながら、僕はやっと深呼吸が出来た。

 

「あはは、お二人とも相変わらずヒスな女だね」

「ミルズ」

 

 トーチカとナデシコが去った後に、僕の後ろから現れたのは年上のミルズだった。二十歳を超えた彼は親譲りの精悍な顔付きで、軽く嗤っていた。

 

「トーチカを酷い台詞で振ったらしいな?」

「だって、彼女、コーディネーター二世だから子供できないでしょ? 俺の優秀な遺伝子が残せない女に用はないよ」

 

 あっけらかんと笑うミルズに苛立ちを覚えた。十五歳の少女が二十一歳の男に片思いなんて、大人としての余裕や頼もしいところに憧れた、かわいらしいものだ。それをミルズは嘲笑って一刀両断して振ったのだ。そんなの、看過出来る訳がない。

 

「振るにしても、もっと言い方があったはずだ」

「エンデ、妹に嫌われているのに優しいお兄ちゃんだね」

「はぐらかすなよ、ミルズ」

 

 見上げて睨み付けるが、ミルズは飄々とした態度を崩すことは無かった。そんなところが彼の父親によく似ていた。彼の弟は母親に似ていたというのに。

 

「ミルズ。二年前に弟のアーキスが戦死してから変わったよな。昔のお前はそんなんじゃなかった。トーチカを妹のように大事にしてくれていたのに」

「エンデ、お前さんも変わったじゃないか。俺の弟のアーキスの――親友の死はそんなに堪えたかい?」

 

 煙草でも吸いたそうな態度を見せながら、ミルズはからからと嗤った。

 

「弟は、アーキスは優秀じゃないから死んだ。そして、俺は優秀だから生き残っている。ムウ=ラ=フラガの息子はもう俺しかいないから、フラガ家の優秀な血を残すべく行動してるだけさ」

 

 アーキスの死後、女癖が悪くなったミルズは妊娠可能の女性ならば片っ端から口説いて手を出すようになった。彼は随分とハンサムでプレイボーイだから一夜の恋人が途切れることは無かったが、決して決まった一人の女性を作ることはなかった。彼は常日頃から「もし関係した女が出産したら、結婚はしないが、DNA鑑定後に認知して、養育費はしっかり出すつもりさ」と言っていた。今のところ、誰もいないのが不幸中の幸いだが、それだけ女癖が最悪なのに、モビルスーツパイロットの戦果は良いのだから尚更質が悪い。

 

「ミルズ、優秀ならば何をしても許されるのか?」

「許されなかったら死ぬだけさ。一個人の勝手な独断で、アーキスやお前を自爆作戦に巻き込んだ上官は責任を取って切腹自殺をしたそうじゃないか。たった一人の死で新兵たちの死を贖おうなんて、烏滸がましい限りだぜ」

 

 僕の機嫌が降下したのを確信しているであろうなのに、ミルズは一旦一区切りすると、唇の片端をあげて嗤って言った。

 

「まぁ、コーディネーター二世で子供が残せないお前には一生理解できないことさ。ネブラ勲章を貰ったことだし、俺が子作りしている間に、せいぜい敵さんを蹂躙しまくってくれや。生産性の無いお前には人を殺すことしか出来ないんだから」

 

 煽るだけ煽るとミルズは「さぁて、新しい女の子を引っ掛けなきゃ。時間は有限だからな」と鼻歌気分で去っていった。一人残された僕は再度息を吐き出すと、トレーニングルームに足を向けた。

 

 その後はいつもの習慣通りにトレーニングルームでシュミレーション練習を一人で積んだ。自分用に設定された最高難易度に挑戦するが、トーチカやミルズの言動を思い出したことで集中力散漫になった僕は幾度も撃墜された。

 

(これが実戦だったらどうする? 実戦にコンティニューなんて無いんだぞ)

 

 再チャレンジをするため、息を吐き出し、思考をクリアにする。そして、僕は仮想敵相手に真剣に挑み続けた。

 

 幾度のシミュレーションを終えて時計を見ると、そろそろ夕飯の時間が近付いていた。家族とナデシコたちの輪に参加する気は無いが、周囲から「総帥として忙しいなか、わざわざ息子の為に用意したのに、それを無碍にするのか」と冷たい視線を浴びるのも嫌なので、行かねばなるまい。その前に、と僕は十数世代前の携帯電話の形をした電子機器をポケットからだした。周りに人がいないことを確認してから、電源をONにする。

 

「アイフィ、こんにちは」

『こんばんは、エンデ。プラント時刻なら、もう夜よ?』

「宇宙に昼も夜も無いよ」

 

 僕と同世代の女性の声が携帯電話から聴こえてくる。聴き慣れた彼女の声に、この瞬間だけ呼吸が楽になるのを感じた。

 

「今日はネブラ勲章の授与式だったんだ」

『エンデ、お疲れ様。疲れたでしょ?』

「疲れたというより、うんざり……かな」

 

 それからはいつも通りの愚痴を彼女に吐いた――周りの期待に応え続ける苦しさ、辛さ、そして何よりうんざりしていることに。

 

 小さい頃から何をやっても『キラとラクスの息子』はついて回っていた。成功すれば「流石、キラとラクスの息子だ」と周囲から当然のことだと言わんばかりに褒められ、失敗すれば「キラとラクスの息子なのに」と周囲は落胆した。父と母は「気にしないでも良い」と言ったが、僕にアコードとしてのシンパシーを感じなかったことに対して、母親のがっかりとした横顔を生涯忘れることは無いだろう。

 

 周囲の期待に応えるべく、寝る間も食べる間も惜しんで、常に血反吐を吐くような練習をしてきた。両親が周囲に「親は優秀なのに息子は……」とも言われたくなくて、毎日必死に食らいついてきただけの日々だった。どんなに頑張っても、僕個人の努力(過程)は認められず、結果だけが注目され、その結果も「キラとラクスの息子だから当たり前ね」で済まされた。アコードや種割れの特殊能力が開花することは一度として無かったが、僕が何度否定しても、周囲は勝手に「この成果もアコードや種割れ能力のおかげ」と思い込んでいた――ナデシコもトーチカでさえも

 

 僕とトーチカ、ナデシコ、ミルズとアーキスの五人は、昔は仲が良かった。親同士の仲が良かったから、幼い頃は五人でよく遊んだものだった。

 その仲が崩れたのはいつからだろうか? 軍学校に入ったトーチカのモビルスーツパイロットとしての成績が芳しくなかったことで、周囲の期待に押し潰された彼女が己を卑下するようになってからか? それとも、やはり緩和材のアーキスが二年前に死んでからだろうか? あれからミルズは己の優秀さを驕るようになり、女癖が悪くなり、トーチカの告白も無碍にこき下ろし、妹は更に自己を卑下するようになっていった。そして、僕も沈黙を選び、アイフィにしか心を開かなくなっていた。

 

『エンデ、大丈夫? 声に元気が無いわ』

「アイフィ」

『なに?』

「君に会いたいなって思って」

『エンデ、それは――』

「無理だって分かってるさ。けど、僕は君に会いたい」

 

 しばしの間、沈黙が二人の会話を支配したが、悪い気はしなかった。きっと彼女も同じ気持ちだと信じていたかった。

 

「そろそろ時間だから帰らなきゃ」

『エンデ。私は貴方の味方よ。たとえ世界中の全てが貴方の敵になったとしても、初めて貴方と会話した二年前のあの日から、それだけは変わらないわ』

「ありがとう、アイフィ」

 

 電子機器をOFFにして、重い腰を上げた。そして、母と父――いや、自分の上官たちとの食事会をどのようにやり過ごせば良いか考える。良い部下を演じれても、良い息子を演じる気は無く、唯々諾々と従って、面倒なら沈黙を通そうと決めた。トーチカは参加しないだろう。ナデシコは参加して、俺の態度にきっと腹を立てるのだろう。ため息を吐く。どちらにせよ、自分は檻のような日々に戻らなければならないのだ。

 

 それから一週間後のことだった、不愉快な噂が流れるようになったのは。

 

 「二人の子供のどちらかはキラとラクスの子供ではない」と。

 

 普通ならば鼻で笑うような噂だが、誰もが口に出さずとも「トーチカのことでは?」と疑っていた。しかし、トーチカ本人はそれを聞いても憤慨せず、むしろにこにことしていた。

 

「トーチカ、あれはあくまで噂よ? 嘘八百だわ! 私は貴方が総帥と元帥の娘だって信じているから」

「ナデシコ、嘘は良くないよ。ナデシコだって分かっているでしょ。キラとラクスの子供であるはずの私の成績が悪いのはおかしいって。私がパイロットとしての成績が悪かったのは、父様と母様の子供じゃなかったからよ! 兄様の成績が良いから、ずっとおかしいと思っていたけど、私だけ血が繋がらなかったのなら当然だわ。これだけ才能無いから、私、きっとナチュラルなのよ。そしたら子供を生むことが出来るし、何の問題も無かったのよ!!」

 

 心に余裕が出来たからか、トーチカは昔のように朗らかにナデシコに話しかけ、僕のことを『兄様』と呼んだ。キラとラクスの子供では無いことに心から喜ぶトーチカにナデシコは当惑しているようだった。

 

「トーチカ、そんなに総帥と元帥の子じゃないことが嬉しいの?」

「うん、すっごく嬉しい!」

 

 久々に見たトーチカの目映い笑顔に、流石のナデシコも言葉が出ないようだった。だが、彼女はめげずに、今度は僕の方を向いて尋ねてきた。

 

「エンデは? エンデはどう思っているの? 今回ばかりは沈黙しないで、しっかり応えて!」

「誰のタレコミか知らないが、こんだけ噂がコンパス内に広がってしまっているんだ。出生時の行われたDNA鑑定が再度行われるだろうよ。信用性ゼロの仕事に時間を取られるなんて、オヤジたちも可哀想に」

 

 ナデシコの質問に答えたのは、いつの間に近付いてきていたミルズだった。どうやらミルズも僕同様、音も葉もない噂のことは一ミリたりとも信じていないようだった。

 

「ねぇ、ミルズ! もし私が実子じゃなかったら、恋人にしてくれる?」

「トーチカは優秀じゃないが、もし本当にナチュラルだったら『下手な鉄砲も数打ちゃ当たる』だ、考えておいてはやるよ」

「ミルズ。トーチカの兄である僕を前にして、よくそんな下劣なことを言えるものだな」

「エンデはもう私の兄じゃないんだから、私のこと気にしなくてイイんじゃない? 私もエンデのことを気にしなくて済むし」

「トーチカ! 貴方、何を言っているの!? まだ決まった訳じゃないでしょ!」

「優秀な血をちゃんと引いたナデシコは黙っててよ。だって、私はスーパーコーディネーターのキラとアコードのラクスの娘なのにちっとも優秀じゃないんだもの。きっと、嬰児交換されたに決まっている。でなければ、私、私は――」

「あ、父さんと母さんだ」

 

 ごちゃごちゃと四人で会話していると、視界の隅に両親たちが入り、僕は思わず声を上げてしまった。

 

「DNA鑑定の結果が出たんだわ!」

 

 トーチカもそれに気付くなり、喜色満面で追いかけ始める。此処はプラント首都のアプリリウス市内に置かれている、コンパスの本拠地だ。二人がそこにいるということは、僕らの両親としてでは無く、元帥と総帥でいるということだ。公私混同のトーチカの行動は非常に宜しくない。トーチカを止めるべく僕らは駆け出すが、なかなか追い付けない。

 

 この瞬間を思い出すと、僕はいつも後悔に苛まされる。どうして父と母を見つけてしまい、挙げ句に声に出してしまったのか。そして、どうして会議室のロックが壊れていたのか。

 

 トーチカを止められずに僕らがそのまま会議室になだれ込んだのと、最初から部屋に待機していたのだろう、ナデシコの父親ことアスラン=ザラがその台詞を吐いたのはほぼ同時のことだった。

 

「まさか、エンデが実子じゃ無かったとはな。しかもナチュラルだって? 俺はてっきりトーチカかと――」

 

 空気が凍るとは、まさにこのことだろう。飛び込んできたのがその当事者だと知ったキラ・ラクス・アスラン・カガリ・ムウは絶句し、その子供たちであるトーチカ・ナデシコ・ミルズも固まっている。その輪から外された僕は、思わずポツリと漏らしてしまっていた。

 

「僕が、父さんと母さんの子供ではない……?」

 

 その瞬間に溢れたのは凄まじい開放感だった。周囲の期待とさも当然という視線にもう耐えなくて良いのだ、晒されずに済むのだという安堵は筆舌に尽くしがたい。父と母の子では無い、という寂寥感よりもそれらが圧倒的に勝ってしまっていた。

 だがそれもトーチカの呟きによって、一瞬で掻き消えてしまった。

 

「私が、父さんと母さんの子供……? しかも、エンデはナチュラル……? わ、私はスーパーコーディネーターとアコードの娘なのに、何処ぞの馬の骨とも知れないナチュラルに負けたの……? これじゃあ、私は子供も生めないだけの、ただの欠陥品じゃないの!?」

 

 最後は絶叫だった。ナデシコとカガリ伯母さんとラクス総帥が宥めようとするが、トーチカは彼女らを振り払うのみで、話なんて微塵も聞こうとはしない。

 

「エ、エンデがナチュラル? お前、ナチュラルなのにネブラ勲章を貰ったのかよ? ……ラウだ。あのラウだって、ナチュラルなのに、コーディネーターと遜色ない活躍した挙句にネブラ勲章を貰っていた。これはラウ=ル=クルーゼの再来だ! エンデはラウ=ル=クルーゼの落とし子なんだ!!」

「ミルズ!!」

 

 ミルズの戯言に父親であるムウが張り倒す。室内は無茶苦茶だった。しかも、会議室のドアが壊れていたので外にも筒抜け状態だ。あまりの混乱っぷりにキラ元帥とアスランは何も出来ないでいる。いや、何かしたのかもしれないが、僕は覚えていない。仮にしたとしても、きっと何の意味も無かったのだろう。

 

「トーチカ」

 

 そして、僕はもう一つ後悔を犯す。何故、こんな時に彼女の名前を呼んでしまったのか。

 

 顔を上げた彼女の顔は、一度も見たことのない顔だった。涙に塗れた頬よりも瞳がすべてを語っていた。仮に僕が彼女の親の仇だとしても、そんな顔では見ないだろう。もっとそれ以上の、恨み辛みがこもった、憎くてたまらない、人間ではない化け物を見たような表情だった。

 

『死ねよ、アンタが兄じゃなければ良かったのに』

 

 いつぞやのトーチカの言葉を思い出す。

 後半は叶った。前半はネブラ勲章を貰うことになった作戦で叶えるべきだった、と僕は思わずにはいられなかった。

 

 

 

おわり

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