第2階層の奥、谷が尽きるその先に、ぽっかりと口を開けたような広間があった。
岩壁に囲まれた天然の空洞。天井は高く、わずかな陽光が岩の裂け目から差し込んでいる。
足元は削れたような岩床、壁面には無数のひっかき傷と、何かがぶつかった跡。
空気が変わった。重く、張り詰めた気配が肌を刺す。
「……ここが、ボス部屋ってやつか」
レンは小さく呟き、剣の柄に手を添えた。
冒険者の街《レスト・ポイント》で得た情報が正しければ、この第2階層を統べる魔物が、ここにいる。
ゴクリと喉を鳴らした瞬間――
「――来たな」
地の底から響くような重々しい足音。
岩が擦れ合う不快な音が空間に満ちていく。
壁と見分けがつかなかった巨岩の塊が、ゆっくりと動き出した。
そいつは立ち上がり、二本の足で地を踏みしめた。
巨大な腕を振るい、顔のような仮面を天に向けて咆哮する。
《ストーンゴーレム》。
第2階層の守護者。レンの身長の三倍はある巨体。
全身が岩塊でできたような魔物。その腕一本で、岩床すら砕ける破壊力を持っている。
「剣で挑むには……固すぎるな」
レンは冷静に周囲を見渡す。
正面から斬りかかっても歯が立たない。けれど、まったく手がないわけじゃない。
「弱点は、関節部……それと、背中か首元だ」
この手のゴーレムは、動力となる魔核を体内に持っている。
それを守るために分厚い装甲で包まれているが、構造上の隙もある。
ゴーレムが再び吠えた。次の瞬間、大岩のような腕が振り下ろされる。
「……っ!」
レンは紙一重でそれを避け、地を蹴った。
剣では無理だ。ならば――
「魔晶石の出番だな」
腰のポーチから取り出したのは、雷属性の魔晶石。
彼はそれを足元に叩きつけた。
バリバリと電撃が走り、ゴーレムの脚を包み込む。
動きが鈍る。膝がわずかに沈んだ。
「今だ……!」
レンは跳び上がり、腕と胴の接合部――岩の継ぎ目を狙って剣を突き立てた。
金属の衝突音。岩を裂く感触。ゴーレムが呻くような低い震動を発する。
だが、倒れはしない。
怒りに震える巨体が、暴れ出す。
振り回された腕が空気を裂き、レンの身体が吹き飛ばされた。
岩壁に背を打ちつけ、地面を転がる。肩に激痛が走る。
「ぐっ……!」
痛みをこらえ、レンは立ち上がる。
剣を見れば、刀身に大きな亀裂。もう何度も使えそうにない。
「……こっちの剣も、そろそろ限界か」
それでも、諦める気は微塵もなかった。
「俺は……まだ、終われない!」
ゴーレムが再び腕を振り上げる。レンは正面から走った。
――真正面。
だがそれは陽動だった。
右に大きく振り、直後に左へ急旋回。
その一瞬、ゴーレムの右肩――関節の継ぎ目が露出する。
「喰らえ――!」
全体重を乗せた渾身の突き。
黒鉄の剣が裂け目に食い込み、魔力の光が迸った。
ゴーレムの動きが止まり、重たい音を立てて崩れ落ちていく。
岩の塵が舞い、空間に静寂が戻った。
「……やった、か」
レンはその場に膝をつき、深く息を吐いた。
剣は折れ、肩は痛み、呼吸も荒い。
それでも、彼は確かに勝利した。
「待っていろ。必ず、願いの泉まで辿り着く」
第2階層――突破。
次に待ち受けるのは、さらに深き第3階層。
だが、レンの視線は揺るぎなかった。
未だ見ぬ願いの場所へ――その先へと、彼は歩を進める。