ダンジョンに願いを   作:ユーガットメー

20 / 50
エルフの村

階層の境目に辿り着いたとき、レンは思わず息を呑んだ。

そこには、深い森の懐に隠れるようにして、静かに佇む村があった。

 

木々の間を縫うように並んだ建物は、木材と蔓を巧みに組み合わせて作られており、自然の一部であるかのように調和していた。風に揺れる葉の音、遠くから聞こえる鳥のさえずり。どこか夢の中にいるような、柔らかく澄んだ空気が漂っている。

 

村の中を歩く者たちは皆、金髪に尖った耳、軽やかな足取りで弓を背負っていた。

森の民――そう呼ばれる種族だと、ダンジョン内の記録でレンは読んだことがある。

 

「……森の民ばっかりだな」

 

呟いたレンの隣で、アルリアがきょろきょろと辺りを見回していた。

そして、ある一人の小柄な女性に目を留め、駆け寄っていく。

 

「すいませーん! 私の容姿に見覚えありませんか?」

 

声をかけられたのは、金髪の女性だった。

しかしその背丈はまるで子供のように小さく、顔立ちは幼い。

 

どこか妖精めいた、不思議な存在感を纏っていた。

 

「あ〜……洞窟の民じゃ〜ん、珍しいねぇ」

 

間延びした口調に、レンの眉がわずかに動いた。

 

「……洞窟の民!?」

 

「知っているんですか!?」

アルリアが瞳を輝かせ、一歩踏み出す。

「私、記憶がなくて……自分の出身地を探してるんです!」

 

「え〜? 洞窟エルフならぁ、知ってるけどぉ〜……詳しくはな〜いよ〜」

 

女性の言葉はのんびりと、まるで時の流れから解き放たれているようだった。

だが、語られた内容は明らかだった。

 

アルリアは“洞窟エルフ”――洞窟の奥深くに暮らし、夜目に優れ、気配に敏感。白く淡い髪、青白い肌。孤独を好む種族であり、他のエルフとも交わらぬ者たち。

 

「じゃあ、どこに住んでるんですか!?」

 

「さぁ〜……洞窟の民って言うくらいだからねぇ〜、やっぱり洞窟じゃな〜い?」

 

「……ですよねぇ」

 

「でもねぇ、洞窟の民って〜、引きこもりなのよぉ〜。めったに外に出てこな〜い」

 

そののんびりとした調子に、アルリアが苦笑いし、レンは肩をすくめた。

話が進んでいるのか、遅れているのか、判断に困る。

 

「……このダンジョンの中でも見たことあるよ〜。潜っていったの。ず〜っと前だけどぉ」

 

「それって、いつ頃ですか!?」

 

「ん〜……忘れるくらい前かなぁ〜」

 

「……ちなみに、貴方はおいくつですか?」

 

「800超えたあたりから数えてないよぉ〜」

 

「……」

 

レンは思わず目を剥いた。

見た目はどう見ても十にも満たぬ子供のよう。それが八百年どころか、千年を超えて生きている?

 

そのとき、傍にいた長身のエルフが声をかけてきた。

 

「このお方は“モアリアナ様”。この村の長老にして、少なくとも千歳を超える存在です」

 

「……長老!?」

 

レンとアルリア、同時に声が漏れる。

こんな幼い見た目の長老が、ダンジョン深部を治める森の民の代表……?

 

「モアリアナ様……私、もっと詳しく知りたいんです。故郷のこと、仲間のこと。何でもいい、手がかりが欲しいんです」

 

真剣な声に、モアリアナは少し目を細めると、にこりと笑ってうなずいた。

 

「そぉねぇ……わたしも〜、ちょっと思い出してみるぅ〜……うん、たしかにあんた、洞窟の民の血が流れてる…気がする」

 

のんびりとした言葉の中に、確かな何かが宿っていた。

故郷。薄れた記憶。

それでも今、ほんの一歩、近づいた。

 

アルリアはそっと胸元を押さえた。

鼓動が、少しだけ早くなる。

遠い場所にあるはずの“帰る場所”が、すぐそこにある気がした。

 

希望の火が、確かに灯ったのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。