ダンジョンに願いを   作:ユーガットメー

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決意の朝

朝の光が静かに街を照らし始めていた。俺はまだ目を覚まさないリナの寝顔を見つめながら、深く息を吐いた。あの日、医者から告げられた言葉が頭の中で何度も反響する。

 

——「あと二年。魔力抑制薬がなければ、それすらも保ちません」——

 

二年。たったそれだけだ。このまま何もしなければ、妹は確実に魔物になってしまう。俺の知っている、笑顔を浮かべるリナではなくなる。だから、もう迷っている時間はなかった。

 

「リナ……俺、行ってくるよ」

 

そっと髪を撫でてやると、リナはまどろみの中でわずかに微笑んだ。その小さな仕草が、俺の決意をより強く固めてくれる。

 

俺は荷物をまとめ、リナを担ぎ上げてアルの店へと向かった。

 

 

「……それで、頼みってのは?」

 

店のカウンター越しに、アルが俺を見た。彼の目は眠そうだったが、話を聞けばすぐに真剣な色を帯びる。棚には情報収集に使うという地図や書物が山のように積まれ、隅のほうには古びた魔導端末も転がっている。

 

「リナを……預かってほしいんだ。俺が戻るまで」

 

俺の言葉に、アルは一瞬だけ黙った。だがその後、彼は溜め息をついて、首をコキリと鳴らした。

 

「言うと思ったよ。お前の性格なら、絶対に諦めねぇってな」

 

「……悪い」

 

「謝るなよ。お前の妹だろ。……で?」

 

アルはリナの寝顔に目をやり、柔らかく頷いた。

 

「うちの裏の部屋を使っていい。薬も、食事も面倒見る。だがな、レン」

 

アルは俺をまっすぐに見据えた。その瞳には、幼馴染としての強い想いがあった。

 

「絶対に、帰ってこい。俺はあいつの命を預かるが、お前の命も預けられてるってこと、忘れるなよ」

 

「……ああ、約束する」

 

その言葉を交わした時、心のどこかにあった不安が、ほんの少しだけ和らいだ。

 

 

翌朝、俺は街の南端にある魔核列車の駅に立っていた。

 

魔核列車——魔力を動力にした高速移動列車。魔獣の被害が減ったことで開通した、帝都と各都市を繋ぐ命脈の一つ。俺が向かうのは、リラグの裂け目の手前にある都市・フェレディア。そこからは馬車で四日。天候が荒れなければ、計一週間で到着できる。

 

だが、その先にあるのは、「願いの泉」と呼ばれる高難度のダンジョンだ。

 

出発前、アルは言った。

 

「気をつけろよ、レン。願いの泉は、数あるダンジョンの中でも別格だ。中には冒険者の街もある。まずはそこを目指せ。情報を集めろ。それからでも遅くない」

 

冒険者の街——ダンジョンの深部に位置し、過酷な探索の拠点となる場所。つまり、そこにたどり着けなければ話にならない。

 

(二年だ……一週間で着くなら、残りは一年と三百五十八日)

 

自分にそう言い聞かせて、俺は列車の中へと乗り込んだ。車窓の向こうで、アルが遠くから手を振っていた。彼の肩には、まだ眠るリナの姿が見えた。

 

「待っててくれ、リナ……絶対、助けるからな」

 

列車が動き出す。鉄と魔力の振動が身体に響き、旅の始まりを告げる。

 

こうして、俺——探索者レンは、たった一人で妹を救うための冒険へと旅立った。

 

目指すは願いの泉。

過去へ至る唯一の場所。

そして、病気知らずの花を手に入れる、たった一つの希望の地。

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