ダンジョンに願いを   作:ユーガットメー

38 / 50
横槍

灼熱の火山層。煮えたぎるマグマの熱が空気を歪ませ、吹き出す蒸気が岩肌を焦がす。

その地で、三人と一匹は死力を尽くしていた。

 

「くっ……!」

 

レンの剣が振るわれ、鋭い斬撃が空を裂く。

だが、人造賢者3号の魔力障壁に阻まれ、金属の音と共に火花を散らすだけ。

瞬間、アルリアの放った影の矢が狙い澄ましたように差し込んだが、魔力の膜を貫くには至らなかった。

 

「おい、ガロ! こいつ、本当に人間だったのかよ!?」

「人間“だった”のは間違いない。……だが今は、ただの再構成体だ。魔物の要素が混じってる」

 

ガロ――かつての名をガーロンド・アルテライト。今は芝犬の姿となった彼が、低く唸るように答える。

その視線の先には、かつての自分の体と力と記憶を持った模造品――人造賢者3号。

彼は一切言葉を発さず、ただ冷静に、淡々と攻撃を繰り出してくる。

氷と雷の複合魔術。即興の詠唱。極限まで研ぎ澄まされた詠唱省略。

ガロの記憶から再構成された魔術体系が、寸分違わず再現されている。

 

それが、何より恐ろしい。

 

だが――それ以上に不可解だったのは、3号の視線だった。

彼の目は、ずっと――あの金髪の少女、人造聖女2号を見つめていた。

 

「守ってる……? まさか、記憶が残って……?」

 

考えたくはなかった。

希望など、抱いても裏切られる。

だが事実として、彼は聖女の前に立ち塞がり、まるで“守護者”のように行動している。

その姿は、あまりにも――あの神話に似ていた。

 

「ちくしょう、どうなってやがる……!」

 

レンが歯を食いしばり、炎の渦の中を突撃する。

アルリアも、熱に弱い体を押して詠唱を続ける。

それでも届かない。

むしろ、こちらの魔力の残量は限界に近づいていた。

 

「このままじゃ、押し切られる……!」

 

そのときだった。

 

――ゴォオオォン……!

 

地の底から響くような、重く湿った鼓動が洞窟全体を揺らした。

ただの地鳴りではない。

何かが目覚めたような――そんな音。

 

「……咆哮?」

 

アルリアのかすれた声が震える。

 

次の瞬間、天井が砕けるような爆音と共に、赤い影が舞い降りた。

火山の熱に呼応するかのように、巨大な炎の翼を広げながら――それは、現れた。

 

「りゅ、竜……!」

 

レンの声がかすれる。

 

それは、灼熱の災厄。

赤き鱗に覆われた巨体。炎の魔力をまとい、黄金の瞳をぎらつかせた存在。

火山層の主とでも呼ぶべき赤竜だった。

 

地を踏みしめるごとに、マグマが波打つ。

火山の天井を削るほどの巨体。

戦場に降り立っただけで、全てを圧する威圧感。

 

「なんでこんな奴が……っ!」

 

誰もが身を固める中、人造賢者3号だけが動いた。

彼は一瞬、背後の聖女2号に目を向け――そっと手をかざし、彼女の周囲に結界を強化するような動作を見せた。

 

そして、何のためらいもなく、赤竜の方へと歩みを進めた。

 

「……まさか、戦う気か?」

 

レンが息を呑む。

ガロの目にも、明らかな動揺が浮かんでいた。

 

人造賢者3号は、戦闘の損得を理解しているはずだ。

この竜を前にして勝てる保証など、どこにもない。

それでも――彼は、守るべきもののために立ちはだかろうとしていた。

 

「まるで……昔話に聞く、賢者みたいじゃねえか……」

 

かつて語られた伝承。

“賢者”が“聖女”を護り、“竜”と戦ったという神話。

それは事実であり、悲劇だった。

 

「お前……まさか、本当に――」

 

そのとき、赤竜が吠えた。

炎の波動が空間を焼き、天井から溶岩の滴が降り注ぐ。

それに真っ向から対峙するように、3号が腕を上げ、複合魔法を起動させる。

 

雷と氷。

本来相反する二つの属性が交差し、竜の咆哮に応えるように閃光を放つ。

 

「くそっ……! あいつ、本気でやる気だ!」

 

レンが叫んだ。

 

「ガロ、どうする……!?」

 

「……見届ける。これはもう、俺の戦いじゃない」

 

ガロは、かつての賢者が選んだ道を――今、模造品が歩もうとしていることに気づいていた。

 

赤竜の巨体が突進し、空気を切り裂く。

人造賢者3号の身体がそれを受け止めるように立ち塞がる。

 

衝撃。炎。雷鳴。

火山層に轟く魔力の奔流。

その中心で、かつての“神話”が再び描かれようとしていた。

 

そして――結界の内側で見守る人造聖女2号の瞳が、わずかに震えた。

 

それは、感情を持たないはずの人形の瞳に宿った、小さな火――

“願い”という名の光だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。