選抜レース当日
「次『中距離レースBチーム』の参加者は集合をしてくださーい!」
係員が次のレースのため参加者に集合をかける、僕の参加するグループだ。
幸いにもクラスメイトがいないため遠慮なく走れる。ライバルとして競い合いたかったが、
まあ、デビュー戦とか併走とか、機会はある、今度の楽しみにしようじゃあないか。
「次ー、5番、『スローダンサー』さん。ゲート入りしてください。」
あ、呼ばれた。...行くか。
「『スローダンサー』、あいつだったのか。」
出走表を見た老人トレーナー『六平銀次郎』は新しくチームにスカウトするウマ娘を探すため他のトレーナーと共に選抜レースにやってきた。
「スローダンサーを知っているのですか、六平トレーナー?どこかで面識が?」
「ああ、あいつ...。」
六平トレーナーは昨日スローダンサーが整備前のグラウンドで練習しようとしたこと、
そして、自分はそれを止めたことを話した。
「それだけ気合が入っているってことでしょうか。ウチとしてはやる気のあるウマ娘は歓迎なんですけどね。」
「何言ってんだ。ルールを守れないような奴を入れてどうするんだ?」
そう六平トレーナーは答える。いくら知らなかったとはいえ、ルールを破ろうとしたことは事実である。
だがしかし
「まあ、やる気のあるやつは歓迎なのは同感だ。」
「来たかスロー。」
シンボリルドルフは『皐月賞』を制覇した直後のため今日の練習は休み。ルームメイトであるスローダンサーの選抜レースを見ていた。
「君にとってこのレースは『スカウト』を得るためということ、というのは十分わかっているだろう。だがしかし、ウマ娘である以上『勝ちたい』という衝動はどうしても起きてしまう。その衝動を抑えきれず無茶なレースを行い最終的に何も得られないことも珍しくない。『レースで勝つ』『スカウトを受ける」両方達成できるウマ娘は今回の選抜レースで一体何パーセントなのだろうか。」
全国の猛者が集うこの『トレセン学園』
しかし、そんな才能のある者たちでも『優駿』の栄冠を得られるのはごくわずか
未来が約束されたと思わせるほどの『速さ』
勝利を自らの下へ引き寄せる『幸運』
全ての栄光を過去にするような『強さ』
それらを持つ『才能』と実現できる『努力』
「さてどうなる、『スローダンサー』。」
『全員ゲート入り終わりました。まもなく出走です。』
最後のメンバーがゲート入りしたあと出走のアナウンスが鳴る。いよいよだ。
集中する
必要なのは『コース』と出走する『他のウマ娘』の情報
今は、今だけは周りに集まるトレーナーの『視線』や『声』を除外する
いつでも来い...
...ガシャン!
来た!
スタートは上々
今回は後方で待機
周りの様子を見て動くことにする
(この展開は、ラッキーかな。)
今回は逃げに徹するウマ娘がいないせいかテンポが遅い
これはありがたい、スパートのために足を溜めることができる
スライド走法を行い、ゆっくり、ただし長く走っていく
一歩一歩丁寧になるべく力が入らないように
半分を超えた、ここまででミスはない
ここだな
僕は徐々に前へと進出を開始する
少し早いんじゃあないかと思うのだが、僕はハッキリ言ってスパートまでが遅い
これまでの模擬レースでもスパートが遅れたことが原因で追いつけなかった
でもトップスピードは負けていない、だから早めに前へ
追いつかれた他の選手たちは慌ててスパートを始める
案の定、抜き返される、このままでは追いつけなくなるだろう
だからここから、ここから速度を上げ続けるッ!
足の回転数をモーターのように上げていく
最終コーナーを曲がり終え最後の直線を駆けていく
まだ先には2人いる、差し切って『勝つ』ッ!
さらに加速し、追い抜きにかかる
まずは1人、僕のスパートにつられたから、もうスタミナがない追い抜ける
最後あと1人ッ!届けッ!
「うおぁぁァーーーーーーッ!!」
結果は2着...。公式ではないから
準備は整えた、全力は出した、結果には『納得』している。
ただ、ただただ悔しい...。
全身全霊で挑んだこの結果は...。
1着の彼女にはゴール後、トレーナー達が集まってスカウトの取り合いを始めていた。
僕には来ていない。
なら、敗者は去るのみってヤツだな。
頑張ったんだけどなァ~。
「おい、ちょっと待て。」
「ん?あ、あなたは昨日の?」
昨日名前を聞き損ねたお爺さんトレーナーだ
「まあ、昨日の今日だからな覚えているか、六平銀次郎だ。」
「六平トレーナー、先日は注意していただき、ありがとうございました。あと...ご迷惑をお掛けして『待て待て』...?」
「そんなことここのトレーナーなら誰だって言う。つまり大したことじゃない。このことについてはお終い。話に入れねえ。」
「すみません、話というのは...?」
「なんだ、選抜レースでトレーナーがウマ娘に話しかける理由は1つだろ。」
そう六平トレーナーは僕にこう聞かれた
「スカウトだよ。お前、俺のチームに入らねえか?」
「え?!!?」
僕はつい変な声が出てしまった。
だってそうだろ?
昨日怒った相手だぞ?2着の僕にだぞ?
「あの、な、なんで僕なんですか?」
「今回のレースではお前がコントロールを行っていた。今回のデビュー戦のための『作戦』をだ、それをやってみせた。そうだろ?」
確かにそうだ、今回のレースのために『作戦』は立てていた。
だがそれは『スパートの遅さを逆手に取りバ群を前へ動かす、スタミナ切れの隙を突く』というシンプルなもの。今の自分ができるのはこれが精一杯だ。褒められるようなものじゃあない。
「大抵の作戦はうまくいかないことの方が多い。それはレースの不確実性や細かい違いによるものもあるが、選抜レースの時に陥りやすいのは『自分に見合わない作戦を立てる』ということだ。」
その部分に関しては今回自分はいやというほど自分を見た。細かく作戦を立てすぎたり、自分の実力を見誤ったりすると崩壊する。
「仕掛ける際のタイミングやスパートのかけ方もミスがなかったしな。」
まあ、それしかできること無かったものですので、でも
「長々と話しちまったが要は『』があるってことだ。」
『自分を見てスカウトしてくれた』
安直な言葉になるがとても嬉しかった。
「で、どうだ。来る気はあるか?」
答えは当然
「...はい!よろしくお願いします!」
「では、無事スカウトされて契約できた、ということだな?」
選抜レースが終了し、契約関係の書類を済ませた後寮へ帰るとルドルフ先輩がいた。
「はい。あとは保護者関係の書類なので、両親からサインをもらえれば正式に契約が完了します。」
あの後、六平トレーナーと契約を結ぶために書類へのサインなどを行っていた。
両親からのサインなどがあるので正式な契約はまだだが、ほぼ『確定』といっていい。
「それと、『皐月賞』勝利おめでとうございます。お祝いが遅れてしまいすみません。」
先日、無敗で『皐月賞』を勝利したルドルフ先輩、本当はもっと早く祝いたかったが
「ありがとう。だが気にしないでくれ、選抜レースに集中してほしいと頼んだのは私だ。お互い今後も『目的』のために奮励努力していこう。」
「はい。」
その夜、僕とルドルフ先輩は互いの勝利を祝いつつそれぞれの『レース』について語り合った。『選抜レース』と『G1』では格が違いすぎたがそれでもルドルフ先輩は僕の話をまっすぐな眼で聞いてくれた。
明日から学校もある。適度に話を終わらせ2人は床に就いた。