隣の席の柚木原さんは表面上だけ完璧美少女 作:あるふぁせんとーり
春休みが終わり、2年に入ってはや1週間の経った4月半ば。晴れ続きの空が見守る中で授業は続く。クラス替えが無いから、そんなに目新しさもないけれど。
「それじゃ、この問題解いてもらおうかしら」
問題を書き終えた担任の先生がチョークを置いてこっちの方へ振り返った。あまり数学は得意じゃないし、自信もあんまりない私が目を逸らす中で、先生の視線は私の席周辺へと向けられている。そしてその視線は上手いこと私を通り過ぎ、教室の隅っこ、窓際の最後方でノートに何かを書いている隣の席の彼女へと向いた。
「柚木原さん、あなたは解ける?」
「……あ、はい。大丈夫だと思います」
そう言って彼女はふんわりと立ち上がり、おもむろに黒板の方へと歩いていった。その所作の一つ一つが理想ってくらい綺麗で、クラスどころか学年でもトップクラスの美少女の出陣に、少しざわざわしていた教室もスッと静かになる。そして彼女は先生から新しいチョークを受け取ると、黒板にサラサラと解法を記していった。
「……それで∠ADGが∠AGDと等しくなり、⊿ADGは一辺両端角相等を満たすため辺AGの長さは2√5となります」
「正解!流石ね、柚木原さん!」
彼女が問題を解き終えると、教室の中にパチパチと拍手が響く。当の本人はチョークを置くと、謙遜するかのように一礼して静かに席へと戻っていった。「っぱ柚木原さん凄えな……」「才色兼備って感じだよね〜」とちらほら称賛の呟きが聞こえる中、彼女はそんなものに興味はないと言わんばかりに再びノートを開いて何かを書き始めた。やっぱり綺麗な顔してるなぁ、と彼女の横顔を見ながら私が考えていると、彼女は何かを思いついたかのようにシャーペンを置き、こっちの方を向く。思わず目が合ってしまってちょっとした気まずさを覚える中、彼女は少し楽しげに身を乗り出し、今持ってるシャーペンよりも短いくらいまで物理的な距離を詰め、そして、私にしか聞こえないように、そっと耳元で囁いた。
「釈迦のお風呂、蓮タブ」
◇◇◇
私は
隣の席の彼女の名前は
けれど、そんな柚木原さんには皆には見せない一面がある。
「ねえ、咲楽」
「何?柚木原さん」
「ありあまるお坊さん、オーバーボーズ」
それは、本当にくだらないってこと。面白かったり、ちょっとつまんなかったり、ひっくるめて「くだらない」って表現が一番合ってると思う。
「踊るカタツムリ、舞舞」
「はなかっぱに乳首がないってことははなかっぱ族って胎生じゃないよね」
「銀行の利子って、元靴屋の小人が頑張ってるんだよ」
「私美少女だし免税されないかな」
「風を起こすマリオ「フイゴー」」
柚木原さんはTwitterでしか流れてこないようなことをいっつも囁いてくる。それも、本当に楽しそうに。一度「ツイ廃過ぎない?」って聞いたら、「どうだろうね」ってフォロワー5万の、ネタツイクソツイとやたら上手いイラストしか上げてないアカウントを見せてくれた。
「ねえねえ、咲楽」
「今度は何?」
「咲楽も、私のこと好き?」
「まあ、普通に好きなんじゃない?」
「……ふふっ、そっか」
これはそんな柚木原さんとこんな私の、本当にくだらない日常のお話。
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