DD世界だと思ったらリリなの世界でした。いや両方の世界が混ざり合った世界でした!! 作:バター犬
つぶつぶ動く
それが この星の“思考”だと
誰が言った?
ねじれた器に
よだれと骨粉を詰めて
それを“いのち”と呼ぶらしい
咲いた
と、思えば腐った
鳴いた
と、思えば喰らった
ああ、まただ
また、同じだ
また、“そういうこと”をしている
くるまった皮が
なにかを叫んでいたけれど
風が、それをひきちぎった
声だけが
どろどろと耳の外に残った
“観る”というより
“流れてきた”だけ
“解る”というより
“濡れていた”だけ
この種の
まっすぐで、
まちがってて、
まるごと焦げた感じ――
嫌いじゃない
それだけ。
――フレデリカ・ベルンカステル
プロローグ
――朝、目を覚ましたとき、自分がどこにいるのか分からなかった。
視界はぼやけて、音も、感触も、温度すら感じない。
ただ、「ここ」が自分の部屋ではないということだけは、明白だった。
そんな経験をしたことがあるだろうか?
酔っぱらって公園のベンチで寝てた……とか、そういう次元じゃない。
目覚めた瞬間、そこが“この世界じゃない”と確信できる――
そんな超常的な状況に、君は放り込まれたことがあるか?
たとえば──
気がつけば、ゴミ捨て場のダンボールの中で寝ていた。
記憶が飛んだわけでも、酒に潰れたわけでもない。
ただ、起きたらそこにいた。意味が分からない。
あるいは──
目を開けた瞬間、空が赤く染まり、雲が逆さに流れ、重力が斜めに働いているような、
見たこともない異形の風景が広がっていたりして。
常識というルールが、綺麗さっぱりどこかへ消えてしまったような光景。
夢か。現実か。
それとも――“誰かの仕掛けた罠”か。
俺だったら、たぶんこう思うだろう。
**「これはドッキリだ」**って。
そう、自分の意思とは無関係に、状況だけが一方的に進行していく。
何もしていないのに、舞台の幕が勝手に開いてしまったような感覚。
そんなとき、人はまず“現実を疑う”。
だってそうだろ? 普通、目が覚めて「真っ白な世界」なんて、あるかよ。
──話を戻そう。
目を覚ましたとき、俺は“そこ”にいた。
見渡す限りの、純白。
空はない。地面もない。天井も壁も、床すらもない。
ただ、白。
視界に映る全てが、“白”という色で埋め尽くされていた。
まるで、世界のキャンバスが塗られる前の“下地”に放り込まれたような感覚。
歩いているつもりなのに、足に感触はない。
影もできない。音も、風も、匂いもない。
ただただ、存在しているだけの白。
色という概念そのものが、この世界から削除されてしまったようだった。
「……っ、は? なにこれ、夢……?」
声を出した瞬間、自分の声が、自分にだけ届いた。
反響もなければ、誰にも聞かれていないという確信すらある。
それすら“無”の一部のようで、背筋にじんわりと冷たいものが走る。
思考が一気に走り出す。
事故か?
夢か?
VRか?
異世界召喚系の催眠術か??
……いや待て、それってどれも都合が良すぎないか?
だいたい、俺にそんな価値ある?
世界に選ばれるタイプじゃないぞ、俺は。
だけど、いくら考えても答えは出ない。
目の前の白は、ただそこにあるだけで、俺の疑問に一つも応えてくれない。
わかるのは、たったひとつ。
俺は、もう“あっち側”にはいない。
「おーいおいおいおい……マジかよ……死んだ系? 異世界転生テンプレってやつ?
俺、ただの社畜でしたけど!? 地味な人生だったんだけどォ!?あと童貞!!」
言葉が空へと吸い込まれていく。
その声に反応する何かは、どこにもいない。
……だが。
突然、“それ”は現れた。
警告もなしに。音もなく、何の前触れもなく。
まるで空間そのものが“めくれた”ように、中心部にぽっかりと穴が開き、そこから“誰か”が出てきた。
「…………は?」
そこにいたのは――どう見てもアニメから飛び出してきたような、胡散臭い老人だった。
腰まで伸びた白髪とヒゲをなびかせ、着ている服はというと……
胸元全開の亀仙人スタイル。
しかも、なぜかふわふわと宙に浮いている。
表情は飄々。雰囲気はゆるゆる。
だけどその存在感だけは、現実のどんな人間よりも――圧倒的だった。
「いやいやいや、待て待て待て。誰? 何者? なんでそんな服装? 浮いてるし!!
てか“最初に現れる神様”って、もうちょっと神々しくないとダメじゃない? 初手がそれ!?」
思わずツッコミを入れずにはいられなかった。
だが、その“怪しすぎる老人”は、俺の心の声などお見通しという顔で、
満面の笑みを浮かべてこう言った。
「よう来たのぅ、迷える魂よ。
……おぬし、死んだぞい」
――ああ。
あ、やっぱ、俺、死んだんだ。
(やばい。状況がマジで謎すぎる)
(っつーか、何この圧倒的“無”空間。スマホもない。俺のネギ抱き枕もない)
「……っていうか、ドッキリじゃないの? これ? カメラどこ? 隠しマイクとか?」
俺は必死に“現実”の痕跡を探そうと、無意味に辺りを見回す。
白い。白い。とにかく、白。
上も下も右も左も、全方位“ホワイトアウト”した世界が無言で広がっていた。
圧倒的、何もなさ。ノーオブジェクト。ノーデータ。
その俺の戸惑いを余所に、ジジイ――自称“神様”は、
やたらと呑気な顔で、ふよふよ浮いたまま口を開いた。
「ふむ。何かお主、勘違いしとるようじゃのう?」
「勘違い!? いやいや、勘違いも何も……あんた誰だよ!?
てか、その服どこの? 浮いてるって物理法則ガン無視じゃん!!」
「誰じゃそれは? わしは“亀”でも“仙人”でもない。“神”じゃよ、神。どこにでもおるじゃろ、ひとりやふたり」
「……いや、ひとりやふたりっておかしいだろ!?
そんなノリで神が居られても困るんだけど!? この異世界転生、フリー素材感強すぎない!?」
それでもジジイ――いや、“神様”はニコニコと笑っていた。
こいつ、俺のツッコミすら楽しんでる節がある……。
そして、ふいに表情を引き締めたかと思えば、サラッと爆弾を落としてきた。
「まぁ、いろいろあって決まったことなのだが、これからお主を――転生させま~す♪」
「……転、生?」
「そう、異世界転生じゃよ。おめでとう。人生2周目突入じゃ」
……え、どういうこと?
「ちょっと待って。転生って、俺もう死んだってこと? いや、そもそもそれってバグじゃね!? 事故!? 他殺!? ドッペルゲンガー!? 何で俺がそんな目に――」
「落ち着けい。詳しいことは、ほれ、20分で説明したる」
―――20分後―――
「……つまり、神様とやらがギャルゲーでバッドエンド踏んでムシャクシャして、その流れで間違って俺を消しちゃったと?」
「うむ! まことにすまん! 反省はしておる! なので、転生させてあげようと思ったのじゃ!」
なんという理不尽。
俺は苦笑するしかなかった。いや、もはや苦笑すらできなかった。
「じゃあ、俺が転生する理由って……“誤操作”による死亡のフォロー?」
「それもあるが、もう一つ。お主、中学の時、神社で祈っておったじゃろ。“転生させてください”って」
「……!」
思い出す。いや、思い出したくもない。黒歴史だ。深夜に一人で、誰もいない神社で、ガチ祈願した記憶がある。しかも毎日通って、木の樹液を吸ってた日もあった……!
「な、なんで知ってんだよ!? 覗き見かよ!?」
「神じゃからな! それに、お主の祈りがあまりにも真剣で、ちと目を付けとったんじゃよ」
俺の心のガラスが、パリィィィンと音を立てて砕けた。
黒歴史、フルオープン。しかも神様本人にバレていたという衝撃の事実。
「も、もういい……死ぬほど恥ずかしい……っていうか、もう死んでるけど……」
「よし、ではこの箱からクジを2枚引け!」
「話の流れ速っ!! っていうか、まだ全然納得してないんですけどォ!!」
「引かぬなら、落とすだけじゃ。床を」
「引きます!今引きます!はいこれとこれ!!」
「ふむ……なるほど。お主の転生特典は……“八尾”と“写輪眼”じゃな!」
「……うっわ、設定盛り盛りじゃねぇか……!」
言ってる自分が一番理解していた。
それがいかに“やりすぎ”なチョイスかを。
だが、内心ではほんの少しだけ──心が躍っていた。
「じゃあ、行ってこい! 転生、スタートじゃぁぁぁぁ!!」
「って、おい! 記憶とかは!? 転生世界のルールは!? っていうか、“逝ってらっしゃい”って、表現がやばいってぇぇぇぇええ!!」
叫んだ瞬間、足元の床が音もなく消失した。
身体が重力に引かれ、落下していく。底のない白い空間を、ただひたすらに落ちていく。
そして――
俺の、第二の人生が始まった。
【神 side】
「ふむ……八尾と写輪眼、かぁ……」
神は、浮かぶ半透明のステータスウィンドウをじっと見つめながら、あごを軽くさすった。
「……うーん……びみょじゃのぉ」
心底めんどくさそうに伸ばした声。
思考の内容も発声も、すべてがスローモーション。
この世界の“管理者”にして“神”であるというのに、その態度はどう見ても昼寝あけのおじいちゃん。
「いや、そりゃあね?いや、八尾はパワー系としては悪くない。写輪眼も、いかにもって感じの能力じゃ。けどなぁ ……その組み合わせ、もう見飽きたんよ。オリジナリティが足りんのじゃ。テンプレの香りがぷんぷんするわ」
そうぶつぶつ言いながら、神はのんびりと背もたれに寄りかかり、盛大にあくびをひとつ。
「ふぁ~……転生って、もっとこう、ドラマチックなもんじゃろ。なんで毎回こう、似たり寄ったりになるかのう……。
まぁ、あやつがどんなふうに暴れるかは見ものじゃけどな。何かひとつでも、“予想外”をくれるなら御の字じゃ」
神が手を振ると、ウィンドウはシュゥンと音を立てて霧散する。
代わりに現れたのは、まるでガラスのように空間を透かした新たな映像。
「それにしても――この世界、ほんっとボロボロになってきたのぅ。
人間は滅びかけ、神々は沈黙し、次元の壁もズタズタ。
ま、ワシには関係ないけど」
神は肩をすくめ、別の“観察対象”へとゆっくり視線を移した。
「どうせ崩れるなら……その途中で、ちょっとくらい面白いことが起きてくれても、ええじゃろ?」
そう呟きながら、神は軽くあくびをかいた。
まるで、何千年も変わらぬ日々に飽きた老人のように――けれど、その目は退屈を紛らわせる“何か”を静かに求めていた。
「……人間がどうなろうが、正直ワシには関係ない。
ひとりひとりの命なんぞ、蟻の行列でも見るようなもんじゃ。踏まんように気をつけるほどの慈悲も、あえて潰すほどの悪意もない」
神は言葉を切り、宙に浮かぶ一枚の映像に目を向ける。
そこには、戦い、争い、嘆き、祈り――あらゆる感情が交錯する“人間の営み”が映し出されていた。
「ただな……“人間という種”だけは、ちと面白い。
脆く、愚かで、すぐ争って、すぐ滅びるくせに……それでも何かを残そうと足掻く。
滅びゆくくせに、抗うことをやめん。そういう“矛盾”――ワシは嫌いじゃない」
手のひらをひと振りすると、映像は霧のように消える。
「……ま、ワシのヒマ潰しになれば、それで十分じゃ」
そして神は再び、退屈そうに目を閉じる。
その心の奥にあるのは、善意でも悪意でもなく――ただ、興味。
“人間という現象”に対する、純粋な観察者としての視線だった。
その目に浮かぶのは、善悪でも正義でもなく――ただの退屈からの脱却願望。
神は笑う。
この世の理を握る存在でありながら、まるで観客のように――
この物語の幕開けを、のんびりと待っていた。