DD世界だと思ったらリリなの世界でした。いや両方の世界が混ざり合った世界でした!! 作:バター犬
太郎side
空間がねじれ、僕の身体がその裂け目から押し出されるように飛び出した。
──ここは、海鳴市の上空。
広がるのは、まるで絵画のような青空と浮かぶ白雲。
その下には、整然と広がる都市の景観。けれど、それだけじゃなかった。
街の中心に、“異物”があった。
淡く光るドーム型の結界――
それはまるで、都市の一部を切り取るように存在していて、外からでも中でうごめく強烈な魔力の渦が感じ取れた。
一目見てわかる。“ただの結界”じゃない。
静寂の中に、ピリピリとした魔力の圧が漂っていた。まるで、ここが戦場であると主張するかのように。
「うわっ、眺めはいいけど……何、この空気の張り詰め方」
魔力が濃すぎる。まるで雷雲の中に放り込まれたかのような、ピリピリとした圧力が肌に刺さる。
そして──少し離れた位置に、すでに一人の男が浮かんでいた。
白銀の髪、鋭い眼差し、そして不敵な笑み。
「お、来たか。遅いぞ太郎」
ヴァーリ・ルシファーだった。
彼は僕に視線だけを寄越しながら、真下を見下ろしていた。
「面白いことがあるって言うから飛んできたけど……あれ?」
僕の視線も、自然とヴァーリの視線の先に向かう。
そこにあったのは、都市の一角を中心に張られた半球状の結界。その中から、明らかに異質な魔力が漏れ出ていた。いや、溢れていた。
「……結界、だよな? あれ」
「そうだ。だが、普通のとは格が違う。規模も、濃度も……それに、内側に何人も“動いてる”気配がある」
ヴァーリの声が少しだけ弾んでいた。まるで、子供が面白そうな玩具を見つけたかのように。
「たぶんアザゼルが言ってた“正体不明の魔力”ってのは、あれだろうな」
「なるほど、そりゃ面白いわけだ」
ヴァーリが片手を前に突き出し、軽く息を吐く。
「──バランスブレイク」
『Vanishing Dragon──Balance Breaker!!!!!!』
咆哮と共に、眩い白光が爆ぜる。
音すらも塗りつぶす閃光に包まれ、空間そのものが軋み、歪み始めた。
そして──
光が晴れた時、そこに立っていたのは、まるで神話から抜け出したかのような異形の戦士だった。
白銀の魔鎧に全身を包まれ、その表面には龍の意匠が脈打つように刻まれている。
背中には、圧縮された魔力の翼が形成され、仮面の奥の視線は、ただの“人間”には向けられないような、圧倒的な冷徹さを宿していた。
「……出たな、禁じ手」
その姿──Vanishing Dragon Balance Breakerは、まさしく“次元の壁”そのもの。
……相変わらず、バンク映えする男だ。
「じゃあ、俺はちょっと様子見てくる」
言葉すら終わらぬうちに、ヴァーリは光そのものとなって結界へと突貫した。
一瞬、音が遅れて鼓膜を叩いた。
次の瞬間には、白き残光だけを残して、その姿は結界の中心に突き刺さっていた。
──ドォン!
地響きのような衝撃と共に、結界の表面が一部砕ける。だが……破壊された箇所は、数秒と経たずに再生を始めた。
「うわ、再生型の結界……やっかいなやつだな」
『さあて太郎、オレ様の出番か? 準備運動は終わったんだろ? 派手にぶっ放してやろうぜぇ!』
僕の中で八尾──通称ぱっつぁんが、ノリノリで吠える。
相変わらずテンションが高い。けど、戦いの空気を読むのは抜群にうまい。
「了解。じゃあ……いくか!」
僕は背中に黒い翼を展開し、赤い衣を纏う。
そして、右手には“返り血を喰らい成長する真剣”――フルンティングを握った。
ぱっつぁん(八尾)とフルンティング。
心強い相棒と、頼れる相棒武器。両方を揃えて、僕は結界へと飛び込んだ。
「――太郎、出陣!」
そして僕も、ヴァーリの後を追って、結界へ突入した──!
結界の中は、すでに荒れ果てていた。
いや、正確には──
ヴァーリが突入した“その瞬間から”、荒れ果てたのだ。
爆風、魔力、閃光、そして無数の魔力弾。
ヴァーリは一切の遠慮なしに、結界の内部へ“白い雨”を降らせていた。
破壊の軌跡は空間そのものを焼き、魔力の衝突で空気が悲鳴を上げている。
地面は抉れ、建物は一棟また一棟と崩れ落ち、再生機能を持つはずの結界すら処理が追いつかずに、軋みを上げていた。
「……やりすぎだよ、ヴァーリ」
ただの“偵察”のはずが、もう完全に“侵略”の勢いだ。
まるで神の審判みたいに、無差別に放たれる魔力の嵐。
味方だろうが敵だろうが関係ない。そこに“立っていること”自体が、罪にされるような理不尽。
あれに巻き込まれたら……まともに立っていられるのは、僕ぐらいだろうな。
そして僕は、フルンティングを握り直して、ヴァーリの後を追った──。
僕は空中で旋回しながら、ヴァーリの姿を探した。
けれど、その姿は見つからない。
あまりにも速すぎる。軌跡すら目視で追えないほどに。
代わりに、視界の端にいくつかの魔力反応が引っかかる。
「……戦況、確認」
まず一つ目──
街路の中央、栗色の髪をした高町なのはが倒れていて、その身体を守るように少年が結界を張っている。
おそらくは少年はサポート型。だが、魔力量の密度が高い。
二つ目──
瓦礫の広場で、金髪ツインテールのフェイトが誰かと激突している。
一撃ごとに地面が爆ぜ、魔力が散る。
三つ目──
さらに奥で、赤い帽子の子供と、帝王院が交戦している。
あ、もう決着ついた。
帝王院が吹き飛ばされて地面に転がった。早かったな……。
勝利した赤帽子の子供は、即座に前線へと向かう。
ターゲットは──ツインテの少女。
(連携が自然すぎる。熟練のチーム……?)
そして、それら全ての背後──
白い閃光が走る。
建物の影をえぐり、瓦礫を吹き飛ばしながら、空を裂くように舞う残像。
あれが、ヴァーリの“バランスブレイク状態”。
今この瞬間も、戦場は“彼の行動”を中心にめまぐるしく変化している。
「……完全に、戦局を狂わせてるな。あのバケモノ」
僕は、今はまだ動かない。
フルンティングに手を添えたまま、ただ状況を観察する。
(……想像以上に、カオスだな)
瓦礫、魔力弾、炎上する建物、飛び交う鉄槌と閃光──
どこを見ても“普通の戦場”とは呼べない。
そして――タイミング悪く(いや、良く?)場を荒らしまくっていたヴァーリ本人が、ニコニコしながら僕の隣に戻ってきた。
「おい太郎、下を見ろ」
ヴァーリの視線を追って僕も下を見ると、そこに映っていたのは――
赤い帽子の少女、鉄槌を振るうツインテ、そして西洋風の甲冑を身に纏った騎士っぽい女。
「……方向性バラバラすぎない?」
「しかも全員、ガチでやり合ってるな」
「ツインテに赤帽子って……ちょっと可愛い系かと思ったら、攻撃力えぐいし!?」
「いや、ツインテの一撃でビル砕けてたぞ。ギャップ怖すぎる」
そして次の瞬間――僕たちは同時に、口を開いた。
「「なんで全員コスプレ!!!」」
……どっちの世界の戦争なんだこれは!?
こっちは黒羽+赤衣+剣+ドラゴン、っていう直球ファンタジー系なのに!!
それなのにあっちは、魔法少女、鉄槌幼女、犬耳マッチョ、騎士お姉さん……!?
「なあ太郎、こいつら全員、コスプレイベントでもやってんのか?」
「いや、どう見てもガチの殺意ある魔力弾飛んでたぞ」
「マジかよ……最近の魔法少女って物騒なんだな」
「魔法少女かは知らんけどな!!」
そのときだった。
ピリッ、と空気が変わる。魔力ではない。殺気だ。
僕らの背後から、低く鋭い声が飛んできた。
「お前たちは……何者だ」
振り返る。そこにいたのは、筋骨隆々の男。
ただの筋肉ではない。しなやかさと重厚さを兼ね備えた“闘うための筋肉”だ。
そして――犬耳が付いていた。
「うわ、ケモノ枠まで来た……」
「方向性どうなってんだこの世界……」
黒い道着、落ち着いた表情、だが眼光は鋭い。
まさに“パワー系守護獣”って感じのビジュアル。
その佇まいは、明らかに僕らを警戒していた。
「……太郎、敵意あるな」
「うん。しかも言葉よりも拳の方が早いタイプっぽい」
ヴァーリはニヤリと笑いながら、白い魔力を右手に収束させ始める。
「なら――歓迎の挨拶でもしてやるか」
「やめとけやめとけやめとけ!! それ絶対ヤバいことになるやつ!!」
ヴァーリはニヤリと笑って、まるで遊びを始める子供のような顔で言った。
「説明は後でいい。まずは――実力テストだ」
その言葉と同時に、彼の右腕に“魔力”が収束し始める。
空気が震えた。
「──ッ!?」
一瞬にして、周囲の温度が変わる。
まるで時空そのものが警戒しているような、重たく、粘性のある魔力が空間に染み出していく。
右手に浮かぶのは、眩く輝く白い球体。
それはまるで高密度の星を無理やり一点に圧縮したかのような、異常な重圧を放っていた。
風が逆流する。
足元の瓦礫が浮かび上がり、魔力に引かれて舞い上がっていく。
地面が軋み、空間がわずかに歪んだ。
周囲にあった残響すら、ヴァーリの収束する魔力に吸い込まれていく。
「……おいおい、ちょっと待て。おま、本気で撃つ気か」
僕は思わず一歩引いた。
あの魔力、冗談抜きで都市一つを焼き払えるクラスだ。
けれど――ヴァーリはそのまま、にやりと笑ったまま言い放つ。
「避けられるか、試してみよう」
そして――
魔力弾は、一瞬で発射された。
白い閃光が走り――
「ッ!?」
ザフィーラはギリギリのタイミングで身を捻り、それを躱す。
だが、逃げ場を失った魔力弾は、そのまま背後にあったビルへ突き刺さった。
──次の瞬間。
ドオォォォォンッ!!!
ビルが“爆ぜた”。
崩れ落ちるとか、倒壊するとか、そういう次元じゃない。
魔力の暴発で内側から破壊され、建材の一つひとつが白熱しながら弾け飛んだ。
圧縮された光と熱が一帯を呑み込み、爆風が何重もの波紋となって街を駆け抜ける。
周囲の建物が、風圧だけで骨組みから崩壊していく。
吹き飛んだコンクリの破片が空を埋め尽くし、アスファルトが地鳴りとともに盛り上がる。
地面がめくれ上がり、地下配線が火花を撒きながら露出する。
まさに局地的な終末だった。
「っ……く!」
僕は即座に右手を前に突き出し、複数展開式の防御方陣を構築。
魔力を幾重にも重ねて展開した多重防壁が、突風と衝撃を真正面から受け止める。
周囲の空気が震え、骨まで響くような衝撃音が空間に満ちる中で、
僕はようやく一言、漏らした。
「……ねぇ、ヴァーリ。僕が近くにいるってわかってやってない?」
「問題ない。太郎なら死なないだろ?」
「そーいうことじゃねぇ!!!」
僕のツッコミが響いたその瞬間。
──ヴァーリの気配が、横から“すっと”消えた。
目で追う間もなかった。
空気が一瞬だけズレた感触。それだけが、彼が動いた証だった。
次の瞬間――
ドンッ!
爆風のような音が巻き起こり、犬耳の男――ザフィーラの前に、ヴァーリが出現していた。
文字通り、“瞬間移動”と錯覚するほどの加速。
「実力テスト、開始っと」
その呟きと同時に、白い軌跡が閃光のように走る!
ヴァーリの白銀の拳が、ザフィーラの肩口に直撃。
とっさにガードを上げた男の体ごと、地面へと叩きつけた!
ガガガガッ!!
ザフィーラは地面を削りながら吹き飛ばされ、瓦礫の山に突っ込む!
爆発と粉塵が舞い上がり、地面が深く抉れる。
その直後――
シュバッ!
ヴァーリは舞い上がり、空中からさらに斬撃を連続で叩き込む!
斬撃、魔力弾、蹴撃、踏み込みからの掌底ッ!!
ザフィーラは必死に防ぎ、魔力弾で反撃するが――
「遅い!」
ヴァーリはそのすべてを予測していたかのように、空中を縦横無尽に駆けながら攻撃をいなす。
光の軌跡が空に十字を描き、空間が“斬られて”いくような錯覚すら起きる。
「うわ……こりゃ、想像以上にひどいな」
僕はその様子を、呆れ半分、諦め半分で眺めていた。
ヴァーリが本気で“実力テスト”を始めると、こうなる。
戦場が“彼を中心にして”動き出すのだ。
「空気も読まねぇし、戦場も荒らすし……戦闘民族すぎるわ」
でも。
――この規格外の戦闘、対応できるやつは限られている。
僕は、右手にフルンティングを握り直しながら、空中で姿勢を整えた。
そろそろ――僕の相手も、来そうだった。
──ドオォォォォン!!
まさにその瞬間。
足元から猛烈な爆風が巻き上がった。
反射で跳躍。
直後、僕が立っていた空間に、“炎を纏った大剣”が振り下ろされた!
ズドォン!!
爆風と衝撃が空を切り裂き、熱風が僕の頬を焼く。
その場に留まっていたら、完全に両断されていた。
「今のを避けるとはな……」
声が聞こえた。女の声だが、剣士のそれだ。
目を向ける。
そこに現れたのは、紅の騎士服に身を包んだ女性。
切り揃えられた赤紫の髪、凛とした瞳、そして彼女の手には、灼熱をまとった大剣。
その姿は、まさに“炎の将”と呼ぶにふさわしい威圧感を放っていた。
「コスプレ騎士……?」
「私は、ヴォルケンリッターの将・シグナム。貴様に恨みはないが……我らが主に害をなす者と見れば、容赦はしない」
「うわ、まっすぐな人来た……!」
構えを取り、彼女の剣が再び燃え上がる。
魔力が熱となって空間を満たし、彼女を中心に空気が震える。
(完全に本気だ……)
僕は、フルンティングを構え直す。
剣を構える彼女の気配は、歴戦の戦士って感じで確かに本物だ。
けれど、それでも──
「なら、こっちも遠慮なくいかせてもらうよ!」
僕は一歩踏み込み、フルンティングを構えて切りかかる!
シグナムの大剣と激突!
ギィィィィン――!!
魔力を纏った金属同士が火花を散らす!
彼女の体勢の崩れを見計らって、すかさず蹴りを放つ!
だが──
(……読まれてた!?)
シグナムは紙一重でそれを回避。
すぐさま炎を纏った大剣を振り下ろしてくる!
「はっ!」
僕は即座に魔力を展開し、防御方陣を前面に二重で形成。
その瞬間──僕の視界が“紅”に染まる。
「──写輪眼ッ!」
視界の中、シグナムの筋肉の動き、魔力の流れ、そして剣の軌道がスローモーションのように見えた。
「そこだっ!」
僕は防御を利用して身を流し、剣の炎を回避。
そして、反撃の構えのまま跳び退る。
シグナムは距離を取りながら、口元を僅かに緩めた。
「……見たことのない魔方陣だ。それに、その剣──なかなか面白い」
「ありがとう。でもこの子、フルンティングちゃんはあげないよ?」
僕はそう言いながら、左手にも魔力を集中させる。
「だから代わりに……こっちはプレゼント」
──光の槍、展開!
魔力が収束し、光の刃が空中に形を成す。
僕は左手に光の槍、右手にフルンティング。
二つの異なる重さ、違う性質――。
瞳が紅に染まり、三つ巴がゆっくりと回転を始める。
視界が鮮明になる
。
シグナムの重心のズレ、魔力の流れ、次の動きが手に取るように見える。
「行くよ、コスプレ騎士さん!」
先に動いたのは僕だ!
フルンティングの斬撃を一閃、下から薙ぎ上げる!
それを受け止めたシグナムの剣に、すかさず左手の光槍を突き込む!
「っ!」
シグナムは咄嗟に後退するが、写輪眼はそれすら読んでいた。
空中で体をひねってフルンティングを逆手に構え、斬撃を回転させながら追撃!
魔剣の軌道は、爆ぜる魔力の軌跡を残しながら迫る。
一方の光の槍は牽制と撹乱に。突き、投擲、再生成――
射撃武器のように扱いながら、シグナムの動きを常に制限する!
だが――
「ぬうっ!」
シグナムは、その全てを捌いていた。
振るう剣は巨大でありながらも重さを感じさせない。
一閃で、突き出された光の槍を“柄元”で受け流し、
次の一瞬には投擲された槍を“剣の峰”で叩き落とす。
しかも、フルンティングの斬撃――血を食らいながら進化する魔剣の質量すら、
寸前で“角度を逸らすように”受けている!
(避けてるんじゃない……捌いてるな!?)
僕の写輪眼が捉えていた。
彼女は斬撃の“最短ルート”を即座に見切り、
反撃に転じられないギリギリの“間合い”で受け流している。
「……その眼と剣、確かに並の敵ではないな」
炎の将は、微動だにせずそう言った。
「だが──私は、我らが主の剣。そう簡単には折れん!」
その言葉と共に、炎が咆哮を上げた。
シグナムの大剣が再び紅蓮に包まれ、剣身から噴き上がる魔力が空気を焦がす。
周囲の温度が急上昇し、空間がわずかに歪む。
そして、彼女が踏み込んだ。
重厚にして洗練された一太刀。構えに無駄がなく、それでいて剛と柔を両立させた──まさに、歴戦の将の剣だった。
「ッ……!」
僕はその一撃を、フルンティングで受け止める。
ギィィィィン!!
剣と剣が激突した瞬間、衝撃波が空中を爆裂し、
爆風が球状に広がって周囲の瓦礫すら巻き上げる!
──が、そのまま引く気はない。
右手の魔剣・フルンティングは、“斬る”という一点に特化した異端の武器。
わずか3センチ幅の刀身に、殺意と破壊の理が詰め込まれている。
左手の光の槍は、魔力を凝縮した高速再生成型武器。
突き、投擲、連続展開。スピードと機動力を支えるもう一つの命。
この“相反する二本”を──
写輪眼が、繋ぐ。
「……見える」
シグナムの肩の沈み。肘の角度。重心のズレ。魔力の濃淡。
全ての情報が、写輪眼の中で組み上げられ、ひとつの未来図として収束する。
僕の手の中で、戦場そのものが「設計図」に変わる感覚。
(いい……すごく“合う”!)
僕は空中でひねりを加え、光の槍を投擲。
その軌道に合わせてフルンティングを回転させ、次の剣閃へと接続。
直後、シグナムがそれを読み切り、逆方向からのカウンターを叩き込んできた!
だが──
(見えてる!)
写輪眼の視界が、時間差の“軌道補正”をかけてくる。
剣の軌道が、ほんのわずかにズレて見える。
そこへ、フルンティングでの“受け流し”を敢行!
──ガァン!!
空間が“鳴った”。
剣と剣がぶつかり、火花と爆風と共に、ふたりの距離が激しく離れる。
「どう? このスタイル、意外とハマってると思わない?」
僕が空中で槍を再生成しながら、笑いかける。
「……ああ。だが、まだ決着はついていない!」
再び燃え上がる炎の大剣!
シグナムが反転し、空中を切り裂いて一気に距離を詰める!
その瞬間、太郎の周囲に散った光の槍が、
「意図してばら撒かれていた」ことに気づく。
火花、斬撃、光槍、返し手、逆回転、再投擲――!
もはやその戦いは、空中戦術演舞。
剣戟は美しく、魔力の応酬は華やかで、だがどこまでも殺し合いだ。
(写輪眼の情報処理が間に合ってる……なら──)
僕はフルンティングを逆手に構え直し、
左手では光の槍を再生成――そして即座に放った!
ギリギリでそれをシグナムが躱す――だが、その瞬間。
ふと、空気が変わった。
周囲に充満していた魔力の圧が、一拍だけ緩んだ気がした。
空間の緊張が、一箇所だけ“解けた”ような、そんな妙な静けさ。
「……もう、そろそろかな」
「──なにを!?」
シグナムが、目を見開いて食いついてきた。
声に鋭い棘があった。まるで、読みきれない相手の言動に、本能が警戒しているかのように。
「まさか……貴様、何かを隠しているのか?」
「え、いや別に。俺のことじゃなくて、ヴァーリの話」
軽く肩をすくめて返すと、シグナムは一瞬だけ沈黙し、眉をひそめた。
「貴様、あの白い鎧の男と……」
「まあね。アイツのことだから、そろそろ勝負ついてる頃かな~って」
──ドゴォォォォン!!!
爆発的に崩壊した建物の瓦礫をかき分けて、
白い光をまとった人影が現れる。
それは、ヴァーリ・ルシファーだった。
彼の全身を包んでいた白銀の鎧が、静かに音を立てて解けていく。
《キィン……シュゥゥ……》
肩から胸へ、腕から脚へ――魔力が蒸気のように立ち上り、
鎧のパーツが一つずつ“脱ぎ捨てるように”分解されていく。
そして現れたのは、白コートを翻す、素のヴァーリ。
「ふぅ……太郎、もうちょっと遊べると思ったけどさ」
そう言って彼は、両手に掴んでいた二人を“まるでゴミでも捨てるように”地面へ放った。
「肩慣らしにもなんなかった。帰るぞ」
ザフィーラはぐったりと地面に倒れ、
ヴィータも赤い帽子を落としながら無力に横たわる。
(雑ぅ……)
僕は苦笑しながら、空中で片手を挙げた。
「僕も、そろそろ帰りたいって思ってたところ!」
そう言って、軽く息を吐く。
そして――羽ばたくでもなく、ただ力を抜くように、ゆっくりと空からウァーリの元へと舞い降りた。
そのやり取りに、ついにシグナムの怒号が轟いた。
「ヴィータァァ!! ザフィーラァァ!! 貴様ッ、貴様らァァァ!!」
その声は、怒りと悲しみがない交ぜになった絶叫だった。
そして次の瞬間、感情の爆発がそのまま行動に変わる!
「ぬおおおおおッ!!」
シグナムは、大剣に再び炎を纏わせ、
剣先から放つように“爆裂する魔力斬撃”を飛ばした!
真っ直ぐ、僕たちに向かって。
だが――
「……チッ、しつこいな」
ヴァーリは振り向きもしなかった。
ただ、片手をゆるく掲げ、指先で小さく弾いた。
《カチン……》
静かに展開された防除結界が、僕たちを覆うように広がる。
次の瞬間、シグナムの炎撃がそれに触れた途端――
《ボフッ……!》
まるで打ち上げられた花火が空中で“虚しく霧散する”ように、炎の斬撃はあっさりと霧散した。
熱も、衝撃も、届かない。
「……まるで風でも吹いたみたいだな」
僕がそう呟くと、ヴァーリはようやく振り返った。
しかし、その目に“怒れる敗者”への価値は宿っていなかった。
代わりに、ヴァーリは肩を軽く回しながら言った。
「ちょうどいい運動にはなったな。ま、これ以上やっても時間のムダだろ」
淡々と、それだけを言い残し――
白く輝く転移魔方陣が、静かに僕たちの足元に展開される。
魔力の光が円環を描き、空気の流れすら変えるその瞬間――
僕とヴァーリの周囲から、まるで“異物が排出される”かのように、世界の気配がひとつ後ろへ下がった。
シグナムはなおも怒りに震え、震える拳を握りしめていた。
だが、僕たちはその視線すら、まるで“風が吹いた”程度にしか気に留めず。
ただ立っているだけで、こちら側とあちら側の“格”が違う。
それを証明するように――
「じゃぁーね♪バイバイ♪」
僕の軽口が、最後に空気を揺らす。
白光が、静かに膨れ上がった。
そして僕たちは、
戦場の空気ごと、
踏み潰すように――この場所から姿を消した。
✨管理局視点:戦場分析モニター/オペレーターズルーム(戦闘記録再生)
──記録時刻、海鳴市、第二区域。
魔導情報局所属の戦術監視室には、
無数の映像モニターと魔力感知センサーのデータが瞬時に飛び交っていた。
「……っ、信じられない。あれ、本当にベルカ式を正面から受け止めて……?」
一人の若い魔導技官が、目を見開いたまま声を漏らす。
映像モニターには、闇の書の騎士と、黒翼の少年の交戦記録が映し出されていた。
二刀流。異質な魔力構成。未来予測じみた挙動。
そして、もう一人。
龍を思わせる白銀の鎧を纏った少年──。
魔力出力、破壊規模、動体性能、すべてが桁外れ。
闇の書の騎士2名、そして制圧障壁すら“数分で突破”。
「……ヴォルケンリッター2名の反応が途絶。魔力出力、急激に低下。昏倒か……?」
「いや、それ以前に“魔力構造が破壊されている”……通常の物理的ダメージじゃない。魔力そのものを潰してる……」
「待て、転移反応。二名、消失――!?」
──白く輝く転移魔方陣。
少年二人が何の障害もなくこの空間を離脱するのを、ただ記録するしかなかった。
「……この戦闘、記録していたのか?」
「もちろん……けど、信じられるか? あいつら……“本気じゃなかった”」
「……っ」
一瞬、空間が静まり返る。
誰もが直感していた。
映像に映る彼らは、あくまで“遊んでいた”。
そして今、戦闘終了の映像と共に、最後に映し出されたのは――
黒翼の少年が、振り返りもせずに片手を上げ、白い光の中へと消えていく姿だった。