DD世界だと思ったらリリなの世界でした。いや両方の世界が混ざり合った世界でした!!   作:バター犬

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何が罪かわかりますか。
いいえ、わかってなどいないのでしょう?

 

祈らなかったからではありません。
願ってしまったからでもありません。

 

手を伸ばしたからでも、
奪ったからでもありません。

 

――あなたが、そこにいたことそのものが罪なのです。

 

 

何が間違いだったのか、知りたい?
残念、それを知る権利すら、あなたにはありません。

 

誰が決めたのかって?
あなた以外の、すべてです。

 

 

まだわからないのですか。
まだ、自分は“選ばれなかっただけ”だと、言い訳したいのですか。

 

では、教えましょう。
あなたは“選ばれなかった”のではありません。

 

初めから、対象ですらなかったのです。

 

 

それが、あなたの咎です。

何も与えられず、何も拒まれず、ただそこにいたこと。

 

何も知らないことではなく、
知る気がなかったことでもなく、
 

知らないままでいられると思っていた、その図々しさこそが――

救済の対象にすらなれない、あなたの“最低限の罪”です。

 

 

さあ。
今でもまだ、あなたは“罪を問われている”と、思っていますか?

 

……それすらも、きっと贅沢なのですね。



             ――フレデリカ・ベルンカステル



書架の剣を知らず、頁の獣を喰む

太郎とヴァーリは、任務を終えた後、グリゴリ本部に戻り、アザゼルのもとで“あの魔力事件”について報告をしていた。

 

 

 

「……つまりお前たちの話をまとめると、“ただの魔法使い”だったわけか?」

 

アザゼルが眉をひそめ、報告書に目を落としながら問い返す。

 

 

 

「うん! でもその“ただの魔法使い”ってのが、なんかすっごかったんだよ!」

 

太郎はやたら楽しそうに、身振り手振りで説明を始める。

 

 

「みーんな、羽とか杖とか付けててさ! なんか変な呪文唱えながら空飛んだり、光のビーム撃ったりしてたんだよ!」

 

 

 

太郎は手をバタバタさせながら、あの日の衝撃をジェスチャー付きで語る。

 

 

 

「服もゴテゴテでさ! 黒にピンクに金ライン! 絶対変身バンクあるやつ! しかも、技名叫ぶたびに背景が謎に爆発するんだよ!?」

 

 

 

「“シューティング・スター・インフェルノ!”とか“エターナル・ストーム・カリバーン!”とか、すっごいテンションで!」

 

 

 

「……俺、ちょっと憧れたかも」

 

 

 

「よくわからんのだが……」

 

 

 

アザゼルは眉間を揉みながら、完全に置いていかれていた。

 

 

 

「それ、魔術というより……なんか、魔法少女アニメの悪影響とかじゃないのか?」

 

 

 

「うん!そんな感じだった!でも本当に魔力反応も術式もガチだったよ!」

 

 

 

「……だから怖ぇんだよ、そういうノリで世界滅ぼすやつが一番厄介なんだよ」

 

 

 

「“ライトニング・デス・ジャッジメント・ブレイザー!!”とか……もはや呪文っていうか中二病の究極体だったな」

 

ヴァーリが苦い顔で呟く。

 

 

 

「魔法の理屈も、こっちの魔術とはぜんっぜん違ってて、解析不能って感じだったよ! 一言で言えば――」

 

 

「……コスプレ集団、だな?」

 

アザゼルが深々と溜息をつきながら、ぼそりと呟いた。

 

 

 

「そうそう!羽バサァッて生えてて、杖が『ターゲット、ロックオン』とか喋るんだよ!?しかも、やたらポーズ決めるの!こう、シュバッて!」

 

太郎は身振り手振りで謎のポーズを取り始める。

 

 

 

「極めつけは“魔法陣エフェクト付きビーム”!あれ、絶対魔法より演出に魔力使ってるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「見た目だけなら学園祭の出し物レベルだったのに、放ってくる魔力がえげつなかった。手加減一切なしの直撃コース」

 

 

 

「お前ら、ちゃんと生きて帰ってきたのが奇跡だな……」

 

アザゼルは頭を抱えつつ、苦い顔をして再び言う。

 

 

 

「……だから余計に怖ぇんだよ、ああいう“ノリだけ陽キャ”みたいな連中が、本気の殺意向けてくるのはな……」

 

 

 

「そうだよね!僕も途中で一瞬“この人たち正義の味方じゃなかったの?”って思ったもん!」

 

 

 

「……どの口が言ってんだ」

 

 

「見た目は派手だが、攻撃力は……せいぜい中堅魔術師クラスってところだな」

 

ヴァーリは腕を組み、冷静に言い放つ。

 

 

 

「術式の制御は悪くない。動きも洗練されていた。けど――火力も速さも、こっちの本職と比べりゃまだ“演出頼り”だ。 結局、戦場で大事なのは“撃つまで”と“撃った後”の流れだからな。そこが甘い分、仕留め損ねる。だから命のやり取りには向いてない」

 

 

 

「へー、でもあの“レインボーストーム・デスウィング”はめっちゃ痛かったんだけど!? 僕、腰から変な音したよ!?」

 

 

 

「それお前の柔らかさの問題じゃないのか……?」

 

アザゼルが呆れたように呟いた。

 

 

 

「でもまあ……戦術としては完成されてたよね! 一応、魔法戦用に最適化されてる感じはあったし!」

 

太郎が弁解のように笑うと、アザゼルがふっと笑みを浮かべた。

 

 

 

「派手に暴れるだけで、こっちの“殺るための魔術”と張り合えると思ったら大間違いってこったな。お前らも、勘違いすんなよ」

 

 

 

「もちろん!」

 

「いや、太郎はちょっと怪しいな……」

 

「失敬な!」

 

 

 

 

 

「でも、ちゃんと実体化した魔力で殴ってきたし、俺とヴァーリもけっこう手こずったんだよね?」

 

 

「……まあ、“魔術師の一団”としては記録しておくか。どの系統にも属さない魔法体系ってのは、厄介だからな」

 

アザゼルはメモ帳にさらさらと走り書きをしながら、ぽつりと呟く。

 

 

 

「たまにいるんだよ……魔術理論の枠から外れた“ハズレ者”。けど、妙に洗練されてて――技術だけは一流の、得体の知れない連中がな」

 

 

 

「“洗練されたハズレ者”! うん、しっくりくる!今度漫画描こうかな、それで!」

 

太郎は楽しそうに腕を組み、満足気にうなずいた。

 

 

 

「……お前は相変わらずだな」

 

 

 

ヴァーリが小さく舌打ちをし、ため息まじりに視線をそらす。

そして、何気ない調子で言い放った。

 

 

「俺、学校辞めるから」

 

 

 

その言葉は突然で、けれどヴァーリにとっては当然すぎる結論だった。

 

 

「用は済んだ。学ぶことも、縛られる理由もない。あの街に未練もない。任務が終わったなら、いる意味もないだろ」

 

 

部屋に、一瞬だけ空白が流れる。

が、続く反応は――あまりにも軽かった。

 

 

 

「ふーん、まあ別にいいんじゃね?」

アザゼルが書類をめくりながら、片手でコーヒーを啜る。

 

 

 

「だよね~」

太郎も机に突っ伏したまま、無言でうなずく。

 

 

 

「……何だその反応」

 

 

 

「だって、ヴァーリってどうせ学校向いてないし」

 

「てか、いつ辞めてもおかしくなかったしね」

 

 

 

「……そういうもんか?」

 

 

 

「ああ。お前が真面目に出席してた方が違和感あったわ」

アザゼルがくすっと笑う。

 

 

 

ヴァーリは肩をすくめた。

 

あまりにも想定通りすぎるリアクションに、逆に何も言えない。

 

 

 

「……じゃあ、もう連絡はいいな」

 

「勝手にやれ、ってことで」

 

 

 

「うん、好きにやって~」

 

太郎が軽く手を振る。

 

 

 

そんなやり取りを聞き流しながら、アザゼルはふと太郎の方を見た。

 

 

 

「で、お前はどうすんだ? 学校、続けんのか?」

 

 

 

「……うーん」

 

 

 

太郎は頬に手をあてて、しばらく「うーんうーん」と悩むふりをしたあと、

あっさりとした笑顔で答えた。

 

 

 

「ま、けっこう楽しいし? 当分は行こうかなって思ってる!」

 

 

 

「……へぇ?」

 

 

 

「昼寝できるし! あと給食わりと美味いし!」

 

 

 

「最後の決め手、食いもんかよ……」

 

 

 

アザゼルが小さく笑いながら、椅子に背を預ける。

 

 

 

「まぁ、お前が楽しめてんならそれでいいけどな」

 

 

 

「うん! まだちょっと見たい景色あるし!」

 

 

 

太郎は手のひらを広げて、にかっと笑った。

どこか気楽で、どこか本気で、どこか抜けている――それが彼らしかった。

 

 

 

そしてその隣で、

もう誰にも構われることなくヴァーリは、ひとり静かに立ち去っていった。

 

その背中を、誰も止めない。誰も追わない。

 

 

そして――それで、ちゃんと成立していた。

 

 

 

 

 

 

太郎はスキップしながら部屋を出ていった。

 

まるで何も気にしていないような背中。

 

けれど、アザゼルにはわかっていた。

 

 

 

「あいつ……やっぱ、少し変わったかもな」

 

その声には、呆れも混じっていたが――

 

 

 

ほんのわずかに、期待と、警戒が滲んでいた。

 

 

 

“成長”とは、時に、想定外の扉を開く。

それが“良い方”に開くか、“悪い方”に落ちるかは、まだ誰にもわからない。

 

 

 

翌日。

 

 

太郎はいつものように、アザゼル直伝の“太郎特別トレーニング”に励んでいた。

 

 

 

地下訓練場の空気は重い。

重力強化ルーム、跳躍式魔力圧縮ゾーン、全自動幻影対人戦プログラム――全部アザゼルの趣味でできている。もちろん、えげつない。

 

 

――ねぇ、ぱっつぁん。最近追加されたメニュー、マジで人間向けじゃないんだけど!?

 

 

 

『……それ三日前にも言ってたぞ』

 

 

 

――でも今回はレベチだよ!?

 

あの回転する障害物、動きが地味に前世の漫画であったドラゴンボールZの修行室なんだよ!?

 

しかも電撃出てくるし、避けられなかったら爆発するし!

 

 

 

『……それ、“障害物”っていうか兵器じゃねーのか?』

 

 

 

――あとさ、次のやつ見た?

“魔力断絶フィールド内での無酸素全力疾走20分×5セット”って……あれ、生物がやっていいやつじゃないでしょ!?

 

 

 

『あれは魔力回路の自動調整を強化するためのトレーニングだろ。慣れれば死にはしない』

 

 

 

――“慣れれば死なない”って言ってる時点で、だいたい死ぬんだよ!

てか、あのあと“火の輪くぐり”入れるの誰だよ!? あれ完全に精神鍛錬じゃなくて、罰ゲームだよね!?

 

 

 

『火の輪くぐりは……お前が「忍者っぽくてかっこいい!」って言ったから導入されたんじゃねーか』

 

 

 

――うわー……僕、未来の自分に復讐されるタイプの主人公だったわ……

 

 

 

『しかも今日のラスト、あの“多次元ベクトル反射魔方陣ランダム配置フィールド”だぞ』

 

 

 

――あれヤバいよね!?

 

全部の方向からビーム反射してくるし、床に「当たったら即尻から麻痺」の罠あったし!

 

僕もう、ラスト2回お尻麻痺してるからね!?人間の尊厳ってなんなの!?

 

 

 

『お前の尊厳はとうの昔に落としてきただろ……』

 

 

 

――はあ……このメニュー、誰が考えたの……?

 

 

 

『アザゼルだ』

 

 

 

――あいつ天才じゃなくて、ただの鬼教官だったのでは。

 

 

 

『それは前からだ』

 

 

 

――でもまあ、おかげでバージョン2の維持時間、30秒伸びたんだけどね。

 

 

 

『ほら見ろ』

 

 

 

――いや、伸びるたびに寿命削れてる気がするんだけど?

 

 

 

『だいじょぶだいじょぶ。尾獣持ちは基本的に寿命の概念ズレてる』

 

 

 

――そうなの!?!? それ早く言って!

 

 

『言い訳は強者になってから言えって、お前の師匠がよく言ってただろうが』

 

 

 

――いや僕の師匠、それなんか言いそうだけどアザゼルだよね!?いつの間にそんな悟り系キャラになったの?

 

 

 

『知らんわ。とりあえず、文句言ってる間に筋肉は泣いてるぞ』

 

 

 

――筋肉って泣くの?それ生理現象?

 

 

 

『……もう黙ってやれ』

 

 

太郎は文句を言いながらも、なんだかんだで課題はきっちりこなしていた。

 

バージョン2の維持時間もじわじわ伸びてきて、神威の時空間転送も安定しつつある。

 

そんな訓練中――

 

 

 

太郎は今日も、アザゼル設計の「死なないギリギリ」を突き詰めた地獄の特訓メニューに挑んでいた。

 

 

 

回転する鉄球、地面から飛び出す魔力トゲ、空間の歪みを利用したワープトラップ……

 

訓練場の中はもはや殺意の迷宮と化している。

 

そしてそこに――何の役にも立たない“観客たち”の姿があった。

 

 

訓練場の二階、ガラス張りの観察通路。

 

そこから顔をのぞかせるのは、グリゴリ所属の中堅堕天使たち――通称“堕天使ーズ”。

 

 

 

「……なあ、あれ突っ込んでるよな? 普通避けるよな?」

 

「むしろ“爆発と会話してる”とかそういう新しい概念かもしれん」

 

「いや、まじで“毎回突っ込んで爆発してちょっと成長する”っていうサイクルに美学感じてんじゃないかあいつ」

 

 

 

彼らは軽口を叩きながら、ガラス越しに太郎の挙動を監視している。

 

その視線は、半分は呆れ、半分は心配、そして最後の半分は完全に面白がっていた。

 

 

 

「うるさーい!これは演出だよ、演出!」

 

 

 

下から聞こえてくるのは、煙を上げながら飛び跳ねる太郎の元気な声。

 

 

 

「成長ってのはさぁ、こういう“派手さ”が必要なの! つまりこれは僕なりのアピール!」

 

 

 

背中からはうっすら黒煙。服はところどころ焦げ、靴の片方はいつの間にか吹き飛んでいる。

 

だが本人は妙にドヤ顔だ。

 

 

 

「てか君たちさ、仕事ないの? 暇人堕天使ーズ?」

 

 

 

「お前が言うな!!」

 

「いやマジでその通りなんだけど、言われるとムカつくな」

 

 

 

「そもそもだな、俺らはアザゼルさんの命令で監視してんの。“あいつのトレーニング、たまに芸術的にアホだから見とけ”ってな」

 

 

 

「それ誉めてる!? けなしてる!?」

 

 

 

そのやりとりの間にも、訓練フィールドは次の段階へ移行していた。

 

足元の魔方陣が輝き、空間にびりびりとした圧が走る。

 

 

 

『太郎、集中しろ。次、幻影ビーム地獄モードに切り替わるぞ』

 

 

 

ぱっつぁんの声が脳内に響くが、太郎はまだこっちのやり取りを優先している。

 

 

 

「うおっ!? まぶしっ!? なにこれ!? えっ、幻影なのに実体あるの!? これ完全にアザゼルの趣味でしょ!!」

 

 

 

「当たりだ! というかお前、よくそれ生きてんな!?」

 

「いやマジで一回死んでるだろ、気づいてないだけで!」

 

 

 

「ふははは! 僕は無敵の堕天小学生だからね!!」

 

 

 

太郎はキメ顔でウィンクしながら指を空に突き出す。

 

その直後、背後で再び爆発音。煙がもくもくと上がる。

 

 

 

「……うん、無敵とは」

 

「説得力が一秒で消えたな」

 

 

 

爆風の中で転がる太郎を見下ろしながら、堕天使ーズの笑い声が訓練場に響いた。

 

 

 

爆発音。ツッコミ。煙。太郎の叫び。ぱっつぁんの冷静な指摘。

 

 

 

そんな混沌の中でも、太郎の特訓は確実に続いていた。

 

 

……どうやら今日も、グリゴリは平和(?)である。

 

 

 

たぶん、良い意味で。

 

……たぶん。

 

 

 

いや、たぶん――この後のことを知らなければ。

 

 

 

 

 

――あっそうだ、ぱっつぁん。

 

 

 

『なんだよ』

 

 

 

――今日、朝起きたら……翼が、4枚になってたんだ。

 

 

 

『……は?』

 

 

 

ぱっつぁんが素でフリーズするのも無理はない。

 

太郎の発言は、大体そういう威力を持っている。

 

 

 

――だからさ、近いうちに放浪しようと思って!

 

 

 

『いや意味がわからん!翼が増えたら旅に出るって、どんな理論だよ!?』

 

 

 

 

――「即行動」ってモットーだからさ!

あと、魔剣持ってたら……聖剣ほしくなるじゃん? ロマン的に!

 

 

 

ここで太郎はぐるっと回って謎のキメポーズ。

背中の四枚の翼がバサァッと広がり、背景にはなぜか謎のキラキラエフェクト(※幻覚)。

 

 

『バカかお前!?そもそも聖剣、まだ持ってねーだろ!』

 

 

 

――持ってないから探すんだよ!だって、魔剣と聖剣を両手に装備してこそ“厨二の完成形”じゃん!? で、聖剣ってどこにあんの?

 

 

 

『ああもううるせぇな!!俺が知るわけねぇだろうがッ!』

 

 

 

ぱっつぁんの怒鳴り声が脳内に響く。

 

若干キレ気味だが、声のトーンには**「また始まったよコイツ」**という長年の諦めと付き合いの味も混ざっている。

 

 

 

『こっちはお前の中に封印されてるだけで、情報屋でも考古学者でもねぇんだよ!!』

 

 

 

――えぇーっ!?ぱっつぁんってそういう便利ポジじゃなかったの!?

 

 

 

『誰が図鑑妖精だコラ!! 聖剣がほしいなら――図書館でも行って調べとけ!!図書館ッッ!!』

 

 

 

ぱっつぁん、ついに絶叫。

エコーがかかるレベルの迫力である。

 

 

 

――なるほど!図書館ね!

 

よーし、聖剣ゲットの旅、第一章!

 

舞台は静寂の知の殿堂――図書館からスタートだッ!! 

 

――おっけー☆ じゃあ、即行動!

 

 パチンと指を鳴らすと、太郎は訓練場から全力ダッシュ。

 

黒いエネルギーの残滓を揺らしながら、出口へ一直線。

 

背中から生えた四枚の黒翼が、ひゅんひゅんと風を切る音を立てる。

 

 

その姿を見送る、二階通路の堕天使ーズ。

 

ガラス越しに見えるのは、訓練場から全力疾走で飛び出していく太郎の背中。

そして――そこに揺れていたのは、四枚の黒い翼。

 

 

 

「……あいつマジで、ノリだけで生きてない?」

 

「てか、順応しすぎてて逆に怖ぇんだけど……」

 

 

 

「おい、ちょっと待て。今、背中にあったアレ……四枚だったよな?」

 

 

 

その瞬間、空気がピキィ……と凍りついた。

 

 

 

「見間違いじゃないよな……?」

 

「……あったな。四枚。確実に。」

 

 

 

「いやいやいや、おかしくね? 俺らまだ2枚だぞ!? 普通そこから少しずつ増やしていくもんだろ!?」

 

 

 

この世界で、堕天使の翼は**“力の証”**。

 

最初は誰でも2枚。修行を重ね、魔力を高めていけば――徐々にその枚数が増えていく。

 

4枚なんて、上級堕天使でようやく見える世界。

 

 

 

「おい俺、5年かけてようやく“翼の輪郭が増えそう”ってとこまで来たのにさ……あいつ、“起きたら増えてた”って言ってなかったか?」

 

 

 

「……言ってたな。ドヤ顔で」

 

 

 

「マジで何なんだよアイツ……」

 

 

 

背中の翼を意識して、無意識に自分の翼に手を添える堕天使たち。

一同、軽く落ち込むどころではない。わりと本気で打ちのめされている。

 

 

 

「くそ……地味にキてる。

なんか“ランク格差”とか“才能の壁”とか、そういう言葉が脳内リフレインしてる……」

 

 

 

「いやだって、あいつ小学生で4枚って……この先どうなるんだよ……8枚とか行くのか……?」

 

「え、それもう幹部じゃん……」

 

 

 

「ていうかアザゼルさん、なんであんなのグリゴリに入れたの?

“異常”ってタグ貼って資料庫に保管しとく案件じゃないの!?」

 

 

 

誰もが笑いたいのに笑いきれず、

引きつった顔で爆煙残る訓練場を見下ろしていた。

 

 

 

そのとき、遠くから太郎の声が響く。

 

 

 

――聖剣ゲットだぜーーーーーー!!!

 

 

 

「うわ……テンション高っ」

 

「でもなんかもう、逆に納得できるのが一番怖いわ……」

 

 

 

訓練場の天井に漂う黒煙。焦げた床。

 

そして静かに現実を噛みしめる堕天使ーズの背中に、そっと影が差していた。

 

それは――4枚の“未来”と、“格差”の影だった。

 

 

太郎――謎の堕天使小学生。

 

その背に揺れる“四枚の翼”が、今日もまた一つ、周囲をざわつかせる。

 

 

 

煙と笑い声がまだ残る訓練場に、太郎の叫び声が響いた。

 

 

 

 

トレーニングを終えた太郎は、軽く汗を拭いただけで制服にも着替えず、

そのままのジャージ姿でグリゴリ本部の転移室へと向かった。

 

 

 

広々としたドーム状の転移ルームには、魔方陣が幾重にも刻まれた円環の床があり、

中央には淡く輝く転送陣が静かに回転していた。

 

 

 

「じゃ、ちょっと図書館行ってくるね~!」

 

「おう。くれぐれも“派手な脱線”すんなよ~」

 

受付の堕天使が苦笑しながら手を振る。

太郎が目的地で本当に本を読むかどうかには、もう誰も期待していない。

 

 

 

転移先は人間界。市街地の端にある、大きめの公共図書館。

もちろん正式な許可を得た上での転送――太郎には“表向き”学生という身分があるのだ。

 

 

 

「よーし、じゃあ……行っきまぁぁぁす!!」

 

太郎が転移魔方陣の中心に足を踏み入れると、

足元の術式が光を放ち、空間がゆらりと歪んだ。

 

 

 

刹那、黒いジャージの少年の姿は魔力の波紋とともにかき消え――

次の瞬間、街の片隅――図書館の裏手、人気のない芝生の上に、太郎がふわっと現れた。

 

 

 

「うおっ、ちょっと浮いた!」

 

バランスを崩しながらも、無事着地。

 

 

 

周囲を見渡して人目がないことを確認すると、太郎はふっと笑って呟いた。

 

 

 

「さて……聖剣、探すかぁ!」

 

 

 

目的は――“聖剣”に関する情報収集。

 

……だった。はず。

 

 

 

だが――

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

館内に入ってすぐ、太郎の視線がピタリと止まる。

 

それは、新刊コーナーの棚の端。

やたら目立つゴールドの背表紙に、でっかく刻まれた文字が目に飛び込んできた。

 

 

 

《完全版 ドラグソボール 全巻セット》

 

 

 

太郎の脳内で、何かが弾けた。

 

 

 

「な……なんだこの神棚展示レベルの配置は……ッ!?」

 

 

 

無意識に歩き出していた。

 

指先が、1巻の背表紙にそっと触れる。

 

 

 

その瞬間、太郎の脳裏に走馬灯のようなイメージが流れた。

 

 

 

――あの筋肉。あの気。あの絶叫。

 

 

 

「……オラわくわくしてきたぞ……!」

 

 

 

一瞬でスイッチが入った。

周囲の静寂など一切気にせず、太郎は一巻を開く。

 

 

 

ページをめくる指が止まらない。

表情は真剣そのもの。

目は輝き、眉間には戦士の皺。

 

 

 

――そして、運命のシーンがやってくる。

 

 

 

「……クリリンの……ことかぁあああああああああああああッ!!!」

 

 

 

バァン!!

 

机に拳を叩きつけながら爆笑する太郎。

図書館の空気が、震えた。

 

 

 

近くで読書していた老紳士が、眼鏡を持ち上げてこちらを睨む。

 

だが太郎は止まらない。止まれない。

 

 

 

――魂が、燃えていた。

 

 

 

『……おい。お前……今マンガ読んで叫んで笑ってたよな?』

 

 

 

頭の中でぱっつぁんの声が響く。

 

 

 

『聖剣は!?探してんのか!?お前、もう夕方だぞ!?どんだけ読んでんだよ!』

 

 

 

――へへ……でもこれは“魂の剣”だから……!

 

 

 

『それはお前の中でだけだバカ!』

 

 

 

――うん。だけどさ……ちょっとだけ読もうと思ったら……!

ほら、“ドラグソボール完全版”が揃ってたんだよ!読まない選択肢ある!?

 

 

 

『ある!!!』

 

 

 

気がつけば、太郎の前には全巻積まれた山。

周囲には読み終わった巻が散乱し、本人はすっかり“戦士の顔”で次の巻を手に取ろうとしている。

 

 

 

『お前の中の“聖剣”が、今“ジャンプ剣”にすり替わってんじゃねぇか……』

 

 

 

――へへへ……でも、戦闘描写とかすっごい参考になったよ!?

 

オーラ出すやつとか、バリアの張り方とか、あと「フルパワーでも勝てなかった」とか、ロマンじゃん!?

 

 

 

『ロマンじゃねぇんだよ現実に帰れ!!本来の目的どこ行った!!』

 

 

 

こうして――

太郎の“聖剣探しの旅・プロローグ”は、まず「ドラグソボール全巻読破」という無意味なサイドクエストから幕を開けたのであった。

 

 

そして……全巻を読破したあと、テーブルにうつ伏せで突っ伏した太郎は、

「はぁぁ……最高だった……」と満足げに一息ついていた。

 

 

 

机の上には読み終えたドラグソボール完全版・全34冊の山。

 

まるで戦いを終えた勇者のような顔で、天井を仰ぎながら呟く。

 

 

 

――オラ、燃え尽きたぞ……

 

 

 

『……で、満足したか戦士。聖剣はどうした、聖剣は』

 

 

 

――ん?

 

ぱっつぁんの声に反応し、しばしの沈黙。

 

 

 

――あっ、そっか! 僕、“聖剣”探しに来てたんだった!!

 

 

 

あまりにも当然のように脱線していた自分に、今さら気づいた太郎。

 

頭をポリポリかきながら、席を立ち上がる。

 

 

 

―――ふぃ〜〜〜、いやでもさ。ドラグソボール読破したら、自然と“武器”への憧れって高まるじゃん? パワーもいいけど、やっぱ剣だよ剣!ビーム出るやつとかさ!!

 

 

 

『だからその“剣=ビーム=強い”って思考、今すぐ離れろ!』

 

 

 

――よーし、じゃあ……聖剣、探しますかー!

モード切り替え、テンション維持で!

 

 

 

そう宣言すると、太郎は本棚エリアに向けて軽快に歩き出した。

 

 

 

その足取りは軽くとも、脳内はまだ“界王拳”の余韻でいっぱいだった。

 

――聖剣って……どうやって調べればいいの?

 

 

『神話関連の本だな、たぶん』

 

ぱっつぁんの声にうなずきながら、太郎は気合を入れて本棚エリアへと足を向ける。

 

 

 

「よーし、目指すは伝説の“聖剣”! 神話コーナーどこだーっ!」

 

 

 

テンションだけは高いが、探し方はわりと雑。

 

とりあえず「背表紙に“神”とか“伝説”って書いてあるやつ」を手当たり次第に引っこ抜いていく。

 

 

 

「おっ、“英雄伝説大全集”! なんか強そう!」

 

「“北欧神話の武具と神々”? タイトルに“神”と“武具”入ってる!合格ッ!」

 

「“幻想と叙事詩の世界”……これはちょっとオシャレすぎるな。読むの疲れそう」

 

 

 

その基準は完全にノリと表紙のかっこよさ。

内容? 知らん。とにかく分厚くて重そうなやつは、なんか“神秘感”がある。それでいい。

 

結果、太郎の腕には4冊ほどの分厚い神話系の本が積み上がった。

 

一冊一冊が辞書レベルの厚さで、もはや持ってるだけで修行になる重量。

 

 

 

「うおっ、重っ……でもなんかこの“知識に押し潰されそうな感じ”、聖剣感あるぅ……!」

 

 

 

図書館の片隅で謎の感動に浸りながら、太郎はふらふらと学習室の方へ向かっていった。

 

 

 

学習室の引き戸をそっと開け、中を覗き込んだ太郎は、ぐるりと室内を見回す。

 

 

 

その瞬間、奥の窓際に座る一人の少女が目に入った。

 

 

 

紫髪のストレートロング。きちんと揃った制服姿。

 

――そして、手元には開かれたノートと参考書。

 

「おっ、すずかちゃんじゃあーりませんか!」

 

声をかけると、彼女――月村すずかが顔を上げた。

 

「太郎くん。……あれ? その格好……」

 

ジャージ姿に、抱えた辞書みたいな分厚い本が何冊も。

 

すずかの目がぱちぱちと瞬きしながら、やや困惑と興味が混ざった顔で尋ねる。

 

 

「……調べ物?」

 

 

 

「そうそう! 聖剣について調べようと思ってね!」

 

 

 

太郎はドヤ顔で胸を張るが、背中の本がずるっと崩れかけてあたふたする。

彼の目はキラッキラしているが、やってることは正直“聖剣っぽいこと”ではない。

 

 

 

「聖剣って……あの、伝説の?」

 

 

 

「うんうん、“選ばれし者が抜くと世界が変わる”みたいなやつ!

ビーム出たり、封印解いたり、謎の生物と会話できたりする系のやつが理想!」

 

 

 

「……それ、もう伝説通り越してアニメじゃない?」

 

 

 

すずかはくすっと笑う。

 

でも、その笑顔の奥にはほんの少しだけ興味もにじんでいた。

 

 

 

「太郎くん、そういうの好きなんだ?」

 

 

「うん! ロマンって大事だからね!」

 

 

 

太郎はふふんと胸を張って、続ける。

 

 

 

「魔剣と聖剣の二刀流とか、しびれるじゃん?

 

片方が呪われてて、もう片方が浄化属性とか……たまんないよね!」

 

 

 

「えっと……相性悪くない?」

 

 

 

「そこがいいの!! 真逆の力を両手に抱えてギリギリで保ってる感じ、超燃えるじゃん!」

 

 

 

「……うん、わかった。太郎くんは太郎くんだね」

 

 

 

すずかは少し呆れたように笑いながら、ページをめくった。

 

 

その時、太郎の目がふとすずかのノートに向く。

 

「……すずかも勉強中?」

 

 

 

「あ、うん。今日は世界の神話についてまとめようと思って。

学校の宿題じゃないけど……面白そうだから」

 

 

 

「マジか、奇遇じゃん! 僕も神話の武器一覧から聖剣を探そうと思っててさ!」

 

 

 

「ふふ。じゃあ、隣いいよ?」

 

 

 

「おお、サンキューすずかちゃん! やっぱ天使か……!」

 

 

 

「えっ、堕天使でしょ?」

 

 

 

「うぐっ……バレてる……!」

 

 

 

そんなわけで、太郎は山ほどの本をどさっと机に置き、

すずかの隣で改めて“聖剣探し”をスタートするのだった。

 

 

 

――もちろん、脱線するまでは。

 

 

 

 

 

 

……そして30分後。

 

 

 

「……だめだ、ぜんっぜんわかんない」

 

 

 

神話書を何冊も開いてみたものの、どれも難解な単語とやたら濃い解説ばかりで、

太郎の脳はすでに“読みすぎ注意”のオーバーヒート状態。

 

 

 

「なんかこう……『これが聖剣!ドーン!』みたいな本ないの? 図鑑形式のやつ!」

 

 

 

「うーん……そういうのは、ないかなぁ……」

すずかは笑いながらも、ちゃんとページをめくり続けていた。

 

 

 

太郎は腕を組んで考え込む。

 

 

 

(魔剣は手に入れた。あとは聖剣……

でも、どれが本物かもわかんないし、いまいちピンとこない……)

 

 

 

そんなとき、ふとすずかの顔を見て――電流走る。

 

 

 

「……あ、そうだ!」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「ねえすずかちゃん。忍さんってさ、確か“吸血鬼の血”とか関係してるんでしょ?」

 

 

 

「う、うん……まぁ、そうだけど……?」

 

 

 

「吸血鬼=神秘寄り=長命=何か知ってるって方程式、あると思うんだよね!

もしかしたら、聖剣について何か知ってるかもじゃん!? 伝承とか、家に秘蔵されてる文献とか!」

 

 

 

「いやそんな都合よく……」

 

 

 

「行って確かめる!!」

 

 

 

すずかのツッコミが終わるより先に、太郎は立ち上がっていた。

 

 

 

「ってことで! 明日、すずかの家に行ってもいい?」

 

 

 

唐突すぎる申し出に、すずかはびくりと肩を跳ねさせた。

 

 

 

「/// べ、別にいいけど……どうして?」

 

 

 

「忍さんに聞きたいことがあってね! 聖剣について!」

 

 

 

そう言い残して、太郎は本を片付ける間もなく軽やかに図書館を後にする。

 

 

 

まるで、一人だけ物語のテンポが倍速のキャラクターのように。

 

 

 

「……ほんと、相変わらずだなぁ……」

 

 

 

残されたすずかは、苦笑しながらも――

その背中を、どこか嬉しそうに見送っていた。

 

 

 

 

 

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