DD世界だと思ったらリリなの世界でした。いや両方の世界が混ざり合った世界でした!!   作:バター犬

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AIの種類変えたら全体的になんかめっちゃ良くなった。


イッセー救います

次の日。

 

薄暗い部屋の隅、遮光カーテンをきっちり閉めた中で僕は目を覚ました。

目覚まし時計に目をやると、針はちょうど8時を指している。

 

「あ〜……やっちまったなぁ……」

 

もぞもぞと布団から這い出し、洗面所へと向かう。

冷たい水で顔をばしゃばしゃと洗い、頬に刺さる冷気でようやく意識が現実世界に戻ってきた。

 

キッチンの片隅に転がっていたカップ麺を見つけ、湯を注いで待つこと三分。

その間に壁の時計をチラリと見れば、遅刻は確定コース。だが、焦りはない。

 

「間に合わないなら、最初から諦めればいいじゃない」

 

誰にでもなく、独りごちる。

ふやけた麺をすすり、スープを一気に飲み干した僕は、空っぽの部屋に向かって小さく呟いた。

 

「いってきマンモス……」

 

バタン、と音を立てて玄関の扉を閉め、いつものように通学路へと足を運ぶ。

 

……頭の中では、昨夜コンプリートした妹ルートの分岐について、延々と反芻する妄想がループしていた。

 

そのとき、不意に背後から声がかかった。

 

「おっ、珍しいこともあるんだな。この時間に太郎が登校してるなんて!」

 

声の主は、脳まで筋肉でできているかのような元気印・松田。

 

隣には、冷静沈着なツッコミ担当・元浜が眉間にしわを寄せて立っていた。

 

「きっと今日は、何かが起きるなこれは!」

 

「おい、そんなに珍しいか?」

 

「「うん、珍しい」」

 

二人そろってうなずく姿に、僕は思わずため息をついた。

「マジかよ……じゃあ明日からは逆に遅刻するよう心がけるわ。うん!」

 

言って、自分でも意味不明な前向きさで胸を張る。

 

――その瞬間だった。

 

ザァッ……。

 

緩やかだが、確かに肌を撫でていく風が吹いた。

まるで何かが始まる合図のように、空気がわずかに震える。

風は一瞬で通り過ぎ、しかしその余韻は、背筋を撫でるように僕らの身体に残った。

 

「……この風……」

 

「おい、太郎、松田!風だ!しゃがめ!」

 

元浜が突如叫び、僕と松田は反射的に地面にしゃがみ込む。

僕らの視線はすぐさま、風が抜けた先――通学路の先に向かっていた。

 

そこを歩いていたのは、駒王学園の女子生徒たち。

スカートが舞い上がるほんの一瞬を、僕たちはまばたきすらせず、見逃さなかった。

 

「どうだった?」

 

「チッ……収穫なし。太郎、お前は?」

 

「僕かい?……フッフッフ。見たよ、赤の勝負パンツ。安産型の完璧シルエット。これは……優勝ですな」

 

「くっそ、朝から羨ましいもん見やがって!」

 

松田が地団駄を踏みながら、悔しさ全開で叫ぶ。

僕は鼻をすする。

 

「落ち着け、松田。どうせまた次の……なっ……!?」

 

言いかけた僕の口が、不意に閉じた。

隣で、元浜が校門の方を指差し、口をポカンと開けて固まっている。

 

「……どうした、元浜……?」

 

つられてそちらを見た僕と松田の動きも、そこで止まった。

 

――まるで時間が止まったかのように。

 

朝の喧騒、鳥のさえずり、すべての音が消えたように感じた。

 

そこにいたのは――

 

リアス・グレモリー先輩。そして、その隣を、親しげに歩く兵藤一誠。

 

まるで王族とその騎士のように、自然に、そしてあまりにも近く、二人は並んでいた。

 

「……あれって……一誠、だよな……?」

 

「……リアス先輩……と一緒に……?」

 

誰かがつぶやいたその瞬間、静寂を破るように動いたのは、松田だった。

 

「ウガァァァァアアアアアアアアアッ!!」

 

獣のような叫びをあげながら、一誠に向かって一直線。

目の奥に宿った怒りは、友情も常識も全部吹っ飛ばしていた。

 

ドゴォッ!

 

乾いた音が響き、一誠の頬に松田の鉄拳が炸裂する。

吹き飛ばされた一誠は、地面に転がりながら呻いた。

 

「いってぇぇぇぇえ……!な、なにすんだよぉぉ!」

 

「一誠ぃぃぃ!!テメェ!!“モテナイ同盟”の誓いはどうしたァァァッ!!」

 

イッセーがうめき声をあげながら体を起こそうとした、その瞬間――

 

「……裏切り者が……」

 

ドス黒い低音が響いた。

 

次の瞬間、元浜が無言でイッセーの後頭部を狙って足を振り抜いた!

 

ドゴッ!!

 

「ごふっ!?な、なんで元浜までッ!」

 

「黙れ。お前が“モテナイ教義”を破ったその瞬間から、お前は敵だ……!」

 

眼鏡の奥で冷酷な光を宿す元浜が、無感情に言い放つ。

 

「おいおいおい……なに?これ、裁きの時間なの?天誅なの?ねぇ、ちょっと待って?」

 

起き上がろうとしたイッセーの肩を、僕がぐいっと押さえた。

 

「イッセー、お前……マジで何があったんだ?」

 

「聞かせてもらおうか。何が、“あのリアス・グレモリーと並んで登校”だって?」

 

「うんうん、僕ちんも興味津々〜」

 

イッセーは少しの沈黙のあと、ゆっくりと立ち上がった。

 

その目は、どこか遠くを見ていた――まるで、戦地から帰ってきた兵士のように。

 

「……むふふ。それはな……太郎、松田、元浜……」

 

重々しい空気をまといながら、イッセーが口を開いた。

 

「お前ら……“生”を見たことあるか?」

 

時が止まった。

 

「「「……生?……えっ……生……!?!?」」」

 

理解が追いつく前に、三人同時に電撃が走るような衝撃が体を貫いた。

 

松田は「うわああああああ!!」と叫びながらその場にひっくり返り、

元浜は震える手で眼鏡を外しながら「……分析不能……これは……真理……」とつぶやき、

僕はというと、膝から崩れ落ちて「……これは……完全に……攻略済みエンド……」と震えていた。

 

――モテナイ同盟、崩壊。

 

 

 

それからの午前中は、まさに地獄だった。

 

授業中、教壇の前に立つ先生の声が右から左へ抜けていく。

ノートを取る手も動かない。何を見ても、何を聞いても、頭の中に浮かぶのは――

 

「……“生”って……なんだったんだろう……」

 

隣の席で元浜が、教科書の隅を見つめたまま、魂の抜けたような声でつぶやいた。

 

「重力……そう、重力こそすべてを支配する力……つまり、生もまた引力に従って揺れる運命なのだ……」

 

「お前、何言ってんの?いやそれ今“生”関係ある!?てかそれ、ただの物理の講義じゃねぇか!!」

 

松田が机に突っ伏したままツッコむが、その声にももう張りがない。

 

彼の視線は宙を泳ぎ、手元のノートにはなぜか「悲しみの向こうへ」という謎のタイトルとともに“女子風下着図鑑”が描かれていた。

 

「……無意識に描いてた……」

 

「それはそれでこええよ……」

 

僕もふと、自分のノートに目を落とす。

 

数式の代わりに並んでいたのは――あらゆる形状、サイズ、質感のおっぱいのスケッチだった。

 

「……なにこれ……立体図?いやCG?え、影つけてるし、トーンまで貼ってる!?僕、いつの間にここまで……」

 

意識は朦朧としていた。気がつけば“夢の理想乳”を追い求めて、紙の中で僕は創造主になっていた。

 

「おい太郎、お前のノート、何かの設計図みたいになってんぞ……」

 

「うん……これが“現実逃避”というものなんだね……」

 

 

そして午後の授業は、誰一人まともに機能することなく、ノートは白紙、頭はカラッポ、脳裏に焼き付いた“赤い布切れ”だけが揺れていた。

 

気づけば、放課後。

 

チャイムが鳴った瞬間、僕は立ち上がっていた。

 

そして――どうしても我慢できなかった。

 

――だから、やった。

 

「……おりゃっ!」

 

「ぐはっ!?お、おい太郎、いきなり何すんだよ!」

 

僕の拳がイッセーの脇腹を綺麗に捉え、机に突っ伏していた彼が転がるように崩れた。

 

「不可抗力だと思ってあきらめてくれ」

 

「まだ嫉妬してんのかよ!?お前、ロリ専だったんじゃなかったのかよ!?」

 

「それはそれ、これはこれ。妬みと怒りの一撃でございます」

 

「ちくしょう……いや、待てって!俺だって好きで見たわけじゃ――いや、見たけどさ!違うんだよ!これには深いワケが――」

 

その瞬間だった。

 

「――チャラで済むと思ったかコラァ!!」

 

怒声とともに、松田のミドルキックが炸裂!

 

 

ドゴォッ!

 

イッセーの背中に綺麗なミドルキックが入り、机ごと吹っ飛んだ。

 

「てめぇぇぇえええ!モテナイ同盟は遊びじゃねぇんだよ!!誓いを、なんだと思ってんだああああ!!」

 

「うわっ!?ちょ、おま――」

 

「静かにしろ。最後の仕上げだ」

 

冷酷な声と共に、眼鏡の奥が光る。

 

「元浜ァァ!?お前まで来るのかよぉぉぉ!!」

 

次の瞬間、元浜の拳が無言で振り下ろされる。

 

それは、物理の法則に忠実な角度と速度を持ち、見事にイッセーの頭にヒットした。

 

「ゴンッ!」

 

「あああああぁぁぁ頭に響いたあああぁぁぁ!!」

 

「これは“学問的制裁”だ。裏切りは、理論でぶん殴るのが我が家の流儀」

 

「貴様らぁぁああああ!!」

 

ついにイッセーが地面を転げ回る中、僕ら三人は無言でうなずきあった。

 

モテナイ同盟――壊滅後、ここに復讐完了。

そして――その時だった。

 

「キャーーーーッ!!♡♡♡」

 

耳をつんざくような黄色い悲鳴が、教室全体を揺らす。

何事かと振り返った僕の目に映ったのは、一人の男。

 

光が差していた。

教室のドアをくぐって現れたその人物は、まるで少女漫画から抜け出してきたような造形美。

金髪、整った顔立ち、爽やかすぎる笑顔、そして完璧な立ち振る舞い。

 

木場祐斗――駒王学園が誇る、全校女子の憧れ。

 

その姿を目にした女子たちは、ほぼ同時に立ち上がった。

 

「「「「お迎えの準備を!!!」」」」

 

前列の女子が机をどけ、後列の女子が通路を清掃用具で掃き始める。

何も言ってないのに、花道が完成していた。

 

木場はそんな過剰な歓迎にも動じず、柔らかく笑って言った。

 

「やあ、失礼するよ?」

 

その瞬間――

空気が変わった。

 

明らかにさっきまでのこの教室ではない。

光が増し、湿度が下がり、臭いが消えた。空間が“清められた”感じ。

 

「どうぞどうぞ!」「汚いところだけど、どうぞお入りください!」

 

「椅子は私が拭きます!」「飲み物いりますか!?」「サインください!!」

 

女子たちはまるで巫女。神を迎える儀式のごとく木場を取り囲む。

 

……なんなんだこの差は。

 

こっちはさっきまで“私刑ごっこ”で机と友情が壊れてたってのに。

 

僕とイッセーと松田と元浜は、まるでモザイクみたいに背景と化していた。

 

「はぁ……イケメン王子か……事故れ……いや、事故ってもなお美しくあるんだろうな……死ねぇ」

 

僕とイッセーは地の底から絞り出したような声で呪詛を吐く。

その時だった。

神の如き金髪の男が、スッ……と僕らの前まで歩いてきた。

 

「兵藤一誠君だね?リアス・グレモリー先輩の使いで来たんだ」

 

イッセーの目が一瞬で真剣になる。

 

「っ!!じゃあお前がリアス先輩の……!」

 

背筋を正すように立ち上がるイッセー。

木場はそれを受けても、あくまで柔らかな微笑を絶やさない。

 

「ちょっとついてきてくれるかい?」

 

「……あ、うん。分かった。じゃあ太郎、また明日な」

 

軽く手を振って僕に別れを告げ、背を向けたイッセー――

 

だが、世界はまだ終わらなかった。

 

「それと、君が鈴木太郎君だったよね?君も一緒に来てくれるかな?」

 

「……………はい?」

 

まさかの展開に、僕は目を丸くした。いやいやいや、なんで僕まで!?

 

……はっ、まさか、これはBL!?あっぶねえええええ!相手が木場なら百歩譲ってわかるけど、イッセーは遠慮したい!

 

「やだね!どうしても僕を連れて行きたいなら……僕の願いを一つ叶えてくれたら考えてもいいよ?」

 

教室中の視線が僕に集まる。

 

いきなりのカウンター交渉に、さすがの木場も一瞬だけ目を細め、言葉に詰まった。

 

「……いきなりだね」

 

けれど、そこはさすがのイケメン王子。すぐに柔らかい笑みを浮かべ、答える。

 

「願いか……僕に叶えられる範囲でなら、いいよ」

 

その瞬間、隣にいたイッセーの背筋がピクリと震えた。

 

「……太郎、まさかお前……おい……」

 

イッセーの声が震えている。

そう、彼は知っている。僕という人間の“ヤバさ”を。

 

僕はゆっくりとイッセーを見やり、にやりと笑った。

 

「フッフッフ……甘いな、イッセー」

 

両手を天に広げ、神託を告げる預言者のように――僕は高らかに叫んだ。

 

「オカルト研究部所属の一年で、ロリでマスコット的存在――略してロリコット!塔城小猫ちゃんの体育後の体操服が!欲しいィィィィィィィィ!!」

 

ドンッ!!

 

言い終えた瞬間、教室の空気が炸裂音とともに停止した。

 

風が止んだ。

鳥のさえずりが消えた。

窓の外の木々が一斉に静止し、世界そのものが「今なんつった?」と呟いた気がした。

 

女子たちはその場で固まり、男子たちはそっと目を伏せた。

先生すら黒板のチョークを落とし、何事もなかったかのように教室を後にした。

 

ピシ……ピシ……!

 

木場のこめかみが、スローモーションでピクリ……と震える。

だが彼は――それでも、プロだった。

 

微笑みを、絶やさなかった。

 

「……ぶ、部長に相談してみるよ……」

 

笑顔を貼り付けたままの木場は、無言で背を向けた。

 

後に残ったのは、静寂――

そして、変態としての称号を背負った僕と、その巻き添えになった哀れな男・イッセーだった。

 

教室中の女子たちの視線が、一斉に僕たちを刺し貫いてくる。

 

「……目を合わせたら妊娠するって、あれほんとだったんだ……」

 

「いや、もうあいつ、見る避妊具だよ……」

 

「体育後の体操服って、ガチすぎない?もう笑えない……」

 

「犯罪者予備軍じゃなくて、既に“犯罪の概念”だよね……」

 

空気が冷える。

 

教室全体の体感温度が、目に見えて下がっていく。

 

息をするたびに、肺に氷の針が突き刺さるような寒さ。

視線という名のブリザードが、容赦なく僕と――

 

「……兵藤も……普通にキモくね?」

 

「そういえばさ、今日ずっと“生”って言ってたじゃん……マジで無理なんだけど……」

 

「“生って見たことあるか?”とか真顔で言ってたんだよ……あれ完全に、子作りの“生”って意味でしょ……?」

 

「うわ……うわ……うっわ……生って……あいつ学校で何言ってんの……?」

 

「普通に……引いたっていうか……怖かった……」

 

「しかもあの顔で、“生”だよ?無理無理、想像しちゃってトラウマになるわ……」

 

「てか、“生”ってワード使う男、もはや性欲の塊って感じしない?理性という名のブレーキ外れてるじゃん……」

 

「兵藤ってさ、目がちょっと怖いときあるよね。あの時もなんか、狙ってる感じして……」

 

「自分の欲望を“神秘的な体験”みたいに語るのマジ無理。ロマンチックぶってるぶん、余計に生々しいっていうか……」

 

「赤ちゃんがどうのこうのって、ほんとに言い出しそう……“生”って……命じゃん……え、キモ……」

 

「もうさ、リアス先輩に近づくのやめてほしい……神聖な存在を汚すな……!」

 

「兵藤は“生”の化身だよ。“生誠”ってあだ名でしょ、あれからは」

 

「うわ……誰か塩持ってきて……マジで霊的にキツい……」

 

――イッセーにも、容赦のない、絶対零度の視線と言葉の氷柱が突き刺さっていた。

 

「おい太郎……空気、冷えてね?」

 

「いや、冷えてるんじゃない。お前が冷やされてるんだよ」

 

「……なんか俺、凍傷なりそう……」

 

「安心しろ。僕はもう……周囲から“変態ウイルスの核”って認識されてるから……」

 

「嫌な安心すんなよ……」

僕とイッセーは、無言で頷き合った。

 

言葉はなかった。必要もなかった。

そこにあったのは――社会から爪弾きにされた者同士の、暗黙の絆。

 

周囲を見れば、女子たちは目を合わせることすら拒み、

まるで「汚染源を見るかのような」目で、僕たちを睨んでいた。

 

「もうほんと無理……」「まだ近くにいる……」「消えないかな……」

 

「木場くんがかわいそう……」「絶対うつってるよ、変態菌……」

 

「鈴木も兵藤も……もう人間じゃないって感じ……」「群れでしか行動できないの、怖すぎ」

 

「“生”と“体操服”って、なんで学校に爆弾が2個あるみたいになってるの……?」

 

――その視線の鋭さは、刃物のようだった。

 

「……なんかさ、俺たち、もうマジで終わってね?」

 

「いやほんと。救いは……お前だけかもな」

 

とイッセーは、無言でうなずき合った。

言葉なんてもう要らない。僕たちは、完全に孤立した――“ここ”ではもう、僕たちだけが味方だった。

 

そんな中、周囲から降り注ぐ冷気のような視線をまともに浴びてしまった者たちがいた。

 

教室の後ろ隅――

 

「ひっ……あれ……女子たちの圧……強すぎねぇ……?」

 

松田が、机の下で震えていた。

 

「視線だけで冷房より冷えるって……どうなってんだこの空間……」

 

元浜は冬だというのに額に汗をかきながら、恐怖に満ちた声でつぶやく。

 

「情報解析不能……あれは、“群れの断罪意識”によって形成された氷属性結界……!」

 

僕とイッセーは、無言でうなずき合った。

言葉なんてもう要らない。僕たちは、完全に孤立した――“ここ”ではもう、僕たちだけが味方だった。

 

「な、なぁ太郎……お前らほんとに……生きて帰ってこられるんだよな……?」

 

震え声でそう問いかけてきた松田に、僕は――答えなかった。

 

ただ、ゆっくりと、静かに――深く、頷いた。

 

そして、僕とイッセーは並んで歩き出した。

 

木場が開けた教室の扉から、まばゆい廊下の光が差し込む。

 

その光の向こうには、もう僕たちの“日常”はなかった。

だが――

 

僕たちは一切、後ろを振り返らなかった。

 

ただ、教室のざわめきと女子たちの氷の視線を背に受けながら、無言のまま、右腕を高く掲げる。

 

握り拳を、肩の高さで、空へ突き出した。

 

それは言葉以上に、雄弁な意思表示だった。

 

――俺たちは、変態として立つ。誇り高き、落伍者として。

 

松田と元浜が、その背中を見ていた。

 

声もかけられず、ただ、震える目で、僕らの右腕を見つめていた。

 

「……あいつら……マジで行った……」

 

「……笑えねぇ……けど……なんか、カッコつけてんな……クソッ……!」

 

こうして僕たちは、圧倒的な社会的死を背負いながら――

教室を、そして人間としての何かを置き去りにして――

 

旧校舎へと向かった。

僕とイッセーは、木場に導かれながら旧校舎の廊下を進んでいた。

 

外から見ても時代を感じさせるボロい建物だが、中に入ればその“時代遅れ感”はさらに加速する。

床はみしみしと鳴き、廊下の空気はひんやりしていて、まるで何かが息を潜めているようだった。

 

「なあ木場、ここって……もしかして“夕子さん”出たりしない?」

 

「夕子さん?ああ、いないよ。でも、リアス先輩なら中にいるよ」

 

――軽いボケに返すには、あまりに真顔すぎる。

おい、ノるならツッコめよイケメン!!と思っていたら、いつの間にか扉の前に立っていた。

 

木場がノックしてドアを開けると、異様な空気がぶわっと漏れ出てきた。

 

中の空間は、言葉にしづらい独特な雰囲気に包まれていた。

 

分厚いカーテンで外光は遮断され、照明の代わりに使われているのは――大量のロウソク。

炎がゆらゆらと揺れ、赤黒い装飾の中で、影を壁に踊らせている。

 

「うわっ……ここまで来たら、もう完治不能だな……」

 

思わず僕が呟いたその瞬間――

 

「――あっ!この子はっ!!」

 

イッセーの目が、獲物を見つけた肉食獣のように光った。

 

彼の視線の先にいたのは――

 

ソファーに腰掛け、静かに羊羹を食べている銀髪の少女。

その目元は鋭く、表情は無。まるで野生の猫のような気配を放っていた。

 

木場が静かに紹介する。

 

「彼女は、塔城小猫ちゃん。一年生で、僕たちの後輩だよ」

 

その瞬間、僕の中の何かが弾けた。

 

「67・57・73……!成長の余地が完全に閉ざされた潔さ!ロリ、マスコット、威圧、そして無愛想ッ!完ッッッ璧だ!!」

 

小猫ちゃんの動きが、ピタリと止まった。

 

……ヤバい。これは絶対、ヤバいやつだ。

 

羊羹を口に運んでいた手がゆっくりと下ろされ、

彼女はまるで“処刑人”のような無表情で立ち上がる。

 

――歩み寄ってくる。

 

イッセーが小声で囁く。

 

「太郎……逃げろ……それ、完全に怒ってる……!」

 

「ふっ……本望だよ」

 

小猫ちゃんは、無言のまま僕の前に立ち――

 

バチンッ!!

 

渾身のストレートを、僕の腹にぶち込んだ。

 

「ぐはぁっっ!!」

 

空気が逆流するほどの威力に、僕は膝から崩れ落ちた。

 

イッセーが口を押えて叫ぶ。

 

「今のは……太郎が悪い!!完全に悪い!!」

 

僕は地面にうずくまりながら、震える手で小さく親指を立てた。

「……我々の業界では……ご褒美です……」

 

地面に這いつくばったまま、僕はかろうじて言葉を吐き出した。

だが呼吸は乱れ、目は涙で滲んでいた。

腹に走る鈍痛が、むしろ“感謝”を喚起するあたり、我ながら末期だと思う。

 

イッセーが心底呆れた声で言う。

 

「お前、殴られながら感動すんなよ……」

 

そんな地獄のやり取りをよそに――

 

「あらあら、騒がしいと思ったら……新しい子たち、もう来てたのね」

 

柔らかくも妖艶な声が背後から聞こえた。

振り返ると、そこには艶やかな黒髪をポニーテールに束ねた女性が立っていた。

 

しなやかな所作に、どこか危険な香りをまとっている。

それでいて笑顔は上品で優雅――まさに“大人の女”の理想形がそこにいた。

「初めまして。私は副部長の姫島朱乃と申します。うふふ、以後お見知りおきを」

 

その声と笑顔には、色気と知性と包容力が絶妙に混ざり合っていた。

まるでワインのように芳醇な女性――それが姫島朱乃という存在だった。

 

「お、俺は兵藤一誠です……よ、よろしくお願いしますっ!」

 

イッセーはテンパり気味に立ち上がって頭を下げる。

その横で僕は、軽く手を挙げて言った。

 

「僕は……昨日、雷落とされた方でーす」

 

「あら……それは失礼。昨日は、堕天使の仲間と間違えてしまって」

 

そう言って朱乃先輩は、柔らかく、そして美しく頭を下げた。

その動作ひとつすら、無駄がなく、どこか艶めかしい。

 

僕の鼻腔に“ぶしゅっ”という音が響きそうになったその瞬間――

 

「――さあ、これで全員、集まったようね」

 

空気が変わった。

 

ロウソクの炎が、ふわりと風もないのに揺れた。

 

その奥から、静かに現れたのは――

 

リアス・グレモリー。

 

その紅い髪が揺れるたびに、周囲の空気が緊張に包まれる。

美しい、というだけでは足りない。

彼女の存在は、“場”を制圧する。それほどの威圧と威厳を持っていた。

 

「ようこそ、オカルト研究部へ」

 

その声は静かだったが、否応なく心に響いた。

 

「さあ、話を始めましょうか」

 

僕たちは自然とソファに腰を下ろしていた。

部屋の温度は変わらないはずなのに、肌がぴりぴりと震える。

ロウソクの炎が踊り、影がうごめく中、何かが始まる気配が濃く立ち込めていた。

 

「まず最初に知っておいてもらいたいことがあるわ。オカルト研究部……この部の正体は、悪魔の集まりよ」

 

リアス先輩の言葉に、イッセーの目が点になる。

 

「……え?」

 

次の瞬間、全員が一斉に“それ”を展開した。

 

――漆黒の翼。

 

闇を裂くように、コウモリのような羽が音もなく広がる。

その不気味で、同時にどこか神秘的な光景に、僕も言葉を失った。

 

「これが……証拠よ」

 

「うおおおぉぉぉ!?マジ!?なにこれ!?ガチじゃん!?本物の悪魔の翼ってこんな感じ!?てか、俺アニメ見てる!?」

 

イッセーのテンパり方は相変わらずだが、次にリアス先輩が語った言葉が――彼を静かに沈めた。

 

「昨日の事件……あなたが堕天使に殺されたのは、ただの偶然じゃない。一誠、あなたには“神器”が宿っていたの。

彼らはそれを恐れ、あなたを始末しようとしたのよ」

 

「……神器……?」

 

イッセーの顔から、興奮が消える。

代わりに浮かんできたのは、あの日の――血の匂いと、胸を貫かれた感覚だった。

 

ギリッと奥歯を噛みしめ、拳を握る。

 

「そっか……俺……死んだんだな……本当に」

 

「でも、今は生きてる。それが何よりの証明よ。私はあなたを悪魔として転生させた……私の“駒”としてね」

 

リアス先輩の声は静かだった。だが、そこには覚悟のようなものが宿っていた。

 

イッセーは黙ってうなずいた。しばらく沈黙が流れる。

 

本来なら、ここで僕がボケのひとつでもぶち込むべきなんだけど――

 

……なんか、今回はやめといてやった。

 

別に空気を読んだわけじゃない。ただ、死んだって話をしたばっかの奴にツッコむのもなぁって思っただけ。

 

たまには、気を使ってやるのも悪くないかもしれない。

 

――ほんのちょっとだけ、ね。

 

だが――その静寂を破ったのは、リアス先輩の声だった。

 

「……ということで、次はあなたの番よ」

 

リアス先輩の紅い瞳が、まっすぐに僕を貫いてきた。

その視線に、教室での“体操服要求芸人”モードは跡形もなく吹っ飛んだ。

 

「………………え、僕?」

 

「ええ。あなたは一体、何者なのかしら?」

 

イッセーがぎこちなく笑いながら僕の方を振り返る。

 

「ま、まさか……太郎、お前も悪魔とかじゃねーよな?」

 

「おバカなイッセーくん!僕が悪魔だったら、今ここで取り調べ受けてないでしょーが!」

 

「……そ、そうかもな……」

 

リアス先輩の声が冷たく響いた。

 

「では――鈴木太郎。あなたの正体を話してもらいましょうか」

 

部屋の空気が、ずしりと重くなる。

全員の視線が集中し、ロウソクの炎すら揺れるのを止めたかのようだった。

 

……だが。

 

「………………秘密です!」

 

「……は?」

 

「英語で言うと、“Privacy!” イッツ・プライバシィィィィ!」

 

「………………」

 

一瞬で訪れる沈黙。蝋燭の火がパチッと音を立てた気がした。

 

「あなたねぇ……!」

 

リアス先輩のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

「こっちは真面目に聞いてるのよ!?」

 

「だって、誰も“答えなさい”って明確に命令してないし〜。

まあ、僕は基本、何もされなきゃ何もしないよ?少なくとも、一誠以外にはね!」

 

「何で俺だけ⁉︎」

 

リアス先輩はしばらく僕を睨んでいた。

その瞳の奥で、何かを測っているような、探るような光が揺れている。

 

やがて、ふぅ……と短くため息をついた。

 

「……いいわ。今日のところは、それ以上は追及しない」

 

「おっ、寛大〜」

 

「ただし。私が納得したわけじゃないのよ、鈴木太郎」

 

その声には、明らかな釘刺しのニュアンスが含まれていた。

 

「今はまだ、あなたを“排除”する理由が見つかっていないだけ。ただそれだけ。だから私は、あなたを監視対象としてこの部に置くことにするわ」

 

そう言って、リアス先輩が手を広げる。

 

「あなたには、このオカルト研究部に入部してもらう。これは命令よ」

 

その瞬間、空気がズシンと重くなる。

 

「……それって、強制?」

 

「当然よ。私はリアス・グレモリー。この町を守る者として、素性不明の存在を野放しにするつもりはないわ」

 

空気が再び重くなる。

沈黙の中、僕はしばらく考え――

 

大きく、わざとらしくため息をついた。

 

「……ま、いいよ。入ってやんよ」

 

僕はゆっくりと立ち上がり、胸を張って言い放った。

 

「リアス先輩にここまで言わせちゃってさ、断るのも悪いじゃん?

人助けっていうか、ほら……僕って情に厚いタイプだし?恩を売っておくのも悪くないしね〜?」

 

「お前、絶対“善意”って言葉の意味わかってねぇよな……」とイッセーが小声でつぶやくが、気にしない。

 

「ということで!鈴木太郎、気まぐれと興味本位と若干の下心で、オカルト研究部に爆誕しまーす!」

 

誰も拍手はしなかった。

 

なので――僕は、自分で拍手した。

 

パチ、パチ、パチ。

 

「おめでとう僕!ありがとう僕!今日も君は最高だ!」

 

「うるせぇわ!!」とイッセーが全力でツッコんできたが、

僕の中では完璧な入部セレモニーだった。

 

こうして、鈴木太郎――僕は、兵藤一誠と共に、オカルト研究部の一員として迎え入れられることとなった。

 

 

放課後。

リアス先輩の部屋での衝撃的すぎる情報量と、小猫の拳の余韻がようやく消えかけた頃、

僕とイッセーは並んで下校していた。

 

「さあ、そろそろ帰ろうぜ。遅くなると親に心配されちまうしな」

 

イッセーが言う。

だが僕は、口元に手を添え、ふにゃっとした笑みを浮かべながら――

 

「……襲わないでね?イッセーくん……♥」

 

一瞬で空気が凍った。

 

イッセーがビクッと肩を震わせ、鬼の形相で叫ぶ。

 

「お前にだけは絶対に欲情しねぇからな!!マジでやめろ、冗談でもキモいんだよ!!」

 

ツンッと肩をそむけ、両手をバリアのように構えるイッセー。

 

それを見て僕は――

 

(……くそぅ、わりと照れてんじゃん)

 

とか思いつつ、妙な安堵感に包まれていた。

 

バカみたいなやり取りでも、こうしていつもの日常に戻った気がして、

さっきまでの「悪魔」「堕天使」なんてワードがまるで夢のようだった――

 

……その瞬間だった。

 

空の色が、音もなく――だが、確かに――変わった。

 

「……ん?なんだ……これ……?」

 

空気がピリつく。

風が止み、音が消える。

まるで世界が、一瞬、息を呑んだかのような静寂に包まれた。

 

イッセーが眉をひそめて僕の顔をのぞき込む。

 

「どうしたんだよ、太郎?」

 

僕はにやりと笑い、親指でくるっと背後を指した。

 

「回れ右してみなよ。裸の女がいるぞ」

 

「なっ……なんだってぇぇぇぇえええ!?」

 

本能に突き動かされるように、イッセーの体がくるっと反転。

その動作と、まさに同時に――

 

ドンッ!

 

空から一人の女性が、地面を裂くように舞い降りた。

その足元に舞い散る砂塵、背に広がる漆黒の羽――

 

堕天使だ。

 

「これはどういうことかしら?貴様、なぜ生きているの……?」

 

女の堕天使が怒りをにじませ、鋭い視線をイッセーに突き刺す。

 

だが――

 

「太郎ッ!!服着てるじゃねぇかよッ!!嘘つきか!?失望感がすごい!!」

 

「問題ないよイッセー。服を着てるなら――」

僕は一拍おいて、ニヤリと笑った。

 

「――服を着てるなら、脱がせればいいだけの話だよ」

 

「……あっ、そっか。そうだよな!」

 

「いやそうじゃないだろ!!」とツッコミたい空気をよそに、イッセーが妙に納得してうなずく。

 

堕天使の女が、目を見開いた。

 

「……お前たち、私の言葉を……聞いてなかったの……?」

 

僕とイッセーが二人して首をかしげる。

 

「え?なんか言った?」

 

「声がエロボイスすぎて内容が入ってこなかったわ」

 

「ッ……貴様ら……!」

 

堕天使の体から、目に見えるほどの怒気が放たれ始める。

空気がビリビリと震え、地面がわずかにひび割れる。

 

「よくも……よくも人間風情が……!下賤な冗談を並べて――!!」

 

その怒気が、ついに限界を超えた。

 

「バカ共がああああああああッ!!」

 

絶叫と共に、彼女の右手に光が集束する。

 

ギラリと輝く光の槍が、空気を裂いて生成された。

その先端は、殺意そのもの。

 

――狙いは、イッセーか。

 

「おっと!」

 

僕は即座に動いた。

 

迷いなく、そして無駄なく――

イッセーの襟首を掴んで、そのまま反転、投げ飛ばす。

 

「うわぁっ!?おい太郎、何すんだよ――!」

 

その直後、

 

ドゴォン!!

 

光の槍が地面を抉った。

アスファルトが砕け、鋭い破片が宙を舞う。

 

爆風と土煙が辺りを包み、辺りが一瞬、灰色に染まる。

 

その灰の中、ひとつだけ――黒い影が、煙を裂いて立ち上がった。

 

僕だった。

 

ゆっくりと腰を上げ、手についた砂を払う。

 

そして――目の前の堕天使を、真っ直ぐに見据えた。

 

「で、誰かな?翼が2枚しかないってことは……下級?それとも、見た目詐欺の実力者ってやつ?」

 

その一言に、堕天使の眉がピクリと動く。

 

「まさか……お前、人間じゃないのか?」

 

僕は小さく首を傾げ、いたずらっぽく笑った。

 

「ふむ……そんなに僕って、人間に見える?」

 

「何を言って――」

 

その時だった。

 

ドォンッ――!

 

突如として、後方から強烈な光が爆ぜた。

 

空気が揺れ、光の奔流が闇夜を照らす。

 

イッセーの方を振り向くと――

 

そこにいたのは、赤いオーラに包まれたイッセーだった。

 

彼の左手には、紅く輝く“篭手”――異様な存在感を放つ武具が現れていた。

 

イッセー自身も、その変化に全く追いついていなかった。

 

「な、なな……なんじゃこりゃああああぁぁぁぁ!?」

 

叫びながら、左手を見て全力でのけぞるイッセー。

 

「えっ!?俺なんかやった!?触った!?押した!?

てかこれ、どうなってんの!?カッコいいけど怖ぇぇぇぇ!!」

 

その混乱の声をかき消すように――

 

堕天使の目が、大きく見開かれる。

 

「その左手……まさか……!神器ッ!?」

 

その瞬間、篭手から放たれた光の波動が、凄まじい勢いで堕天使の身体を叩きつけた。

 

ドゴォォンッ!!

 

まるで爆風に包まれたかのように、堕天使の体が空中へと吹き飛ぶ――!

 

バチィィィィン!!

 

ド派手に爆発する衝撃と共に、彼女の衣服が、綺麗に――というより雑に――破れ飛んだ。

 

目の前に現れる、まさかの――

 

全裸。

 

その姿を見た瞬間、

 

「……うっぷ……!」

 

僕の胃がねじれる。

 

「げろろろろろろろぉぉぉぉぉ!!!」

 

太郎、嘔吐。

 

音も情けなさも全開で、地面にリバース。

それはまさに、生理的嫌悪が肉体を超えた瞬間だった。

 

「お、おい太郎!?マジかよ!?なんでだよ!?吐くなよ普通に!」

 

「む、無理だ……おばさんの裸は……無理なんだよぉぉぉ……!」

 

「いやお前、さっき“脱がせればいい”とか言ってたじゃねぇかよ!!」

 

「対象年齢が違った……!あれはティーン前提だ……ッ!!」

 

イッセーが頭を抱える中、僕は地を這いながら懺悔のように叫んだ。

 

「だってさ……毛があったんだよ……その時点でアウトなんだよ……!」

 

「いや、何の審査基準だよ!?」

 

「僕の中の“ロリ神”が警報鳴らしたんだよぉぉぉ!!パイパンを崇めなさいって!!」

 

混乱と絶望の中、堕天使は黙って僕らを見下ろしていたが――

ついに無言で身を翻す。

 

「……この報せは、すぐに“あのお方”へ……!」

 

そう言い残した堕天使の表情には、怒りと――わずかに怯えの色すら混ざっていた。

 

彼女が恐れていたのは、イッセーの“存在”そのものではない。

 

――左手に宿る、紅く輝く篭手。

 

それは明らかに“何か”を持っている。

 

ただの人間が持つには、あまりにも異質で――

 

あまりにも、危険な力だった。

 

全裸のまま、堕天使は夜空へと飛び去っていった。

羞恥も怒りも、報告の義務感すらも背負って――

まるで、自分の負けを悟ったかのように。

 

風だけが残された地上で――

 

僕は、ぼそりとつぶやいた。

 

「……下着、履いてなかったね」

 

「要らん報告すな」

 

イッセーが肩をすくめつつ、遠くを見ながら言う。

 

「でもさ、あの堕天使、体自体は悪くなかったよな?おっぱいもデカかったし、脚も長かったし……正直、もうちょっとじっくり見たかったっていうかさぁ……」

 

「……」

 

「なぁ太郎、お前も正直、ちょっとは――」

 

「無理だ」

 

僕は、淡々と言い放った。

 

「僕はね、おっぱいとかそういう話じゃないんだよ。おまたのおけけ――陰毛っていうの? あれが、あれだけでアウトなんだよ……ッ!」

 

「え?そこ!?」

 

「僕の辞書には“陰毛”って単語が存在しないんだよ。あれが見えた瞬間にね、胃が反射するの。理屈じゃなくて、生理現象なの」

 

「なんだよそれ!?“陰毛拒絶症候群”かよ!?」

 

「正式名称は“ロリ原理主義アレルギー”だよ」

 

「聞いたことねぇわ!」

 

「……思い出すだけで、また来そう……おえっ……!」

 

「お、おい嘘だろやめろ!せっかく余韻に浸ってたのに!」

 

「お前の余韻の中、陰毛のイメージで塗りつぶしてやるよ……!」

 

僕たちは、そんな最低なやり取りを続けながら、

静まり返った夜道を帰っていった。

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