DD世界だと思ったらリリなの世界でした。いや両方の世界が混ざり合った世界でした!! 作:バター犬
僕たちはあれから10日間、みっちりと修行した。
リアス部長の鬼気迫る指導のもと、山奥での地獄のような特訓。
俺は、全身の筋肉が悲鳴を上げ、アーシアは回復魔法を連発しすぎて青ざめ、木場も汗だくで微笑みながら剣を振り続けた。
朱乃さんも雷を自在に操る練習で大地を焦がし、小猫ちゃんは一心不乱にカンフーを磨いた。
そして――
「……よ……う…!よ…う…じょ…をわ…けろぉぉぉぉぉおおお〜〜〜〜!!!グハッ‼︎」
旧校舎の部室で、太郎は何かを叫びながら床に突っ伏した。
「お嬢様、一体この生物はなんですか?」
グレイフィアさんが魔方陣から現れるなり、一瞬表情を引きつらせた。
そりゃそうだ。
いつもの太郎は、ゲーミングチェアにふんぞり返り、エロゲー三昧の自称“オタクの楽園”を満喫していた。
だが、今目の前にいる太郎は――
「うぅ……ぐ、ぐぬぬぬ……ロリは……ロリは人類の宝……!」
肌はカサカサで干からび、目の下にはクマ。
額には脂汗が滲み、唇はひび割れて白く干からびている。
「どうしてこうなったんです?」
グレイフィアさんが眉をひそめ、俺に視線を向ける。
「……その、実は半分俺のせいです」
俺は観念して説明を始めた。
10日前のこと
俺たちは、リアス部長の指示で山奥で強化合宿をしていた。
それぞれ目標を決めて訓練し、俺はパンチ力と瞬発力を鍛え、木場は剣術、朱乃さんは雷の精度を上げ、小猫ちゃんは体術を磨いていた。
しかし――
「イッセー、あなたにお願いがあるの」
「はい? 何ですか?」
リアス部長が俺を呼び出し、特命を与えた。
「太郎の弱点を克服させたいの。彼の弱点は女性……特に“熟した”女性だわ」
「……ま、まさか……」
「ええ。あなたには“素材”を確保してほしいの」
俺は戦慄した。
すぐに山を下り、行きつけの大人向けショップへ直行。
だが今回は通常の“美少女系”ではなく――
「……この……三段熟成版……?」
パッケージには年齢不詳の“超成熟”美女たちが挑発的な笑みを浮かべている。
俺でも引くくらい濃厚なブツだ。
震える手でそれを買い、再び山を登り直した。
山小屋に戻ると――
「きゃあああ! 見たくない! もう見たくない!!」
拘束された太郎が、椅子に縛られ、目の前の大画面テレビに映し出される“大人の映像”に泣き叫んでいた。
「ちょ、ちょっと!? 何これ!?」
「一誠先輩、今からここに結界を張って空間を固定しますけど見て行きますか?」
小猫ちゃんが淡々と説明しながら、手をかざし結界を展開する。
「え、えぇ!? 小猫ちゃん、これを太郎に見せてるの!? しかも拘束して!?」
「はい。最初は部長がしていたんですけど……暴れるので、私が代わりました」
ああ……俺は悟った。
リアス部長は容赦しない。
「イッセー! お前、何してんだよ! 助けてくれよ! マジで! グエェェェェ!!」
太郎は涙を流しながら、画面の超成熟美女たちの妖艶な動きに顔を真っ青にしていた。
「すまん、太郎! 俺にはどうすることもできねぇ!」
俺は目を背けながら小屋を出た。
それから三日三晩。
太郎は結界の中で逃げることも許されず、“限界のその先へ”というドリンクを飲まされながら、その地獄を見続けた。
合宿最終日。
「太郎……大丈夫か?」
俺たちが小屋に戻ると、太郎は椅子に縛られたまま、カサカサの肌、干からびた唇、虚ろな目で微動だにしなかった。
「はぁ……ロリ……幼女……清らか……」
「こいつ……壊れちまった……」
「……ってことがあったんです」
俺が説明し終えると、グレイフィアさんは長いため息をついた。
「お嬢様……彼をどうするおつもりですか?」
「小猫、お願い」
「はい」
小猫ちゃんは太郎に近づき、そっと耳元に囁いた。
「……太郎先輩が頑張ってくれたら、私がいいことしてあげます」
「――!?」
カラカラに干からびていた太郎の瞳が、突然ギラリと光を取り戻す。
「が……頑張ったら……? いいこと……?」
肌はみるみる潤い、ガサガサだった髪もツヤツヤに。
「た、太郎……復活した!?」
驚く俺たちの前で、太郎は両手をワナワナと震わせ、涙目で小猫ちゃんを見つめた。
「こ、小猫ちゃん! それ、具体的には!?」
「はい、肌を重ねてもいいです」
「いぇぇぇぇぇぇぇぇぇす!!」
「えっ、ちょっ、太郎!?」
太郎は叫ぶと同時に大ジャンプ! そのまま着地し、部屋中をバネ仕掛けの人形みたいに跳ね回り始めた。
「よし! 俺はやれる! やれる男だ! 肌を重ねる! セックスするぞぉぉぉぉ!!」
「お、おい太郎! 落ち着け!?」
「落ち着けるわけないだろうがぁぁぁ!!」
太郎は全速力でぐるぐると部屋を駆け回り、壁に軽く頭をぶつけても「痛くない!」と叫び続けている。
その姿は――まさに無敵。
「お嬢様……これは一体……?」
グレイフィアさんが呆れ顔でリアス部長を見た。
「ふふ、小猫のご褒美は効果抜群みたいね」
「部長、なんか心配になってきたんですけど……?」
「たぶん、大丈夫だと思うわ。見て、この活力」
「はーい! はーい! オラ、頑張ります! 命かけます! 小猫ちゃんと……! うおおおおおぉぉぉ!!」
太郎は意味不明な踊りを繰り返しながら、壁を軽く蹴っては宙返り、また跳ねる。
「いや、これ戦場で味方ごと暴れないか?」
「むしろ敵がドン引きしそうだよね」
俺と木場は呆れてため息をついたが、太郎はそのまま騒ぎ続けていた。
「皆さん、準備はお済みですか?」
グレイフィアさんが魔方陣から現れ、静かに微笑む。
「ええ。私たちは……負けません!」
リアス部長の瞳は、強い決意に燃えていた。
「では、開始時間になりましたら魔方陣で戦闘フィールドへ転送いたします。そこではどんなに派手なことをしても構いません」
「魔王ルシファー様もご覧になっています。それを忘れないようにお願いします」
「ま、魔王!? しかもルシファー様!? マジかよ……!」
俺は一瞬で緊張が頂点に達した。
(これ……めっちゃプレッシャーじゃねぇか!?)
「そろそろ時間です。魔法陣の方へどうぞ」
グレイフィアさんに促され、俺たちは魔法陣の上に立った。
「みんな……行くわよ!」
「おおおおおお!!」
光が一気に部室を包み込み、俺たちは戦場へと転送された。
(絶対……勝つ!)
戦闘フィールド――駒王学園のレプリカに転送され、説明が終わった頃。
僕は――いや、僕らはすでにバラバラに散らばっていた。
でも僕は、何をすればいいのかわからず、校舎の廊下をウロウロしていた。
「部長、僕って何をすればいいんです?」
リアス部長は、空を見上げながら指示を飛ばしている最中だったが、ふと僕に視線を向けた。
「そうね……太郎って強いの?」
「……え?」
一瞬、思考が停止した。
(いやいや、今それ聞く?)
「まぁ……光の槍をガードできるぐらいには」
「あら、すごいじゃない」
部長はほんの一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの冷静な表情に戻った。
「それなら太郎、なんでもいいから目立つところに行って、敵を一箇所に集めてくれる?」
「つまり……陽動ってことです?」
「そう。できるだけ長く持ちこたえて」
「りょーかい!」
陽動――言い換えれば、“囮”ってことだ。
でも、僕は特に文句も言わず了承した。
だって、それが僕の“得意分野”だから。
(目立つ場所……うーん……運動場しか思い浮かばない!)
運動場ならどこからでも見えるし、音も響く。
まずは校舎内を駆け抜け、放送室に侵入。
「失礼しまーす……あ、あったあった!」
運動会とかで使う簡易マイクとアンプを回収し、再び運動場へダッシュ。
「よし……いっちょ、やりますか!」
まずは準備運動。
僕は両手を大きく広げ、大きく息を吸い込んだ。
「♪あ〜たら〜しい〜あ〜さがきた、きぼ〜おのあ〜さ〜だ……♪」
伸びやかな声が運動場に響く。
もちろん腕をぐるぐる回し、体操しながら。
誰もいない運動場で、一人で朝の体操ソングを熱唱。
(うん、完璧だ。まずは準備体操が大事!)
体が温まったところで、本番だ。
ポケットからオーディオプレーヤーを取り出し、放送室から持ってきた機材に繋げる。
「それじゃあ――行くぜ、プリキュアァァァァァ!!!」
熱唱するのはもちろん、プリキュアのオープニング。
「♪デュア!デュア!デュアリーン!♪」
マイク片手に、ノリノリでダンス。
くるりとターンし、校庭のど真ん中で両手を広げてポーズ。
「♪絶対無敵!キラキラ笑顔でゴー!♪」
僕の歌声が校庭中に響き渡り、遠くの建物にまで反響する。
(……で、誰も来ないんだけど?)
完全に放置プレイ。
いくらプリキュアでも、僕一人で盛り上がっても意味がない。
「……あれ? おかしいな? なら……次は!」
次に選んだ曲は――
「“君が望む永遠”!“Precious Memories”!」
「♪信じてた未来が崩れてく~♪」
美しいメロディが切なく胸に染みる。
「うう……水月……遥……」
エロゲーの名シーンが脳裏をよぎり、目頭が熱くなる。
「次!“リトルバスターズ”!」
「♪リトルバスターズ!君と笑えたら~♪」
手を空に伸ばし、元気よく歌いながら跳ね回る。
「クドぉぉぉ!! アホの子最高ぉぉぉ!!」
でも――誰も来ない。
(おかしい……感動も熱狂も一人で完結してる……)
汗を拭い、深呼吸。
「じゃあ、最後の切り札だ……!」
僕は震える指で次の曲をセット。
「“CLANNAD”の……“小さな手のひら”……!」
優しいピアノの旋律が流れた瞬間――胸が締めつけられる。
「♪あなたと出会い 時は流れる♪」
渚……朋也……風子……ことみ……美佐枝さん……。
次々に浮かぶキャラたちの笑顔。
「う……うう……!」
頬を伝う涙。
「♪想いを込めた 手紙も増えていく♪」
もう目の前が滲んでよく見えない。
「うぅ……渚ぁ……!」
僕は泣きながら歌い続ける。
「♪あなたと出会い 時は流れる……♪」
そして――
(渚と朋也は……一緒に……でも……汐……)
汐の姿が脳裏に浮かぶ。
「……汐……!」
汐が一面の菜の花畑を走る姿。風に揺れる髪。
小さな手。あの無邪気な笑顔。
「うわあああぁぁぁ……!」
泣きながら僕は震える手で再生ボタンを押し直す。
「“だんご大家族”……!」
「♪だんご だんご だんご だんご 大家族~♪」
涙をボロボロこぼしながら、マイクを握りしめる。
「♪みんな みんな あわせて 100人家族~♪」
汐と朋也が笑い合う姿。
渚と朋也が寄り添い合い、優しく汐を抱きしめる。
「……家族……家族って……あぁぁぁ……!!」
僕は声を震わせ、涙を拭うことも忘れて歌い続ける。
「♪手をつないで 大きなまんまるお月さま~♪」
胸の奥が苦しくて、涙が止まらない。
「渚ぁ……! 汐ぉ……! うわあああぁぁぁ!!!」
その時――
「太郎!!」
「ん……?」
振り向くと、そこには木場とイッセーが全速力で駆け寄ってきた。
「お前、何やってんだよ!? 泣きながら一人でカラオケ大会か!?」
「小猫ちゃんと朱乃さんがリタイアしたんだぞ! 早くなんとかしないと!」
「ああ……知ってる……放送で聞いた……」
「泣きながら落ち着くな! つうかお前、顔ぐしゃぐしゃだぞ!?」
「だってぇぇぇ……! しおちゃんが……! だんご大家族が……!!」
「もうわかんねぇけど、とにかく立て! 戦うぞ!」
イッセーが僕の肩を掴んで引っ張り上げる。
木場は呆れつつも優しい笑顔を浮かべた。
そう言った瞬間――
「暇そうだな」
鋭い女性の声。
声のした方を向くと――集まっていた。
運動場の向こうに、仮面をつけた女性、お姫様みたいなドレスを着た美少女、大剣を持った女性、猫耳の二人、そして着物姿の少女。
ライザーの眷属が……ほぼ全員。
(うわぁ……完全に囲まれてるんじゃん)
その中で、一人ドレス姿の美少女が俺に向かって優雅に歩み寄る。
「ねぇ、そこのポーンくん」
「あ、僕は違うよ」
「お兄様があなたたちのところのお姫様と一騎打ちするんですって。ほら」
彼女が指差す方向を見ると――
リアス部長とライザーが、駒王学園の屋上で激しくぶつかり合っていた。
火花が散り、轟音が響き渡る。
(うわ、ヤバいヤバい……! これ、負けるんじゃない?)
「なぁ一誠、この状況不味くない?」
俺の隣にいたイッセーに、小声で尋ねた。
「なぁ、一誠。この状況……不味くない?」
「不味すぎるだろ! 早く部長のところに行かないと!」
「――というと思ったよ。行け!」
僕は親指でリアス部長のいる屋上を指差す。
「で、でも太郎を置いてなんて行けるわけないだろ!」
「バッキャろ〜! お前は行くんだ! 部長はお前を待ってるんだよ!」
「太郎……!」
「俺は大丈夫だ! ここでちょっとばかし派手に暴れて――お前の帰りを待つだけさ!」
僕は意味もなく片目を閉じて親指を立てた。
「くっ……太郎! 死ぬんじゃねーぞ! 必ず生きてまた会おうぜ!」
「……ああ。俺たちは友達だ!」
「太郎ぉぉぉぉ!!」
「イッセェェェェェ!!!」
俺たちは全速力で駆け寄り、ガシィッ! と力強く抱きしめ合った。
「俺を置いて行け! 部長はお前を待ってるんだ!」
「でもお前をここに置いてったら……俺……!」
「バカ野郎! お前が行かないと、誰が部長を守るんだよ!」
僕はイッセーの背中をバンバン叩き、無駄に男らしく叫ぶ。
「太郎……お前は、俺の……」
「言うな! わかってる……わかってるんだよ!」
イッセーは震える声で泣きそうになりながら、僕の肩を掴んだ。
「くっ……太郎! 死ぬんじゃねーぞ! 必ず生きてまた会おうぜ!」
「……ああ。俺たちは友達だ!」
バッと僕はイッセーを突き放す。
イッセーは涙目のまま振り返らずに全力で駆け出していった。
その背中を見送りながら、僕は頭の中で感動的なエンディングテーマを再生する。
(うん、これ泣ける……映画化決定だろ……!)
でも振り返ると――
誰も感動してなかった。
「……何、あれ?」
「なんか……演技過剰ですわね」
「友情……ごっこ?」
ライザーの眷属たちは冷めた目でクスクス笑い、レイヴェルはため息をついている。
「え……? 今の熱い友情シーン……誰もグッと来てないの?」
「むしろお笑いですわよ」
「……ぐぬぬ……」
まさか、この名シーンが全否定されるとは……!
僕は泣きそうになりながら、ドレスの少女に視線を戻した。
「……まさか僕とみなさん?」
「私はやりませんわ」
「えっ、なんで? 頭脳派ってやつ?」
「お前呼ばわりは止めてください」
「え、じゃあ村人A?」
「私の名前はレイヴェル・フェニックスですわ」
「僕は鈴木太郎でーす。名字がライザーと一緒だね! もしかして結婚してるの?」
「そんなわけないでしょう! ライザー・フェニックスは私のお兄様ですわ!」
「お兄様……もしかしてブラコン?」
「違いますわ!」
レイヴェルは頬を赤らめ、わずかにムキになった。
「でも、お兄様曰く『妹をハーレムに入れることが世間的に意義がある。ほら、近親相姦っての? 憧れたり、羨ましがる者も多いじゃん? まぁ、俺は妹萌えじゃないから形としての眷属悪魔ってことで』だそうですわ」
「なんか……下か上どっちで呼ばれたい?」
「苗字でいいですわ」
「なんかレイヴェルお疲れ様です」
「本当疲れますわ」
ブウン!
突然、運動場の向こうで激しい音。
木場が剣を持った女――カーラマインと激しく斬り合っていた。
「はぁああああ!!」
カーラマインの剣が炎をまとい、地面に燃え広がる。
「熱っ!」
思わず反射的にレイヴェルの前に立ち、彼女を庇った。
熱風が僕の背中をかすめ、赤い炎が視界の端で揺れる。
「大丈夫? 火傷してない?」
「え……?」
レイヴェルはその場で固まった。
金色の瞳は大きく見開かれ、僕をじっと見つめている。
「大丈夫です……私はフェニックス家の者ですから……火傷など……」
言葉はそう言うものの、その声はかすかに震えていた。
「そっか、ならよかった」
僕は肩をすくめ、安心して笑う。
(危なかったなぁ。こいつ、こっちに飛んできたらマジで炭になるだろ)
僕にとってはそれだけのことだ。
けど――
「……それより……敵である私を……心配するんですか?」
その声はかすかに戸惑いを含んでいた。
「いや〜、(ギャルゲーに出てきた)小さい頃の姉さんに似てたからかな」
「お姉さんが……いらっしゃるんですの?」
「まぁね。今は遠くに行っちゃったけど」
(まさかの複数のゴブリンに凌辱されての孕ませエンドだったけど……)
僕の言葉に、レイヴェルの表情が曇った。
その瞳がわずかに揺れる。
「ご、ごめんなさい! 辛いことを聞いてしまって……」
「いやいや、別に謝らなくていいって。君が無事でよかったし」
僕は軽く手を振って笑う。
その笑顔に、レイヴェルの頬がほんのり赤く染まった。
「……優しいんですのね……」
そのつぶやきはかすかで、聞き逃しそうなほど小さかった。
「え? なんか言った?」
「い、いえ! なんでもありませんわ!」
レイヴェルは顔をそらし、必死に冷静を装う。
けど、その耳はしっかり赤くなっている。
(なんか、いい感じになってる?)
僕は内心で軽く笑う。
だけど――この状況は忘れちゃいけない。
「でも……だからと言って手加減はしませんわ! イザベラ!」
レイヴェルの声が鋭く響く。
仮面をつけた女性――イザベラが一歩前に出た。
その目は冷酷で、手には鋭いナックルが握られている。
「あー、そうだよね。敵同士だもんね」
僕は肩をすくめつつも、心の中でニヤリとする。
(うんうん、この感じ……“ツンデレお嬢様”属性、確定っと)
レイヴェルは必死に表情を取り繕っているけど、その揺れる瞳は正直だ。
(なんか、面白い展開になってきたかも?)
「イザベラ! この男を――」
「え、僕と戦うの?」
「当然ですわ!」
レイヴェルは勢いよく叫ぶが、その頬は赤いまま。
僕はそうつぶやきながら、イザベラと対峙した。
先に動いたのはイザベラだった。
空気が揺れた――そう感じた次の瞬間、彼女は目の前にいた。
「――ッ!」
嵐のようなラッシュ。
鋭い拳が視界を埋め尽くし、正面から、左右から、さらには回し蹴りまで混ざる。
「ふぅん、結構速いじゃん」
だが、僕は余裕でそれらを捌いていた。
迫りくる拳を片手で軽く受け流し、足払いを跳び越え、逆に彼女の後ろ髪を掴んで引き倒す。
「なっ――!」
イザベラは驚きつつも空中で体をひねり、着地と同時にまた距離を詰めてくる。
「オラオラオラオラオラァァァ!!」
拳、肘打ち、膝蹴り。
その全てが猛スピードで僕を襲うが――
「はい、左」
彼女の拳を軽く右に受け流し――
「右」
その肘打ちを掌で押し返し――
「上段」
振り下ろされる蹴りは逆手で受け止め――
「足元、ガラ空き」
スッと後退し、イザベラの体勢が崩れた瞬間、彼女の背中を軽く押した。
「――きゃっ!?」
空中でぐるりと一回転し、無様に着地した彼女は悔しそうに歯を食いしばる。
「……馬鹿にしてるのか……?」
「ん? いや、ただの準備運動だけど?」
「準備……運動……?」
イザベラの瞳が鋭く細まり、彼女の拳が魔力を帯び始めた。
「ふざけるな!!」
一瞬で消え――
次の瞬間には僕の背後に回り込んでいた。
(はは、消える系ね)
だがその動きは――遅い。
彼女の拳が背中を打ち抜こうとする瞬間、僕は半歩横にずれる。
「――なっ!?」
「おしい!」
軽く肩越しに微笑む。
「この――ッ!!」
更に追撃。
赤い魔力の拳が右から左から連続で僕を襲う。
「んー、ちょっと遅いかな」
僕は片手をポケットに突っ込んだまま、首を軽く左右に傾けてかわしていく。
「っく……!」
「まぁ、温まってきたかな。いや〜、最近実戦とかしてなかったから鈍ってたんだよね〜」
「……なに?」
イザベラは眉をひそめた。
「するとお前は今まで……ウォーミングアップをしてたのか?」
「まぁね。でも今からちゃんと戦うよ」
僕は軽く肩を回し、首をコキコキと鳴らす。
「ただ……本気出すと勝負にならなさそうだから……そうだね。10%の本気で行こうか」
「な……なめるなッ!!」
イザベラは怒りを込め、全身に魔力を纏った。
地面がひび割れ、炎が彼女の拳から燃え上がる。
だが――
「うん、じゃあテストね」
僕はその場から消えた。
「――え?」
次の瞬間――
イザベラの腹部に僕の膝がめり込んでいた。
「――ガッ……!?」
衝撃で彼女の目が見開かれる。
時間が止まったかのように、彼女の表情が苦痛に歪み――
次の瞬間――
「ぬぁぁぁぁぁぁぁ!!」
イザベラの体は弾丸のように吹き飛び、空中を舞う。
赤黒い魔力の残光を引きながら、彼女は真っ直ぐレイヴェルの方向へ飛んでいく。
「きゃあああああ!? イザベラ!?」
レイヴェルは慌てて飛び退き、直撃を避けた。
イザベラは地面を転がり、激しく砂埃を巻き上げたあと――ようやく止まった。
「……ごほっ……う……」
魔力は霧散し、イザベラは震える手で地面を掴みながら必死に立ち上がろうとしている。
「まぁ、そんなに焦るなよ」
僕は両目を細め、ゆっくりと笑みを浮かべた。
次の瞬間――
「――万華鏡写輪眼」
瞳が赤く染まり、黒い複雑な模様がくるくると浮かび上がる。
その異様な光景に――
「な、何ですの……!?」
少し離れていたレイヴェルが息を呑んだ。
その表情は、明らかに困惑と恐怖に満ちている。
「イザベラ、相手の目が……変わりましたわ! これは……ただの人間ではありませんね……! まさか……神器持ち!?」
「神器? ああ、そっちに見えるんだ」
僕は軽く笑った。
「そんなに僕って人間に見えるのかな?」
その言葉に、レイヴェルの顔が青ざめた。
「……ま、まさか、あなた……本当に人間じゃ……?」
「おーい、レイヴェル! そんな顔しないでよ」
僕は肩をすくめ、手を広げた。
「僕はただの鈴木太郎。エロゲーマーだよ? ね?」
「……っ!」
レイヴェルは思わず一歩後退し、目を見開いている。
(うんうん、その反応はいいね)
「イザベラ、気をつけなさい! その男、何か隠していますわ!」
「ふん……! それがどうした!」
僕は軽く笑いながら、右手を前にかざす。
「……行くよ」
空間が波打ち、黒い渦が現れる。
そこから――一本の赤黒い剣がゆっくりと姿を現した。
刀身は黒光りし、赤い稲妻のような魔力が表面を這い回る。
その剣はまるで、生きているかのように脈動し、重々しい威圧感を放っていた。
「こ、これは……?」
イザベラの顔に驚愕が走る。
その鋭い瞳が震え、口元がわずかに引きつる。
「この波動は……ま、魔剣!? しかも……ただの魔剣じゃない……!」
「んー、まぁそんな感じ?」
僕は魔剣を軽く振り、まるでおもちゃを手にしたかのようにくるくると回し始めた。
「名前……なんだっけ? フル……ちん? いや、違うな。フルンチン……?」
「フルンディングですわ!!」
遠くからレイヴェルが思わず叫んだ。
「そうそう! それそれ!」
「そうそうじゃありませんわ! それは伝説の魔剣、フルンディング! 数多の戦場を血で染めた剣で、ただ触れるだけで常人ならばその魔力に焼き尽くされる……!」
レイヴェルの声には、はっきりとした恐怖がにじんでいた。
「へぇ……そんなにヤバい剣だったんだ?」
僕はフルンディングを軽く振りながら、赤黒い魔力が剣の表面を蠢くのを眺める。
(これ……もし売ったらプレミアつくかな?)
赤黒い光にチラつく数字の幻影――ネットオークションでの高額入札が脳裏をよぎる。
「お前……何者なんだ……」
イザベラは明らかに動揺している。
「いやー、ただの“エロゲーマー”だけど?」
僕はにやりと笑い、軽くフルンディングを肩に担ぐ。
「で、続きはどうする? 逃げるなら今のうちだけど」
「ふざけるなぁぁぁぁ!!」
イザベラは叫び、猛然と突っ込んできた。
拳に赤黒い魔力をまとわせ、地面を蹴り砕きながら一直線に接近する。
「はぁぁぁぁっ!!」
(はい、見えてます)
僕は万華鏡写輪眼で彼女の動きをスローモーションのように捉え、フルンディングを軽く構えた。
イザベラの拳が僕の顔面を狙う。だが――
「スッ……」
僕は横へ一歩ステップ。
「なっ――!?」
彼女の拳は虚しく空を切り、僕はすかさず剣を彼女の腹に軽く叩きつけた。
「ぐぁっ……!」
イザベラの体がくの字に折れ曲がり、苦しそうに後退する。
だが僕はさらに詰め寄り、彼女の足をすくって軽く蹴り飛ばした。
「きゃあっ!?」
イザベラは転倒し、地面を転がる。
「うーん、10%だとこんなもんかぁ。ちょっと加減しすぎ?」
僕は軽く首を回しながら、のんびりと彼女に歩み寄る。
「くっ……!」
だが、イザベラはすぐに体勢を立て直し、歯を食いしばって立ち上がった。
その目はまだ戦意を失っていない。
「この……なめやがって……!」
「え? なめてないよ? だって……これで10%の本気だし?」
僕は肩をすくめ、ニヤリと笑った。
「このぉぉぉぉぉ!!」
イザベラは咆哮し、魔力を最大限に解放する。
赤黒いオーラが彼女の体を包み、地面がひび割れる。
その瞬間――
イザベラは消えた。
(消えた? いや、上だ!)
空気が揺れる――彼女は上空から急降下し、僕の背後を狙ってきた。
(背中狙いね……でも、見えてる)
「はぁぁぁっ!」
彼女の拳が僕の背中を捉えた――かに見えた。
だけど――
「……無駄だよ」
僕は神威を発動。
彼女の拳は僕をすり抜け、虚空を貫く。
「なっ……!? すり抜け……?」
イザベラはそのまま地面に拳を叩きつけ、轟音とともに粉塵が舞い上がる。
粉塵が巻き上がり、視界は白く曇った。
だが――僕の目はそれでも全てを捉えていた。
(見えてるよ)
写輪眼は彼女の輪郭を赤く浮かび上がらせ、動きも遅く感じられる。
地面を殴りつけた反動で、イザベラはその場から跳び退き、粉塵の中を慎重に移動している。
(必死だね……でも)
僕は静かに一歩踏み出し、煙の中をすり抜ける。
「……Good bye」
囁き声が、彼女の耳元に届いた。
「――え?」
振り向く、その一瞬――
「そこ」
フルンディングが彼女の背中に深々と突き刺さった。
「ぐあぁぁぁぁっ……!!!」
イザベラは絶叫し、血が溢れ出す。
「……ライザー様……」
その声はか細く、手は虚空を掴もうとしている。
「ライザー様ねぇ……うん、後で彼にも会いに行くよ」
僕は剣を軽くひねり、傷をさらに抉った。
「ぐっ……うぁぁ……!」
イザベラの体はそのまま力なく地面に崩れ落ちる。
彼女は拳で地面を叩きつけた。
「……私は……負けない……!」
だがその拳に力はなく――
そして――
『ライザー・フェニックス様のルーク、リタイアです』
グレイフィアさんの冷静な放送が響き、その光に包まれながらイザベラは消え去った。
「うん、やっぱり一方的だね」
僕はフルンディングを軽く振り、返り血を払う。
ふと視線を感じて振り返ると――
そこには蒼白な顔で震えるレイヴェルの姿。
「……イザベラが……こんな簡単に……」
「ねえ、次は誰? あの熱々の鳥さんと戦うまで暇なんだけど」
僕はフルンディングを肩に担ぎ、にやりと笑った。
「次はどなたぁ〜?」
太郎は腕を広げ、まるで舞台に立つ俳優のようにゆったりと一礼した。
その余裕に、レイヴェルは眉をひそめる。
「貴方……本当にデタラメな能力ですわね! シーリス、美南風、ニィ、リィ!」
「「了解にゃ!」」
「はっ!」
『ポーン』が二人、『ビショップ』が一人、『ナイト』が一人。
四人が太郎を取り囲み、鋭い視線で睨みつける。
だが――
太郎は不敵に笑みを浮かべた。
まるで子どものお遊戯を眺めるかのように。
「あーあ、フルメンバーかぁ……まぁ、いいんですけどねぇ?」
「……何が言いたいの?」
「実はね……」
太郎はわざとゆっくりと顎に手を当て、得意げに話し始める。
「僕ってこれでも“変身”をあと三回も残してるんですよ」
「その意味……分かりますか?」
その仕草、その声色。まるで誰かを意識したような演技調。
「な、何を言ってるの……? 人間が“変身”?」
レイヴェルが困惑し、周囲の仲間たちも戸惑いの表情を浮かべた。
「まさか、全身の体毛が急激に伸びるとか?」
「ちげーよ! 第一それ変身っていうかゴリラじゃん! 猿人じゃん!」
「リィ、あいつなんかキモいにゃ……」
「きっと触れられると妊娠しまするにゃ!」
「私に近づかないでください!」
怯えた様子で猫耳姉妹が後退し、シーリスは大剣を構え直す。
だが太郎は気にも留めず、余裕たっぷりに肩をすくめた。
「まぁまぁ、落ち着いて。君たちにはこれから――素敵なショーを見せてあげるよ」
太郎、覚醒
次の瞬間――太郎の右手に握られたフルンディングが淡く赤黒く輝き始めた。
彼はそれを逆手に持ち、自分の腹に――
「じゃーん! 魔剣がでっかくなっちゃったー!」
ドスン――!!
自らの腹部に剣を突き立て、力強く引き抜く。
その瞬間、剣は二倍にまで膨れ上がり、黒いオーラが渦巻き始めた。
「き、気持ち悪いですわ……!」
「ねぇ、別にフェニックスだけが“不死身”ってわけじゃないんだよ?」
そう言った瞬間――
太郎の腹から黒い蛇がうごめき、傷口を這いながら塞いでいく。
「なっ……!」
「おいおい、そんな顔しないでよ。まだ序章だよ?」
一斉攻撃
「一斉攻撃を仕掛けますわ! シーリス、ニィ、リィ!」
「「にゃぁぁぁああ!」」
「ハァッ!」
双子の猫耳が左右から跳びかかり、シーリスが頭上から大剣を振り下ろす。
だが――
「おっそい!」
太郎は片手でフルンディングを振り払い、その一撃だけで猫耳姉妹を吹き飛ばした。
「「にゃあああああ!!」」
双子は砂塵を巻き上げながら宙を舞い、地面に叩きつけられたかと思うと――光の粒子となって消えた。
『ライザー・フェニックス様のポーン二名、リタイヤです』
「ニィ、リィ!」
レイヴェルが叫んだが、太郎は冷笑を浮かべた。
「はぁ……雑魚は雑魚らしく引っ込んでろよ?」
だがその時――
「ライトニングストーム!」
美南風が杖を掲げ、無数の雷が太郎を直撃した。
「ふぅん、魔法ね?」
雷の中に立つ太郎の姿。
しかしその顔には笑みが浮かんだままだ。
「な、なんで平気なの……!?」
「はぁ……こんなの、ただのマッサージですよ?」
煙が晴れると、無傷の太郎が姿を現す。
その余裕に、美南風は震えた。
「じゃ、次は――君だよ?」
太郎が指を弾いた瞬間、地面が砕け、赤い閃光が美南風へと駆け抜けた。
「えっ――」
次の瞬間――彼女は砕け散り、光の粒子となって消えた。
『ライザー・フェニックス様のビショップ一名、リタイヤです』
「にゃぁぁぁぁあああ!!!」
「死ねにゃ!」
双子の猫耳少女――ニィとリィが、互いにクロスするように跳びかかる。
鋭い爪が、太郎の首と腹部を狙い、風を切る音が響いた。
だが――
「……遅いよ」
太郎の声は冷静で、まるで時間がスローモーションになったかのようにゆっくりと響いた。
彼はわずかに体をひねり、二人の攻撃を難なくかわす。
その瞬間――
「ハッ!」
太郎の拳がニィの鳩尾に深々と突き刺さった。
「にゃっ……!」
その小さな体がくの字に折れ、息もできず宙に舞う。
「……かっ……!」
続けてリィの首元を掴み、そのまま地面に叩きつけた。
ドガァンッ!!
「「にゃあああああ!!」」
二人は同時に光の粒子へと変わり、消滅した。
『ライザー・フェニックス様のポーン二名、リタイヤです』
「はぁ……これで静かになったね」
太郎は退屈そうにため息をつく。
「な、あなた……まさか神器持ちの人間ですの!?」
レイヴェルの驚愕の声が響く。
「いやいや、そんなものじゃないよ?」
太郎は肩をすくめ、フルンディングをくるくると回した。
だが――その瞬間。
「ハァッ!!」
ナイト――シーリスが、一瞬で太郎との距離を詰め、大剣を振り下ろした。
その斬撃は大気を切り裂き、地面を抉り、衝撃波が周囲に広がる。
「……おぉ、なかなか速いね?」
太郎はフルンディングで受け止め、その衝撃で足元の地面がひび割れる。
「でもさ……」
太郎はニヤリと笑い、軽く剣を押し返す。
「……君、本当に“速い”と思ってる?」
「クソッ!」
シーリスは再び踏み込み、連続して斬撃を繰り出す。
横薙ぎ、縦斬り、突き――その全てが鋭く、重い。
だが――
「ふぅ……君、単調だね」
太郎は片手で軽々と受け流し、まるでダンスを踊るかのように悠々と躱していく。
「これでも……フルパワーじゃないんだよね」
「黙れぇぇぇぇ!!!」
シーリスが怒りに燃え、魔力を剣に集中させる。
その刃が淡い光を纏い、太郎の顔面目掛けて突き出された。
だが――
「バイバイ」
太郎は微笑んだまま姿を消す。
「な……!?」
シーリスの目が見開かれる。
彼の姿は――消えた。
――否。上だ。
「はぁぁぁぁぁああ!!!」
太郎は宙からシーリスの背後に飛び降り、その背中にフルンディングを突き立てた。
「ぐ……あぁぁっ……!」
そのまま地面へと叩きつけ、光の粒子と化して消え去る。
『ライザー・フェニックス様のナイト一名、リタイヤです』
「はぁ……これで三人目。次は――」
だが――
「ライトニングストーム!!」
空間が一瞬、白く染まった。
雷鳴が轟き、無数の稲妻が太郎を中心に降り注ぐ。
「これでどうかしら……!」
美南風が杖を掲げ、その魔力は空間を震わせる。
「はぁ……雷かぁ」
太郎は雷に包まれながら、退屈そうにため息をついた。
「な……何で……?」
「うーん……これはどう表現しようか……」
雷が彼の体を焼き尽くす――はずだった。
だが太郎の体には、一つの焦げ跡すら残らない。
「ふふ、そうだな……ちょっと熱めのシャワー? いや、ぬるいか」
「……そんな……馬鹿な……」
美南風は震え、後退しようとするが――
「おっと……逃がさないよ?」
太郎の姿が掻き消え――
「ここだよ」
その声は――彼女の耳元で囁かれた。
「えっ――」
瞬間――フルンディングが彼女の胸を貫いた。
「きゃああぁぁぁぁ……!!」
光の粒子となって消え去る美南風。
『ライザー・フェニックス様のビショップ一名、リタイヤです』
「はぁ……そろそろ飽きてきたなぁ」
太郎は大きく伸びをしながら、目を空に向ける。
その視線の先には――レイヴェルと、ユーベルーナ。
二人は空中から太郎を見下ろし、その表情には明確な焦りが浮かんでいた。
「あなた……本当に“人間”なのですの?」
太郎は口元をニヤリと歪め、くるりとその場で優雅に一回転した。
「まぁ、せっかくこんなにたくさんの“お客様”がいるんだし――」
その瞬間、彼の足元から黒紫の魔力がじわりと広がり始める。まるで闇が染み出すように地面を覆い、太郎の周囲に不気味なオーラを漂わせる。
「皆さんには……僕の“とっておき”をお見せしましょうか!」
彼は両手を広げ、まるで舞台に立つスターのように観客に語りかける。
「お嬢様……あの男、何を――?」
「わかりません……でも、ただの虚勢ではなさそうです……」
レイヴェルが後退し、ユーベルーナは警戒を強めた。
だが――太郎は止まらない。
「実はねぇ……この“姿”も僕にとっては――ただの“初期形態”なんですよ!」
彼の足元から黒紫の魔力が濃厚に渦巻き始め、まるで空間そのものが歪んでいくようだ。
「……何ですの? この異様な魔力……!」
レイヴェルが息を呑む。
「そう……僕はまだ“変身”を残している!」
太郎は片手を高々と掲げ、その掌から黒い霧が立ち上る。
「――“暗黒の幕を開ける時”……」
彼の口から詠唱のような言葉が紡がれるたび、魔力がその場に満ち、空気がピリピリと震え始める。
「はぁ……はぁ……!」
レイヴェルの顔に汗が浮かび、ユーベルーナは即座に防御魔法を発動。
「あなた……! ただの人間じゃ……!」
「はぁ? 人間? まさか……そんな退屈なものと一緒にしないでくださいよぉ」
太郎の両手から黒い火花が散り、地面には無数の漆黒の紋様が浮かび上がる。
「さぁ、さぁ、さぁ……! ここからが本番だ!」
次の瞬間――
――ズンッ……!
空気が弾け、黒い霧がその場を覆い尽くす。
太郎はその中央で両手を広げ、まるで舞台役者のようにゆっくりと仰ぎ見る。
「……この力……この圧倒的な闇……!」
その声は歓喜に満ち、周囲に雷光が走る。
「まだまだ! もっと! もっと派手に!!」
太郎はわざとらしく演技がかった口調で叫び、その足元から黒紫の炎が噴き上がる。
「くっ……何を……!?」
レイヴェルはその魔力の奔流に必死に立ち尽くし、ユーベルーナも盾を構えたまま後退する。
「ひゃはははは! さぁ、見せてあげますよ! 僕の――“真の姿”を!!」
――バリバリバリバリバリ!!
黒紫の炎が天に向かって噴き上がり、その中心で太郎の体が変容を始める。
「んん……くくく……あぁぁぁぁ……!」
太郎の背中が膨れ上がり、黒い霧が収束していく。
「これが……僕の“第二形態”だよ……!」
――バサァァァァッ!!
漆黒の翼が彼の背中から飛び出した。
一本、二本――最終的に4 本の黒い翼が左右に広がり、無数の黒い羽が宙に舞う。
その翼はただの飾りではない。空間を歪ませ、漂う羽は触れるものを焼き尽くし、影のように這う。
「ひゃははは……はぁ……はぁ……」
だが太郎は呼吸を荒くし、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
(……やりすぎた……魔力消費、エグい……! でもまぁ……“演出”は大事だしね!)
「どうです? ご覧になりましたかぁ? 僕の“本当の姿”を!」
「……なんて……なんて化け物……!」
レイヴェルは恐怖に震え、ユーベルーナもその表情を引き締める。
「ふぅ……ふぅ……さて、楽しい楽しい――“ショータイム”の始まりですよぉ……?」
太郎はゆっくりと空へと舞い上がり、優雅に彼女たちを見下ろした。
「お楽しみは……これからです!」
太郎はそのまま両手を広げ、観客に語りかけるように――優雅に笑った。