DD世界だと思ったらリリなの世界でした。いや両方の世界が混ざり合った世界でした!! 作:バター犬
「次はどなたぁ〜?」
太郎は両腕を広げ、まるで舞台に立つ俳優のように大げさに一礼した。
その余裕に、レイヴェルは思わず眉をひそめる。
「貴方……本当にデタラメな能力ですわね! シーリス、美南風、シュリヤー、マリオン、ビュレント、ニィ、リィ!」
「「了解にゃ!」」
「はい!」
「任せてください!」
六人の眷属が太郎を囲む。獣耳の双子、杖を構える魔女、巨大な盾を持つ戦士、大剣を携えたナイト、そして弓を構えたアーチャー。
戦場を一瞬で制圧できる布陣だ。
だが――
太郎は肩をすくめ、笑みを浮かべた。
その口元には、どこか冷たく、それでいて楽しげな狂気が滲んでいる。
「あーあ、フルメンバーかぁ……まぁ、いいんですけどねぇ? これで皆さん、少しは賑やかになりますし……」
その太郎のフリーザじみた言葉に、レイヴェルは眉をひそめた。
「……何が言いたいの?」
「あら、わかりませんか?」
太郎はわざとらしく、顎に手を当て、ゆっくりと周囲を見渡した。
「実はね……僕、これでも“変身”をあと三回も残してるんですよぉ」
その声色は妙に甘く、そして底知れぬ不気味さを帯びていた。
「変身……? それがどうしたと言うの?」
「ふふふ……」
太郎はくすくすと笑い始め、指を一本立てた。
「その意味……分かりますかぁ?」
「な、何を言っているの……? 人間が“変身”?」
レイヴェルが困惑し、六人の仲間たちも動揺の表情を浮かべた。
「まさか、全身の体毛が急激に伸びるとか?」
「ちげーよ! 第一それ変身っていうかゴリラじゃん! 猿人じゃん!」
「リィ、あいつなんかキモいにゃ……」
「きっと触れられると妊娠しまするにゃ!」
「だからちげーよ! それ変身じゃねーし。おっと……変身じゃありませんよ!」
太郎は冷たい笑みを浮かべ、右手のフルンディングを軽く逆手に持ち替えた。
「さあ、ショータイムの時間と行こうか――」
そして――腹に向かってその剣を突き立てた。
ドスンッ!!
「えっ!?」
太郎は迷いなく、自分の腹部に剣を突き立てた。
黒い刃が肉を裂き、赤黒い血が噴き出す――かと思いきや。
――ズズズ……
その傷口からは無数の黒い蛇が這い出し、うねりながら傷を這い回り、瞬く間に傷口を塞いでいく。
「な、なに……!?」
レイヴェルが驚愕に目を見開く。
「おやおや、どうなさいました? そんなに驚かれることじゃありませんよ」
太郎はわざとらしくため息をつき、剣をゆっくりと引き抜く。
すると、その刃は赤黒いオーラを纏い、二倍にまで膨れ上がった。
「だって――“不死身”はフェニックスだけの専売特許じゃありませんからね」
黒い蛇たちはそのまま彼の体を這い回り、太郎の体を修復していく。
太郎は片手を軽く上げ、指先を優雅に折り曲げながら腰を少しひねった。
まるで“見下す者”の典型――参考にしたのは、威圧と余裕を合わせ持つどこかの宇宙の帝王フリーザのような仕草だった。
その余裕に、レイヴェルは眉をひそめ、仲間たちも緊張を走らせた。
「貴方……本当にデタラメな能力ですわね! シーリス、美南風、シュリヤー、マリオン、ビュレント、ニィ、リィ!」
「「了解にゃ!」」
「行くぞ!」
――七人の戦士が太郎を囲み、その視線は鋭く、敵意をむき出しにしている。
だが――
「ふぅ……いえいえ、皆さんで囲むだなんて。僕一人を恐れすぎではありませんか?」
太郎は口元に手を当て、くすくすと笑い出した。
その笑みは、明らかに挑発的で、どこか演技がかった冷たさが漂っている。
「ですが、安心してください。すぐに“楽”にして差し上げますよ?」
その仕草、その声色――どこかフリーザがかった冷酷さ。
「いきますわ!」
レイヴェルの号令とともに、七人が一斉に太郎へと襲いかかった。
「にゃあぁぁぁあああ!!」
双子の猫耳――ニィとリィが左右から跳びかかり、鋭い爪を構える。
シーリスは大剣を振り下ろし、殺意を込めた一撃を叩き込む。
シュリヤーは距離を取り、魔力を込めた矢を次々に放ち、
美南風は雷の魔法陣を展開し、空中から無数の雷撃を降らせる。
マリオンとビュレントは盾を構え、陣形を組んで太郎の逃げ場を塞ぐ。
――完全なる包囲。
「ふふふ……あぁ、皆さん、本当にかわいらしい」
だが、太郎はただ片手を軽く掲げた。
「――さて、退場願いますよ」
――ズバンッ!!
黒い閃光が一瞬走り、ニィとリィはその場で砂塵を巻き上げて吹き飛ばされた。
「にゃあああああ!!」
双子は空中で光の粒子となり、儚く消えた。
『ライザー・フェニックス様のポーン二名、リタイヤです』
「な……何をしたの……!?」
レイヴェルが目を見開き、仲間たちも一瞬怯んだ。
「おや? 見えませんでしたか?」
太郎はわざとらしく首を傾け、片手を腰に添え、もう一方の手をゆっくりと開いた。
……そう、あのポーズだ。
誰もが一度は目にしたことのある、かの“宇宙の帝王”よろしく、格下を見下すフリーザムーブである。
「ふふ……どうしました? そんなに震えて……まさか、怖いんですか?」
「少し手加減したつもりでしたが……まぁ、仕方ありませんね。皆さんが望むなら――もう少し“本気”を出しましょうか?」
「お黙りなさい!!」
シーリスが怒りに燃え、声を張り上げた。
その瞳には憤怒が宿り、筋肉が張り詰め、大剣が唸りを上げた。
「――ハァッ!!」
大剣が閃光の如き速さで振り下ろされる。
空を裂く轟音、地面が砕け、土煙が舞い上がる。
衝撃波が周囲を薙ぎ払い、風圧が草木を揺らす。
「うふふ……怖い怖い」
だが――その刹那。
「な……どこに?」
シーリスの視界から太郎が消えていた。
彼女の目は慌てて左右を走り、背後を確認する。
「ここですよぉ」
冷たく、嘲笑を含んだ声が耳元で囁かれた。
「――!?」
シーリスが反射的に振り向いたその瞬間――
――ズバァンッ!!
フルンディングが彼女の背中を貫いた。
赤黒い輝きが肉を引き裂き、内側から迸るように光が溢れ出す。
「が……はぁ……」
シーリスの瞳は驚愕と苦痛で揺れ、足元が崩れるように力を失う。
そのまま光の粒子となり、儚く霧散していった。
『ライザー・フェニックス様のナイト一名、リタイヤです』
太郎は片手で剣を払うと、血の一滴すら残さず輝きを散らす。
その顔には冷笑が浮かび、口元は嫌味たっぷりに歪んでいた。
「ふふふ……三人目ですか? これは困りましたね。思ったよりも……脆い」
残る仲間たちも、動揺を隠せず、視線は太郎へと釘付けになっていた。
「おやおや? どうされました? もう終わりですかぁ? それとも……」
太郎はわざとらしく顎に手を当て、考えるような仕草を見せた。
「……この程度で、もう怖くなっちゃったんですかぁ?」
その冷笑は氷のように冷たく、無慈悲。
「ふざけるな!!」
美南風が叫び、魔力を込めた杖を掲げた。
「ライトニングストーム!!」
空が一瞬にして白く染まり、轟音と共に無数の雷が太郎を襲った。
――ズガァァァァァンッ!!
稲妻が地面を焼き、爆風が巻き起こる。
「どうだ……これで……!」
だが、雷光が収まったその中に――
「ふふふ……ちょっとしたマッサージですねぇ」
太郎は無傷のまま立っていた。
「そ、そんな……!?」
美南風の顔は絶望に染まった。
「ふぅ……では――お眠りください」
太郎は片手を軽く振り――
――ズバンッ!!
美南風の胸が赤黒く染まり、光の粒子となって散った。
『ライザー・フェニックス様のビショップ一名、リタイヤです』
「残りは三人……ふふ、さぁ、お遊戯を続けましょうか?」
太郎は優雅に一礼し、ゆっくりと歩み寄る。
「シュリヤー、ビュレント、マリオン! 全力で仕掛けなさい!!」
レイヴェルが叫び、残った三人は魔力を極限まで高めた。
「覚悟しろ!」
「くたばれぇぇぇぇ!!」
「はぁ……騒がしいですねぇ」
太郎は軽く指を鳴らす。
――ズンッ!!
周囲の空間が歪み、赤黒い魔力が噴き出した。
「さて……残り2人ですね。楽しんでくださいね?」
その笑みは冷酷で、目は全てを見下ろすように輝いていた。
太郎は大きく伸びをしながら、空を見上げた。
その視線の先には――レイヴェルとユーベルーナ。
二人は空中から太郎を見下ろしていたが、その表情には明確な焦りが滲んでいた。
「あなた……本当に“人間”なのですの?」
レイヴェルは小首をかしげる。
その表情に浮かぶのは――怯えではなく、むしろ純粋な興味だった。
太郎という存在に対する好奇心。
未知の生物を見るような、観察する子供のような目線で。
それに対し、太郎はふっとため息をついた。
「ふぅん……“人間”? そんな凡庸なカテゴライズ、僕にはちょっと退屈すぎますね」
そして――
「それと、そろそろこのフリーザムーブ……正直、疲れてきました」
肩をすくめ、手を開き、ゆるりと首を回す。
絶妙にキマりきらないその動作は、まるで自分でも分かっているかのように“わざと”を強調しているようで、逆に少し哀愁すら漂わせていた。
「じゃあ、君たちに特別に――本当の僕をお見せしましょうか」
その瞬間、太郎の足元から黒紫の霧がじわりと噴き出し始めた。
魔力が地面を這い、太郎の周囲に不気味な波紋を広げる。
「きゃ……!」
レイヴェルは思わず一歩後退し、ユーベルーナも杖を構えた。
「警戒しなくても大丈夫ですよ……今はね」
そう言うと――太郎はわざとらしく片手を掲げた。
動作がいちいち芝居がかっているのは、もはや仕様である。
「ふっ……では、少しだけ“派手”にいきましょうか」
どこかで聞いたことのあるようなセリフを口にしながら、太郎の足元から黒紫の魔力がゆらりと立ち昇った。
それだけで終わればまだ様になったのだが――
――バリバリッ!!
必要以上に派手な火花が四方に飛び散る。
太郎が地面に向けてわざと魔力を過剰に放出し、“派手な演出”を作り上げていたのだ。
「……これ、まさか……!」
レイヴェルが思わず目を細める。が、それは恐怖ではなく――
(え、なにこの人……)という純粋な困惑である。
「ふふ……見ててくださいよ……!」
太郎は両手をゆっくり広げ、背中を反らせた。
自分で効果音でもつけたいのか、声を張り上げる。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」
――ズンッ!
足元の地面が派手に揺れた。正確には、太郎の魔力が地面に波状に流され、わざと小規模な地震を引き起こしただけである。
黒紫の炎が爆ぜ、天に向かって噴き上がる。
雷光まで走り始め、もはや派手を通り越して、どこか寒々しい。
(いや、やりすぎた……絶対やりすぎた……でもここまで来たら止まれない……!)
内心で冷や汗をダラダラ流しながら、太郎は必死にポーカーフェイスを保った。
「さぁ……“変身”だぁぁぁぁぁ!!!」
最後の叫びとともに――
――バサァァァァァッ!!
背中から一気に黒い翼が展開された。
四枚の漆黒の翼が開き、周囲に黒い羽根が舞い落ちる。
それっぽい効果に見せるため、あらかじめ魔力で仕込んでいた羽根をタイミングよく炸裂させたのだった。
「……ど、どうです? ちょっとは驚きましたか……?」
肩で息をしながら額をぬぐう太郎。
“変身”の派手さと引き換えに、魔力は想定以上に消費されていた。
「……堕天使……!」
レイヴェルが呟くが、その声には恐れというより、まるで「堕天使の翼をはやすだけでおおげげさなんじゃ……?」という懐疑の色が濃く混じっていた。
一方、ユーベルーナはすでに次の行動に備え、魔力の波を察知しながら冷静に構えを取る。
その視線を一身に受けながら、太郎は演技めいたため息をついた。
「……このキャラ、ちょっと疲れるんですよね……」
まるで舞台袖に戻る俳優のように、彼は手にしていたフルンディングをひょいと宙に放り投げ、空間へとしまい込んだ。
そして、背筋を伸ばして深呼吸を一つ。演目を終えたあとのアンコールに応えるかのように、彼は静かに宣言する。
「今から素で行くわ。さらに少し……本気もだそう」
その瞬間だった。
――ドンッ!!
太郎は、静かに立っていた。
その身をわずかに前に傾け、腰を低く落とす。
まるで大地に祈るように――あるいは、獣が跳躍前の力を溜め込むように。
彼の指先が地を掴んだ、その瞬間。
――ドグン!!
地面が脈動した。太郎の四肢から赤黒い魔力が爆発的に噴き出し、空気が軋む。
地表は耐えきれずにひび割れ、熱を帯びた亀裂が網のように走る。
「な……なにを……!?」
ユーベルーナの声が震えた。
見たこともない――否、想像すらできなかった魔力の異常な流出。
彼女は咄嗟に防御結界を張るが、その障壁すらビリビリと警告音を鳴らしていた。
一方で――レイヴェルは何も言わない。
その表情には、動揺も、恐怖もない。
あるのはただ、無言の観察。
好奇心と、それを超えた何かを探ろうとする目。
しかし彼女の髪が大きく靡き、スカートの裾が風にめくれたその瞬間――
太郎の体が、変わった。
「――――ッ!!」
音を持たない“何か”が弾けた。
皮膚がズルズルと剥がれ落ち、血のような赤黒い魔力が肉体を包む。
その魔力は筋繊維のように編み込まれ、骨を形作り、再構築されていく。
――ドクン。ドクン。ドクン。
音がする。心臓の鼓動のような、だがもっと深くて重い。
まるで魔力そのものが太郎の鼓動を刻み始めたかのように。
ユーベルーナが目を見開き、
だがそれでもなお、太郎の“気”が空間ごと圧してくる。
呼吸が、苦しい。
そして――
しかし、それは序章にすぎなかった。
――ズズズズズ……!!
太郎の背後、地を這うように現れたのは――
八本の、尾。
漆黒に染まった魔力の触手のようなそれは、まるで獣の尾のように空を裂き、蠢き、風を切る。
尾が振れるたびに空気が悲鳴を上げ、砂塵が宙に巻き上がる。
そしてその中心。
太郎の体は、もはや“人間”ではなかった。
赤黒い鎧のような魔力が全身を覆い、頭部は獣じみた輪郭へと変容していた。
瞳は燃えるような紅。牙が覗き、指先は爪に変わる。
その姿はまさに、“理性を宿した魔獣”。
――尾獣化バージョン2。
「……ふぅ、ふぅ……本気の――五割ってところかな」
その声は、かすれ、低く、重く。
しかし確かに“太郎”のものだった。
だが――その目はしっかりと二人を捉えたままだ。
「ユーベルーナといったかな?」
「……何?」
ユーベルーナは構えを崩さず、太郎を見つめる。
「これは優しい僕からの助言だよ」
その声には冷たさも、残虐さもなかった。
ただ淡々とした事実を伝えるように――
「今から死ぬ気で防御してね。じゃないと死ぬから」
「っ――!」
ユーベルーナは即座に魔法陣を複数展開し、幾重にも防御壁を張り巡らせる。
「レイヴェル様、後退を……!」
「……わ、わかりました!」
レイヴェルも飛び退き、さらなる距離を取る。
だが太郎はその姿を目で追うことなく――
「さて……準備はいい?」
赤黒い魔力が彼の体から溢れ出し、地面が焦げるように蒸気を上げ始めた。
「……じゃあ、行くよ」
次の瞬間――
――ドゴォォォォン!!
空気が弾け、地面が爆ぜる。
太郎の姿は赤黒い残光を引き、獣のように四肢を駆使して地を蹴った。
その瞬間、ユーベルーナの視界が揺れ――
「――防御壁!!」
本能が叫ぶよりも早く、彼女の手は魔法陣を描いていた。
黄金の輝きが連なり、幾重もの防壁が彼女の前に展開される。
だが――
――バギィィィンッ!!
紙のように散った。
防壁の一枚一枚がまるで空気の膜のように破られ、太郎の腕――いや、赤黒く染まった爪がその奥のユーベルーナへと突き刺さる。
「――っ!」
ラリアット――否、もはやそれは爪を纏った衝撃波。
ユーベルーナの胸が砕かれるように圧迫され、肺は潰れ、気道は押し潰される。
息が――吸えない。
視界が揺れ、足元が消えた。
――いや、空を飛んでいる。
「――あっ……!」
ユーベルーナの体は弾丸のように吹き飛ばされ、宙を舞う。
だが、太郎の追撃は容赦なかった。
赤黒い残光が再び視界に現れたかと思うと――
ガシィッ!
「――ッ!?」
鋭い痛み。太郎の爪が彼女の銀髪を掴み、そのまま――
――ズガァァァァンッ!!
地面へと叩きつけられる。
激震。大地が揺れ、衝撃でクレーターが刻まれる。
しかし、それで終わりではない。
太郎は獣のように咆哮し、さらに八本の尾を振り上げる。
「……ぅ……ぁ……!」
意識が遠のく。肺は潰れ、酸素は届かない。
体が悲鳴を上げ、視界が黒く染まりかける。
だが――
――ドガァァァァンッ!!
八本の尾が、束ねられた巨大な槍のようにユーベルーナを地面へと叩きつけた。
その衝撃でクレーターはさらに広がり、粉塵が噴き上がる。
大地が割れ、亀裂が走り、無数の岩片が宙を舞った。
(……だ、駄目……! このままじゃ……!)
彼女は本能的に逃れようとするが――体が動かない。
それどころか――
――ゴゴゴゴ……!!
太郎の口元が、ゆっくりと、しかし不気味に裂けていった。まるで裂け笑う獣のように。
赤黒い唸り声が喉奥から滲み出し、周囲の空気が重たく沈む。
その口内――そこに生まれたのは、光と闇の渦。
黒と白の魔力がねじれ、絡まり、収束していく。
ごう、と地鳴りのような音が走る。
その中心に形成されるのは――ただのエネルギーの塊ではなかった。
存在そのものを否定し、押し潰す“破壊の核”。
魔力の重圧が空間を歪ませる。まるで空気が悲鳴を上げているかのように、風が裂け、音が消える。
(な……なに……!?)
ユーベルーナの瞳が見開かれる。理性が理解を拒否し、直感だけがその“何か”の本質を捉えていた。
レイヴェルは表情こそ冷静だが、その目は見逃すまいと微細な変化を捕らえ続けている。
そして――
――ズオォォォォォォンッ!!!
世界が震えた。
太郎の喉奥から放たれたのは、“尾獣玉”。
それはただのエネルギー砲ではない。
万象を呑み込み、分解し、塵へと還す、純粋なる破壊の極致。
吐き出された瞬間、黒の球体は轟音を立てて空気を割き、超高速で滑空する。
黒と白の極限まで圧縮されたエネルギーの玉が、高速でユーベルーナを目掛けて放たれた。
「――――――!」
声すら出ない。
視界は白と黒の閃光で埋め尽くされ、全ての音が飲み込まれた。
――次の瞬間。
――ドォォォォォォォォォンッ!!!
世界が弾けた。
尾獣玉が地面に直撃した瞬間、凄まじい衝撃波が荒れ狂い、風圧が嵐のようにフィールド全体を蹂躙する。
大地が震え、亀裂が蜘蛛の巣のように走り、地面が盛り上がり――瞬く間に崩れ落ちた。
校舎の窓ガラスは音もなく粉々に砕け、壁が次々と崩れ落ち、屋根は吹き飛び、空中で燃え上がりながら四散する。
裏の森――太い幹を誇る大木たちが、無数のマッチ棒のように根こそぎ薙ぎ倒される。
葉は千切れ、枝は裂け、粉々となった破片が旋風に巻き上げられて空を舞った。
そして――
――グォォォォォォォォォンッ!!!
轟音が、遅れて世界を揺るがす。
空気そのものが爆発音を引き連れ、周囲の全てを飲み込み、圧し潰す。
それは雷鳴をも凌ぐ轟音。
音が衝撃波となって地面をえぐり、瓦礫を吹き飛ばし、空気を切り裂く。
音の暴力が鼓膜を突き破らんばかりに響き渡り、世界は震えた。
――ゴゴゴゴゴ……!!
濁流のような風が四方八方に吹き荒れ、粉塵が巻き上がり、灰色の嵐となって視界を奪う。
そして、その嵐を裂いて――
――ブワァァァァッッ!!!
熱波。
灼熱の空気が一気に広がり、焼けるような熱風が襲いかかる。
木々は瞬く間に炎を上げ、残骸は赤熱し、砂はガラスのように溶けた。
そしてその中心に――
――モクモクモクッ……!!
黒く、そして赤みがかった巨大な“キノコ雲”がゆっくりと立ち上がる。
その柱は空へとそびえ立ち、隔離フィールドの天井をも貫かんばかりの威容を誇っていた。
暗黒の雲は渦を巻きながら膨張し、その内部で赤い閃光が時折走る。
フィールド全体に広がったその衝撃波は、結界にまで到達し――
――ピキィィィンッ!!
結界が悲鳴を上げ、無数のひびが走る。
天を覆う“キノコ雲”が、まるでこの世界そのものを呑み込むかのように膨れ上がり、フィールド全体を覆い尽くしていた。
その中心――
赤黒い獣のような姿をした太郎が、荒々しい息を吐きながら佇んでいた。
赤い瞳が鋭く輝き、獰猛な牙が剥き出しにされている。
四肢は猛獣のように屈強で、背中から生えた四枚の黒い翼がゆっくりと動き、空気をかき混ぜる。
八本の尾がしなやかに揺れ、赤黒いオーラがその周囲を漂っていた。
「『ライザー・フェニックス様のクイーン1名、リタイヤです』」
グレイフィアの無機質な放送が、破壊の静寂に響き渡った。
――静寂。
粉塵がゆっくりと晴れ、空気は重たく沈む。
その中心――クレーターの縁に立つ赤黒い獣のような姿をした太郎が、荒々しい息を吐きながら佇んでいた。
その全身からはなおも黒紫の魔力が渦を巻き、赤く光る瞳が鋭く輝いている。
(……終わったぁぁ……)
そう、誰もが思う中――
太郎はゆっくりとその姿を解いた。
黒紫の魔力は霧散し、赤黒い獣の姿から人間の姿へと戻る。
「ふぅ……はぁ……いやぁ……ちょっと……やりすぎたかな……?」
呼吸は荒く、灼熱の空気が喉を焼くようだった。
赤黒い獣の姿から戻り、太郎は荒れ果てた運動場――いや、更地と化した瓦礫の中で肩を回し、身体の疲労を解そうとしていた、その瞬間――
――グサッ!!
「――ッ!?」
首に鈍い痛み。次いで、灼熱感。
「……なに?」
見下ろすと、鮮血がじわりと湧き出し、首元に突き刺さったナイフの先端が、肌を焼きながら突き出していた。
ジュゥゥゥゥ……!!
肉が焼ける音と共に、焦げた匂いが漂う。
「まさか……あなたにここまでやられるとは思いもよりませんでしたわ」
声は背後から――レイヴェルだ。
何とか首を振り返ると、彼女が涼しい顔でナイフを握り、太郎の首に深々と押し込んでいた。
そのナイフの刃先には炎が宿り、傷口は焼きただれ、再生が阻害されていく。
「はぁ……戦いに参加しないんじゃなかったのか?」
「ユーベルーナがあなたに負けた瞬間、私の“手”を使う理由ができましたの」
太郎は、体を動かそうとするが――
「……動かない?」
背筋に冷や汗が滲む。
太郎は“神威”を発動しようとしたが、まるで体そのものが麻痺しているかのように反応しない。
「……そんなことしても無駄ですわよ?」
レイヴェルは微笑んだまま、太郎の体を地面に押し倒し、その上に馬乗りになる。
「私も“不死身”ですのよ。だからこそ――“不死身”の弱点も理解しておりますわ」
「ぐっ……何を……!」
「動きを封じるには――脊髄をに損傷を与えて脳からの信号を止めつつ、再生の疎外をすればよいだけですわ」
その声は涼しげで、まるで退屈な授業を説明する教師のようだった。
「それにあなたの再生能力は優れておりますけれど……再生方法さえわかれば対処のしようもありますわ」
レイヴェルは太郎の首筋に刺さったナイフをわずかに捻る。
じりじりと焼けた金属が肉を焼き、焦げた香りが漂う。
「……が、ぁ……!!」
息が詰まる。
呼吸は浅く、胸が締め付けられるように痛む。
「うふふ……♡」
レイヴェルの笑みが深まる。
彼女の頬はほんのり赤みを帯び、その瞳は甘い陶酔に濡れている。
「いいですわね、この健康的な体……しっかりしていて……切り甲斐がありますわ……!何かに目覚めそう」
彼女の手はゆっくりと太郎の胸へと滑り、その筋肉を撫で、指先で輪郭をなぞる。
そのまま――ナイフを新たに取り出し、再び太郎の肩に突き立てた。
「ぐ、や、やめろ……!!」
「無駄ですわよ。あなたは動けないし、私は……楽しんでいるのですもの♡」
その口調は甘く、優雅だ。だがその目は――狂気で満ちていた。
「うふふ……♡ 刺すたびに……うぅん……♡ こんなにも……こんなにも“楽しい”気持ちになるなんて……!」
彼女は太郎の胸筋、上腕、太もも……筋肉と腱を正確に狙い、次々とナイフを突き立てていく。
じりじりと焼けた刃が肉を焼き、煙が立ち上り、焦げた香りが充満する。
「ひぃ……熱……!!」
「耐えてくださいませ? その表情……ハァ、ハァ」
太郎は必死に歯を食いしばり、意識を保とうとする。
だが視界はぼやけ、思考も霞んでいく。
「うふふ……♡」
レイヴェルは夢中でナイフを操りながら、その表情は次第に紅潮し、息が荒くなっていく。
その瞳には――狂気と陶酔が混じり合っていた。
「あなたの体……とても魅力的ですわ……♡ こんなにも反応が素直で……強いのに、無力……♡」
ナイフを引き抜くたびに、鮮血が滴り落ちる。
再び突き立てれば、焼けた刃がじりじりと肉を焼く。
「ぐぅ……!!」
太郎の声はもう弱々しく、か細い。
呼吸は荒く、胸が痛み、頭が割れるように重い。
「……そうですわ。実は……さっき私を庇ってくださった時――初めて殿方に優しくされて……嬉しかったんですの」
――ゾクリ。
その一言は、血と痛みで霞んだ太郎の意識を引き戻す。
「はぁ……? ちょ、チョロインすぎんだろ……!」
「うふふ……♡ そんなことありませんわぁ。だって、初めての優しさなんですもの……♡」
その笑みはどこか幼く、しかしどこか歪んでいる。
「……お、おまえ……もしかしてドS!」
「うふふ……♡」
レイヴェルは再びナイフを構え、太郎の筋肉にゆっくりと突き立てる。
「もっと……もっと反応を見せてくださいませ……♡ だって……あなた……素敵ですわ♡ 胸の奥がきゅっとしますわ」
じりじりと焼かれた肉が焦げ、痛みが全身に走る。
「う、ぐ……!」
「あなたが優しかったから……こうしてもっと“近く”に触れられるんですもの……♡」
その瞳はもはや理性を失い、ただ甘い狂気に染まっていた。
「や……やめろ……!」
「無駄ですわぁ♡ あなたは動けない……私は止まらない……♡」
その声は完全に恍惚と狂気の入り混じったものに変わっていた。
だが――
「……今日はここまでにしときましょう!」
その言葉は急に冷たく響いた。
「や……やっとか……」
太郎はかすかな安堵を感じた。
だが――
「だから――♡」
レイヴェルは太郎の首元に再びナイフを構えた。
その瞳には狂おしいほどの執着と愉悦が宿っている。
「最後は――これで♡」
――グサァァッ!!
鋭い痛みが首筋を焼き尽くし、全身に熱が駆け抜けた。
痛みはもはや感覚を超え、全身に冷たさと痺れをもたらす。
太郎の視界はゆっくりと暗転し、意識が薄れていく。
だが――その耳には、レイヴェルの甘い囁きが確かに残っていた。
だが――
『リアス・グレモリーさまの投了確認。以上でレーティングゲームを終了します』
その放送が響いた瞬間、太郎の視界がかすんだ。
(……助かった……!)
だが安堵の次の瞬間――
――カクン。
体から力が抜け、視界が暗転していく。
(……あ……れ……?)
指先が動かない。足も、首も――そして視界も、次第に霞んでいく。
脳からの命令が、体に届かない。
(これ……脊髄……やられて……?)
理解した。首元、脊髄を貫くナイフ――そこから放たれる熱が、再生を阻害し、さらに脳からの信号を遮断していた。
だから、いくら意識を保とうとしても――
(……はは……なるほど……)
全身から力が抜け落ち、太郎はそのまま意識を手放した。
真っ暗な闇へと。