DD世界だと思ったらリリなの世界でした。いや両方の世界が混ざり合った世界でした!!   作:バター犬

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深い夜に、ひとつの“箱”が割れた。
中からあふれたものが血かどうか、わたしには興味がない。

 

歯車は、音を立てて砕けていた。
静かすぎる悲鳴の中で、不要となった温もりだけが散っていた。

 

残されたものは、“瞳”。
形容しがたい文様が刻まれた、それだけが動いていた。

 

そこに、ひとつの“影”が降りた。
翼を失ったあの日から、彼はずっと燃えるものを探していたのだろう。

 

そして、“形”をした現象を拾い上げた。
それはまだ柔らかく、
それでいて、触れた者を焼くほど熱い。

 

名もつけられず、
名を呼ぶ者もなく、
それはただ、間違って存在した。

 

わたしは、少しだけ微笑んだ。

 

世界はすでに傾いている。
けれどこれは、誰の罪でもない。

 

ただ、“運び手”の手が滑っただけの話。

 

 

            ――フレデリカ・ベルンカステル




堕天使アザゼル降臨する

夜空を滑るように飛ぶ、黒い影が二つ。

 

そのうちの一人――漆黒の羽を背にたたえた男は、空中で指を鳴らした。すると、半透明の魔術陣が空中に展開し、複数のエネルギー波形を読み取って数値化していく。

 

 

 

「やっぱり……間違いねぇ。ここだ」

 

 

 

彼の名は――アザゼル。

堕天使陣営“グリゴリ”の最高司令にして、現世の異能研究における第一人者。

神器コレクター、変態科学者、神滅兵器フェチ――あらゆる異名で呼ばれる男だが、その頭脳と行動力は本物だ。

 

彼は今、堕天使幹部・シェムハザと共に、日本の“海鳴市”上空にいた。

 

 

 

「アザゼル、この辺りが例の“異常魔力”が検出された座標です。数値は、最上級悪魔に匹敵。発生源の正確な特定はできていませんが、発生地点はこの市内に間違いありません」

 

 

 

「……最上級クラスが人間界に? まさか、また神器暴走か……」

 

 

 

アザゼルの目が鋭く光る。

 

それはただの“研究者”の視線ではない。

彼は戦争を知っている。何千もの死を見てきた。

そして何より、“何かが壊れる瞬間”の予兆を嗅ぎ分ける能力に長けていた。

 

 

 

「……波形が不安定だ。完全に暴走してるってわけでもなさそうだが……これは――まだ“進行中”の現象だ」

 

 

 

アザゼルの脳裏に、一つの判断がよぎる。

 

【このまま放置すれば、甚大な被害が出る可能性が高い】

 

 

 

「……シェムハザ。お前はここで待機してくれ。俺が様子を見てくる」

 

 

 

「え? ご自分で行かれるのですか? 提督。あなたがもしここで何かあったら――」

 

 

 

「わかってる。だがな……この魔力反応、“何か”が引っかかるんだよ」

 

 

 

アザゼルは、再度魔術陣を展開し、数値を睨みつける。

 

魔力の質。波動の揺らぎ。

自然界由来でも、神器由来でもない、異質な“力”。

 

 

 

(まるで……生物の本能みたいな魔力だ)

 

(理性も、制御も、存在しない……ただ“出力される”だけの魔力)

 

 

 

「これはただの神器暴走じゃねぇ。下手すりゃ――新種の“存在”そのものかもしれねぇ」

 

 

 

そう、アザゼルの第六感は告げていた。

これまでの常識では分類不能な、**“何か”**が、今この世界に生まれつつあるのだと。

 

 

 

「勘違いするなよ。これは提督だからじゃねぇ。俺の……研究者としての直感だ」

 

「何が出るかは知らねぇが――面白そうな匂いがする」

 

 

 

そう言って、アザゼルは口元に皮肉めいた笑みを浮かべた。

 

その顔は、戦場を知る将軍ではなく、未知の素材に興奮する“狂気の科学者”のものだった。

 

 

 

「……ったく、またそれだ。神器だの眼だの、全部あなたの興味のままに動かないでください」

 

「現場で何かあったら、今度こそ魔王陣営にも顔向けできませんよ?」

 

 

 

「大丈夫だ。もし俺が死んだら――お前が全部報告しとけ、な?」

 

 

 

「やれやれ……」

 

 

 

そのやりとりの中にも、互いの信頼がにじんでいた。

 

アザゼルはシェムハザに軽く手を振ると、重力操作を切り替え、急降下を開始した。

 

闇に沈む海鳴市の住宅地が、眼下に広がっていく。

 

 

 

(“人間の領域”に、最上級魔力……いや、あれは……もっと厄介な“力”だ)

 

 

 

「さて――どんな怪物に会えるか、楽しみにしてるぜ」

 

 

 

音もなく夜の空を切り裂きながら、アザゼルは“現場”へと降下していった。

 

そこが、彼と少年の運命を交差させる場所になるとも知らずに――。

 

 

 

たどり着いたその場所は――予想を遥かに超えた“地獄”だった。

 

いや、“地獄”という言葉すら生ぬるい。

そこに広がっていたのは、“無慈悲に踏み荒らされた命の残骸”だった。

 

 

 

目の前に広がるのは、一軒家だったはずの建物。

 

だが今の姿は、家と呼ぶにはあまりにも惨い。

 

 

 

壁は半ば崩れ落ち、屋根の一部は大きく破損していた。

ガラス窓はすべて砕け散り、鋭い破片が地面に突き刺さっている。

玄関の扉はねじ曲がり、まるで何か巨大なものが“中から”爆ぜたかのような痕跡があった。

 

 

 

庭には、何かが焼け焦げた跡――

爆発の痕か、炎の魔力によるものか、判断できない。

ただ、そこから立ちのぼる“鉄と血の混ざった臭気”が、五感を鋭く刺激してくる。

 

 

 

「……こりゃ、シャレにならねぇな……」

 

 

 

俺――アザゼルは、思わず呟いた。

 

 

 

(こんなもの、ただの暴走で説明がつくか……?)

 

 

 

中へと足を踏み入れると、空気が一変した。

 

冷たい。重たい。淀んでいる。

 

まるで、怨嗟と恐怖が染みついた結界の中に入ったような感覚。

 

 

 

そして、リビング――

そこは、惨劇の中心だった。

 

 

 

床一面に飛び散った血。

割れた食器、焦げたカーテン、壁に突き刺さった刃物。

そして――複数の人間の死体。

 

 

 

男女数体。年齢は不明だが、どう見ても“普通の家庭”の構成員。

しかも、致命傷の入れ方がやばい。心臓、首、腹部。

一撃で殺すことを目的としたような、迷いのない斬り方、撃ち方。

 

 

 

「……誰がやった?」

 

 

 

呟いた声が、部屋の壁に反響する。

 

 

 

(……待て。この空気……まだ生きてる?)

 

 

 

目を細める。

 

その“中心”――ソファの脇、血溜まりの中に、小さな人影が倒れていた。

 

 

 

少年だ。

年は――見た目からして、六歳前後か。

その顔には血の飛沫がつき、服は裂け、手には乾いた赤黒い跡が残っている。

 

そして何より――その身体から、“魔力”が立ち昇っていた。

 

 

 

「……お前か。魔力反応の中心は――」

 

 

 

少年の魔力は、制御されていない。

だがそれは“暴走”ではない。“獣の吐息”のように、断続的に空間を震わせていた。

 

まるで、内側に何かを抱えたまま、眠っているかのように。

 

 

 

(……これは、ただの神器暴走じゃない)

 

 

 

脳裏に浮かぶ、あの瞳――

血のように赤く染まった双眸に浮かぶ、異形の文様。

あれは明らかに、普通の人間には備わらない“何か”だった。

 

それが何なのか。魔眼か、遺伝的異能か、あるいは――

 

 

 

「……正直、俺にもわからねぇよ」

 

 

 

それでも、判断は一瞬だった。

 

このまま放置すれば、悪魔に回収されるか、天使の監視対象になるか。

それがどちらに転んでも、この子どもは“戦争の火種”にされるだけだ。

 

 

 

「――だから俺が拾う。……それが俺の、やり方だ」

 

 

 

アザゼルは、静かに少年を抱き上げた。

 

その身体は軽かった。

だが、腕の中に感じる“質量”は、どの神器よりも重い。

 

転移陣を展開する指が震えたのは、気温のせいではなかった。

 

 

 

この出会いが――

この小さな“怪物”との邂逅が――

 

世界にどんな波紋を広げるのか。

その時のアザゼルには、まだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

グリゴリ本部の地下――魔力隔離区域。

 

 

 

そこは、魔力漏れや霊的圧力による周囲への影響を最小限に抑えるために造られた、“観察室”だった。

通常は未成熟な神器所有者や、危険な因子を抱える存在の監視に使われるが――

今そこに横たわるのは、まだ年端もいかない“ただの少年”だ。

 

 

 

(いや……“ただ”の、じゃねぇな)

 

 

 

アザゼルはガラス越しに少年――太郎の寝顔を見下ろしながら、眉間に皺を寄せていた。

 

 

 

体躯、骨格、魔力密度、波動のリズム。

全てが“人間”のそれだった。

だが――問題は“眼”だ。

 

 

 

リビングの遺体のそばにいたとき、少年の目は血のように赤く染まり、黒い模様が浮かんでいた。

三つの勾玉のような模様が螺旋を描いて、中心に向かって収束していく。

 

 

 

(まるで、精神の中に“目そのもの”が存在してるみてぇだ……)

 

 

 

外的な魔力じゃない。内側から――

しかも、感情の高まりと連動して発動するような、生物的なギミック。

 

そんな構造、神器でも見たことがない。

 

 

 

(あれが自然発生した“眼”だってのか? それとも、未知の融合型神器か?)

 

 

 

いや、それだけじゃねぇ。

 

思い返せば、現場に残されていた死体は――全て、“殺意”と“ためらい”がない形で処理されていた。

躊躇のない刺突。数発で急所を正確に捉えた銃撃。

まるで、戦場の処刑人がやったような動き。

 

それをやったのが――少年?

 

 

 

(目を疑いたくなるが……どう考えても、あの空間に生き残ったのは、あの子だけだった)

 

 

 

 

 

――ピコン。

 

計測魔術陣が反応を示す。

 

アザゼルは首を傾げた。

 

「……また上がったか。魔力濃度、じわじわ上がってやがる」

 

 

 

通常なら睡眠中に魔力は落ち着いていくはず。

だがこの少年――太郎からは、眠っていても“魔力”では説明できない濁流のようなエネルギーが漏れ出していた。

 

しかもそれが、不定形で、質が読めない。

 

神器由来? 否。血筋由来? その可能性も薄い。

 

じゃあ、なんだ?

 

 

 

(……これは、“名前”がない……)

 

 

 

魔術師として、戦士として、研究者として――

この世界のありとあらゆる異能を見てきたアザゼルにとって、それは“恐怖”に近い感情だった。

 

理解できない。予測できない。分類できない。

 

にもかかわらず、力は確実に“ある”。

 

そして、それが目覚めたとき――

 

 

 

「……もしこれが暴走したら……」

 

 

 

グリゴリの魔術障壁が、数秒で崩壊する。

その後にあるのは、組織の壊滅か――あるいは世界のどこかの勢力が、目をつけてくる未来。

 

 

 

アザゼルは、わざと肩を竦め、天井を仰いだ。

 

 

 

「いやぁ〜困ったなぁ……興奮してきちまった」

 

 

 

研究者の目が、静かに光る。

 

この子が何者なのか。

その“目”はどうやって生まれたのか。

そもそも、こんな存在がどうして“人間”として生まれてきたのか。

 

全てが未知。全てが興味深い。

 

 

 

(だが――今は、あいつが“子ども”だということだけは忘れちゃいけねぇ)

 

 

 

あの夜、リビングの中央で、泣き叫びながら何かを“失った”少年の姿を見た。

 

心を引き裂かれながら、それでも立ち上がったあの小さな背中を――俺は見たんだ。

 

 

 

「……少年。お前はきっと、もう“普通”には戻れない」

 

「けどな。だからこそ、俺が見る。俺が教える。どうやってこの力と付き合っていくのかってな」

 

 

 

アザゼルはそう呟いてから、背を向けた。

 

部屋の照明が暗くなる。

 

眠る少年の心に、今はまだ届かぬ言葉を、そっと置いて。

 

 

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