DD世界だと思ったらリリなの世界でした。いや両方の世界が混ざり合った世界でした!!   作:バター犬

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天より光が与えられた。
ある者は、見えすぎると瞼を閉じた。

天より翼が与えられた。
ある者は、飛ぶことを恐れて地を這った。

天より堕ちた者がいた。
その者は、まだ“上”を見ていた。

神は問いかけた──「なぜ堕ちた?」
その者は答えた──「地上の方が、息ができた。」

天より落ちた羽は、地に溶けた。
誰も拾わなかった。汚れていたからだ。

地に咲いた光の花を、人々は踏んだ。
それが“咲いてはいけない場所”に咲いたから。

堕天は罪かと問われた。
誰も答えなかった。ただ視線を逸らした。

それでも、その子は笑った。
翼がなくても、まだ歩けると思ったから。

堕ちた少年の目には、まだ天が映っていた。
だが天の方では、もう彼を見ていなかった。

――フレデリカ・ベルンカステル



【挿絵表示】





ウァーリやばくね

あれから、いくつもの季節が過ぎた。

 

気がつけば僕は十一歳になっていた。

子供と呼ばれる年齢には変わりないけど、もうあの日の僕とは違う。

この身には“力”が宿り、この世界の裏側で生きる者としての“役目”が刻まれている。

 

 

 

そして今日、僕は――

アザゼル直属の部下として、本格的に動き出す。

 

 

 

緊張と高揚が入り混じる。

心臓が速く脈を打ち、手のひらがじんわりと汗ばむ。

 

 

 

このドアの向こうから、きっと僕の“これから”が始まる。

 

 

 

――コン、コン。

 

 

 

ノックは軽く二回だけ。

深呼吸をひとつして、そっと扉を押し開けた。

 

 

 

部屋の中にはアザゼル、そしてもう一人。

 

銀色の髪に冷ややかな気配を纏った少年が立っていた。

年は……たぶん、僕と同じくらい。けれど、違和感があった。

 

 

 

視線を合わせた瞬間、背筋がぞわりとした。

 

 

 

その目はまるで、獣が“獲物”を見るときのように冷静で――

だけど、どこか愉しそうでもあって。

 

 

 

(……こいつ、危ない)

 

 

 

直感が告げていた。

この少年、ただ者じゃない――。

 

 

「やっと来たか、太郎」

 

 

 

アザゼルがソファから顔を上げ、ニヤリと笑う。

 

その表情はいつもの軽さ全開――けれど、どこか“試すような色”が混じっていた。

 

 

 

「今日はお前に仕事をしてもらうんだが、その前に紹介しておきたい奴がいる」

 

 

 

そう言って、視線を隣の銀髪の少年へと向ける。

 

彼は無言のまま、こちらに振り返った。

 

 

 

「やあ、初めましてになるのかな?」

 

 

 

声音は柔らかかった。

けれどその目――獣のように鋭く、底の読めない光が宿っている。

 

 

 

「俺はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファー。

これから君と“コンビ”を組むことになってる。よろしくな」

 

 

 

口元に笑みを浮かべながら、手を差し出してくる。

 

礼儀正しい。だけど――

“この人、笑顔のまま人をぶん殴るタイプだ”って直感が、警鐘を鳴らした。

 

 

 

「あ、よろしく……?」

 

 

 

思わず握手を返しながらも、言葉の意味が引っかかる。

 

……コンビって、何?

任務とか、仕事とか、どういう規模で……?

 

 

 

僕の疑問を察したのか、アザゼルがめんどくさそうに頭をかいた。

 

 

 

「まぁ、説明しとくか」

 

 

 

そして、僕を見ながら言う。

 

 

 

「お前さんはまだガキだ。だからしばらくは、ヴァーリと一緒に行動してもらう。

いきなり単独任務ってのも無茶だしな。保護者代わりってとこだ」

 

 

 

「……え、えっと、プライベートもずっと一緒とか……?」

 

 

「そこまでじゃねぇよ。飯とか風呂とかは勝手にしろ」

 

 

 

そう言ったアザゼルの声が、急に低くなった。

 

 

雰囲気が変わる。

 

 

 

部屋の空気が、一瞬ピンと張りつめた。

 

 

「実はな──」

 

 

 

アザゼルがソファに体を預けたまま、真面目な口調に変わる。

 

 

 

「数か月前、俺たち堕天使が管理してる『海鳴(うみなり)』って街で、正体不明の魔力が感知された。

……場所は人間の市街地。しかも数回にわたって断続的に、な」

 

 

 

そう言いながら、机の引き出しを開け、一冊のパンフレットを取り出す。

 

そのまま、こちらにポイっと投げてよこしてきた。

 

 

 

「というわけで──お前たちには“潜入捜査”をしてきてもらう。

身分を偽装して現地に潜入、魔力の出どころを探れってことだ」

 

 

 

パンフレットには、可愛らしいフォントでこう書かれていた。

 

 

 

――『私立聖祥大学付属小学校』

 

 

 

(……え? 小学校……?)

(僕、十一歳だけど……それでもいきなり学校って……!)

 

 

 

正直、戦闘よりこっちのほうが緊張する。

授業とか宿題とか、人間関係とか……未知すぎる。

 

 

 

そんな僕の戸惑いをよそに、隣のヴァーリは腕を組み、ふと真顔になっていた。

 

 

 

「アザゼル。その“正体不明の魔力”って、どれくらいの規模なんだ?」

 

 

 

その声色に、ほんの少しだけ興味が滲んでいた。

 

 

 

アザゼルは指をポキポキ鳴らしながら、あっさり答える。

 

 

 

「多く見積もっても、中級悪魔程度。

街の被害もほとんどないし、直接的な襲撃ってわけでもねぇ」

 

 

「……そっか。拍子抜けだな」

 

 

 

ヴァーリはつまらなさそうに鼻を鳴らし、そのまま踵を返して部屋を出ていった。

 

 

 

(えっ……行っちゃった!?)

 

 

 

ぽかんとしている僕に、アザゼルがふっと笑いかけてくる。

 

 

 

「太郎、お前はどうする?」

 

 

 

「……いや、僕はその……任せます……」

 

 

 

本音を言えば、魔力どうこうより学校生活のほうがよっぽど不安だ。

 

 

でも口にしたところで、絶対通じないと分かっている。

 

 

 

アザゼルは面倒くさそうに肩をすくめた。

 

 

 

「まぁ安心しろ。今回はあくまで下見だ。いきなり爆発魔法ぶっ放してこいって話じゃねぇよ」

 

 

 

(いや……むしろそういうののほうが慣れてるんだけど……)

 

 

 

そして、このときの僕は知らなかった。

 

 

 

──この潜入任務が、“初めての戦い”のきっかけになるなんて。

 

 

──そして、翌日。

 

 

 

僕は――なぜか、ヴァーリと戦うことになっていた。

 

 

 

(……は?)

 

 

 

状況を整理しよう。

昨日任務の説明を受けて、今日は偽装書類の受け取り……のはずだった。

 

だが現実はこうだ。

 

 

 

目の前には戦闘訓練用の円形アリーナ。

周囲には魔力干渉を防ぐバリアフィールド。

そしてその中央には、銀髪の戦闘狂。

 

 

 

原因は……そう、ヴァーリの一言。

 

 

 

「任務の前に、一度こいつと手合わせしてみたい。気になるんだよ、どこまでやれるのか」

 

 

 

それを聞いたアザゼルは――なんと、二つ返事で了承。

 

 

 

「おーけー、やれ」

 

 

 

(いや待て待て待て、軽すぎない!?)

 

 

 

ツッコミどころが多すぎて逆に無言になった。

そもそもヴァーリが“コンビを組む条件”としてこれを出してきたらしく、

アザゼルも「まぁ殴り合えば仲良くなれるだろ」的なノリ。

 

 

 

(なるか、そんなもんで!!)

 

 

 

なのに、気づけば僕はトレーニングウェア姿で円形フィールドに立っていた。

隣にはアザゼルがドリンク片手に見物モード。

 

 

 

「おーし、お互い命までは取るなよー。破壊はセーフ、殺しはアウトな」

 

 

 

(その線引き、雑すぎるだろアザゼル……!)

 

 

 

僕が冷や汗をかいている間に、ヴァーリはにっこり笑ってこう言った。

 

 

 

「太郎、昨日お前を見た瞬間から、戦いたくて仕方なかったんだよ」

 

 

 

「……ちょっと待って、僕は別に戦いt──」

 

 

 

「よし、始めるか!」

 

 

 

「話を聞けぇぇぇ!!」

 

 

 

 

──こうして、僕の“初任務”は。

潜入捜査どころか、“まずはぶん殴り合い”から始まることになった。

 

 

僕の抗議なんて、彼には最初から存在していなかったらしい。

 

 

 

「っはや──ッ!?」

 

 

 

言葉を発する間もなく、ヴァーリの身体が“消えた”。

 

いや、見えなかっただけだ。

次の瞬間、視界の右側から、爆音とともに“何か”が飛んできた。

 

 

 

――それがヴァーリだった。

 

 

 

音速の如き突進。

十一歳の少年とは思えない、鋭く研ぎ澄まされた動き。

 

 

 

避けきれず、僕の身体は軽々と宙を舞う。

 

 

 

「ぐっ──がはッ!」

 

 

 

後方の壁に叩きつけられ、石材が崩れ、白い粉塵が舞った。

 

肺が悲鳴を上げる。

呼吸が、一瞬止まる。

 

 

 

(な、にこれ……速すぎる……)

 

 

 

思考が追いつかない。

けれど身体だけは、生き残るために必死だった。

 

 

 

崩れた瓦礫の中から、這い出る。

 

起き上がった瞬間――もういた。

 

目の前。

銀髪の悪魔が、無表情のまま拳を振り上げていた。

 

 

 

「ッ──!」

 

 

 

咄嗟に身をかがめる。

拳が空を切り、すぐに反動で距離を取った。

 

 

 

「いきなりはひどくない!? せめて“いくぞ”とか合図を──!」

 

 

 

「悪いな。でも……我慢できなかったんだよ」

 

 

 

ヴァーリはそう言って、口角をわずかに吊り上げる。

 

まるで、狩人がやっと見つけた“最良の獲物”を前にしたときのような顔だった。

 

 

 

ヴァーリは距離を取りながら、背中から青白い光を噴き上げた。

 

羽のような形をした、それでいて羽とはまるで違う、鋭く光るエネルギーの塊。

光翼――『白龍皇の光翼(ディヴァイディング・ギア)』が展開される。

 

 

 

「これは……?」

 

 

 

「言っとくけど、遊びじゃないからな」

 

 

 

ヴァーリが不敵に笑い、軽く拳を握る。

 

 

 

「この翼に触れた相手は……十秒ごとに、“力”を半減させられる。

つまり、お前が強ければ強いほど、俺の勝率は上がっていくってわけさ」

 

 

 

「反則じゃない、それ!?」

 

 

 

「いいだろ? 強者にしか意味のない能力ってのも、ロマンがあるだろ?」

 

 

 

言うが早いか、魔力の弾丸を形成し、こちらへ放ってきた。

 

青い閃光が唸りを上げて飛んでくる――!

 

 

 

(まずい……! もう反応しきれない!)

 

 

 

僕は叫ぶように、魔力を解放した。

 

 

 

「来い、“赤い衣”──!」

 

 

 

身体の奥から、燃え上がるようなエネルギーが噴き上がる。

 

赤いオーラが皮膚の下から浮き上がり、四本の尾のような魔力が背後に現れる。

 

 

 

それは、怒りを具現化したかのような“魔の衣”。

 

尾獣・八尾の力の入り口――尾獣チャクラモードだ。

 

 

 

「っらぁぁああッ!!」

 

 

 

地面を蹴り、跳ぶ。

その一歩だけで床が砕け、衝撃波が走る。

 

 

 

ヴァーリの目が細まる。

 

 

 

「やるじゃん……さっきとは別人だな」

 

 

 

赤い魔力を纏い、僕は一気に距離を詰めた。

 

 

 

「さっきのお返しッ!!」

 

 

 

拳を振り抜こうとした、その瞬間。

 

 

 

「──Divide」

 

 

 

淡々と呟かれた声が、僕の魔力を――削った。

 

 

 

ズズ……ッと、身体の内側が軋む。

さっきまで渦巻いていた魔力の奔流が、急速に萎んでいく感覚。

 

 

最初の魔力弾はなんとか回避した。

けれど、次の瞬間──

 

 

 

「──Divide」

 

 

 

ヴァーリの声が響く。

胸のあたりからズズ……ッと、熱が抜けるような感覚。

 

 

 

(……っ、魔力が……減った!?)

 

 

 

けれど、まだいける。

この程度で膝をつくようなら、最初から戦場には立てない。

 

 

 

僕は赤い衣を纏ったまま、再び跳んだ。

そして──

 

 

 

「──Divide」

 

 

 

二度目。

さっきよりも明確に、身体の芯が冷えていく。

 

速度が鈍る。

拳に込める力が、わずかに軽くなる。

 

 

 

(……やばい、これ……累積する……!?)

 

 

 

間合いを取ろうと後退した瞬間、三度目の声が耳を打つ。

 

 

 

「──Divide」

 

 

 

赤い衣が、揺らいだ。

魔力の尾が一つ、霧散するように消えていく。

 

 

 

「っ……ああああッ……!」

 

 

 

膝が、地をついた。

 

一度ではない。

二度でも、まだ立っていられた。

 

でも──三度目。

限界のラインを、越えた。

 

 

 

(くそっ……くそっ……!)

 

 

 

拳を握る力すら、奪われていく。

このままでは、完全に削りきられる。

 

その瞬間――

 

 

 

『おい、太郎。貸してやるよ。俺の力を』

 

 

 

 

 

(ぱっつぁん……!)

 

 (ぱっつぁん、力を貸して……! バージョン2でいく!)

 

 

 

『ったく……オレがいなきゃ、お前すぐ倒れるよな。

……まあいい。貸してやる。』

 

 

 

『ただし──絶対に、勝てよ』

 

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

僕の中で、“何か”が爆ぜた。

 

 

 

音もなく、けれど確実に、内側から世界が反転する感覚。

 

骨が軋む。筋肉が膨れ上がる。

牙が伸び、爪が鋭く尖る。

 

黒い魔力が皮膚から吹き出し、全身を包み込む。

 

 

 

「ウィィィィィィィィィッ!!!!」

 

 

 

咆哮が、空気を裂いた。

 

耳をつんざくような咆哮ではない。

地の底から響いてくる、重く、獣じみた音だった。

 

それはまるで、太古の神獣の目覚め。

 

 

 

足元の床が砕け、魔力のうねりが空間を捻じ曲げる。

 

赤い衣とは別物の――黒き獣装。

尾獣・八尾の第二形態。バージョン2。

 

 

 

背から伸びる禍々しい尾。

漆黒の装甲のような魔力が、皮膚の上に形を作る。

 

その姿は、まるで“怒れる黒牛”。

猛る悪夢が、今ここに降り立ったかのようだった。

 

 

 

目の奥に映るヴァーリが、ほんの一瞬だけ――目を見開いた。

 

 

 

「……!」

 

 

 

その顔には、戦士としての本能が刻まれていた。

 

“これはやべぇ奴だ”と――確かに、理解した表情だった。

 

 

変貌した僕の肉体が、空気を裂いて疾走する。

 

黒き尾をうねらせ、まるで獣が跳躍するように、地を蹴る。

 

 

 

ヴァーリの背後へ、一瞬で回り込んだ。

 

 

 

「──ッ!」

 

 

 

振り返る暇も与えず、僕の蹴りが彼のガードに叩き込まれる。

 

衝撃音が響き、ヴァーリの体が後方へ吹き飛んだ。

 

ただの蹴りじゃない。

これは、“魔力と肉体が融合した質量”の暴力。

 

 

 

(まだ──終わらない!)

 

 

 

跳躍。

 

宙を裂いて跳び上がりながら、右腕に集中する。

 

魔力が凝縮し、腕に“八尾の頭蓋”を模した禍々しい形状が形成されていく。

 

 

 

それは拳ではなく、“破壊の塊”。

 

 

 

狙いはヴァーリの落下地点。

 

 

 

「──おおおおおッ!!」

 

 

 

咆哮とともに、振り下ろした。

 

空気が引き裂かれる音。

衝撃波が地面を這い、爆音と共に大地が抉れる。

 

 

 

ドォン!!!

 

 

 

地面が砕け、瓦礫が宙を舞う。

 

その中心に、ヴァーリの姿。

地に沈み込んだまま、動かない。

 

……勝った。

そう思った瞬間。

 

 

 

ふっ、と。

 

僕の視界が、急に傾いだ。

 

 

 

「……あ、れ……?」

 

 

 

膝が崩れる。

 

意識が、暗い穴に吸い込まれていく。

 

 

 

(……魔力、使いすぎた……のか)

 

 

 

地面に倒れ込む感触すら、感じる余裕はなかった。

 

 

 

──こうして、僕の“初勝利”は。

ほろ苦い、初の“気絶オチ”で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄◇▽—————

 

 

 

 

──正直、期待してなかった。

 

 

 

太郎という少年のことだ。

 

アザゼルが「お前と組ませる」と言い出したときも、内心では軽く受け流していた。

彼が拾ってくる“素材”は玉石混交だ。中にはただの石ころもいる。

 

 

 

だが、あの時。

初めて拳を交えた時。

 

 

 

(──おもしれぇ)

 

 

 

壁に叩きつけられてもすぐに立ち上がる反応速度。

回避に転じてからの距離の取り方。

 

瞬間的な判断と、身に染みついた“殺気の扱い方”。

 

 

 

アイツ……ただの素人じゃない。

 

いや、“獣”だ。

殺しの本能を抱えた、真っ赤な目の獣。

 

 

 

「ディバイド」

 

 

 

分解の力を刻み込むたび、奴の魔力は確かに薄れていく。

それでも、喰らいついてくる。

 

限界を迎えた膝が地をついた、その直後──

 

 

 

「ウィィィィィィィィィィッ!!!!!」

 

 

 

……あの咆哮を聞いた瞬間、背筋が凍った。

 

 

 

空間が震えた。空気が泣いた。

“何か”が、解き放たれた。

 

 

 

そして見た。

 

八本の尾をまとい、黒き装甲を纏った太郎。

 

 

 

あれは──人間じゃない。

悪魔でも天使でも、神器持ちですらない。

 

 

 

(……あれは、“異物”だ)

 

 

気づいたときには、俺の身体は空を裂いて吹っ飛んでいた。

 

 

 

ガードはした。

構えも崩してなかった。

魔力も、限界ギリギリまで出していた。

 

それでも──押し切られた。

 

 

 

(……ハッ! マジかよ……!)

 

 

 

骨がきしみ、内臓が揺れる。

 

だけど俺の心は、真逆だった。

 

 

 

ゾクゾクしていた。

 

 

 

拳が直撃した瞬間、腕の骨がミシリと音を立てた。

なのに、なのにだ。

 

 

 

(……クソ、楽しすぎる……!)

 

 

 

これだ。

これなんだよ……!

 

この、“自分の防御を上回る重さ”。

この、“死ぬかもしれねぇ”って緊張。

この、“脳が焼けるような刺激”が──

 

 

 

最高だ。

 

 

 

──だが、まだ終わらねぇ。

 

あいつは追ってくる。

 

 

 

上空からの殺意が、雷のように降ってくる。

 

振りかざされた魔力の塊。

あれは拳なんかじゃねぇ。もう“災害”だ。

 

八尾の意志をまとった、怒りの塊。

 

 

 

「ッ……はぁ……はっは……ッ!!」

 

 

 

笑いが漏れた。

 

 

 

「来いよ……もっと見せてみろよ、太郎ォッ!!」

 

 

 

ドォンッ!!!

 

 

 

世界が割れた。

 

視界が真っ白に弾け、背骨が軋む音が頭蓋に響く。

脳が揺れて、思考が一瞬飛ぶ。

 

でも──至福だった。

 

 

 

(やべぇ……マジで死ぬ……でも……)

 

(楽しい……ッ!!)

 

 

 

砕けた床に沈みながら、口元だけが吊り上がる。

 

 

 

ああ、これだ。

 

やっと見つけた。

 

“殺し合ってでも繋がれる相手”。

 

 

 

俺の全力を正面からぶつけられる存在。

そいつが今、目の前にいる。

 

 

 

「ハッ……! やっぱりお前……最高だな……太郎」

 

 

 

闘争と狂気にまみれた目で、俺は確かに“獣”を見ていた。

 

 

けれど──何より俺の胸を撃ち抜いたのは、その直後だった。

 

 

 

太郎の身体が、ふらりと揺れた。

 

魔力が抜け、形が崩れ──そのまま、静かに地へと崩れ落ちる。

 

 

 

(……気絶、か)

 

 

 

あれだけ暴れて、暴れて、暴れて。

最後の一撃まで、殺意すら込めて殴り合って。

その果てに、倒れたのは“あいつ”だった。

 

 

 

だが、それでいい。

 

いや──むしろ、そうでなきゃダメだった。

 

 

 

力を、限界まで使い切る。

命の火を、自分の手で燃やし尽くす。

 

 

 

それを“意識的にやれる奴”が、どれほどいる?

 

 

 

太郎はそれを、十一歳の子供でやってのけた。

 

 

 

「……クク、マジかよ……」

 

 

 

地面に倒れたまま、俺は笑った。

 

唇の端が、自然と吊り上がっていく。

 

 

 

「──ああ。いい獣だ。

俺の……“相棒”としては、上出来すぎる」

 

 

 

目を閉じる。

 

背中に残る痛み。

軋む骨と、焼けるような筋肉の悲鳴。

全部、俺に“生きてる”って実感をくれる。

 

 

 

(もっとだ……)

 

 

 

(もっと見せろ、太郎……)

 

(その魔力が枯れるまで、肉が裂けるまで。

全てを削って、“あの獣”を完全に見せてみろ)

 

 

 

俺は──お前のすべてが見たい。

 

“力”も、“叫び”も、“咆哮”も。

 

 

 

そして、いつか……。

 

 

 

(……その時は、ちゃんと殺しにいってやるよ)

 

(それがお前に対する、“本気の礼”だ)

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