DD世界だと思ったらリリなの世界でした。いや両方の世界が混ざり合った世界でした!! 作:バター犬
ただし、他人の幸せを喜べる人に限る。
幸せになる権利は、平等にある。
でも不幸の演出がうまい人にしか配られない。
幸せになる権利は、私にもある。
ただし、黙っていれば、の話。
誰でも幸せになれると言うけれど、
その“誰でも”に、私は入っていない気がする。
努力すれば幸せになれるらしい。
不幸は、黙ってても降ってくるのに。
笑っていれば幸せが来ると言われた。
笑ったら、「調子に乗るな」と言われた。
――フレデリカ・ベルンカステル
休日の朝──
僕は、なぜかイングランドの森林地帯にいた。
しかも夜。しかも吹雪。しかも装備は半ズボン。
(マジで寒い!死ぬやんこれ!!)
『おい!なんで関西弁になってんだ!? てかなんで半ズボンなんだよ!』
(いや僕だって、そんな軽装で来たくなかったよ!?)
(でもさ!!)
──回想:数時間前──
「おい太郎、起きろ。今日からお前は伝説の秘宝を探す冒険者だ」
「……は?」
「はいこれ、宝の地図。手描き、マジック製。味があるだろ?」
「これどう見ても小学生の自由研究ですけど!?!?」
「じゃ、転移魔方陣、開☆通!!」
「待って!? 話まだ終わってな──」
バシュゥゥン!!!
──現在地:吹雪のど真ん中──
(あの野郎……マジで放り込んで来やがった……!!)
(つーかあの地図、“伝説の剣”って文字の横にニコちゃんマーク描いてあったんだけど!?ふざけすぎだろ!?)
『なあ太郎、お前……あの人に完全におもちゃにされてるぞ』
(知ってるよ!!)
──という経緯があり、
今、僕は吹雪の中で“宝探し”をしているわけです。
しばらく獣道のような道を進んでいると、満天の星空が広がっていた。
吹雪の切れ間から顔を覗かせた空は、驚くほど澄んでいた。
(……すご……こんなに星、見えるんだ……)
都会暮らしの僕にとっては、まさに“初体験”。
あまりに幻想的な景色に、寒さも忘れて立ち止まる。
ただそこに立って、ただ星を見る。
それだけで、少しだけ心が落ち着いた気がした。
――だけど。
その感傷も、長くは続かなかった。
視界の端に、妙な“陰”が映った。
(……え?)
思わず立ち止まり、目を凝らす。
雪の帳がわずかに揺れた先――
そこにあったのは、黒ずんだ岩壁。
自然にできたとは思えない、異様に直線的な切り立ち方。
そして、その中央。
ぽっかりと“穴”が開いていた。
(……あれ、洞窟……?)
いや、違う。
これはただの“洞窟”じゃない。
風の音が変わった。
先ほどまで吹雪いていた空気が、そこだけ止まっている。
まるで、洞窟の中だけ“違う空間”にでも繋がっているような、そんな錯覚。
僕は気づけば、呼吸を潜めていた。
『太郎……これはただの穴じゃねぇ。気配が……おかしい』
(うん、わかる。わかるけどさ)
(行くしかないんだよね……!?)
怖気を振り払うように、僕は拳を握り直す。
そして、足を踏み出した。
静かに開いた“異界の扉”へと。
(うわ……出たよコレ……)
『太郎。俺の勘が言ってる……あの中、ヤバいのがいそうだ』
(ゲームでよく見るやつじゃん!洞窟=ボス部屋の法則!!)
吹雪の音が消えていく。
代わりに、洞窟から“ぬるい息吹”のような風が流れてきた。
ただの風なのに――
背筋が、ゾッとした。
(……でも行かなきゃいけないんだろうなぁ)
ふぅ、と一つため息をついて。
僕は、洞窟の中へと足を踏み入れた。
(……うわ、都会じゃ見れないやつだコレ)
そんな星空に見とれていたら、
いつの間にか、目の前には大きな“洞窟”が口を開けていた。
(これ……完全にボスが出るやつじゃん)
『俺もそう思う。なんか中にある気がするぞ』
なんだよその“完全にフラグ”みたいなセリフは……。
でも、確かに気配は感じる。
そして、たどり着いた先は──広間だった。
自然にできたにしては不自然すぎる、妙に整った空間。
壁はなめらかすぎるほど磨かれ、天井には氷の結晶が静かに輝いていた。
でも、そんな環境よりも。
もっと圧倒的に“異質なもの”が、そこにはあった。
──一本の剣。
「……剣……?」
それは明らかに、“この世界のもの”じゃなかった。
全長八十センチほどのロングソード。
真紅と漆黒が渦巻くように混ざり合った刀身は、光源がないのにわずかに脈動していた。
まるで“生きている”みたいに。
刃先から柄にかけて、古代文字のような文様が刻まれている。
けれど、どの魔術体系にも該当しない、完全な未知の記号。
(……あれ、ヤバいやつだ)
手を伸ばすのが怖い。けど目を逸らすこともできない。
まるで、“ここに来た者を選んでいる”ような、そんな圧。
『太郎……あの剣、呼んでるぞ』
(……やめてくれよ、ぱっつぁん……呼ばれたくねぇ……)
けれど、一歩。
また一歩と、僕の足は自然に剣へと近づいていた。
ただの剣じゃない。
明らかに“何か”を封じているか、“何か”を引き寄せるためのキーだ。
そう思った、まさにその瞬間。
──風を切る音がした。
『伏せろ!!』
反射的に身をかがめる。
頭上を何かがかすめ、背中に氷のような汗が走った。
(今の、当たってたら……!)
僕は慌てて振り向く。
そこには――
巨大な体。
鋭い牙に鱗、蝙蝠のような翼。
そう、ドラゴンだ。
(やっべ……普通にドラゴン出た……!!)
けれど、明らかに“剣”とは無関係な存在だ。
こいつは“門番”か何か。
この“異質な剣”を守るために、ここに配置された──ただの獣。
(ヤバいのは、あの剣だ……)
その瞬間、背後から風を切る音が――
ドンッ!!
慌てて頭を下げた直後、風が頭上を通り抜けた。
(……やべぇ、今の当たってたら首と胴体がバイバイしてた)
「ドラゴンかよおおおおおお!!」
僕は即座に出口へと走る……が。
目の前に――立ちはだかる、ドラゴン。
鱗がギラつき、喉奥が赤く脈動している。
(詰んだ)
そう思った瞬間、やつの口が大きく開いた。
次の瞬間、灼熱の奔流が放たれる。
「ッ──!!」
僕は咄嗟に反り返り、ブリッジで回避。
背後を灼熱がかすめ、地面を抉った。
そのまま、地を蹴る!
「来い、赤い衣ッ!!」
全身を包む魔力の鎧。
八尾の力を抑えた状態で“具現化”した防護外装――赤い衣を展開!
「おおおおおッッッ!!」
魔力を燃やし、空気を裂きながら、拳を構える!
──直撃!
けれど、同時に──
「ッぐはッ!!」
ドゴォン!!!
吹き飛ばされたのは、僕だった。
拳は当たった。確かにダメージも入った。
だが──それ以上に、ドラゴンの反撃が速すぎた!
体が壁に叩きつけられ、岩が崩れる。
けど、赤い衣のおかげで致命傷ではない。
(でも……強すぎる……!)
そのとき──頭の中に、あの声が響いた。
『どうする? バージョン2を使うか?』
八尾の声。
僕の中に宿る異能の存在。
(……まだ無理だ。バージョン2は完成してない。1分も持たない……!)
『ならどうする? このまま削り合って勝てる相手じゃねぇぞ?』
(……わかってる。だから、使う)
『あれを……?』
(ああ、“あれ”だ。成功すれば、あの剣まで辿り着ける)
『けどあれ、まだ実戦じゃ……』
(──それでも、やるしかない!)
目を見開き、赤い衣を解除。
万華鏡写輪眼、展開。
(視界、ぶれるな。神経、研ぎ澄ませ。いける……!)
そのまま“剣”めがけて一直線に走る!
ドラゴンが――吠えた。
その喉奥が膨れ、黒いブレスの兆しが再び灯る。
だが、それを見た僕は――
一歩も退かず、ただ、立っていた。
「……こいよ」
目の奥が燃える。
漆黒の万華鏡が、淡く輝きを放つ。
(……“すり抜ける”)
ドラゴンが咆哮と共に突進してきた、その瞬間!
ズズ……ッ!!
「──すり抜けた!?」
ドラゴンの巨体が、僕の身体をそのまま“素通り”する。
まるで、そこに“存在しなかったかのように”。
“神威”。
万華鏡写輪眼の力――
実体を“別の空間”へと転送し、物理法則から逃れる幻の術。
そのままドラゴンは、後方の岩壁に激突。
重低音が洞窟に響き、舞い上がる粉塵が視界を覆う。
(今しかない!!)
僕は、足元を蹴った。
空気を裂き、一直線に剣のもとへ!
「今だぁああああッッ!!!」
地面に突き立つ、“異質の剣”。
手を伸ばし、柄を掴む。
ズシッと手に伝わる、命のような重み。
その感触に何かが目覚める気配があったが、今は構っていられない!
振り返る。ドラゴンが、立ち上がる。
再びブレスを溜め始めている。
(間に合わねぇ……ッ!)
ブワッ!!
灼熱のブレスが洞窟を焼き尽くすように迫ってくる!
だが、僕は叫んだ。
「──神威!!」
ズ……ッ!
肉体が再び虚空に沈む。
光がすり抜け、熱がすり抜け、あらゆる殺意が“通り抜けて”いった。
(あと数秒……あと数歩……!)
体力は限界。
万華鏡の反動が脳を焼く。
視界が霞み、足がもつれる。
(でも、もうすぐ……もうすぐ……!)
出口が、見えた。
最後の一歩を踏み出し――
――僕は、洞窟の外へと飛び出した。
……夜風が、頬を撫でる。
雪が静かに舞い落ちる中、僕はその場に膝をついた。
肩で息をしながら、震える指で剣を握りしめる。
『よくやったな、太郎』
(……うん)
空を見上げた。
星が、綺麗だった。
──振り返ると、ドラゴンは追ってこなかった。
口から吐き出される白い息が、静かな夜空に溶けていく。
(……セーフ、だ……)
膝をついたまま、僕はゆっくりと息を整えた。
胸の奥が熱い。肺が焼けるみたいに、呼吸のたびに全身が軋む。
「ハァ……ハァ……」
『ずいぶんと疲れてるようじゃないか』
八尾の声が頭に響く。
その声すら、今は妙に遠く感じた。
(……当然だろ。神威、連続使用で1分ちょいが限界なんだぞ……)
肩を上下させながら、ふと視線を落とす。
手に握られた、赤と黒の剣。
色だけじゃない。
刃の根元から、どこか“心音”のような微かな振動が伝わってきていた。
禍々しくて、だけど……どこか、美しかった。
「……とにかく帰ろう。あったかい布団と、味噌汁と、何より電気毛布……」
震える手で転移陣を展開する。
赤黒い剣をしっかりと携えて。
──光が弾け、視界が白に包まれる。
こうして――
僕の、“初めての宝探し”は。
命からがら、何とか、生きて帰ってきた。
ボロボロの身体と、一本の剣を引き換えに。
……けれどその代償は、たぶんきっと――
“これから”を変える、大きな一歩だった。