二日後。カンナはミレニアムに訪れていた。何故かといえば、ある人物に会うため。その人物に助けを求めるためだった。
やはり発展しているな、と思いつつ、カンナは昨日のことを思い出していた。
元は“先生”に連絡しようと思っていた。のだが、なかなか連絡が付かない。何故だろうかと生徒会の方に聞いてみると、どうやら遠方へいっているらしい。先生のことだから余ほどのことがない限り飛んでくるだろうが。しかし迷惑はかけたくないので、先生に伝えるのは止めておくことにした。
これも困ったかといえば困ったのだが、その後にさらに困ったことが起きた。
死体、そしてその現場が片付けられてしまったのだ。
「防衛室長が指示したらしい」と聞いたので、すぐに連絡を入れたのだが、
「悪臭へのクレームが来ていたので」
の一言で話を止められた。確かに正論ではあるのだが、問題は現場の状態を見れなくなってしまったことだ。すぐに記録すればよかったなと思ったが、もう遅い。終わったことなのだから。
こうして何も出来ないままに時間が過ぎるのを感じ、やけになって連絡したのが中学時代の同級生、〔古川マナ〕だった。マナとは志こそ違ったが、謎に気が合いよく話していた。高校になってマナがミレニアムに入学したので会う機会こそ無かったのだが、今でも連絡は取っていたのだった。そのため、今回連絡したときもすぐに話が着き、ミレニアムで待ち合わせをすることになった。
しかし、約束の30分前に来るというのは少し早すぎただろうか。マナはよく遅刻をしていたし、今回も待たされるのでは?と思っていたが、それは杞憂であった。
マナはしっかりと10分前には現れた。
「久し振りだね、尾刃カンナ。いや、カンナ局長、かな?」
「此方こそ久し振りだな。古川マナ、マナ調査委員長。」
尾刃カンナが自分のことを調査委員長と呼んだ事に、マナは少し驚いていた。知っているものとは思っていなかったからだ。
活動調査委員会。それは、ミレニアムにごまんとある部活動の管理、調査を行う委員会である。この委員会は最近出来た、というよりはマナが来たから出来た物だった。他の部活などとは違い、セミナー直属で、その分影響力も強い。まぁその分、苦労する事も多いのだが…。
とはいえ、ミレニアム以外と関わることは余りないし、もし関わるとしてもその時は古川マナ個人として関わっていたので、知られていないと思っていたのだ。しかし実際はカンナはマナが調査委員長であると知っていた。何故か、と聞きたかったが、客人を相手に立ち話をするのも良くないと思い、仕事部屋にきてもらう事にした。
「コーヒーはアイスとホットどっちだったかな」
「ホット」
「了解。…そういえば、何で私が調査委員長だと?」
「有名だぞ、古川の活躍は。」
「そうなのか…?」
意外だったし、どんな噂なのか気にはなったが聞きはしなかった。
「ん、コーヒーだ。」
「…すまない、急に呼び出して」
「何で謝るんだ。私は旧友に会うのを楽しみにしていたんだが、そっちは違ったか?」
マナが少し悪戯っぽく言った。
「そんなことはない。私だってそれは楽しみには思っていたさ。」
と、カンナも微笑していった。強面だが、よく見ると…よく見なくても美人だ。少しうらやましく思う。
カンナは再び真顔に戻ると、本題について話し始めた。
「しかし、死体が頭にちらついてな…」
「それが今日来た目的だったか。詳しくはなしてくれないか?」
カンナは事件について説明した。
「なるほど。しかし…」
と、マナは不思議そうにする。
「私の出るところないんじゃないか?対人用の大砲なんかがあったらこういうことだってできるだろう。いくら私たちが頑丈だとしても。」
「いや、言い忘れていたんだが…部屋に傷跡が無かったんだ。」
「なに?」
驚いたような顔になる。
「人の、それもキヴォトス人の体を貫いてるんだぞ。部屋どころか建物が吹っ飛ぶだろう」
「だが、なかったんだ。これは保証する。まぁ、もう証明は出来ないんだが…」
「それはいい。音は?」
「音?」
よくわからない質問に、カンナは首を傾げた。
「撃ったときや撃たれたときに音が鳴ったとか、そういう話はないのか?」
「ない。私も聞き込みはしたが、全員なにも聞こえなかったと言っていた。」
「朝っぱらか、もしかしたら深夜の犯行かもしれない。しかしそうなると、ほかの音に紛れて聞こえなかった、というのは有り得ないか。」
マナは考え込んだ。
実はマナは中学でも調査委員会と同じような職に着いており、いくつかの事件を解決したことがあるのだった。ミレニアムにはいってからも、テロの未然阻止など様々な仕事をしてきた。だからこそ、カンナも頼ってきたのだろう。
しかし、今回の場合は少し違う。何しろ、殺人事件なのだ。銃所持が基本のキヴォトスだが、死というものはやはり遠い存在。それが、簡単に、しかも残酷に行われたのだ。
更に、現場が見えない。つまり、検証もできない。かなり厳しい事になるだろう。
だが…
「よし、引き受けよう。」
と、いってしまったのだった。
「…本当に?」
カンナも驚いていた。
「勿論。となれば、現場検証…は出来ないんだったな…」
「……ありがとう。」
と、少しうつむいていう。
「なんだ、カンナらしくないな?」
「そんなことないだろう…」
「うん。案外素直で、真面目で、自分の信じるものを曲げない。いい友を持ったよ。」
たぶん後輩のことで自分を責めているのだろう、と思ったので、思いっきりほめてみた。
「…!?いや、私は…」
照れたような、驚いたような顔のカンナ。それをみて、案外わかりやすいんだなと思った。
「大丈夫だ、分かってる。」
そういうとマナはドアを開けた。すると、強い日差しが差し込んだ。この部屋はガラス張りのビルの上の方にあるからか、やけに日差しが眩しいのが欠点だが、同時にここを気に入った理由でもあるんだと、先程入るときに言ったのを思い出した。マナを目を細めると椅子に座り、カンナを見つめた。
「さ、調査開始だ。」