第二の戦場   作:ガチタン愛好者

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第三話~英雄、そして魔物~

間桐邸 地下室

 

「ふむ、桜の調教は順調のようじゃの」

 

いつかの老いぼれ、間桐臓硯は地下室にて次の間桐の母体となる少女を眺めながら思考に耽る。脳裏に浮かぶは間桐の落伍者、だった者

 

「しかしあやつは何なのだ。苦痛の顔一つ見せぬとは」

 

本命の聖杯戦争は次。今回は場繋ぎ、そして苦痛に苦しむ雁夜を眺めて楽しもうと思っていた老いぼれの予想は外れていた。わざわざ用意した触媒は意味を成さなかった上に

 

「確かに刻印虫は寄生しておるし、正常に動いておる。何故じゃ…」

 

刻印虫。それは老いぼれの開発した蟲。使い方は多岐に渡るが、こと雁夜においてはその肉体を喰らわせることで本来は魔術を使えぬ雁夜を仮初めの魔術師とすることができる。当然肉体を食い荒らされることになるので全身の耐え難い苦痛に際悩まされるはずであったのだが

 

「精々髪の色が変色しただけとは。興味深い」

 

偶然にも葦名にて不死の一片に触れた雁夜はその恩恵だけを享受できた。痛みはあるものの葦名の水で受けた痛みと比べれば些細なもの。本来見たかった光景を見られなかった代わりに老いぼれは更に思考する。

 

「少なくとも肉体の再生があるな、さもなければ血肉を食えず、蟲が働かぬ」

 

「髪の色以外で変わったとすれば…目か」

 

赤目。偶然にも雁夜が享受した葦名の秘密。完全なる不死では無いものの、強靭な力と頑強な肉体。そして高い再生能力を得るという

 

「奴は何処へ行っておったのだ。調べれば不死への手がかりになるやもしれぬ」

 

だが刻印虫の苦痛でさえ顔色を変えない者に何をしようと口は割らぬだろう。老いぼれは一先ず日本の古い文献を再び漁ってみることにした。

 

 

 

★★★

 

 

 

数日後、冬木の教会にて

 

「これで全員ですかな?では始めます」

 

ある日主催者である教会により聖杯戦争の戦闘行為の一時停止及び教会への召集がかけられた。というのも

 

「知らない方もおられるでしょうが、戦闘行為の一時停止を呼び掛けた理由はキャスター陣営によるものです」

 

曰く、キャスター陣営は魔術の秘匿という鉄則を無視し、一般市民を大勢拉致しては惨たらしく殺害しているという。それだけならばなんとかなったのだが

 

「昨日、キャスターは冬木大橋側の川にて大規模な召喚儀式の準備に入ったことが確認されました。このままでは聖杯戦争そのものの続行も厳しくなります」

 

「つきましてはあなた方には聖杯戦争の一時停止、そしてキャスターおよびそのマスターの討伐をお願いします。勿論相応の報酬は用意してあります」

 

神父が袖をたくしあげればそこにあったのは夥しい量の令呪

 

「キャスター討伐を成したマスターへ令呪を一画差し上げます。それでよろしいですかな?」

 

サーヴァントへの絶対命令権である令呪を一画貰えるとなれば、その申し出を拒否する者はなかった。

 

 

 

★★★

 

 

 

同日、冬木大橋付近にて

 

 

 

その夜は何故か賑わっていた。霧が立ち込める川で巨大なナニかが蠢いており、野次馬が集まりつつあった。だがその正体はあらゆる者を喰らい尽くす厄災、一般人が何人死のうと魔術師にとっては些事ではあるが、魔術の秘匿が破られるとなれば一刻の猶予も無かった。

 

「おぉ、いつぞやのバーサーカーではないか、よくぞ参った。怖じ気づいて逃げたかと思ったぞ!」

 

「舐められたものだな」

 

弦一郎は最後の到着だった。既にセイバー、ランサー、ライダーが集結し、空を見れば何やら黄金に輝く船のようなものが浮いている。十中八九アーチャーであろう

 

「これで全員揃ったな、ならば始めるとするか!一番槍はこの征服王がもらうぞ!」

 

雄叫びと共に戦車で突撃するライダー。その雷でキャスターの召喚した化け物に深傷を負わせた、はずだったのだが

 

「む?しっかりと傷を負わせたはずだが…再生するか!」

 

その巨体と高い再生能力により有効打とならない。となれば一撃の火力に劣るランサーと弦一郎は手が出せない

 

ドガンドガン!

 

「…」

 

突如として空から降ってきたのは数本の黄金に輝く武具。着弾と同時に大爆発を起こし、ライダーの一撃を上回る損傷を与えるも即座に再生してしまう。見ればアーチャーの顔は不愉快の色で染まっており、これ以上の援護は期待できないだろう。最早手詰まりと思われたその時

 

「ランサー、四の五の言っていられない。私の呪いを解け」

 

「俺が呪いを解けばあの化物を倒せるのか?確実に?」

 

「あぁ、倒せる。ただ…私の宝具は放つまでに時間がかかる。時間を稼いでくれる者が必要だ」

 

「ならば、その役目俺が引き受けよう」

 

「バーサーカー?」

 

「源の神鳴りは攻撃の他に相手の動きを止めることもできる。あの黄金のサーヴァントに効いたのなら、あの化物にも効くだろう」

 

雷は神鳴りとも言う。葦名の神秘の根元とも言える源の神鳴りであればいかなる相手であろうとも直撃すれば一時的に動けなくなる。

 

「ならばバーサーカー、頼んだぞ」

 

 

 

★★★

 

 

 

「おぉ、ジャンヌよ…」

 

化け物の中心部に鎮座するキャスター。彼はバーサーカーではないが既に狂っており、セイバーをかの聖女と勘違いしてしまっているのだ。そんな彼は腐ってもかつては名のある軍人であった。故に

 

「ん?動きが変わりましたか?」

 

今までチマチマと外皮を攻撃していた相手が一度引いた。何か仕掛けてくる。そう勘が囁く。だがそれだけだ。今の彼にそれ以上の思考を巡らせる判断力は無い。一方外の方では

 

「ではセイバー、呪いを解くぞ」

 

ベキッ!

 

ランサーが呪いの元である槍をへし折ることで呪いは消える。ランサーにとってはかなりの痛手となってしまうが騎士道に則り、躊躇は無かった。

 

「よし、動く。ではバーサーカー」

 

「承知」

 

化け物の目の前に仁王立ちする弦一郎。手には漆塗りの大弓

 

「さぁ、源の神鳴り、もとい巴の雷。とくと味わえ!」

 

高く跳躍し引き絞った弓を掲げる

 

ビシャーン!

 

掲げた弓に雷が落ち、その矢は雷を纏う。地に足つけぬまま矢は放たれた。

 

「ぬお!」

 

直撃。そしてキャスターはその巨大な化け物ごと動きを止める。打雷。かの英雄の王の中の王でさえ痺れさせ、動きを止める一撃。当然化け物を纏っているとはいえキャスターであっても逃れられない

 

「ぐ、ぐぬぅ」

 

おまけに雷を除いても大弓の破壊力は強力極まりない。キャスターが一時的に動けぬばかりか丸出しとなる。即座に再生されるだろうが僅かな間は確かに丸出しであり、英雄たるセイバーにとっては十分すぎる時間であった。

 

「見事だバーサーカー、では…」

 

目隠しの風が解かれ、一振の聖剣が姿を表す。

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流、受けるがいい…」

 

煌々と輝く聖剣。彼女を彼女を足らしめる星の聖剣。その名も…

 

「エクス…カリバー!」

 

光の奔流。有り体に言えば極太のビーム。それは圧倒的な暴力。

 

「おぉ、この輝きこそまさしく…」

 

キャスターはその輝きを一身に浴び、事切れた。

 

 

 

★★★

 

 

 

キャスター討伐は成った。報酬である令呪は止めを差したセイバー陣営にのみ与えられることとなったが、宝具の開帳により真名が露呈したセイバー陣営、宝具を片方失ったランサー陣営、何も失わなかったその他の陣営とくっきりと明暗が別れてしまった。翌日より再び聖杯戦争は再開され

 

「いつか地獄の釜に落ちながら、このディルムッドの怒りを思い出せ!!」

 

ランサー陣営はセイバー陣営による卑劣極まりない知略によって滅び

 

「幕切れは興醒めだったな…」

 

アサシン陣営は征服王によって蹂躙された。着々と数を減らす参加者たち。ではこの間誰も倒していないバーサーカー陣営とアーチャー陣営は何をしていたのかと言うと

 

「我が主、この戦争は最後に生きていたものが勝者だ。最も多くの武勲を挙げたものではない。故に」

 

「数が減るまで様子見と?」

 

「然り」

 

バーサーカー特有の狂気が少なく、生前は腐っても一国の主であった弦一郎は聡明だった。何せまともにやりあえば戦闘力の差は歴然。いかに弦一郎が優れた武を誇っていたとて、それはあくまでも人間の範疇に過ぎず、大英雄と呼ばれるかつての武人とは比べるまでもない。ではアーチャー陣営はというと

 

「ふん…つまらん。このような雑種の馴れ合いに我が出るなどあり得ぬ。我と戦う資格があるのは真の勇者のみよ」

 

「我が王よ…」

 

「黙れ、貴様に発言を許した覚えはない。次はないぞ」

 

「…」

 

主従逆転とはこの事。身に余る英雄を召喚したツケをしっかりと支払う羽目に成ったアーチャーのマスターであった。

 

 

 

★★★

 

 

 

時は流れる。残った陣営はセイバー、アーチャー、ライダー、バーサーカー。次に聖杯戦争より脱落することとなったのは

 

「あぁ、此度の遠征も、誠良いものであった…」

 

ライダーであった。その生き様を見て、勇者と認めたアーチャーによって、一切の慢心なく、彼の持つ全力でもって討ち取られたのだ。アーチャーの正体は王の中の王。彼に全力を出させたという事実は非常に重い。全陣営が一時共闘した冬木大橋の上にて、かの征服王の遠征は終わりを告げた。それを最後まで見届けたアーチャーはライダーのマスターを労い、あろうことか見逃した。自らが認めた征服王のために。

 

「あのような偉大なる王がいる一方で…嘆かわしいことだ…」

 

アーチャー、古代ウルクの王。英雄王は呟く

 

「王とは国を統べるもの。その定義に当て嵌めればなるほど、貴様のような雑種でも王と名乗れてしまうのだな。不愉快極まりない」

 

「…」

 

アーチャーとライダーの決着がつくのを見計らったように姿を表したのは弦一郎とマスターである雁夜。自らが認めたが故に全力で戦い、少なからず消耗したと踏んでのことだ。

 

「今なら我も多少は気分が良い。逃げ帰れば追いはせん」

 

「逃げはせぬ」

 

「ほう、ランサーとの戦闘で消耗している今ならば雑種にも勝ち目があると踏んだか?フハハハハ!」

 

高々と笑う姿に疲れの色はない

 

「愚かもここまで来ると傑作だな、道化としてはまずまずだ。だが…」

 

ブゥン…

 

開かれる黄金の揺らぎ。その数は以前相対したときとは比較にならない量。おまけに取り囲むように全方位に揺らぎが展開されている。

 

「さぁ、小賢しい技でどこまで耐えられるか、見せてもらおうか」

 

振り下ろされた腕と共に、弦一郎と雁夜へ四方八方から黄金の武具が襲い掛かった。




葦名の文献は完全に途絶えています。内府としても厄ネタが多すぎるかの地はそのまま忘れ去ってしまいたいのでしょう。不死を求めた者の末路は決まっていますから

ちなみに展開が早いのは仕様です。今後やりたい展開があるのでそこまではとっとと済ませたいのです。バーサーカー陣営と関係ないところは容赦なくダイジェストです。

次回はお膳立てが終わったのでいよいよ弦一郎の戦いです。
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