車がガタゴト揺れている。今日は後ろのソファではなくみんなで前の車内に座っている。運転席にリーダー、助手席に自分、そして自分の膝の上にササだ。男の硬い膝の上に座るササの座り心地は揺れも合わさり最悪だろう。ササと自分の脚の間にクッションを挟んでやったらよかったか。
しかし、ササはそんなことに文句も言わない。
「かーいーだーしー♪」
それどころか楽しそうにしている。
「そういえばリーダー、今日なに買いに行くんですか?」
「ん?食料に日用品、あとはテルノに頼まれたものだな。食いたいもんとかあるか?買い出しについてきてくれたんだ。要望を聞いてやろう。」
「ハンバーグ!」
「そうか。なら今日はハンバーグだな。」
「やったー!」
ササが俺の上で喜び暴れる。上にササが乗っている状態で暴れられたら車の揺れも合わさって自分の体がすごく揺れる。下から車に揺られ、脚の上ではササに揺らされる。揺れに挟まれて酔いが加速しそうである。どうにかササを抑えつつ、リーダーの言うことに答える。
「自分は久しぶりにリーダーシチューを食べたいです。あ、今日じゃなくていいですよ?カレーまだありますし。」
「よし!ならまた作ってやろう。」
リーダーシチューというのはリーダーが余った食材を消費するために作るシチューだ。余った食材をもとに、それらに合わせてリーダーが食料を買って作るその時その時で材料が異なるシチューである。リーダー流余り物使い飯の一つである。ちなみに、家事破綻者であるテルノに食料処理を任せたら全てミキサーにかけられる。そう考えたらテルノは食材処理に優れた人材とも言えるだろう。たとえどんな食材だったとしてもミキサーで解決するのだから。
――――――肉屋――――――
「あん?あぁお前らか。今日はどうした?いつものか?」
リーダーが肉屋のおっさんを呼ぶと店奥からいつもの肉屋のおっさんが出てきた。図体がリーダーに負けず劣らずでかく、リーダーが言うには過去凄いことをしていた人らしい。詳しくは知らない。
「あぁいつものワム肉1セットくれ。」
「あいよ。いつもの量でいいかい?」
「いや、3割マシでたのむ。今夜ハンバーグすることに決まってんでな。」
「はいよ3割り増しな。なぁ、今夜使うことが決まってんならその分は期日迫ってるのにしないか?安くするぜ?味とか安全面なら保証する。俺の信頼にかけてな。」
「ならそうしてくれ。おっちゃんがそこまで言うなら大丈夫だろ。」
ちなみに、ワームの肉はワム肉と呼ばれる。ワームを知らない人はデカいミミズみたいなものだと思って来れて良い。部位によっては脂があったり筋肉質だったりと割と普通の肉だ。とくにゲテモノなどでもなく、普通に美味しいこの世界では一般的な肉である。今回リーダーが頼んだワーム1セットとはワームのバラやロースなど様々な部位の詰め合わせである。常連になると自分の好きな設定のセットを作ってもらえるらしい。
自分とササは途中でリーダーと別れて日用品を買いに行った。食料を買うのはリーダー、日用品は自分ら2人である。日用品を買うのは特に面白みもなく終わり、おばちゃんに金を渡して店を去る。強いて言えばササが一々これでよいかと買う商品があってたか確認してくるのが可愛かっただけである。
そうして自分たちの買い物が終わり、合流地点に設定した場所に行くとそこちは食材の入った箱を抱えていたリーダーがいた。
――――――――
リーダーと合流した後は車に乗り、少し遠くの市場に向かう。食料品や日用品は買ったので、次はテルノに頼まれたものを買いに行く。
軽トラで数分移動した後に降り、またもやリーダーと別れることになった。どうやらネキ子さんのところに用事を思い出して一旦抜けるようだ。ネキ子さんとはうちが装備などでお世話になっている人のことであり、まぁまたいつか出てくるだろう。なので、現在この場にいるのは自分とササだけである。
自分が買うものはテルノに頼まれたものであり、それは渡されたこのテルノの欲しいものリストに書かれている。それに目を通すと、そこには新しい道具や新型ミキサーなどが書かれていた。一部自分では理解できないような専門部品も書かれている。この辺は店の人に聞こう。しかし、そのうちのいくつかにはバツ印がつけられていた。
この印は買い出しに行く少し前にあったある出来事でついたものだ。
『テルノ。これはうちにあるから買わなくていいぞ。あと、これは何に使うんだ?』
『あれ?それうちにあったっけ。それは多分何かに使うから買っても無駄じゃない。』
『そんなこと言って買ったのに使わず放置してるのどんだけあると思ってるんだ?』
『…ない。』
『うそつけ。さっきお前が忘れてた奴もそう言って買ってすぐ忘れたじゃねぇか。ちゃんと使う理由を見つけてから買うんだな。あとそのミキサーは前に買って1ヶ月経ってないだろ。買い替えが早すぎるわ』
『今の自分用はみんな用にするから。』
『今キッチンにあるのはもらってから半年も経ってないだろ。買い替える必要はない』
『…今私が持ってるミキサーはあれとは違って加熱機能もあるから生肉をそのまま入れても安心だよ。』
『そもそもミキサーで生肉加熱する必要ないからいらん。』
『ブーブー。』
テルノはそれでもブーブーと言ったらしいが今まで放置してきた物の数々を見せられて黙らされたらしい。新型ミキサーは他がダメ出しされようと一番抵抗したらしいが、リーダーによって無惨にもバツにされていた。その後、うるると泣きそうな目でこっちを見てきたが、自分はその目に流されそうなササの目を手で覆い、自分は目を逸らしていた。
リーダーはあまり個人が買うものに口出ししないが、がテルノはそのあたりが酷すぎたのでリーダーにチェックされているようだ。
まぁそんなこともあって、書かれたメモは膨大だが、実際に買うものは少ししかなかった。
「…ミキサーの替え刃か。あいつ新型買う気だったのにこれも買う気だったのか。」
どうせ無理に硬いものを入れて壊したのだろうと予想をつける。多分だが正解をしていると思う。少し前に鰹節もどきを本題そのまま突っ込んでいたし。
ちなみに、あいつはなんでもミキサーにかける異常者である。以前よりかはなんでもミキサースムージーは減ったが継続している。なんでも、もう中毒の域に達しているとか。正直テルノは頭おかしいと思っている。
以前、自分が無理にミキサースムージーを飲まされた時は本能的な拒絶反応が起こった。その感覚に新たな道が開きかけたのは秘密である。サイカにはバレて怪訝な顔をされた。
「ルータ!買ってきたよ!」
「お、ありがと。」
俺がメモに書かれている買っている最中、メモに書かれたもののうち一つを任せたササが自分のところに戻ってきた。すでにササは初めてのお使いは過去に済ませているのである。なお、それをした時には隠れた護衛としてサイカがついていっていた。
その後、リーダーと合流して軽トラに乗る。
――――
ぐぅー。
車のガタゴトとした音ではない可愛らしい音が自身の膝の上から聞こえた。
「なんだササ。腹減ったのか。まぁ気づけば昼過ぎてるしな、そりゃ腹も減るか。」
「うん!お腹減った!」
「そうだな、あいつらに秘密でどっか食い行くか。カレーの残りはまだあるし、あいつらはそれでいいだろ。」
「やったー!」
気づけば昼頃を過ぎていた。この時間になれば食べ盛りなササならたとえ朝にカレーを3杯食べたとしても腹が減るのだろう。ササは食いしん坊なのである。
「ルータは腹減ったか?」
「減りましたね。」
「俺も腹減ったな。今夜はハンバーグで昨夜はカレーだったし…2人は行きたいところとかあるか?俺はラーメンに1票」
「自分はサンドい「わたしラーメン!」ラーメンで」
「おし。ならラーメンで決まりだな。」
何処行くか決まった自分たちはラーメンといえばあの店という店に向かった。
――――
「らっしゃい!お三方、客もいないし好きな席に座ってくださいな!」
「おう。んじゃカウンター席貰うぜ」
ラーメンニルヤ、この街に何軒かあるラーメン屋の一つである。元々この店をやっていたおっちゃんはラーメンの水切りをしている最中に腰痛になり、現在は療養中とのこと。現在はおっちゃんの娘であり看板娘のニランが店を回している。ちなみに少し前におっちゃんは復帰したらしいがまた腰痛になって療養に戻ったらしい。引退しないか心配である。ここのおっちゃんには昔からバイトとして雇ってもらっていたことがある。
そんな思考を他所に置いてカウンター席に自分とリーダーでササを挟んで座り注文する。
「ニルヤラーメン大盛りひとつ硬め濃いめで」
「わたしもりひとつ!からめで!」
「同じの並盛りひとつ硬めで」
ササがわたしもりと言ったのはササ盛りというササ専用の盛りだ。以前、彼女が試しにと大容量バケツラーメンをやっていたことがあるのだが、それはこの体の大きなリーダーでも食い切れるかわからんと汗を流すほどのものだった。しかし、それをササがその小さな体躯でケロッと食べ切ったのだ。その珍妙な光景を見たニランが感動し、そんなササ用にとつくったのがそのササ専用大盛りラーメンである。
ちなみに、ササはうちで一番小さな体躯であるが、大食い対決では一位である。
「やっぱりササちゃんはそうくるか!いやー私もそれ注文されると燃えちゃうねー!それに比べてルータは少なすぎる!育ち盛りな男が並とはなんだいもっと食べな!新しい試作品あるからそれ食いな!」
「ここの並他所の大くらいあるだろうが。並で十分だ。あとそれは自分で食べろ。」
ここの店は量が多いことでも有名だ。一部のレムナンツ回収班が仕事終わりによく行く店でもある。
そして、先ほどニランが食うように勧めてきた試作品というのはニランがメニューに出すか出さないかを決めあぐねている創作料理である。そして、ニランの試作品は当たり外れが激しいことでも有名だ。過去自分が賄いとしてそれを食べた時は見た目や匂いの良さに反して味が終わっていることに衝撃を受けた。あと、ニランは辛さの限界に挑戦してたりもするのでたまに食う前から辛くなるような物を出されたりもするので、試作品はあまり食べないほうがいい。ちなみに普通に料理したら普通に美味い。レシピ通りならば最高のものを提供できるのが彼女である。
「お待ちどうさんお三方。ニルヤラーメン大盛り硬めにササ盛り辛め、並盛り硬めにベニチャーハンひとつね。これはサービスだ。」
「おい待てコラ。最後のなんだオイ。」
リーダーのところには塩味の効いたスープの透き通る大盛りニルヤラーメンがあり、ササのところには漫画盛りに更に漫画盛りを重ねたような少し赤いスープのニルヤラーメン、そして自分の席には並盛りニルヤラーメンと紅色の謎チャーハンが置かれていた。
「感想聞かせてくれよ?お前がバイトしなくなってから食う奴すくねぇんだから」
「食いたくないんだが?あと他にこんなん食う奴いるのか?」
「それじゃササ、食うか。いただきます」
「いたーだきます」
リーダーとササはそんな俺たちの会話に気づいていないとでも言うように気にせずラーメンを啜り始めた。リーダーに助けを求める視線を飛ばしたがリーダーは目線で悪い無理という意思を飛ばしてきた。ササはラーメンに夢中で気づいていない。
「またまたそんなこと言って、お前がこういったことあまり断らない性格だって知ってるんだからな?」
「今日のは見た目からしておかしいだろ。なんでチャーハンなのに赤いんだよ」
「さてな。よくわからん。気づけばそうなってた。まぁとにかく食え食え。今回は食って骨折するようなもんじゃないから。身の安全は私が保証しよう」
「安心できるか」
実際、自分は彼女の試作品を断りきれず何度か食べている。当たりの時は感動で涙を流したがほとんどの場合は別の涙を流していた。
「少しまけてやるからよ、頼むぜルータ」
「いやお前が食えよ」
「私は大体のもんうまく感じるから皆にとってうまいかわかんねぇんだよ」
「料理人として終わってる」
「料理のセンスはないかもしれないが腕はある。うちのメニューならちゃんとうまくつくれるしな」
ニランは料理の腕はある。試作品がおかしいだけで腕はあるのだ。試作品がおかしいだけで。
「さ、食え食え。2人に置いてかれちまうぞ。一口だけでもいいから」
「くっ、死なば諸共貴様も食え」
「もう私は食ったよ」
リーダーのラーメンもササのラーメンも半分に到達しそうになっていた。このままでは2人を待たせてしまう。意を屈して仕方なく食べる。
「……不味くはない。うん。味は悪くない。ただ驚くほどに紅生姜の味しかしない。チャーハンなのに。紅生姜そのものを食べてる味がする。どんだけ入れたんだ」
「紅生姜?そんなのいれてないけど?」
「ならなぜこんな味に……全部がうまく感じる舌をもってたとしても違和感くらい感じるだろ、まぁ今更か。」
紅生姜味のチャーハンに犯された舌を救うためにニルヤラーメンをすする。こっちはちゃんと上手い。半分に切られてある半熟ゆで卵にはそのスープが染み込んでいて新たな味を作り出していた。こういうのをマリアージュとでも言うのだろうか。
ラーメンを食べている途中にチャーハンを食べる。ラーメンに染まっていた口の中に紅生姜の味が広がる。チャーハンなのに紅生姜の味がするのは不思議だが、慣れてしまえば特に問題はないかもしれない。最初の衝撃が大きすぎただけなのだ。まぁこれ単体で食べ切るのは遠慮したいところだが。
しかし、紅生姜チャーハンに染まった口でまたラーメンをすするとこれまた予想以上にうまい。
「おぉ、二口目も食べてくれるとは、今回は当たりの部類かな?店で出していいと思うかい?」
「いいんじゃね?色々衝撃的なだけで不味くもないし、好奇心から食べるやつもいるだろ。リーダーも食べます?」
「いやいい。ちゃんとメニューになった時に食べるよ。」
ちなみに、リーダーは過去かなりのハズレを引いて物理的に吹っ飛んだので、あまりニランの試作品を口にしようとしない。リーダーに限らず、多くの人が食べようとしない。ササはテルノによって食べたらダメやでーと教育されたので食べたことはないらしい。何回も食べている自分が異常な部類なのだ。
「いやー。最近食べてくれるやつが少なくてなー。また頼むぜルータ」
「断る」
「そんなこと言って今回みたいに食っちまうんだろ?」
ちなみに、もし誰かに言われれば否定するが、心の底にはゲテモノ愛好家の欠片が存在している。認めたくはないが存在している。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさまでした!」
「あ、2人はやい。」
すぐさまニルヤラーメンと紅生姜チャーハンを急いで食べる。しかし、自分は早食いランキング最下位。早く食べることもできず、結局2人をかなりの時間待たせてしまった。その間にササはもう一杯食べていた。