第三話
サイカに「ササちゃんとデートいったん?うちも行きたかったわー。」と文句を言われた翌日、この日は特になんの問題もなく仕事が始まっていた。
核周砂漠につくと、レーダーを起動して一見なにもない砂漠を軽トラで走り回る。しばらく走っているとレーダーの反応がいい感じに強くなったので車を止めて降りる。周囲に同業者がいないことを確認して仮拠点を設置し、仕事の準備を各自始める。仮拠点といっても、日光を塞ぐためのテントとかを展開するだけの簡易的なものだ。聞く話では一瞬で快適空間を展開する凄い装置を使う人たちもいるらしいが、自分たちには遠い話だろう。
「さぁて野望ども、仕事の始まりだ!準備はいいか?」
「あいあいさー!」
「おー」
「はーい」
「がんばってなー」
「サイカ、お前もやるんだよ」
リーダーが始まりの言葉をあげると、ササが元気にあいあいさー!と元気あるやる気のこもった返事をし、自分とテルノはササほどのやる気はない返事をする。最初の頃は自分もササのように元気に返事をしていたが何回もしていると簡単な返事になった。サイカは平常運転である。
皆が解散して周囲に散らばる。金属探知機のような手持ちレーダーをリュックから取り出して地面の中を探る。車のレーダーは周囲にどれだけあるかをざっくり探るレーダーで、自分たちが持つのは一つ一つを探すためのレーダーだ。
自分たちがこれから行う仕事はレムナンツ捜索&回収。回収したレムナンツを売るか自分で使うか、どのような目的で集めるのかはそれぞれの班による。うちは売ったり使ったりと色々だ。
「……」
そして、そんなレムナンツが砂漠の表面に出ていることは少ない。ない訳ではないが、基本的に回収するのは砂の中にあるレムナンツだ。理由は前にも記したが、再度記しておく。レムナンツや怪物が出現するのは夜のうちに地表なのだが、ほとんどは壊されるか回収されるのだ。なので地表に出ているものは少ない。たまに砂を被ったものがあったりする程度である。なので、基本的に昼のレムナンツは視認ができない。故に、レーダーで探し出し、掘り出す必要がある。レムナンツ専用のレーダーなんてものはないので普通にガラクタの時もある。否、ガラクタの方が多い。金属片ならば売れるので嬉しいのだが。
「!」
そして現在、レーダーに反応があった。それがなんなのかはこれだけではわからないが、少なくともそこになにかがあることを意味していた。レーダーで探し当てた後することは採掘である。砂を吸う強力掃除機であるバキュームくんを使って砂を吸いよけるのが最近の自分の掘り方である。吸っても周囲から砂が落ちてこないように仕切りも突き刺しておく。
「……」
そうして砂を掘り上げ、出てきたそれは、自分でも持ち上げられるくらいの鉄屑であった。もちろん、こんなものはレムナンツではない。ただの鉄屑だ。これはこれで金属として売れたり使えたりはするが、ハズレの部類だ。それはそれとして回収はする。
核周砂漠のもの全てがレムナンツというわけではない。核周砂漠にはレムナンツでもなんでもないスクラップなども出現する。更に、アンライズが怪物との争いで破損した装備を捨てたりすることもあり、このような鉄屑も普通に多い。なんならレムナンツよりも多くある。
この仕事には運が必要となる。まずレーダーで見つけられるか、そしてそれがレムナンツか。更に、レムナンツが当たったとしてもレムナンツの中にも当たり外れがあるのだから、1日やってあたりのレムナンツが見つからない日なんてざらにある。
あたりのレムナンツの例を挙げると、水を生み出すものだったり、超高火力レーザー砲だったり、あとはパワードスーツなんてものもある。基本的には我々の基本技術では再現できない、または再現するにしても多大な手間や資金資源が必要となるものが当たりに分類される。
ならばハズレはどんなものなのか。実は、すでに話に登場したことがある。軽トラ荷台テントの窓にしているUVカットシートも、実はレムナンツなのだ。調べてもよくわからない謎技術でUVカットを行っている。しかし、UVカットの素材なんて理屈は違えど人工的に作れるのでわざわざレムナンツである必要がないのだ。なので売ってもまともな金にはならず、それならとテントの素材に使われた。
なので、仮にレムナンツだったとしてもそこから更にそれが当たりなのかという話になる。レムナンツ回収班はギャンブル要素の強い仕事なのだ。
「……」
ちなみにこの間も日光に照らされているので普通に暑い。ファン付き作業着になったことで多少暑さに耐えれるようになったがそれでも暑い。寒さにはかなり耐性がついたが暑さはいまだに慣れない。多少は慣れたが、所詮多少だ。作業中用の設置型日傘でも買おうかと思案する。
「……ふぅ、水のも」
ここは砂漠であるので水は存在していないと思われるかもしれない。たしかに、核周砂漠での確保は困難である。しかし、街ならば地下水や前述した水を生成するレムナンツがあったりと、水は案外簡単に手に入る。なんなら水道も普通にあるので、街の中ならばシャワーだって浴びれるし風呂にも入れる。今は水筒の水を飲んでいるが、これがなくなっても軽トラに水タンクが載せられているので水に困ることはない。
そんなこんなでまたレーダーを起動し、周囲を探る。基本的にはこれを繰り返し、午後には場所を変える。自分らのレムナンツ回収は要点だけ言えば、捜索→掘る→回収→捜索再開 という手順を繰り返すだけだ。単純作業なので飽きそうだが、実際飽きるのだがたまに当たりが出ると気分が上がるので続けていても苦ではない。嘘である苦は普通にある。達成感があるのも事実だが。所詮は労働である。ササは宝探しだーといまだ元気にやっているが。
「腹減った」
そんな状況ではもちろん腹が空く。ポケットからパワースティックを取り出し、包装を外して口に含む。塩味や甘味、苦味を強引に練り混ぜた味がするが、ミキサー料理に比べたらマシなので普通に食べられる。栄養満点、炎天下での活動に必要な成分を多く含んだ肉体労働者の味方として大人気の商品だ。なお、ササには考慮して少し高い苺味のが渡されていて、テルノは自作ミキサー栄養ドリンクを飲んでいる。
「さて、仕事再開。」
まぁ、つまるところ、特段何もないので話にしても面白いところはないのだ。ストーリー性を期待するのであれば怪物どもと争うアンライズの方がよい。しかも、うちはササのことを考慮して特に安全を考えているので、余計にそんな展開は訪れない。
そんなこんなで異常事態もなく時は過ぎ、軽トラに乗り移動して新たな地で捜索を再開する。これまでで見つかったレムナンツはサイカによって2つである。どちらも当たりのレムナンツではないが、レムナンツの時点で鉄屑よりかは当たりだ。サイカに煽られてムカついたのは内緒。
レーダー片手に歩いているだけではつまらないので、いまさらの紹介がてら我らが班の話でもしようか。
まず、この班の最古参はリーダーとテルノだ。二人で班を結成し、リーダーの肉体、テルノの頭の二つで活動していたらしい。ウチに来ないか?と他班から誘われるくらいに有能だったそうだ。今でも普通に有能なので、他班から誘われるのも納得である。そして、班結成からあまり時が経たずに入ったのがサイカらしい。二人では手数が足りず、三人となると一気に楽になったとか。サイカは最古参ではないが古参と言える。
その後はしばらく三人で活動していて、一時期はアンライズとして活動していたらしい。そちらでもそこそこの成果を残し、しかしある時期にアンライズとしての活動を中断。夜に活動するアンライズに対して昼に活動するレムスターとしての活動に移った。
自分が入ったのはその時期、と言うか自分という初心者が入ったからまずは練習期間としてレムスターに移行した。レムスターとして活動し、多少肉体運動、環境に慣れてきた頃、アンライズを再開し始める。といっても、自分が夜になりかけの核周砂漠周辺で特訓をしている段階なので、アンライズ移行時期と言ったほうが良い。
しかし、その時期にササが参加した。流石に、夜の核周砂漠にササを連れて行くことはできないと未だ中断されている。
そんなこんなで砂中を探っていればレーダーに反応がある。空を見上げて太陽の位置を見る。今の時間から考えれば、これが最後の採掘だろう。
仕切りをつくり、砂を吸う。もう何回もしたことのある作業を繰り返していると、なにかの表面が見えてきた。鉄屑ではあまりない丸っこいフォルムをしているようで期待は高まる。あまり大きくないようで、周囲の砂をあまり多くよけなくとも、大部分が見えてきた。バスケットボールより少し小さいかくらいの上半分は丸い物体。穴も空いているらしい。
その形に嫌な予感をしながらも拾い上げる。出てきたそれは人の頭蓋骨、の形をしたクリスタルのような、氷のような何かだった。ひんやり冷たく、冷気を放っている。趣味の悪い形をしているが、おそらくこれはレムナンツだ。表面は氷ほど冷たくないし、冷気を出しような機構も見当たらないのに謎の冷気を放っていた。
「冷房代わりにはなるかな」
趣味の悪い形はしているが、だからと言って捨て去る気はとうとうない。たまに転がってるマジもんの人骨ならともなく、レムナンツならば別に問題はないのだ。リーダーにこれ冷房にしないか相談しよう。見た目がアレなのをサイカは嫌がりそうだが、布でも被せればまあ問題ないだろう。
「時間だーーー。作業終わり次第撤収ーーー」
そうこうしているとリーダーから終わりの言葉が届く。頭蓋骨を脇に抱え、砂の大地を踏み締め軽トラに向かって歩みを進める。皆もちょうど作業が終わったか、それか探索中だったのか、すんなりと集まり軽トラに回収物を載せる。そして、運転席と助手席には最古参の2人であるリーダーとテルノが乗り込む。自分とサイカは先にテントに入り、ササが目をキラキラさせながら挙げている両手を2人でつかみ、引っ張り上げた。軽トラに皆が収まり、皆が座席につくとブロロロロというエンジン音がなりだす。そして、タイヤが回りだし軽トラは道のない砂の地面を走り出した。向かう先は皆の拠点。
着くまでには数十分あるので、この時間に回収したものの確認などが行われる。
「新しくレムナンツ回収した奴はいるかー?」
「はいリーダー。レムナンツらしき謎に冷気を放つ頭蓋骨を見つけました。」
「ササもー冷たいのみつけたー!」
リーダーの言葉に返事を返し、獲得したものについて報告する。すると、ソファでサイカと自分の間に挟まれ座っているササが元気よく手を上げた。ササも冷たいものをゲットしたとは偶然だと思い見ていると、ササがカバンから元気よく取り出す。すると出てきたのは白い球体が二つ重なった、高さ20センチくらいの何かだった。言ってしまえば雪だるまである。なぜ砂漠にそんなものが埋まっていてなんで溶けていないんだと突っ込みたくなる気持ちを、レムナンツとかヘンテコなもんいくつもあんだから今更だろと抑える。
リーダーはササが持ち上げたそれを鏡越しに確認し、テルノは助手席から普通に振り返ってまじまじと見ていた。
「丸二つかさなっててかわいらしい見た目しとるやん。何かは知らんけど。それに対してルータのは趣味悪すぎひんか?」
「うっせ。」
「見た感じルータの方はクリスタルで形成されている。冷気の原理は不明。ササの方は氷?のようなもので形成されている。冷たいのはそれが理由と考えられるが、この気温下でその形状を保てていることと冷気だけ出し続けていることからただの氷の集合体ではない。つまり不明」
「おぉ、似た性質のもんが二つ揃うなんて珍しいな。いやあ、今日は午前のサイカの二つのこともあるし大収穫だった。よく頑張ったサイカ!ルータ!ササ!」
「おお!」
サイカに反論できないことを言われ、唇を尖らせながら苦し紛れの言葉を紡ぐ。自分も内心、頭蓋骨よりも雪だるまの方が良いとは思っていた。造形物としては美しいと思うが、別に頭蓋骨に憧れるお年頃ではないのだ。そんなことをしている自分とサイカを気にせずぶつぶつと考察を述べる。しかし、結局結論は不明らしい。レムナンツはそんな簡単に解析できるものではないので当然である。リーダーは激励の言葉をくれていた。ササはそれに喜んでいる。
ちなみに、サイカが見つけた二つのレムナンツは宝石がいくつか嵌められた古びた石板と何をしても傷つかない金属だ。傷つかないだけの金属がレムナンツなのかと疑問に思われるかもしれないが、レムナンツの基準は曖昧なのだ。実用的なものからコレクション価値の高いモノ、ただのゴミまである。
リーダーが先ほど言った通り、今回の捜索の成果は大収穫と言って良い。いつもはレムナンツなんて四つも見つからず、しかも当たりなものもあまりない。しかし、石板は物好きに高く売れるだろうし金属は加工もできないほどに頑丈であるから実用性は乏しいが可能性の塊として技術者に売れるだろう。自分とササの二つは、まあハズレではない。テルノに解析してもらって冷気を調節できるようになれば、冷房として活躍するだろう。
成果の確認を終えれば、あとは家に帰るだけで仕事は終わり。つまりは機材のチェックなどを各自で行ったり休憩したり、リーダーの運転に身を任せるのみである。毎回運転をしてくれるリーダーには感謝をしてもし足りない。
街に着く頃には夕焼けが見える。今日もアンライズ達は夜の核周砂漠という魔境に身を投じていく。ササがいなければ、今は自分もあの中の一人になっていたのだろう。別に命の危険と遭遇したいわけでもないのでササがいてくれてよかったと内心ほっとする。
今日の夜ご飯はリーダー特製シチューだ。