夜中。本来なら吸血鬼族は普通に出入りするが、今夜は奴らが、あの魔王に与する魔族どもがここに攻め入るため、門は閉じている。俺はその門の外で適当な岩に腰掛け、小さな石を食べながら、奴らが来るのを待っていた。
「…」
バリッバリッ ボリッボリッ
掌に収まる大きさの石を、俺は平然と食う。正直、石を食べる魔族なんて俺以外いないらしい。まぁ俺自身もよくわかっていないんだがな。
俺の場合、気がつけばその場に、城の近くで倒れ込んでて、以前の記憶が全くないんだからな。俺が何者で、何であんなところに倒れていたのか、さっぱりわからない。
しかも奇妙なことに、俺が懐に入れてるヴラスタムギアとどっプリンゴチゾウのことも、使い方も知っていた。更に言うなら今は隠してるけど、俺の腹の口に魔石を入れると、こうして人間の姿に擬態できるし、身体能力も高いし、まるで喧嘩慣れしてるような、それでいて荒事に慣れてるような、そんな感覚がある。
でも、右も左も分からないことは事実だったし、実質路頭に迷ってた俺を、オラディオン陛下が拾って、家族も同然に扱ってくれた。元からダウナーで面倒くさがりであろう俺は、そんな幸せを噛み締めてた。
だから尚更、俺は奴が許せなかった。クーデターを起こし、オラディオン陛下を殺したアズガルド、今の魔王が。
バリッ!!
一瞬でも憎しみが募ったせいか、俺は思わず石を乱暴に噛み砕いた。
「……来たな」
気配を察し、目を向ける。奴らだ。アズガルドに与する、愚か者の魔族どもだ。数は……ざっと見て二十ってとこか。対してこちらは一人。だが、俺は負ける気はしなかった。いや、負けられない、か?
「貴様、ここの門番か?命が惜しくば門を開けろ」
「はっ、誰がんな怠いするかよ。バーカ」
「何?」
俺は岩から立ち上がり、奴らに歩み寄った。
「貴様、我らを愚弄するか!」
「愚弄もなにも、お前らは敵だろ?敵に対して容赦なんてするかよ」
「ほざけ!ならばその身で味わうがいい!炎よ集え、火球と成りて、敵を焼け!『ファイアボール』!!」
リーダーらしき奴が詠唱すると、掌から火球が放たれた。だが、俺はそれを食いかけの石を弾いてぶつけさせる。
「……な!?」
「……この程度か?」
奴らが狼狽えるその隙に、懐からヴラスタムギアを取り出し、それを腰に当てる要領で装着する。
『ヴラスタムギア』
それから伸びるベルトが俺の腰回りに締め付け、固定される。どっプリンゴチゾウを手に取り、蓋部分が下になるようにヴラスタムギアの上部のスロットに装填する。
『カップオン』
足場を中心に、気品のある皿が出現し、周りはそれに困惑・警戒する。更に攻撃しようにも、すぐさま半透明の容器が上から俺を覆い被さり防いだ。ヴラスタムギアから黄色い液体が流れ出して、それが俺ごと容器を満たしていく。そんな中で、俺は髪を軽く弄り。
「変……身…」
容器の中、くぐもる声と共に、ヴラスタムギアのレバーを下ろした。
『!』
すると、上にセットされたどっプリンゴチゾウの中が下りて中心部が観音開きで開き、一瞬で俺ごと容器が満たされ、容器が消える。
『プディング ヴラムシステム』
そうして出来上がったプリンはどこからともなく現れた2つのスプーンで掬われる形で削り取られると、それが装甲となって、プリンの下で銀色の素体となった俺の体に装着され、スプーンは側頭部に挿し込まれる形で装着され、変身が完了する。
「な、なんだ!?あれは!!」
「戦士か!?」
「いや、あの姿はまるで……」
この姿を見て、奴らが驚く。
「『ヴラム』……それが俺の名前だ」
名前の由来も、何もわからないその名を、何となく口にしていた。
「な、なんだか知らないが、我らを愚弄した罪は重いぞ!」
「覚悟しろ!」
奴らが詠唱を始める。
「風よ集え、風の槍と成りて、敵を穿て!『ウインドジャベリン』!!」
「水よ集え、水の刃と成りて、手を斬れ!
『ウォーターカッター』!!」
魔法で作られた槍や刃が俺に襲い掛かる。
「はぁ…、だっる…」
先に飛んできた風の槍を首を傾けるだけで避け、続く水の刃をしゃがむ形で避ける。
敵は次々と魔法を放ってくる。
「火よ集え、火の槍と成りて、敵を穿て!『ファイアジャベリン』!!」
「土よ集え、弾丸と成りて、敵を射抜け!『ストーンバレット』!!」
火の槍が空中を舞い、石の弾丸が雨のように降り注ぐ。しかし、俺は冷静にこれらの攻撃を避け、受け流す。
「もうやめろって……。お前ら本当に面倒くせぇな」
これだけやっても、俺に傷一つ負わせられねぇなんて、こいつら下っ端だな。
「くそっ……!!ならこれでどうだ!?」
奴らはまだ諦めずに詠唱を続ける。
「闇よ集え、漆黒の矢と成りて、敵を射抜け!『ダークネスアロー』!!」
闇魔法により形成された闇の矢が俺に向かって飛んでくる。
「はぁ……」
俺はため息をつきながらその場で蹲り、地面に殴りつける。そして腕から出た触手は勢いよく地面を砕き、それが奴らを一網打尽にする。
「がぁっ!?」
「ぐふっ!!」
大半を触手で貫き、戦闘不能にする。
「ぐっ、まだだっ!風よがはっ!?」
まだ息がある奴を勢いよく蹴飛ばし、そのまま追い打ちを掛ける。
「ほらどうした?」
「舐める、なぁっ!?」
立ち上がるよりも早くに叩きつけた上で、椅子代わりに腰掛ける。
「あーあ、だりぃ…」
「がはっ!」
頭を掴んで思い切り地面に叩きつけてやる。
「ぐっ!この距離なら!」
「ん?」
よほど影が薄いのか、気配を隠すのが上手いのか、生き残ってた一人が俺の胸に手を当て、そのまま詠唱しようとするが。
「はぁ…」
「いっ!?」
手を掴んでそのままへし折る。そして胸ぐらを掴んで思い切り頭突きを喰らわせた。
「魔族が聞いて呆れるな。俺一人相手にこの程度かよ」
「まだだ、まだっ、終わってないぞっ!」
リーダー格と思しき奴は満身創痍ながら、詠唱を紡ぐ。
「大地よ集え、我を守護する手足となれ!『マッドゴーレム』!!」
奴の周りから、土で出来た大量のゴーレムが這い出る。
「行けぇ!!奴を殺せぇ!!」
「やってることが一々怠いんだよ」
《ヴラムブレイカー》
心底面倒くさくなり、俺は自身の装甲から黄色とオレンジの差し色が入った青い弓・ヴラムブレイカーを出現させる。
そして、ヴラスタムギアから一度どっプリンゴチゾウを抜き取り、それをヴラムブレイカーに装填する。
《セット》
力が溜まり光るヴラムブレイカーの弦を引く。駆け足だが俺からすればノロノロと動いてるゴーレムどもを前に余裕で弦を引いたまま上に向ける。
すると光が無数の矢となって、俺が弦を放つのをまだかまだかと待っている。そして。
《ヴラムシューティング》
弦を放せば、無数の光の矢は空高く飛び、それが雨のように降り注ぐ。一つ一つが重いそれは土塊のゴーレムどもの体を瞬く間に打ち砕いた。
「はぁ…」
「ぜ、全滅、だと!?」
「これで終いか?」
「く、来るな!!『ファイアボール』!『ストーンバレット』!」
精神的に余裕がないのか、詠唱もなしの魔法を撃ってくる。さっきのと比べたら大分カスみたいな魔法だが、こんなつまらんことでダメージも負いたくないので軽く避けてやることにした。
避けながら、一歩ずつ、怠いと感じながらやつへと足を向ける。
《カップ・レディ》
ヴラスタムギアのレバーを上げると、奴の体に巨大なプリンが纏わりつき拘束する。
「な、何だこれは!?う、動けん!」
「じゃあな。アズガルドと共に消えろ」
《プディングクラッシュ》
「アズガルド様ぁぁぁ~!!」
力を込めた拳を握り締め、プリン諸共貫く勢いでパンチを喰らわせた。奴は爆散し、跡形もなく消し飛んだ。
「はぁ…」
深呼吸をし、変身を解除した。その場に残る静寂が俺に勝利を告げる。再び夜の静けさが戻った中で、俺は門に向かい、力強く押す。門がゆっくりと開き、ブラッドソード領に戻った。