「あははっ!わーいっ!」
「おいこら、肩車してんだから暴れんな」
鉱山の一件から翌日、俺はイブキを連れて街に来ていた。
ライカンにはゴーレムを作ってたやつは逃げ出したと伝えている。それがユノであることは言ってないがな。あいつのあの荒れっぷり、どうやら訳ありらしいし、俺も全部納得したわけじゃないからな。何より。
『も、もう命を狙われたくないっ!!もう自分を偽りたくないっ!!だからもう来ないでっ!!もう許してっ!!人を傷つける魔道具なんて作りたくないっ!!!』
あいつのあの言葉、一体何があったんだ?
命を狙う…、多分アズガルド関連だろう。ユノは特級技師だ、性格は暗くて自己肯定感は低いが、魔道具技師としては腕は立つ。そんなやつをアズガルドが放っておくわけはない。だから逃げる前に捕まえて、人を害する魔道具を作ることを強要されたんだろう。恐らくはそれが嫌で逃げ出してきたんだ。まぁ、当然っちゃ当然だが。
だが、一つ気になることがある。自分を偽りたくない?…どういうことだ?あいつ、一体何があったんだ?
「ラキアお兄ちゃん、どうしたの?」
「プリンの材料の他何か買うものあったかなって考えてるんだよ。イブキ、晩飯何が食べたい?」
「んーとね?イブキ、ハンバーグが食べたーい!」
「オッケー。じゃあそれの材料も買うか」
まぁ、考えても仕方ねぇよな。別にもう関わんなって言われちゃいないし、気にはなるが何かが出来るってわけでもないし。また会える機会があれば、また話をすれば良い。それまでにあいつが落ち着いてくれてたら良いんだが。
「ん?ねぇねぇラキアお兄ちゃん!あれ見てー!」
「あ?あそこに何があるんだ?」
肩車してるイブキが頭をポンポンしてくるので言われた場所に目を向ける。そこではゴーレムによる劇が行われていた。
「あー…、ゴーレム劇団だな。良かったら見ていくか?」
「うん!行く行くー!」
そういうわけで、俺たちはゴーレムによる劇を見ることにした。金を払ってから席にチケットを取って、席に座る。隣の席に座ってるイブキはこれからの劇を楽しみにしてるのか、キラキラした目で劇が始まるのを待っていた。
「なんか面白そうな劇だな」
「うん!イブキも楽しみー!」
俺はこういうものを見るのは珍しいからな、ワクワクしちまうぜ。
イブキとワクワクしながら劇が始まるのを待ち、幕が上がり始めた。そして劇が始まった。内容はこうだ。
かつて悪名轟かせていた古代兵器のゴーレムが、過去の大戦から機能を停止し、何百年と長い年月を眠っていたところを少年に拾われ、温かく迎え入れられ、最初は人の善意など知らなかったが、次第に人間という存在に興味を持ち、心を持つようになった。しかし、ゴーレムが目覚めたことをきっかけに、再び古代兵器のゴーレムを起動し、さらにそれを利用して世界を手中に収めようと企む者が現れる。人の心を持ったゴーレムは身を挺して、皆を守るために戦った。傷つき、体の殆どが動かなくなっても、皆がそのゴーレムに応援した。頑張れ、諦めないで。立ってくれ。と。その応援にゴーレムは応えて、最後の力を振り絞って、敵を打ち倒した。そして、ゴーレムは最後にこう言った。
『ありがとう……、皆』
そうしてゴーレムは機能を停止して、二度と動くことはなかった。しかし人々はそのゴーレムの勇姿を忘れないよう、石像として祀った。
と言ったものだった。
ゴーレムは無機質なものと思われがちだが、心を宿すことが出来る。と見物客に訴えかける劇だった。それなりに楽しかったな。イブキも楽しんでいたようだし。ただ、最後の方はちょっと涙腺に来ちまったがな。
「いいお話だったな、イブキ」
「うん!ゴーレムさん頑張ったねっ!」
そう言ってゴーレム劇団に拍手を送るイブキ。俺も拍手を送る。
その際、この劇に関わった劇団員と今日限り入ったゴーレムを動かす担当の団員が頭を下げていたが、後者は何と一人だった。それも、明るい見た目をした二十歳にすらなってない明るい少女だ。
聞けば、この劇に使われたゴーレム全てを、あいつが動かしたという。どういうことだ?一斉に大量のゴーレムを同じ動きで動かすならともかく、命令系統も複雑な今回の劇に使われたゴーレムたちを、一人で全部動かしたってことか?
…それにしてもあいつから違和感を感じる。まるで昨日会ったユノだ。ユノはミミックストーンの開発者だが、それ以前にゴーレムの製作も動かすのも得意だった。だから一度に複雑な動きの命令も難なくこなすことが出来る。今あいつがやったのは、まさにそれだ。それにあいつが頭に着けてる柚子の髪飾り、あれはミミックストーンだ。これだけのゴーレムを難なく動かせるし、だとするならミミックストーンで擬態している。…間違いない、あいつだ。
「ラキアお兄ちゃん、どうしたの?」
「うん?いや、ちょっとさっきのゴーレム動かしてた姉ちゃんに興味があってな。少し話をしようと思ってな。ここで待っててくれ」
「うん。行ってらっしゃーい」
イブキに待ってるように伝えた俺は立ち上がり、舞台裏に向かう。するとそこには片付けを終えて、お金を貰って喜びながら劇を出るあいつを見かけた。
「おいそこのお前」
「えっ、な、何?」
「さっきのゴーレムたちを動かしてたのはお前で合ってるな?少し話がある。ちょっと来い」
「はっ?はぁ!?ちょっ……」
俺は腕を掴んで引き摺る。
「ちょっと何!?この手は何!?痛いんだけど!?」
「我慢しろ。人気のないところに行くぞ」
そうして俺はユノを引き摺って、人気がない路地裏に来た。
「ちょっと何がしたいの!?私に何か用でもあるの!?」
「用があるから連れてきたんだよ。お前、ユノ・ペッティネだろ?それもミミックストーンで擬態してるな?」
「っ!?何故それを……」
「あれだけ複雑なゴーレムを一人で動かせるなんざお前しかいないだろ。それに、ミミックストーンの開発には俺も関わってたんだ。少なくともお前の次にこれの使い方を知ってるつもりなんだが?」
「う、うぅ…」
ユノは観念したのか、柚子の形をした髪飾り型のミミックストーンを外す。擬態は解かれて、先ほどまでの明るい金髪の少女が、水色の髪をした暗くて眼鏡を掛けてて、露出度の高い服は全体を覆うくらいのコートという低露出のものに変わり、元のユノへと変わった。
昨日ぐらいに泣きじゃくって、そのままの状態で擬態してたからか、髪は手入れもしてなくてボサボサで、顔には涙の跡に加え、目が腫れていた。酷い顔だ。その瞳は震え、今でも俺から逃げ出したくなるような、昨日ほどではないが怯えた目をしている。
何があったかは知らないが、俺に会うのは余程嫌だったらしい。
「……酷い顔だな」
「うぅ…、こういう顔になってるから、余計にラキアに会いたくなかったのに…」
「その割にはお前、昨日俺の顔を見るなり取り乱して逃げ出しただろ?」
「そ、それ、は…!…オラディオン様のことで、ラキアに、責められるんじゃないかって、怖くて…」
「俺が?お前を?」
「だ、だって、ラキア、オラディオン様のこと、慕ってたし、あの人にだけは、敬語を使ってた、から」
「あー…」
確かに、俺は陛下にだけは敬語を使っていた。こんな俺のことを拾って、家族同然に扱ってくれたんだ。だから俺はあの人に忠誠を誓ったんだ。けど、まさかとは思うが。
「まさかと思うがユノ、陛下が死んだのは自分のせいだとか、思ってねぇよな?」
「えっ、ち、違う、の…?だって私、あの時、クーデターが起こったあの時、いきなりの騒ぎで、怖くなって、工房から出られなくなって、それから!アズガルドから、オラディオン様が死んだって聞かされて…!」
「それで自分が駆けつけなかったせいで、陛下が死んだと思い込んでるのか?だとしたらそれは勘違いだし、多分お前が駆けつけても、お前が死体になってただろうな。むしろ、俺からすればお前が生きていてくれたのが、嬉しかった」
「そう、なの…?」
「当たり前だろ?友人が死んで、喜ぶ奴がいるかよ。怠い勘違いしやがって。それに、俺が昨日あそこにいたのは、ここの騎士として、鉱山の調査に来てたんだよ」
「そ、そうだったの?」
「あの時、お前が大人しくしてくれたなら、ここの領主の吸血鬼に話つけておくつもりだったのに、あんなに取り乱して逃げ出しやがって」
「ご、ごめん…」
そうして俯くユノ。
「……それよりもお前、昨日言ってた、自分を偽りたくないって言葉。あれはどういうことだ?アズガルドから逃げ出してから、何があったんだ?」
「えっ?そ、それ……は…」
ユノは俺から目を逸らして、俯いてしまう。
「まぁ、言いたくないなら別に良いんだが……」
「ご、ごめん……。でも、ここまで来たなら、ちゃ、ちゃんと、言わない、と」
唇を震わせながら、ユノは話してくれた。
アズガルドに魔道具技師として雇われた後、人を殺す魔道具を作るように命じられ、それがいやで、わざと性能が低い魔道具を作れば、工房に押し込められて、殴られ蹴られ、ユノの精神状態からもう使えないと判断され、近い内に処刑されようとしてたのを聞いて、ミミックストーンを使って逃げ出したらしい。その時はネズミに擬態して、工房に開いた小さな穴から逃げ出したそうだ。自分の体積よりも小さい生き物に擬態したことで、手持ちのミミックストーンが一つ使い物にならなくなったが、それからあちこちを転々としながら、アズガルドに狙われないためにも人に紛れるために、さっきのような明るいやつに擬態し、らしくもない演技をしてきたらしい。けど、自分が狙われないために周りを利用して欺いてることに罪悪感を覚え、それに加えいつアズガルドが自分を殺しに来るかもわからない恐怖心から、昨日鉱山に引き籠もっていたらしい。
「ま、まさか…、ラキアとあそこで会うとは、思わなかった、けど」
「…そうか」
すると、ユノはその場に座り込み、ガタガタと小柄な体を震わせながら自分の肩を抱いて、涙をポロポロと溢れ出した。
「わ、私…っ、とても怖かったの…!殺されるって聞いて、逃げ出してっ!だけどどこに行っても怖かった……!いつアズガルドが私を見つけるのかって……、それでころされるのかって!だから、だからっ!ミミックストーンで姿を変えてっ、明るい性格を演じてっ、色んな人たちに苦手な笑顔で愛想振りまいてっ!でもっ、自分が狙われないためにっ、色んな人たちを利用してっ、欺いてきてるんだって思うとっ、耐えられなくて、申し訳なくてっ!私、私はっ、どうすればいいのかって思ってっ!どうすれば良いのかわからなくなって……っ!でもっ、でもぉっ……!!」
そうしてユノは泣きじゃくった。今まで必死に感情を押し殺してきたものを、今全部吐き出してるんだ。
……そうだ。こいつは、こんなに弱々しいやつだったんだ。大魔法学院を1年足らずで飛び級と主席で合格した若き天才で、何百体ものゴーレムを難なく動かせるし、何ならミミックストーンを作った特級技師だが、その反面精神面は非常に弱い。臆病で繊細で傷つきやすい。だから俺はこいつのことを、親友のように思っていたんだ。
「……辛かったな。ユノ」
俺はユノに歩み寄り、そのまま抱き締めてやる。
「辛かったよなぁ。ユノ」
「ラ、ラキア……?」
「お前が頑張ってきたことは俺がよくわかってる。お前の助手をしてたからな。でも、辛いよな、親しくしてくれるやつに嘘をつき続けるの。怖かったよな、あいつに狙われるのが。逃げたくもなるよな。でも、よく頑張ったなユノ」
「ラキア……っ!う、うぅっ!」
俺に抱き締められたユノは嗚咽を上げながら泣き出す。
……何だか懐かしいな。そういやユノの助手をしてた頃、何かある度にこうしてたっけ。この小さくて臆病な親友を抱き締めてやると、ユノも安心して泣きじゃくるんだよな。
……さてと。ユノが落ち着いたところでもう一度聞いておくか。
「さてと。ユノ。もう一度聞くが、これからお前はどうしたい?」
「ひっく……。ぐすっ……。そ、それ、は……」
「……このまま隠れてるのも良いとは思うけど、それじゃあまたお前は辛くなるだろ。俺はお前のそんな姿は見たくねぇんだよ」
「……」
ユノは俯く。考え込んでるのだろうか。
「それにな?お前も演技して罪悪感抱いてるって言ってたが、実のところを言うと、俺も今イブキに対して、嘘をついてて、それで罪悪感を覚えてるんだよな、怠いことに」
「え…?」
「…実はな。イブキには、陛下が死んだこと、言ってないんだ。むしろ、あの人はどこかに逃げたけど、まぁその内会いに来てくれるだろうって、そう言ってるんだよ」
ユノは驚いた表情を浮かべる。
「俺は、あいつから笑顔を奪いたくないんだよ。だからあいつの前では陛下のことについては嘘をつく。もちろん他の皆にもイブキに陛下が死んだことを言わないでくれって、頼んでるんだ」
「ラキア……」
ユノは俺をまっすぐ見つめてくる。
「正直、俺はこの選択が正しいのかなんて、わからない。でも俺は、あいつには父親を殺された復讐じゃなくて、何も知らないで、優しい世界に生きて欲しいんだよ。そういうのは、全部俺が背負い込むつもりだしな」
「…でもそれは、辛いことだよ?」
「わかってる。怠いけど、覚悟は出来てるんだよ。あいつが大きくなって、陛下が死んだことを知ったらどう思われるかも」
「ラキア……」
ユノは俯いて黙り込む。そしてしばらくしてから顔を上げた。
「……私は……。今でも、アズガルドが怖い。狙われないための演技も、やめたくても、やめられない…。だけど……ラキア。私は、ラキアの力になりたい…っ!私にできることなら何でもやるからっ……!だからっ……!」
ユノは涙を溢しながらも、俺を見つめてくる。
「…そっか。頼りにしてるぜ、ユノ」
「……うんっ!わかった!私頑張るからっ!」
ユノは満面の笑みを浮かべた。そう言って、またすぐにミミックストーンで擬態してから立ち去ったが、その足取りはどこか軽かった。あいつなりに吹っ切れたのだろう。俺はそう思ってイブキの元に戻った。そして、数日後。
「魔道具技師を雇った?」
「ふっ、そうだ」
「うん?」
スコルピオンからそんな話を聞かされた俺は、少し呆気に取られた。イブキもイブキで首を傾げていた。
「少々気品はないが、腕が立つ者でな?行く宛がないのでぜひ我が配下に入りたいと申し出を受けたのだ。…ライカン」
「はい、こちらに」
スコルピオンの手拍子に、ライカンはあるものを運んできた。人一人が入れるような、そんな大きい木箱だ。
「それは?」
「わーっ!もしかして、宝箱!?イブキ、開けてみたーい!」
「待て落ち着くのだイブキ嬢。此奴は腕は立つのは本当だが、どうも人見知りが激しくてな?こうして木箱に入っていないと、落ち着いていられんのだ」
「そうなのー?」
「…あぁー、なるほどな」
スコルピオンの説明を受けたイブキは首を傾げる。一方で木箱に入ってる奴の正体に俺は気づいた。
「そこに入ってるの、俺が知ってるやつだろ?」
「ふむ、どうだろうな?…ほら、いつまでも引き籠もってないで、顔を出したらどうだ?いくら何でも、配下になったのだから顔ぐらいは見せんか」
スコルピオンはそう促すと、木箱からもぞもぞと蠢く音がした。それからゆっくりと蓋が開いて、水色の髪の少女が顔を出す。そして、俺は思わず笑みを零した。
「ブ、ブラッドソード領の、魔道具技師として雇われました…、特級技師、ユノ・ペッティネと、言います…。よ、よろしくお願いします…」
「…ふっ、あぁよろしくな、ユノ」
「わぁ!ユノお姉ちゃんだー!久しぶりー!」
「わわっ!?」
「お、お嬢様!頭から木箱に突っ込んではなりません!」
イブキがユノに飛びついた。木箱は揺れたが、ライカンが押さえてくれたのでなんとか転ばずに済んだ。
「イ、イブキちゃん、久しぶり。相変わらず元気そうで、嬉しいよ」
「うん!イブキね、ラキアお兄ちゃんとスコルピオンお兄ちゃんとライカンおじちゃんと一緒にいて、すっごく楽しいの!でもね?こうしてユノお姉ちゃんと会えて、イブキすっごく幸せー!」
「そっかぁ。えへへ。イブキちゃん可愛いなぁ」
イブキとユノは笑い合う。こうして久しぶりに会えたんだから、仲良くして欲しいもんだ。
「……ラキアよ。これからイブキ嬢に加え、ユノの面倒を見てもらうが構わないな?」
「……あぁ。いいぜ」
「あ、あの!ラキア!」
俺とスコルピオンが話をしてると、ユノが木箱から出てきた。
「これからは、ラキアの力になるためにも、頑張るからね!」
そう言って笑顔を浮かべたユノ。俺は思わず微笑んだ。
「あぁ。頼りにしてるぜ」
こうして俺たちは再会を果たし、ユノはブラッドソードの領地の魔道具技師として雇われることになった。これから何が起こるかなんてわからない。だがそれでも、俺はユノとともに進んでいこう。そう心に誓った。