未来の見えない南の勇者   作:リビングアーマー

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絶望と希望を与える南の勇者

side:南の勇者

 

 

 

 

「吾輩がーーー来たァ!!!」

 

 

 

 

村を出た俺はとにかく北を目指した。

 

魔王城はこの大陸の最北にあるという情報を掴んだからだ。

 

旅の道中では否応なく戦火の影響を感じた。

 

どうやら事態は俺の思っていたよりも深刻なようだ。

 

行く先々で見る魔族、魔物の被害。

通れなくなった道、もういない人や村。

 

困っている人々を見捨てては勇者の名折れ。

 

俺は勇者として人々を助けながら北を目指した。

 

そして道中もう一つ知ったことがある。

それは"勇者"と名乗る人はこの世界にたくさんいると言うことだ。

 

そんなわけで俺は"勇者"ではなく"南の勇者"と呼ばれるようになった。

 

理由は単純で大陸の最南から俺が来たからだ。

 

まだまだ知名度は低いがこれから歴史に名を残すとしよう。

 

 

 

北に行くにつれそこに住む住民たちの顔色はどんどん暗くなっていく。

 

 

ーー早く魔王を倒さなきゃ(勇者並感)

 

 

決意を新たにようやく着いた中央諸国北側戦線付近。

 

街の人に聞けばつい3日ほど前に大規模な魔王討伐隊が組まれ出発したらしい。

 

今ならまだ急げば間に合うだろう。

 

日が暮れる前までに着くといいが。

 

 

 

 

 

 

感じる…感じるぞ…!

 

走ること数時間、おそらく討伐隊が迂回したであろう森を俺は突っ切っていた。

 

今世の俺は耳や鼻など色々な感覚が鋭いため遠くのこともなんとなくだが分かる。

 

そんな俺の感覚が争いの気配を感じ取っていた。

 

 

方角的にはあっちかな。

 

 

感覚を頼りにおおよその当たりをつける。

 

そして俺は最短距離を通るため脚に力を込め。

 

 

ーーー跳躍

 

 

勢いよく流れる風景。

 

その中にそれらしき隊列を捉えた俺はそこを目指して少しだけ軌道を修正する。

 

 

どうやら討伐隊はすでに魔族と戦っているようだ。

 

さぁ、寝る間も惜しんで考えた勇者らしいかっこいい口上と共に登場だ。

 

いくぞ…!

考えに考えた108の勇者口上のうちの1つ…!

 

名付けて……

 

「吾輩がーーー来たァ!!!」

 

オー〇マイトッ!!!

 

 

 

降り立った大規模戦線の真っ只中。 

 

死屍累々とはこのことか。

 

そこには普通では考えられないような死に方をしている兵士が多数いる。

 

鎧が錆び付き、ところどころ四肢が欠けているもの。

 

まるで折り畳まれるように身体がくの字に曲がっているもの。

 

身体の上と下が綺麗に断たれているもの。

 

 

 

「おや、援軍かな?」

 

緑髪の魔族が話しかけてきた。

 

痩せ細った普通の男に見えるが、俺がくる直前に汚したのであろう血のついた手がその姿に異様さを与えている。

 

 

「あなたも私と遊んでくれるの?」

 

赤髪の魔族も話しかけてくる。

 

こちらも一見可憐な容姿をしているが、

その手に持った生首に映る表情を見ればこの魔族がどれほど残虐な性格をしているか容易に推しはかることができた。

 

「あら?」

 

赤髪の魔族がひどく不思議そうな顔をする。

 

「あなた、まるで死人みたいね」

 

それを聞いた灰色の髪の魔族が自身の推測を話す。

 

「いや、魔力が全く感じられないだけだ。

察するに相当に高名な魔法使いと見た」

 

「………魔法?」

 

俺は魔法なんて使えないというのに何を言っているんだ?

 

「なら早く魔力を見せなさいよ、そんなに魔力を制限していたらあなたもまともに戦えないでしょう?」

 

魔力見せろと言う赤髪の魔族。

 

どうやらこいつらは俺のことを混乱させようとしているらしい。

 

「流石は魔族、訳のわからないことを言う」

 

人間が魔族に勝つ鉄則は、魔族の言う言葉に耳を傾けないこととはよく言ったものだ。

 

魔族の口は人を騙すために付いている。

 

「そういえば先ほど吾輩が何者か聞いてきたな」

 

魔族の言葉を俺は無視し。

鞘から剣を抜く。

 

「今ここに答えよう」

 

「吾輩は"南の勇者"」

 

「魔王を撃ち倒すものである」

 

 

 

side:赤髪の魔族

 

 

戦闘が開始してからはや数分。

 

(なんなのこいつ…!!!)

 

赤髪の魔族、クラールはすぐに終わると思っていた戦闘が長引いていることに焦りを感じていた。

 

(こいつ魔法使いじゃないの!?)

 

魔法使いであるのなら恐れることはない。

魔法は魔族の特権である。

たかだか人間の魔法使い1人どうとでもなる。

 

そう、思っていた。

 

目の前に突如として現れた男にクラール達は戦闘開始からまだ一度も攻撃を当てられていない

 

「"木を操る魔法" 」

 

「"腕を大きくする魔法"」

 

「"鉄を錆び付かせる魔法"」

 

避ける、弾く、避ける。

 

各々の魔族達が魔法を使うが当たらない。

 

最小限の動きで。

時には剣を、時にはマントを使って攻撃を捌いていく。

 

(これだけ動いているのに一切の魔力を感じない…)

 

その人間離れした身のこなしとは裏腹に、男の希薄な存在感が一層の不気味さを際立たせる。

 

(それに偶然かとも思ったけど)

 

(こいつ、魔法を避けてる)

 

魔法の発動タイミングが見切られてる?

 

それともそういう魔法を使われている?

 

 

何かしらタネがある。

 

攻撃してこないことと何か関係があるはず。

 

そんな予想をクラールはしていた。

 

 

「お前結構やるなァ!!」

 

後ろから堪えきれなくなった1人の魔族が雄叫びを上げながら男に斬りかかる。

 

"剣の切れ味を上げる魔法"

 

将軍と呼ばれる

私たちの名目上のまとめ役の魔族だ。

 

この男の魔族の魔法は"剣の切れ味を上げる"

 

単純な魔法だが何百年と修練を重ねたことでそれは近接戦闘において無類の強さを発揮するようになった。

 

 

防御は意味を成さず。

受け流すことも不可能。

 

磨き上げた剣技とこの魔法だけで将軍と呼ばれるほどの強さを得た魔族。

 

人呼んで"斬鉄のシャーフ"

 

 

しかし、そんな歴戦の魔族の攻撃を男は半歩だけ身を引き。

 

 

「騒がしいな」

 

 

ーーー斬

 

 

一刀の元に切り伏せた。

 

音はなく、まるで撫でるかのように振られた一太刀。

 

筋肉で覆われた巨体が崩れ落ちる。

 

「まずは1」

 

まるで遊びは終わりだと言わんばかりの言動。

 

クラールは己の認識を改める。

 

(この男が私たちに手を出さなかったのはただの気まぐれ…!?)

 

その事実に気付きクラールは心の底から震え上がった。

 

ーーー瞬間男の姿がかき消える

 

「2」

遠くから魔法を発動しようとしていた魔族の首が落ちる。

 

「3」

 

男を見失った。悪趣味なことに男はこちらに聞こえるように殺した魔族の数を数えている。

 

 

「4」

 

「5」

 

「6」

 

男の声だけが暗闇に響く。

 

首が落ちる。

 

攻撃されているはずなのに風の音が聞こえるほどの無音。

 

魔力探知では探し出せないことで身に感じる恐怖は倍増していく。

 

ただの人間が何か得体の知れない化け物に感じる。

 

「7」

 

(殺されるッ…!!)

 

恐怖に支配されていたクラールはようやく行動を開始した。

 

"姿を消す魔法"

 

クラールは自身の磨いてきた魔法を発動させる。

 

それほど力のないクラールが今まで生き残ってきたのはこの魔法があったからだ。

 

姿、匂い、果ては魔力までもを消す魔法。

 

発動すれば誰も彼女を見つけられない。

 

「13」

 

例え何があろうと死にさえしなければ次がある。

 

生きてさえいればいい。

 

その考えが彼女をここまで生き永らえさせた。

 

姿を消したまま急いで上空に逃げる。

 

「15」

 

人間は飛べない。

ならば空に逃げてしまえばいい。

 

至極当たり前の結論であった。

 

「16」

 

(そもそも人間との戦争になんて私は興味なかったのよ…

さて、あの人間が死ぬまで100年ぐらいは隠れていましょうか)

 

しかし、それはこの男以外だったらの話だ。

 

「17」

 

聞こえるはずのない声と共にクラールは呆気なくその生涯を終えた。

 

side:南の勇者

 

 

………困った。

 

 

 

後ろの兵士の人たちに流麗な勇者式剣術を見せようと思ったのに、そもそも自分が農家式パワー剣術しか知らないことに気付いた。

 

力を込めてぶった斬るしかしてこなかった弊害がこんなところで出るとは。

 

そんなパワー系勇者は誰も求めていないし俺も求めていない。

 

戦闘が始まってからずっと考えてるが答えが出ない。

 

「"木を操る魔法" 」

 

うーん…どうしよう…

 

「"腕を大きくする魔法"」

 

どうしたらカッコよく…

 

「"鉄を錆び付かせる魔法"」

 

こう…勇者らしく…。

 

 

「お前結構やるなァ!!」

 

 

あー!!!もううるさいんだけど!!!

 

 

「騒がしいな」

 

 

 

ーーー斬

 

 

なんか…もう…何も思いつかないや…

 

よし、日も暮れてきたし兵士の皆さんもあんまり見えてないだろう。

 

暗闇に乗じてさっさと倒しちゃおう。

 

でもそれだと俺が倒したか分からないか…

 

あ、そうだ。

兵士さんたちに俺がちゃんとやってることをアピールするために数でも数えようかな。

 

「まずは1」

 

持ち前の影の薄さを活かしたハイド&デストロイで魔族を倒していく。

 

「2」

 

「3」

 

兵士の人たちにカウントが聞こえるように出来るだけはっきりと声を出して静かに倒していく。

 

「3」

 

「4」

 

ヘイヘーイ!兵士さーん!俺はちゃんと仕事してますよー!

 

「7」

 

南の勇者!

今活躍してるのは南の勇者ですよー!

 

 

「13」

 

賢い魔族は逃げ始める。

森に逃げるもの、空に逃げるもの。

 

「15」

 

人質を取ろうとするものもいるが取らせる隙を与えない。

 

 

1人だけ魔法で消えた。いや、透明になったのかな。

 

姿も見えないし、匂いもしないが俺には分かる。

 

空気の流れ…?なんだろうか。

今世の身体は不思議なことがいっぱいだ。

 

 

ーーー跳躍

 

 

「17」

 

side:一般兵

 

 

「た…助かった…のか?」

 

勇者を名乗る謎の人物が降ってきてから今までの始終を見ていたもの達は、戦闘が終わって数分。

 

やっと自らが助かったという事実を認識することができた。

 

 

「あぁもう安心だ」

「うわぁ!?」

 

溢した独り言に返答があり、そしてその返答してきた者は自分たちを助けてくれた件の男であった。

 

(全く気付かなかった…!)

 

気配が全くしない。自身もそれなりに鍛錬を積んでいた兵士はそれに戦慄を隠せなかった。

 

「怪我は大丈夫か?」

「あ、あぁ…」

「そうか」

 

どうやら自分を気遣ってくれているようだ。

 

その言葉に男が敵ではないと少しホッとする。

 

そして冷静になり男をよく観察すれば改めてとても不思議な男だった。

 

まるで貴族のような、戦場に不釣り合いなカッチリとした髪にチョビ髭。

 

汚れ一つない真っ赤なマント。

 

これだけでも見た人間はなかなか忘れないだろう。

 

しかしそんな存在感のある格好とは裏腹に、どこか儚げな雰囲気を纏った、そんな男だった。

 

「君も大丈夫だったか?」

「うわぁ!?」

 

今度は俺の横にいた兵士に声をかけた。

 

「おぉ、すまない!気付かなかった!

あんたが俺たちを助けてくれたのか!助かった!」

「うむうむ、元気そうでなによりだ」

 

そう言ってまた次の兵士に声をかけていく。

ところどころで驚きの声が響いてくる。

 

(まさか全員に声がけをしてるのか?)

 

ーーーこのような男が勇者と呼ばれるんだろうな

 

素直にそう思った。

こうして男、いや、勇者様は夜が明けるまで兵士一人一人に声をかけ続けた。

 

 

俺たちにとっては長い長い夜が明けた。

しかし、戦いを運良く生き残ったとしても戦争は終わらない。

 

また命懸けで戦う日々だ。

 

「吾輩は次の戦線に向かう」

 

帰路の途中、勇者様はそう言った。

 

「そうですか。少しだけ私たちの街で休んでいかれませんか?最大限のもてなしをしますが」

 

「いや、大丈夫だ。其方たちはゆっくりと休むがいい」

 

 

ーーー休む。

 

その言葉に少しだけ顔が暗くなってしまった。

 

「では皆の者、さらばだ」

 

「えぇ、ではお気をつけて」

 

そう言って勇者様は立ち去ろうとしたが、しかし、何かに気がついたような顔をして、こちらを振り返る。

 

少しだけ考えたあと、勇者様は腰に付いた剣を抜き空高く掲げた。

 

晴天の空に突き出されたその剣は見た目以上の輝きを放っているように見えた。

 

 

「聞けィ!!!兵士たちよ!!!」

 

突然勇者様が叫ぶ。

 

ビリビリと大気が震えるほどの大きな声で。

 

 

「吾輩は人類の剣であり!人類の希望である!」

 

 

 

「吾輩がこれから人類に降りかかる厄災のことごとくを振り払い!この暗闇に閉ざされた世界に光をもたらそう!」

 

 

 

「今一度ここに宣言する!」

 

 

 

「吾輩が魔王を撃ち倒すと!!!」

 

 

 

ーーーだからもう戦わなくて良い。休んでいい

 

 

勇者様から言外にそう言われているような気がして俺はやっと生き残った実感が湧いてきた。

 

(あぁ…故郷に帰れるんだな…)

 

街に帰ってもずっと戦場にいるような気がしていた。

 

その呪縛からようやく解き放たれた。

 

(この人なら、本当に魔王を倒してくれる)

 

そう心から信じることができる、力強い言葉だった。

 

「では皆の者、達者でな!」

 

そう言って"南の勇者様"は人類を救いに旅立って行かれたのだった。

 

 

 

 




勇者(ちゃんと顔と名前覚えてくれたかな…)
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