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side:全知のシュラハト
「なに…?」
中央諸国北側の戦線が壊滅したとの知らせを受けシュラハトは衝撃を受けていた。
"未来を見る魔法"
彼が全知と呼ばれる最強の魔法。
その魔法に初めて差異が生じた。
何十、何百、何千と未来を見てきたシュラハトにとって、自身の行動による結果の差異はあれど、自身の行動以外の差異はこれが初めてのことであった。
「一体なぜ…?」
それは未来の見えるシュラハトにとって、生まれて初めての未知であった。
数ヶ月後、あれから人類側の快進撃は留まるところを知らなかった。
西も東も戦線は壊滅状態。
シュラハトがしてきたこれまでの入念な準備が全て水の泡になった。
調べればどうやらこの現象には人類側に現れた新しい勇者が関わっているらしい。
"南の勇者"
曰く、どこからともなく戦線に現れては鬼神のような活躍を見せ次の戦線に渡り歩く。
曰く、その強さとは裏腹に儚さすら感じるほどの希薄な存在感。
曰く、人類の希望。
曰く、未来が見える。
「まさか…同類が現れたのか?」
本当に未来が見えるのかは些か疑問だが一つ確かなことがある。
それはシュラハトの見る未来のどこにも南の勇者という人物は現れなかったということだ。
人類は魔族に滅ぼされる。
過程は違えどそのような未来しか見えていなかった。
自分以外に本当に未来の見えるものがいるのなら確かめる必要がある。
そう考え、シュラハトは動き出す。
全ては魔族の繁栄のために。
side:南の勇者
西へ東へ跳び回る。
あっちでコロコロ、こっちでコロコロ。
魔族を殺し回る日々。
勇者として活躍できてはいる。
出来てはいるのだが最近悩んでいることが一つある。
ーーー必殺技欲しいなって。
俺の戦い方を思い出して欲しい。
近づいて斬る、ただこれだけ。
こんな地味な勇者がいていいのだろうか。
いや、よくない。
派手な光線の一つや二つ出せるようになりたい。
それで俺は考えた。
そうだ修行しようってね。
聞くところによれば中央諸国クレ地方には高名な戦士の村がある。
正直戦士の村に光線が出せる人がいるかどうかは不安だが、剣術を教わることは出来るだろう。
俺のパワー式農民剣術に流麗さが加わるのならば行く価値はある。
思い付いたら即行動。
ある程度魔族の戦線を壊滅させた俺は一旦の修行パートに入るため戦争の最前線を離れ中央を目指して歩みを進めるのであった。
side:シュラハト
「南の勇者が‥消えた?」
「はい、綺麗さっぱり痕跡を消し」
(確定…か)
ーーー南の勇者は未来が見えている。
シュラハトは南の勇者が未来を見ている可能性を考えたあの時から七崩賢への呼びかけなど着々と南の勇者を殺す算段を立てていた。
その矢先に南の勇者は姿を消した。
これほどまで魔族の戦線をぐちゃぐちゃにしておいて、おいそれと退くだろうか?
最前線の魔族達にそれとなく戦線を下げるように通達していた。
この好機を見逃すほど勇者は愚かなのだろうか?
いや、そんなはずはない。
奴は見たのだ。
自分にとって好ましくない未来を。
「であれば話は早い」
そう、逆に言えばそれはこのままの行動指針を保てば南の勇者は追い込まれるという証拠に他ならない。
未だにシュラハトの見る未来には"南の勇者だけがいない"
「まるで透明人間だな」
南の勇者が関わらない未来は今まで通り見ることが出来ている。
南の勇者を殺せさえすれば自身の見る未来は確かなものとなり、魔族は必ず勝てる。
「なるほど、たしかに人類の希望だ」
シュラハトは焦らない。
彼は冷静に南の勇者を殺すために行動し続ける。
side:南の勇者
「勘弁してくだされ…」
「何を言うか、ここは高名な戦士の村だと聞いて来たのだ、どうか吾輩を鍛えてくれ」
「貴方様に教えることなど何もありませぬ…」
困った…。
せっかく戦士の村で剣術を学ぼうと思ったのにこの村の村長は俺に何も教えられないと言う。
………いや待てよ。そうか。
代々続く戦士の村の剣術ともなれば奥義の一つや二つ作っているはずだ。
だがそれは門外不出の秘中の秘、
そう簡単に教えてくれるはずもない。
つまりこの老人は俺にそれ相応の対価を求めている。そういうことだ。
「ふむ。ならば代わりと言ってはなんだが吾輩の剣を教えようではないか」
「………それでしたら分かりました。貴方様のご希望通りに」
え?いいの?
十中八九無理だと思ったが案外言ってみるもんだな。
しかしついに俺の農家式パワー式剣術も人に教える日が来るとは。
剣を教わりに来た奴が剣を教えるというよく分からないことになるが、相手が納得しているなら良い。
「しかし、本当に出来ることなど数えるほどしかありませんがよろしいでしょうか?」
よしよし、そう簡単に秘密は明かさないだろう。
村にいるうちに村人達と仲良くなり、必ずや必殺技を習得してみせようではないか。
「うむうむ。それで大丈夫だ」
「はぁ」
side:クレ村の若手戦士
俺の名はハルト、由緒正しき戦士の村に生まれた戦士だ。
今日もいつものように皆で鍛錬に明け暮れていると村長が不思議な男を連れてやってきた。
カッチリとした髪にチョビ髭、真っ赤なマント。
その特徴的な見た目とは裏腹な儚げな雰囲気を纏った男だった。
「今日から少しの間だけ皆に剣を教えることになった」
俺たちが訝しんでいると突然男が俺たちに剣を教えると宣言した。
村長はそれを黙って見守っている。
一体どういうことだ…
俺も含めた若手や年長組も皆戸惑った様子だ。
どうやら村長以外の全員が今この場で初めて聞いたようだ。
「とは言っても吾輩が教えるのは我流の剣ゆえ、皆に教えられることはこれだけだが」
そう言って男は剣を天高く振り上げた。
そして一息に振り下ろす。
強く、強く、力強く。
そこに技術など何一つあるのか疑いたくなるほどの無骨な一振り。
(なんだコイツ…)
これを‥教える?
笑えない冗談だ。
日々過酷な訓練を受けてきた俺たちにこの程度の男が指南するなんて。
ただの力任せな一振りを見せて、何を教えると言うのか。
今ので分かった。
この男はズブの素人、いや、素人以下だ。
力だけは多少あるのだろうがそれだけの男。
こんな奴に教わることなど何もない。
「…素晴らしい」
「あぁ」
「見事だ」
にも関わらず年長者たちはこの男の一振りに賛辞を送っていた。
滅多に人を褒めない戦士長でさえ頷いている。
まるで意味が分からない。
皆どうかしてしまったのか?
「それではよろしく頼む」
理解が追いつかない俺をよそに、男による訓練が始まった。
「違う、もっと力を抜くのだ」
「違う、そこの筋肉は力を込めるのだ」
「違う」
「違う」
「違う」
訓練…なのだろう。
ただの素振りをもうどれほどやったのか。
ひたすら力の込め方を直される。
筋肉の一つ一つまでも指摘される。
一体何が見えているというのか。
俺には適当を言っているようにしか見えない。
「うーむ。教えるというのはなかなか難しい」
そしてこの男自身も頭を捻りながら教えている。
まるで出来の悪い子供にものを教えるかのような態度に段々と苛立ってきた。
俺たちは誇り高き戦士だ。
「だーもう!なんだよこれ!?
こんなことして強くなれるはずがないだろう!?」
若手の一人が耐えきれずに訓練を投げ出そうとする。
するとすぐさま年長者達がそいつをボコボコにした。
ーーー黙って訓練を受けろ
他の若手にも分かるような凄まじい覇気を放ちながらそう言外に伝える年長者達。
「下の者が失礼を」
戦士長が頭を下げる。
上の者にここまでさせては若手は従うしかない。
(一体なんだっていうんだ…)
俺は内心で不満を抱きつつ男による訓練を渋々受けるしかなかった。
side:南の勇者
いやぁ思ったよりも熱心に聞き入れられてちょっと嬉しい。
農家式パワー剣術は基本的に思いっきり力を込めて叩っ切ることを目的とした剣だがデモンストレーションでは周りに被害が出ないように出来るだけ力を抜いた。
弱くしよう弱くしようと意識したせいで思ったよりもショボくなってしまったがどうやら合格だったようだ。
クレ村の人達は基本的に優しく、訓練の合間の暇な時間に村の戦士達の鍛錬にちょっとだけ混ぜてもらったりもした。
剣の持ち方や構えの基本、戦う前の所作など
あまり気にしてなかったことを色々学べた。
これでまた一歩、華麗な勇者剣術に近づけたと言う物だ。
うーん、それにしてもこれだけ仲良くなれたわけだしそろそろ必殺技の一つや二つ教えてくれないかな。
「何かお困りですかな?」
俺がそんなことを考えていると
この村に来てから何かと優しくしてくれている村長が話しかけてきた。
「あぁ、少々考え事をな」
よし、ちょっと探りでも入れてみるか。
「なぁ村長。強くなるためには何が必要だと思う?」
「強く…ですか」
「あぁ、そうだ。私はこの村に強さを求めてやってきた」
「村長…強さとは一体なんだと思う?」
さぁここまで問い詰めれば村長もきっと俺が必殺技を身に付けたいことは察してくれるはずだ。
「強さとはまた違いますが」
「………守る者の存在、それこそが最後で己の強さの拠り所になると私は考えております」
のらりくらり質問を躱わす村長。
やはりまだ好感度が足りないということか。
………ん?守る者?
そうだった………!!!
そう言えばまだ俺の物語にヒロインいないじゃないか!?
というか異世界要素のドワーフにもほとんど会ったことないしエルフに至っては一度も会ったことがない…!?
俺はその事実に気づき内心愕然とした。
「そうか‥そうだったな」
こんなところで油売ってる場合じゃねぇ…!
「村長、大変世話になった。どうやら私にはまだやるべきことがあったようだ」
「はい、この老人の言葉が貴方様の助けになったのならなりより」
「明日にでもここを立つ、すまないがしばしのお別れだな」
「お気をつけください」
待っていろ美少女エルフ‥!!!
必ずやその長い耳をこの目で見てやるぞ…!
side:村長
長く生きてきたからこそ初めて会った時に一目で分かった。
その肉体に押し込められた尋常ではない覇気。
ーーー吾輩を鍛えてくれ
初めそう言われた時は何かの冗談かとも思った。
鍛える?どこを?
肉体から溢れんばかりの覇気はもはや人間のそれではない。
鍛えるところなどないほどの圧倒的な生物としての強さ。
「勘弁してくだされ…」
当然断った。
どこの誰とも分からないものを鍛える義理もない。
そう思っていた。
ーーー吾輩の剣を教えよう
正直に白状しよう。ワシは一人の戦士としてこの男の剣を知りたくなったのだ。
「とは言っても吾輩が教えられるのはこれだけだがな」
そう言って振り下ろされた剣。
ワシほど長く生きていない者は、突然剣を教えると言った男の技量に疑問を抱いていたのだろう。
しかし、その認識は一振りで変わった。
強く、ひたすら力強い一振り。
のように見えたのは、きっと若手だけだろう。
ある程度の者達はすぐに気がついた。
男は全くと言っていいほど力を加えていなかった。
完全なる脱力。
にも関わらず、力強さを感じる一振り。
力の流れを完璧に理解し、一の力を百にも千にもする神がかり的な肉体操作。
もしその一振りに力が乗ればその一撃は地を砕き、天を割るだろう。
まさに一撃必殺。
暴力のみに特化した一撃。
ーーーこれを今から教わる?
年長者達は興奮を隠せない。
下手をしなくても門外不出であるべき技術だ。
しかし、男は少しの間の宿代としてこれを教えると言うのである。
戦士としてこれほど有難いことはない。
男は少しの間しかいない。
ならば死ぬ気でものにする。
この修練を止める者は何人たりとも容赦しない。
そうして年長組の固い意志により男の訓練はツツがなく終わり、訓練を妨害した若手戦士はボコボコにされたのであった。
「村長…強さとは一体なんだと思う?」
ワシはこの時まで男が強さについて悩んでいるとは考えていなかった。
これほどの男が強さとは何か疑問を抱いている。
ならばそれはきっと肉体の強さとは別のものを探しているのだろう。
ワシはそれをすぐに察した。
「強さとはまた違いますが」
戦士として、また一人の年長者として回答を出す。
「………守る者の存在、それこそが最後で己の強さの拠り所になると私は考えております」
きっと男は何かとてつもないものを背負っているのだろう。
それはこの老いぼれには何か想像もつかないが、きっと一人で背負うには重すぎるものなのだろう。
そう思っての助言だった。
「そうか‥そうだったな」
男はワシの言葉を聞きハッとした顔をした後、言葉に覚悟を滲ませながらこう言った。
「村長、大変世話になった。どうやら私にはまだやるべきことがあったようだ」
まさしくそれは男の顔であった。
ーーー大切なものは見つかったようじゃ
「はい、この老人の言葉が貴方様の助けになれたのなら、なりよりでございます」
一人の老いぼれとして若き戦士の一助になれた。
これほど嬉しいことはない。
「明日にでもここを立つ、すまないがしばしのお別れだな」
「お気をつけください」
願わくばこの戦士に幸有らんことを。
足早に去っていく男の背に、ワシはそう思わずにはいられなかった。
フェルン「どうしてシュタルク様はいつも熱心に素振りをしているのですか?」
シュタルク「いやぁ、なんかうちの一族素振りに関してはやたらうるさくて」
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