side:アウラ・絶剣のファウスト
「"服従させる魔法"」
息を呑むほどの静寂。
それを最初に切り裂いたのは意外なことにアウラであった。初手から自身が誇る最強の魔法を使う。
それは自身の持つ魔法への絶対の自信から来るものであり、南の勇者を服従させることで最も勝率が高くなるという冷たい計算の結果でもあった。
「終わりね」
ーーー南の勇者は魔力を持っていない。私の魔法が発動すれば問答無用で勝敗は決する。
自身よりも魔力が少ないものに対して無類の強さを誇るアウラは己の勝利を確信して笑みを浮かべる。
アウラのその考えは正しい。
しかしそれが通用しない唯一の"例外"が今回の相手であったことを考慮に入れなければの話だが。
ーーー南の勇者が剣を振るう。
するとアウラが絶対の自信を持つ魔法はその効果が発動する前に"斬られる"
「…は?」
己の魔法が発動しないという異常。経験したことのない結果に思わず声を漏らすアウラ。
「まぁ、何も対策もしてないわけはないか」
一方それを見たファウストに困惑などはない。
まるでこの結果が分かっていたような口ぶりだが、事実ファウストは南の勇者にアウラの魔法は効果がないと予想していた。
南の勇者がここにいる。
未来の見える男が"あえて"ここに姿を現した。
その事実はこれから起こる事象に南の勇者が"対処可能"であることを示している。
故に最強。故に無敗。
未来視の特権。
「面白れぇなぁ」
しかしファウストはそんなこと微塵も気にしていない。
"南の勇者が一体どうやってこの状況を切り抜けるのか"
ファウストが知りたいのはそれだけである。
つまりは好奇心。本気で殺す気など始めからさらさらない。
本番前の遊び。
最強の勇者とやらが一体どれほどのものか。
"味見"をしに来ただけなのだから
殺せるような男であれば殺す。
殺せないような男であればいつか殺す。
「どういう原理か分からねぇが、魔法が"斬られた"」
南の勇者が剣を振ることにより発動した魔法は魔力に戻った。現状から導き出される結論は到底信じられるものではない。
魔族の魔法を"魔力を持たない人間"が打ち破った。それも魔法的なものは一切なく。
それらは魔族の自身から見ても異常としか言いようのない現象。
しかし同時にファウストはこうも考える。
ーーー南の勇者は"魔法そのものを無効化"したわけではない
魔法は発動前に魔力に戻っただけである。
ならば話は早い。
「おい、合図したらもう一度打て。それまでお前は手出すな」
「あ、ちょっと!」
アウラにそんな指示とも呼べない指示を言い残すとファウストは南の勇者へ肉薄するのであった。
side絶剣のファウスト
魔力により強化されたファウストは常人では目で追うことすらできないほどの高速移動で南の勇者に接近し、その勢いのまま回し蹴りを放つ。
「俺と遊ぼうぜェ!南の勇者!」
鋼鉄すら容易く切り裂くであろう鋭い蹴り。
しかし南の勇者はそれを当然のように受け止める。
蹴った足先から伝わる感触はまるで樹齢数千年の大樹のように硬く、重い。
衝撃により遅れて吹き荒れる突風。
ーーー斬撃
南の勇者は返す刃でファウストを切り裂こうと剣を振り抜く。
しかし空中にいるはずのファウストは流れるような身体捌きでそれを避ける。
しかし避けた先から南の勇者は追撃する。
振り抜いた剣の軌道を無理矢理曲げることによる無軌道の斬撃の嵐。
両の手から繰り出される縦横無尽の剣に型などという無粋なものはない。
ただ敵を斬るためがために。より早く、より力強く敵を捕捉し続ける。
ーーー避ける、避ける、避ける
しかし当たらない。
そして極小の、あるのかも分からない南の勇者の隙を突きファウストは掌底を放つ。最小の動作から最大の衝撃を南の勇者の身体に伝える。
瞬間吹き飛ぶ南の勇者。
「かってェなァ」
南の勇者の予想以上の肉体強度にファウストは愚痴を溢す。
魔力で強化されたわけでもない素の肉体とは到底考えられない異常。
ーーー身体能力では向こうが上か
ファウストは冷静に分析してそう結論付ける。
吹き飛ばされた南の勇者が地面に着くなりまるで物理法則を無視したかのようにピタリ止まる。
人外の身体能力が成せる無理矢理のブレーキ。
そして次の瞬間には限界まで身を屈め獣のような体勢で加速する。
ーーー恐らく反応速度、肉体強度、パワー、スピード。どれを取っても向こうが上。
単純な肉体スペックを比較すればファウストに勝ち目はない。
人間という枠組みから離れてみても生物として"異常"な力。
人類最強の勇者。
しかきそんな南の勇者に対するファウストもまた"異常"である。
「全て問題なしッ!!!」
瞬間的に距離を詰めてくる南の勇者にファウストは構えを取る。
恐らく並の魔族ならば反応すら出来ずに斬られるのだろう。
しかしファウストに恐れなどはない。
それは何故か?
理由はただ一つ。2人の間に圧倒的なまでの『技量差』が存在するからである。
ーーー1000年
ファウストが武に捧げてきた時間。
生きている年月との誤差など微塵もない。生まれた時から今までがその年月である。
獣のような低姿勢から繰り出される苛烈な南の勇者の攻撃。その全てをファウストは"先に避けている"。
呼吸が、目線が、筋肉の動きがファウストに南の勇者の次の行動を教える。
コンマ数秒先の未来予測。
しかしファウストのそれはある種"未来視"のレベルに到達していた。
「見えるぜェ!俺にも未来ってやつがァ!!!」
ファウストは南の勇者の極々僅かな隙に拳をねじ込んでいく。
正確に、丹念に、人体を破壊するようにある一点を攻撃する。
しかしそれでも南の勇者は止まらない。
「楽しいなァ!南の勇者ァ!」
実のところファウストには人類が滅びようが魔族が滅びようが興味がない。
あるのは1つ。
強者を狩ることへの猛念。
ーーー南の勇者の剣が跳ね上がる
振り下ろしに合わせ手の甲で剣を弾くという、超高速で行われる剣戟の針の穴を通すかのような神業。
跳ね上げられた剣と共に一瞬、無防備になる南の勇者。
通常であればそのような隙を晒すような真似を南の勇者はしないだろう。
しかし緻密なまでに正確に打ち込まれた拳は一時だけ南の勇者の身体を硬直させる。
「今ッッッ!」
合図を出すファウスト。
そして遂に強者を刈りとる刃は南の勇者に届く。
「"服従させる魔ーーー」
「「僕(俺)たちを忘れられちゃ困るな」」
「"地獄の業火を出す魔法"」
ことはなかった。
sideフリーレン
「逃げようヒンメル、今の私たちじゃ足手纏いになるだけだ」
フリーレンの目の前では南の勇者と絶剣のファウストが壮絶な戦いを繰り広げている。
ーーー次元が違う
魔法使いである自分には目で追えないほどの剣の嵐、その中を飄々とした顔で潜り抜ける"絶剣のファウスト"。
ーーーさっきの口ぶりからして狙いはヒンメル?
まだパーティを組んで一月も経っていない現状。これほどの敵にフリーレンは今自分は何が出来るのかを必死で考える。
ーーーいや、ファウストはヒンメルのことは知らないと言っていた。なら本当の狙いは南の勇者?
戦況は刻一刻と変化している。いつ南の勇者が敗れるか分からない。
しかしそこまで考えてフリーレンは思考を止める。
ーーー考えるのは後だ。魔族の言葉に意味なんてない。
今ここにいることは相手の狙いがどうあれ危険。そう判断した結果の言葉であった。
しかしヒンメルはフリーレンのその提案を拒否する。
「いや、フリーレン。僕たちも戦おう」
「でもーーー」
勝ち目などない戦いをしようとするヒンメルを止めようとするフリーレン。
「フリーレン」
しかしそんなフリーレンの制止に対し笑みをを浮かべながらヒンメルは宣言する。
「でも僕は勇者だ」
"勇者"
その言葉にどれほどの意味が込められているのかフリーレンにはまだ分からない。
何の実績もなく、しかも魔族との戦いは今回が初めて。成り立てほやほやの"勇者"
そんな肩書きに一体何の意味があるのだろうか。
優しくも覚悟の籠った目をするヒンメルを見てそう思う。
「ヒンメルが行っても死ぬだけだよ」
無謀なんてものじゃない。蛮勇と勇気は違う。これは本当に自殺しに行くようなものだ。
そう言おうとしたフリーレンだったがそれを言う前に後ろから声がかかる。
「ヒンメルだけじゃない」
「えぇ」
アイゼンとハイター。
どうやら2人ともヒンメルと同意見らしい。
「男には戦わなくちゃいけない時もある」
そう言ってアイゼンが斧を構える。
南の勇者がファウストに吹き飛ばされる。
しかしフリーレンが危ないと思った次の瞬間には南の勇者がまたファウストに斬りかかっている。
どうあっても同じ人間とは思えない戦い。しかしそれを見てなお3人が怯んだ様子はない。
「ヒンメル、恐らく魔族達は何かを狙っている。狙うならそこだ」
「あぁ、分かった」
このパーティの中で最も戦闘経験があるアイゼンが手短に作戦を伝えればヒンメルが短く返答し腰の剣を抜く。
「お二人には女神様の魔法をかけました。運が良ければ一発は耐えるでしょう」
ハイターが続くようにヒンメルとアイゼンに女神様の魔法をかける。
その光景を見て既に何を言っても止まる気配がないことを察したフリーレンは遂に折れる。
「はぁ、もう分かったよ」
気分は我儘な男の子達の面倒を見るお姉さんである。
ーーーまぁしょうがないか。
「フリーレンは後ろの魔族を頼んだよ」
まるでフリーレンのその言葉を待っていたかのようにすぐに指示を出したヒンメルはアイゼンと共に駆け出すのであった。
side絶剣のファウスト
「ゴミが」
絶好のタイミングを邪魔された。
ヒンメルとアイゼンの攻撃はファウストの魔力で強化された身体に傷を付ける前に弾かれる。
そして、ファウストは2人を吹き飛ばす。
ヒンメルに対しては裏拳を、アイゼンに対しては前蹴りを放つことで同時に2人を処理する。
完璧なタイミングで奇襲されたにも関わらずほぼ完璧な対処のファウスト。
しかし僅かに遅れる。
「ふるべゆらゆら」
南の勇者がまるで幽鬼のように呟く。
次の瞬間。
ファウストは人生で最も"死"を鮮明にイメージした。
「魔虚羅」
ーーー奥の手か…!
南の勇者の言葉に反応して剣が変化する。
恐らく受ければ死ぬ、直感的にそれが分かるほどの魔力を纏った"魔剣"。
しかしファウストは既に避けられるタイミングではないことを察する。
瞬時に状況を認識したファウストは瞬時に自身に巻き付いた魔物の口に手を入れ、そこから一振りの剣を引き出す。
そこらのナマクラであれば剣ごと斬られる。
そう確信したファウストが取り出したのはそこらのナマクラとは比べものにならないほどの名剣。いや、"魔剣"である。
"英雄殺し"
かつて多くの英雄がその剣によって殺され、その怨嗟により"英雄"という概念に対し効果を及ぼすようになった"魔剣"。
その"実物"である。
数百年前に名の知れた大魔族が持っていたものをファウストが奪ったものだ。
ーーー衝突する剣同士
鍔迫り合いに持ち込まれれたファウストは身体能力の差によって徐々に南の勇者に押し込まれていく。
「いい剣だなァ!南の勇者ァ!」
ーーー欲しいッ!!!
地面にヒビが入っていく。
絶体絶命、恐らく選択を誤れば即座に死ぬ。
しかしそんな状況であってもファウストの頭の中は南の勇者の持つ剣で一杯であった。
ファウストは強者が好きである。そしてその強者を殺すための武器ももちろん好きである。
「素晴らしいぞ南の勇者ッ!想像以上だ!」
そして長い拮抗の末、遂に地面が砕け散った。
sideヒンメル
「ゲホッ!ゲホッ!」
「ヒンメル!アイゼン!」
ファウストによって吹き飛ばされたヒンメルとアイゼンにハイターが駆け寄る。
「俺は問題ない」
「僕も、ハイターの魔法のおかげでなんとか生きてるよ」
スクっと立ち上がるアイゼン。
片やヒンメルは動けないのに対し、何事もなかったかのように平然としているアイゼンにハイターはドン引きする。
「この分だとアイゼンには何もしなくてよかったかもしれませんね」
南の勇者もこのドワーフも同じ人類とは到底考えられない。
そうハイターが考えていると。
「アハハハハッ!乗った!乗ったわ!」
アウラの笑い声が響き渡る。
「ごめんヒンメル、遅かったみたい」
フリーレンが申し訳なさそうに自分達の元まで来る。
どうやらフリーレンの魔法が到達するコンマ数秒前にアウラの魔法は発動してしまったようだ。
それだけではない。
「ふぅ〜危なかったぜ」
力の流れを地面に受け流すことでなんとか南の勇者の攻撃を凌ぎ切ったファウストが土煙の中から姿を現す。
「こいつを貰ってなかったら死んでたかもな」
そう言ってファウストは自身の体に巻き付いた魔物を撫でる。気持ちよさそうに鳴き声をあげる魔物。
「グギャ〜」
ダメージらしいダメージのないファウスト。
そして魔法が発動したアウラ。
考え得る限り最悪の状況。
「さぁ、南の勇者。私に服従しなさい」
そしてアウラの天秤は傾き始める。
その傾きは徐々にアウラの魂に傾き。遂にその重さを示す。
天秤はアウラに傾いた。
side南の勇者
アウラの魔法が発動し、天秤がアウラに傾く。
ーーー瞬間。俺の脳内に溢れる"存在しない記憶"
『ちょっとフリーレン、やめてよ』
『ダメだよアウラ、ほら口を開けて』
それはごく普通の放課後。
『わ、分かった!分かったからちょっと待って!』
アウラとフリーレンがお互いのポッキーを食べさせ合う光景。
『あっ………』
しかし残りが一本になってしまったポッキーに気付いたアウラがつい悲しげを声を出してしまう。それを聞いたフリーレンは、なんと最後の一本を口に咥えてしまった。
『ほふぇ、ふぁやく』
『食べながらだから何言ってるか分かんないわよ…!』
文句を言うアウラ。しかしそれは本心ではない。
フリーレンが何をしたいのかなどおおよその察しは付いている。
じっとアウラを見つめるフリーレン。
『あぁもう!』
その視線に耐えられなくなったアウラは遂に根負けし、フリーレンが咥えるポッキーのもう片方を咥える。
ーーーゆっくりと食べ進めていく2人
それはじれったくも確実に2人の距離を縮めていく。
心臓の音が聞こえそうなほど近づく2人。
赤面するアウラに対して無表情のフリーレン。
しかしよく見ればフリーレンの耳元の赤みに気がつくことができたであろう。
互いに近づくその口元はついにーーー
『お〜2人ともこんなところに居たのかよ』
1人の男が教室に入ってくる。
その男の名は絶剣のファウスト。
『なんだよ2人ともここにいたのかよ。ん?何してたんだ?』
顔を真っ赤にしながら口元を隠すアウラにファウストは問いかける。
『な、なんでもないわよ!」
『お、おう。そうか』
食い気味のアウラに狼狽えるファウスト。
しかしすぐにニヤニヤと笑みを浮かべる。机にあるポッキー箱を見ておおよそ何があったのかを察したのである。
『アウラちゃんもフリーレンちゃんも仲良いな〜、俺も混ぜてくれよ』
そう言って2人の肩に気安く触れるファウスト。
"教室の壁"になっていた南の勇者はその一部始終を見守っていた。
その時の感情をどう表現すれば良いのか南の勇者は知らない。
まるで野に咲き誇る花が踏み躙られたような。綺麗な小川に汚染水が流れ込んできたような。
そんな感覚。
そして同時に南の勇者は生まれて初めてある感情を抱いた。
それは"純粋なる怒り"
穏やかな心を持って生まれた南の勇者は、静かなる怒りによって覚醒する。
「絶剣のファウスト」
意識は現実に回帰する。
夢か幻か。しかし南の勇者にそんなことは関係ない
その顔を憤怒に染めながら歩み始める。
「貴様は吾輩が倒す」
「ちょっ!ちょっとなんで勝手に動いてるの!?」
確かに天秤はアウラに傾いている。
魔法は発動し、南の勇者の魂はアウラに服従している。にも関わらずアウラの命令に反して動き続ける南の勇者。
「クハハッ!」
しかし南の勇者と直に戦ったファウストだけは何が起こってるのかを正確に把握していた。
「テメェ、そりゃ"逆だろ"」
それは本来ならあり得ないはずの現象。
あってはならない現象。
理を覆す異常。
圧倒的な肉体強度による優先順位の逆転。
ーーー肉体による魂の掌握
「布瑠部由良由良」
ドロドロとした"負の感情"が口から溢れ出す。
紡がれるその言葉の意味を南の勇者は知らない。
剣がさらに形を変えていく。
よりより効率的に、より手に馴染むように。
ボロボロの布が南の勇者の手と剣を繋いでいく。
魔法によらないその現象は、まさに"呪い"の定義に相応しい。
ならば詠まれるそれは"呪いの言葉"と呼ぶしかないのだろうか。
「来い。魔虚羅」
戦いは次のフェーズへ突入する。
ーーー南の勇者。
ーーー魔力なし、剣のみ。
ーーー百合への情熱、あり。
感想欲しい感想欲しい感想欲しい。
前回は不評だったので今回はどうなったのか知りたい…!
絶剣のファウストの性格は宿儺とパパ黒と魔族を足して3で割ったイメージです。
人の心とかないんか…?
エネルギー吸収アリーナは二次創作なのかなと思ったりしましたが面白いから入れました。
あとXを始めたので良かったらフォローしてくれると嬉しいです。
まだまだ言いたいことがあるのに後書きに書くには狭すぎるぅ。
https://x.com/living_arm0r?s=21&t=X8i7DAVk43Qw8voK0xQs2g