アルコール・ヴィショップ   作:ミトコンドリアン

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どーも、ミトコンドリアンです。
プロムン小説って競争率すごいですよね。ちょっとやそっとじゃ評価貰えんので、もっと努力せねば。

では2話、どぞ。


渡し守と司教/“人格”

 

 バスは道端に停車していた。バスの外からは時計の針の音と、剣戟の金属音、なにかが飛び散る音が断続的に、くぐもって響いてきた。残っている8人の囚人たちは、いつでも出られるようにバスの昇降口周りの席に待機していた。フワンも同様にして、醒めかけている酔いを戻すため、あいも変わらずブランデーを舐めている。各々がただ沈黙して、バスがまた動き出すのを待っていた。

 

 不意に、運転席から人が出てくる。何もせず、ただ外の様子を見ていたヴェルギリウスは、その灰に限りなく近い緑の衣を纏った少女を目で追った。彼女は少し歩き…フワンの隣に腰を下ろした。

 

「………カロンさん……どうかしやした?」

「メフィが休んでる。ヴェルも。だからカロンも少し休憩」

「そお…運転席でお休みになるわけにはいかんのすか」

()()()()()

 

 ぴゅう、と聞こえてきた口笛は誰のものだったろうか。ヴェルギリウスが睨んでいる方向を見るに、ロージャあたりであろうか。確かに、冷やかしたくなる気持ちはわかるし、おもしろい組み合わせであるから、何人かは少なからず二人の関係を意識していた。

 

「〜♩」

「……………」

 

 機嫌の良さそうな鼻歌がバス内に広がってゆく。しかしそれとは対照的に、フワンは冷や汗をたらたらと額から流していた。ほしてしまったグラスを片付け、気まずそうにブランデーの瓶を足の間にはさんで縮こまり、隠すかのように握り込んだ。

 

「ねえ“司教さん”…」

「なんだいカロンさん」

「また、何か読んで」

 

 カロンがフワンを気に入った理由はこれだった。物珍しさというか、興味というか…カロンのそういう“興味”はまるで投げられた賽のようで、表されるまでは方向性がわからぬものだった。しかし、カロンがフワンを気に入って、何度も彼のことばを聴こうとしているのは事実だった。フワンは一瞬迷うかのように手を宙で動かして…胸元のホルスターからそっと本を取り出した。適当なところをぱら、と開いて、紙と活版印刷のインクの香りを浴び、目を滑らせ、吸い込む。

 

「…ペリシテびとは、軍を集めて戦おうとし、ユダに属するソコに集まって、ソコとアゼカの間にあるエペス・ダミムに陣取った

 

 つらつらと、遠目に見れば、酔いの雰囲気も見せずに彼は言葉を紡ぐ。()()()()()()をする時に限っては、彼の呂律は正常に戻った。しかし、たまにしゃっくりは出る。しかし、カロンはそれすらも楽しみに感じている。ヴェルギリウスはそんな彼女の様子を、何もいうこともなしに、むっつりとした顔で眺めていた。

 

ダビデはペリシテびとに言った、「おまえはつるぎと、やりと、投げやりを持って、わたしに向かってくるが、わたしは万軍の主の名、則ちおまえがいどんだ、〈不明な言語〉の軍の神の名によって、おまえに…………」

 

 彼の言葉が止まった。理由は単純だった…カロンは頭に被っていた帽子を膝の上に下ろし、そのこうべを、ゆったりとフワンの外套の肩に預けていた。カロンの方が幾分か上背があるので、側頭部に寄りかかるようにも見えたが…二人がそうすると、まるでふたごの姉弟が、あるいは従兄弟同士がそうするように見えた。人によっては、歳の割にませた男女とも取るだろう。きら、と眼鏡をきらめかせた近くの席の男は、おそらくそんな事を考えていた。彼は煙草を咥えたまま少し口角を上げている。対して、カロンはただなんとなくした、と言わんばかりのすました顔で…フワンの額には珠のような冷や汗が垂れていた。

 

 バスの外では未だに争いの音が絶えなかった。くぐもった怒号、少年の悲鳴に正義の勝鬨…しばらくすると、グラインダーのような機械音のみになった。それを察知したのか、カロンは席を立つ。

 

「おもしろかった。また聴かせて」

「…………へい」

 

 まだ途中も途中なのに面白いもあるものなのか?と、口にしかけたのを彼がぐっと飲み込んだのは、ヴェルギリウスの赤くぎらつく視線をずっと受けていたからであろう。昨晩、誰も知らぬ“素面”の時は、それすらも一笑に伏していたというのに。

 

 少しして、空気の抜ける音と共にバスの昇降口が開き、血まみれの囚人達が入ってきた。ホルスターに本をしまったフワンは、ひとりひとりの顔を見る。先頭のダンテ、未だ笑顔のままのホンル、疲れた、と言わんばかりにため息をつきながらえっちらおっちらステップを上がるイシュメール。しゃっきりと歩くドンキホーテに、青い顔をして口元を押さえているシンクレア。彼らは各々空いている席に座ったし、ドンキホーテとホンルはフワンの右に連続するように座った。エンジンがうわあんと音を立てて動き出す。

 

「うん、メフィもお腹いっぱい。しゅっぱつ」

 

 急アクセルでつんのめる感覚と共に、バスは勢いよく走り出した。

 

ーーーーー

 

「ピンクあたま。カロンの前を変な紙で塞ぐ理由はなに」

「ずっと変な方向へ行くからですよ!私たちが行くべきは南東なのに…」

 

 運転席の方から、新たな乗客と運転手の揉めごとが聞こえてくる。ピンクあたまと呼ばれた   どちらかというと赤髪だと思うのだが   女性は“ユーリ”、今回の目的地である旧L社支部を案内してもらうため、LCが雇ったフィクサーの女性である。では、そんな彼女とカロンがなぜいきなり揉めているのかというと…

 

「心の向く場所。そこに本当の道があるはずだから」

「…地図の見方もわからない、ただの方向音痴ってことじゃないですかーっ!!」

 

 カロンがフィーリングでバスを走らせていることが判明したからである。ユーリも、後ろで一部始終を聴いていたイシュメールも、示し合わせたかのように額を抑えた。

 

〈なんで今まで業務に支障なかったの…?〉

「…カロンさんぁ素晴らしい運転手さんすから」

「ほらみろピンクあたま。司教さんもそう言っている。」

「えっ…」

 

 ユーリは怪訝な顔をしてフワンの方を見た。その顔にははっきりと「大丈夫かこの会社…」と書かれていた。ちょっと気まずくなって、フワンはまたブランデーを舐め…ふと何かを思い立ったのか、傍らに置いてあったアタッシュケースを手に取った。

 

「ん〜、たぶんこれからモメるだろうし……ちょうど良いすね」

 

 そう言いながら取り出したのは、いろんな色の綿…そして、先の尖った針だった。カロンの荒い運転で揺れるバスの中で、フワンは手芸を始めてしまう。ちくちくぷすぷすと、何やら綿の塊を弄っている。

 

 バスに乗ってから、ほんの短い間で気づいたことが一つあった。それは、フワンはこのバスの揺れや急停止の兆候にとても敏感であること。急ブレーキの前はどこかしら手すりをつかんで耐えるし、揺れにも対応している。車内で針仕事なんてことができるのも、それの成せる技なのだろう。

 

 ダンテは何となしに彼の手元の様子を観察していた。彼は取り出した綿の塊を針で刺しては、また別の色をした綿を重ねて刺す、を繰り返し…それはしばらく続くうちに、彼の手によって形を与えられていく。手袋をしたままこんな作業ができるとは。程なくして、フワンは満足げに綿だったものを目の前に掲げた。そして、揺れる車内で立ち上がり、運転席へと歩みを進める。

 

「いいですか〜?こっちが北で、私たちの行くべき方は…」

「大丈夫ですよ、ここはこっちに行っても、次で右に曲がれば…」

「しつこい…」

 

 そちらには、うんざりしたような声を上げるカロンを囲むユーリ、そしてシンクレアがいた。地図の読み方を根気よく教えようとしていたようである。そんな彼らにフワンがえっちらおっちら近づくと、すぐさまカロンが気がついた。

 

「司教さん、こいつらどこかにやって。」

「なっ…貴女って人は!」

「マアマア、落ち着きなさぃな御二方…ほら、運転手さん」

 

 手刀を切るようにユーリに退くよう促したフワンは、カロンの隣にすいと位置を据え…カロンの前に先程作っていた手芸品…()()()()()()()()を差し出した。デフォルメ調の可愛らしいうさちゃんだ。

 

「この子は、えーとそうだなァ…コーラル!コーラルちゃんぇす。この子がある場所に行きたいって」

「……あの…いくらなんでも…」

 

 シンクレアの言わんとすることはわかる。バス乗組員の総意…『子供騙しがすぎないか』。しかし、カロンは“コーラルちゃん”とフワンを交互に見て…フ、と微笑。フワンの掌の上の“コーラルちゃん”を手に取り…計器の上に安置した。

 

「しかたないひとだね、司教さんは。……いいよ」

「よしきた!ユーリさん、地図ちょうだいな」

「えっ…!?あ、どうぞ」

 

 ユーリやシンクレアが必死になって、ちょっと態度がほぐれてきたかな、というところだったのに…。カロンの運転席横の補助席を展開し、隣にくるヴェルギリウスの視線に肩身の狭さを感じているのか、少し身を縮ませながら座る。地図を開いて、少しの間眺め…。

 

「なるほど。車掌さん、この角でハンドル(インド人)を右に!」

「おっけい。ぶるんドリフト、挑戦してみるね」

「えっあっ、衝撃に備えてーっ!」

 

 ばお、とエンジン音が一層大きくなる。張り切り出したカロンとメフィストフェレスに嫌な予感がしたのか、シンクレアが叫ぶ。そして     

 

ーーーーー

「カロンさん、前方にごろつき!」

「まだメフィはおなかすいてない。ぶるんぶるんする」

 

「カロンさん、次の突き当たりで左ぇす」

「りょうかい。気分はとーふ屋さんのむすめ。ぎゅいんぎゅいん」

 

「うむぅ、燃料が…カロンさん、グラインダー起動したまんまドリフトで巻き込めゃせん?」

「司教さん       天才か?」

ーーーーー

 

 

「ききーっ。うん、かっこよく止まれたね」

 

 

 しばらくして、到着。

 

「ひゅーっ、楽しかったすねえ!」

「久しぶりに思いきり、ぶるんぶるん、できた。ありがとう、たまには案内してもらうのもいいね」

「可能なときにゃたまにやりやしょ!…アレ、どうしたんすか皆さ…」

 

 目的地に着いたというのにいやに静かなバス車内を訝しんで、フワンは振り向き…無茶苦茶になった囚人たちと管理人を発見してしまった。

 

「無茶苦茶ですよ…陸で酔うなんて思いもしなかった…!」

「三半規管に狂いを生じさせることに特化したような運転だった」

「フワン貴様、管理人様がお怪我でもされたらッ!!」

「ちょ、おちびちゃん早くどいて、ちょっと苦しいから…!」

「うおわぁあ、世界が回っておりまするぅぅうう…」

 

〈…フワン〉

「え、あ、ひゃい」

 

 かっち、と秒針の音が聞こえる。ウーティスに手を貸してもらって起き上がるダンテの時計の音は、どこか冷たい感じがして………

 

〈とりあえず…当分はきみ、そこに座らないでね〉

「私も同意見です、管理人。…同僚を酔わすなという規則はこちらにも当てはまるのだなと気付かされたよ、なあフワン…」

「え、ひゃ、ごごごごめんなさぁい…!!!!」

 

 ダンテとヴェルギリウスに挟まれて身体を震わせるフワン。調子に乗った囚人に“わからせる”ため、そのまま2人から説教を喰らうフワンを他所に…カロンは満足げに、フワンから貰ったフェルトのうさぎを愛でていた。

 

ーーーーー

 

「……“赤い視線”様の手下にはあんなガキもいるのか」

「ん?別に珍しいことじゃないと思うよ。都市じゃあれくらいでも働いてるでしょ〜」

「そうじゃあなくて…あんなちんちくりんが役に立つのかって話だよ」

 

 目的地で待っていた協力者二人。中背の男性がホプキンスさん、女性の方がアヤさんだ。ヴェルギリウスが言っていたことを要約するに、『8級っていう底辺だからあんまし信用しすぎないでね』みたいな感じだったけど…二人は旧L社支部までの道を先頭で歩きながら、私たちについてずっとぶつぶつ言っていて。ついにフワンが言われる番だった。

 

「えへ、言われてらあ」

〈何とも思わないの…?〉

「マア、呑んだくれでちんちくりんなのは事実すからぁ?」

 

 からからと笑うフワンの表情は相も変わらず赤ら顔。何だか…ホンルや良秀とは別のベクトルで、こういう時に考えてることが分からない子だ。

 

「ほんと…受け答えはできるのによく分からない人です。仕事中に酒を…?バカなんですか…?」

「ずるいよねえ。仕事終わったら分けてくれないかな〜?」

「まあ、みんなそれぞれ事情ってもんがあるだろうから…」

 

 “私この人に引いてます”という目でフワンの方を見るイシュメールに、雰囲気を和らげる冗談を言うロージャ。グレゴールはそんな二人を嗜めたが…フワンが歩きながらくる、と振り向く。

 

「イスマェルさん」

「………………あ、私ですか?」

「これぁ“おくすり”ですから。あしからずぅ」

 

 酔いにとろりとした目をまずはイシュメールに向けそう言った。首がロージャの方を向く。

 

「ロジャさん、お酒の好みありゃす?用意しときやしょ」

「え、ホントにいいの?」

「おしごと終わったらすけど…」

 

 ロージャとフレンドリーに会話を交わしたフワンは、最後にグレゴールの方を向いた。

 

「ぐれっぐサン」

「はいよ」

「…ありがとうございます」

 

 片手に持っていたスキットルを掲げて、彼は礼を述べた。先程のできあがった声とは打って変わって…ウィスキーくさい彼の声は、また明朗なものへ戻っていた。やはり…フワンはあまり分からない。

 

「へへへぇ、……んお、なんかいっぱい来てますね」

 

 ふにゃふにゃな笑い声をあげていたフワンが、前方からやってくるごろつき…虫の頭や腕、脚がくっ付いた人間に気がついた。

 

「あいつらまだ居るのか」

「ぐれっぐサン、やっぱり説得とかできゃせんか?」

「さっきも無理だったし…ありゃダメだ、完全に“呑まれてる”」

 

 同じように虫の腕を持つグレゴールがそう答えた。確かに、受け答えができるような状態ではなさそうだ…!

 

〈総員戦闘準備!危なくなったら交代できるように!〉

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「…ねえ管理人サン」

〈ん、どうかしたのか?〉

 

 フワンがダンテに声をかけたのは、丁度戦闘の真っ最中。矢   剣の方でなく、普通の矢   をつがえ、引き絞り、放つ動作をまるでついでのような感覚で行っているフワンに、ダンテは少し面食らったが…まあ戦闘も佳境であるし、まあいいかと質問に答えることにした。

 

「あれ…あのヒースさん……なんなんす?」

 

 フワンが矢を放つ。その矢はひゅうと飛び、敵の肩を突き通し…その敵は、ヒースクリフの振り回す()()()()()()に押し込まれてしまった。

 

「後悔の内に閉ざされて死ね……!!!」

 

 敵を捕らえた鉄塊   アイアンメイデンを大剣で三度殴る。雷鳴が轟くような破砕音と共にそれが殴り飛ばされ、繋がれていた鎖がびしい、と音を立てて伸びきった。慣性に従って、中でミンチになった敵がヒビから溢れ出してくる。あれは…確実に死んだだろう。

 

「…………アレほんとにヒースさん?」

〈うん、そう…だよ?〉

「疑問符がついてるゃないすか…何したらああなるんすか」

〈ああ、それはね、“人格”を被せてる…らしい?〉

 

 ダンテははっきりしない様子だ。それもそのはず、そのことについては先程聞いたばかりだったのだから。ダンテは続ける。

 

〈ファウストやイサンが言うには…こう、自らの“可能性”だのを鏡を通して抽出する…みたいな感じらしい!〉

「らしいって……つまりアレすか、“別の道に進んだ自分”を被るってこと?」

〈………たぶんそう!〉

 

 ぐっ!と親指を立てるダンテに、「じゃあヒースさんなんか間違えたらあんな風になってたってこと…?」と、少し面食らった様子を見せるフワン。戦闘は落ち着いたようで、“ワイルドハント”のヒースクリフが魔王のような高笑いをしていた。

 

まだだ、まだ足りない、ワイルドハントよ更に……ッはあっ!…………っぱサイアクだなこれ…」

 

 何かを呟いている最中に人格が取り払われ、ヒースクリフは元の姿に戻った。一瞬ふらついた彼は舌打ちと共に悪態をつき、ダンテの“時計ヅラ”をぎろ、と睨み…息をついて表情を戻した。ダンテとフワンへ近づいてくる。

 

「どういう技術なんすかねえ…」

〈さあ。でもすごいと思う。力を引き出す技術としては破格だ〉

「こっちは相当気持ち悪りぃんだが…そうか、()()はまだ被ったことないのか?」

「ええ、まだすね…坊主………」

「ん、何も間違っちゃねえじゃねえか。()()()なんだろ?」

 

 ぴく、とフワンの肩が動く。しかし、そんな様子を他二人は気がつくことはなかった。ダンテが手に持った端末をスワイプしながら囚人達を見渡す。

 

〈フワンのもあるにはあるよ。まだ着せてないだけで…あ、みんなは大丈夫?〉

 

 ダンテの時計頭から、無い眼の視線が左から右へ動く。絵の具で汚れたベレー帽とエプロンをつけたウーティス、蟲の形をしていた筈の手が今は茶色い手甲に覆われたようになっているグレゴール、グレゴールと同じような装束のムルソー…それぞれ先程抽出した人格を被せていた。見回したすぐ後に、皆から人格が取り払われる。

 

「うっ…ああっ、もったいな…ア、大丈夫大丈夫」

「…精神的疲労は感じる。だが問題ない範囲だ」

「私も特に問題はありません」

 

 一瞬ふらついたせいで咥えていたタバコを落としたグレゴールに、他の二人も大丈夫だと答える。ダンテはそれを受けて、顎  があった所  に手を添える。

 

〈…劇的に変わってる人格ほど負担が大きいのかな?〉

「たぶんな…チッ、気分わりい」

「うーん、なんだか怖いすねぇ。ホントに身体に影響ないんす?」

〈ふむ…君も一回被ってみるか?〉

 

 ちょいちょいと手招きするダンテに従い、フワンは身を寄せた。彼はPDAを覗き込むように促し、手に持った端末をすわすわと操作し…画面に写ったものを見て、フワンは眉を顰めた。

 

「うぇ…こんな道もあったのかぁ」

〈すごいよね。強いよきっと!ヒースクリフのとは違って赤色だったけどぜったい強いやつだよ〉

「ええ…もしかして管理人サン…ひとでなしってやつなんすかぁ」

〈…まあ、頭は人間じゃないね?〉

 

 時計頭を傾げるダンテに、囚人たちの心に一つの言葉が浮かぶ…。

 

『ホントに大丈夫か、この管理人…』

 

ーーーーー

 

〈さて…じゃあフワン、準備はいい?〉

 

 旧L社支部の内部。置き去りの腐った死体とまだ新しい死体がごちゃ混ぜになった凄惨な空間で…目の前に迫る敵を見据え、ダンテはPDAを操作していた。

 

「あの…何が始まるんです?」

「フワンに人格を被せる準備をしている」

「ああ、そういえばフワンくんはまだ経験がなかったのであったな!」

「ホント変な技術だよな…こんなに手軽に強さが手に入るとは」

 

 シンクレアの疑問に、拳を構えながらムルソーが答えた。彼の率直でわかりやすい言葉に納得し、シンクレアも武器を構える。ドンキホーテも仲間がどんな姿に変わるか、期待をかけながらランスを握りしめ、グレゴールは鏡技術に関心を寄せていた。そして、敵が迫り…フワンになにか、薄い硝子の膜が被さった。それがひび割れ、鏡となり砕け…フワンの姿がガラリと変わった!

 

『…ッ!みんな止まれ!』

 

 フワンの姿を一目見た敵方の一人が大声を上げた。旧G社の兵士たち…虫の一部を持った人々の目のには、同じ境遇であろう()()が立っているように見えたからだろう。

 

『お前…俺らと同じだよな。なんでアイツの仲間になってる!』

「………………」

『お前も俺らの同類のようじゃないか…アイツなんかに手を貸すのか!?』

 

 敵の一人に言葉を吐きかけられているフワンの姿は…グロテスクの一言に尽きた。

 

 口からは、牙、だろうか?2本の細長いトゲのようなものがフワンの口の両端から生えている。背中には一対の、白黒のまだら模様の翅がついている。が、上半身はそれ以外普通だ。しかし、特徴的なのは下半身。両脚が完全に虫のものへと変貌しており…それが何の脚なのかは、すぐに白日の元へ晒された。

 

「…敵だ」

『な、やはりあっち側k「補給だ…!」こ゜っ…!!』

 

 奇妙な断末魔と共にフワンの姿と…前に立っていた敵の一人が掻き消える。何事かと、敵味方一緒になって辺りを見回していると…頭上から羽音。それに従って首を上へ向ければ…そこには、件のフワンと敵の姿があった。しかし…片方はもがき苦しみ、片方は血走った目で敵を見つめている。

 

「ひ、ひいっ…!!」

 

 シンクレアが怯えたような声を漏らしたことからも、その理由は明らかだった。

 

『あ゛…ぁあ゛…!!!』

「ぢーぅ…ぢーぅ…じるるるるる…」

『や…………やめ……』

 

「バッタと…蚊か、ありゃ?」

 

 グレゴールが呟いた通りに…フワンは敵を華奢な腕と、それに不釣りあいな強靭な飛蝗の脚でがっちりと掴み、口の端にあったトゲをぴったりと合わせた()()を突き立て、敵の一人から血液を吸い出していた。

 

「蚊って…メスしか吸血はしないんじゃ!?」

「旧G社はそういう方向でなら()()()()()からなあ…にしても継戦特化型か。アレは相当珍しい型番だな、俺も一人二人しか会ったことない」

「あれが…フワンくんなのであるか…!?」

 

 吸血を終えたのか、抱えていた兵士だったものを乱暴に投げ出し、不快な羽音と共に舞い降りたフワンは、敵の方へ向き直りながらも口を開いた。

 

「管理人…指示を…早く、血ぃ、すいたいれす…!!」

〈わ、わかった!じゃあグレゴールはフワンの援護、のこり三人は敵の行動を潰して!〉

「ありがとぅ…ヒャア我慢できねぃ!!」

 

 管理人の時計の音と共に、囚人達は一斉に飛び出していく。

 

「よっ、と、危ないな、怪我したらどうするんだ?」

『ほざけ裏切り者が!』

「好きでそうしたわけじゃないんだが…よっ!」

 

 虫の腕を振るい、グレゴールが敵の攻撃をいなしていく。敵の猛攻を受け切り、彼の腕が強かに敵を追撃し…高速で影が飛来した。それに慌てて腕を引っ込めたグレゴールは、押し倒された敵を見る。その上に乗っかっているのはフワン…G社の兵士の人格を被ったフワンであった。

 

「うめ…うめえ…うめ…」

『あ゛…ぎぃ…!!!』

「おいおい、急に入ってくるなよ…!」

「あ…ごめんぁさい、かちょぉ(課長)

「……………お前」

 

 グレゴールがさばいた敵を押し倒して体液をすすりこむフワンは、グレゴールのことを“課長”と呼んだ。その血走った真っ赤な目に何かを思い出したのか眉を顰めるグレゴールだったが…気持ちを切り替え、未だ体液を吸い出されて苦しんでいる敵の首を落とした。せめてもの情けである。

 

「フ…フワンさんほんとに大丈夫なんですか!?」

「えぁ〜…なんかね、戦闘中の敵の人たちを刺すとね、へんな汁がでるんぇす。それをすすったらお酒みたいで好きなんれすね、ぼかぁ」

〈こんなに…変わるものなの…?〉

「ヒースクリフのあの人格も劇的な変化を齎していた為、あり得ることだと思われる」

 

 シンクレア達の健闘により、総崩れになった(混乱・死者多数)敵を前にシンクレアから心配の声が飛ぶ。いや、純粋に心配していたのではなく、鬼気迫るフワンの様子から自分も狙われ始めるのではないかと思ったのかもしれない。フワンの赤ら顔から飛び出した返答が頓珍漢で支離滅裂だったのもその不安を加速させた。ダンテの戸惑いの声にムルソーがフォローを入れたが…グレゴールとフワン、そしてドンキホーテは会話に参加せず、敵へトドメを刺さんと駆け出す!

 

「また来ないうちにさっさと終わらせるか」

「賛成でありまする!さあ、往生するがいいーっ!」

「ぁい、おいしぃ汁飲ませろ!!!」

 

 虫の腕が、飛蝗の脚が旧G社の兵士たちの命を刈り取っていく。その場は次第に屍山血河の様相を呈し…他のものは逃げたのか、そこにあるのは死体だけになった。その天辺で、フワンが未だに骸から血を吸い上げている。

 

「んへ…うめ、おいちぃよぅ…」

「…………………管理人の旦那、早く戻してやってくれないか」

 

 やはり、まだ短い付き合いとはいえ知り合いが、それも自分と比べて年齢の低い子がこんなふうになっていい気はしないらしい。グレゴールは苦虫を噛み潰したかのような渋い顔を浮かべてダンテに呼びかけた。彼は応える。

 

〈それがいいね。じゃあ剥がすよ〉

 

 PDAを操作し、彼の被っていたG社の人格を剥がしたダンテは、ぱき、と薄い鏡の膜が剥がれ元に戻ったフワンに駆け寄る。管理人として、彼はフワンの変わりようが心配だった。未だ山の上に蹲っているフワンに声をかける。

 

〈大丈夫かいフワン、身体は、頭痛かったりは?〉

「……………………ぁぃ」

 

 ゆらり、と、真っ青な顔で立ち上がろうとするフワンはどこからどうみても大丈夫ではなかった。ダンテが体を支えてやり、なんとか地に足をつけ、死体の山を降り…そんな彼らにドンキホーテが駆け寄ってきた。

 

「フワンくん、なにも気に病む必要はない。勇猛な闘いぶりであったぞ!」

 

 それはドンキホーテなりの優しさだったのだろう。囚人達では一番の歳下の彼を気遣うこの行為も彼女の“正義”がそうさせているのだろう。励ますように、彼女はフワンの背中をばむばむと叩いた。激励のスキンシップに、フワンは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゔ、ぉえぇええぇ…!」

 

 ごぱ、びしゃびしゃびしゃびしゃ、と、床を彩る赤にまた赤が上塗りされる。人の身体に戻ったフワンの口から、敵から啜った血潮の滝が流れる。

 

「あ、す、すまない、そんなつもりでは…」

「お゛、ゔぉええぇぇえぇ、げろ、ごぷぉぇあ゛っ…」

 

 フワンの喉が鳴り、鉄分と酸っぱい匂いとが死臭に混ざった。嘔吐のきっかけを作ってしまったドンキホーテは戸惑いを隠せずにいたが、申し訳なさそうに背中をさすってやっていた。

 

〈ど…どうして…?〉

「恐らく…旧G社の人格を剥がした後も、人格を着ていた時に摂取した物はそのまま残り、しかしもう彼の体は元に戻ったため血液を含めた体液を消化することはできず、嘔吐反射が起きたと思われる」

「あー…そりゃ辛いだろうな」

 

 ざっと5人分は吸っていたのだろう。おえ、おえと腹の筋肉を痙攣させ、膨らんだ腹と胸を波打たせて嘔吐く。生暖かい真っ赤な液体が堰を切ったようにどんどん溢れてくる。

 

「げぽ、ごぽ、うぉろろろrrrrrr…」

「フワンさん…ゆっくり吐いてくださいね。我慢しなくていいですから…」

 

 気遣う言葉をかけ、シンクレアもフワンに寄り添う。背の低い3人がこうして寄り合うと、ドンキホーテとシンクレアの髪色が似通っているのもあって、まるで末の子を看病でもしているかのようだった。

 

「おぅ、え………………ぁ…すびばせ…」

 

 暫く吐いた後、真っ青な影のさした顔で彼は謝る。胃液と血液で枯れた喉を震わせ、体は小刻みに震えている。そんな彼を見ていて気の毒に思ったダンテは針を動かし謝った。

 

〈ごめんねフワン…もうこの人格は使うの控え「あ〜…その必要はないです」え?〉

 

 言葉を遮られたダンテの驚きに、フワンはさらに言葉を被せる。

 

「必要なら被せてもらっても…()は全然構いませんよ」

〈そ、そうか〉

「それに…俺はあんたの下の者だから。司令官の言うことは聞かなきゃ」

〈そっか。…じゃあ、そろそろ行こう〉

 

 いい心がけだ、と口にしたのは待機人員のウーティスだったろうか。彼の様子に戸惑いつつも、ダンテは囚人達を引き連れて先へ進む。旧L社内部を歩きながら、懐から取り出したスキットルを一気に煽り、口内の生臭い血液を洗い流し…フワンは呟く。

 

 

 

「やっぱり…()()()()()()()()なんだなァ…」

 

 

【To Be Continued…】

 

ーーーーー

【おまけ】

 

 

「リンバスカンパニィ〜」

 

 

 

あァ、まだ足りない、酔えない…もっとはち切れるほど呑んで呑んでのんで…神よ、俺は暴食の罪を…。

 

んお…あっ課長代理〜、あんたもご一緒し…あ、いらん、そぉ…じゃあ部長どのは?…いらない?ちぇー、付き合いわるぅ…。

 

血はワインってこういうことなんだ!G社ばんじゃ〜い!!!

 

 

『G社 係長 フワン』0̸ 0̸

 

 HP:90〜250

 防御レベル:人格レベル+3

 速度範囲:4〜6

 混乱区間:55%(実数値137)

 パニックタイプ:パニック

 耐性: 斬撃-普通 貫通-脆弱 打撃-普通

 

〈スキル1:蟲翅跳躍〉貫通 色欲 スキルレベル:人格レベル+1

マッチ威力:4〜8

基本威力:4 コイン枚数:2 コイン威力:+2 攻撃加重値:1

 

 [使用時]このスキルスロットの挑発値が4増加

 Ⅰ[的中時]出血回数を1付与。

 Ⅱ[的中時]破裂回数を2付与。

 

〈スキル2:新鮮な補給だ〉貫通 暴食 スキルレベル:人格レベル-1

マッチ威力:4〜14

基本威力:4 コイン枚数:2 コイン威力:+5 攻撃加重値:1

 

 [使用時]このスキルスロットの挑発値が5増加

 Ⅰ[的中時]出血回数を2付与。

 Ⅱ[表面的中時]破裂回数を3付与。自身の最大体力の5%だけ自身の体力を回復。対象の破裂発動時、回復量2倍。

 

〈スキル3:それは私の血〉貫通 暴食 スキルレベル:人格レベル+1

マッチ威力:8〜16

基本威力:8 コイン枚数:2 コイン威力:+4 攻撃加重値:1

 

 対象の破裂回数が15以上ならば、コインⅠを2度再使用。

 

 [使用時]このスキルスロットの挑発値が8増加

 I[的中時]敵最大体力の5%だけ体力を回復。

 Ⅱ[表面的中時]破裂回数を3付与、敵最大体力の10%だけ体力を回復。

 

〈守備スキル:痛いなあもう!〉憂鬱 反撃-貫通 スキルレベル:人格レベル+3

基本威力:4 コイン枚数:2 コイン威力:+4 攻撃加重値:1

 

 Ⅰ[的中時]出血1を付与

 Ⅱ[的中時]破裂3を付与

 

〈バトルパッシブ:因子コード G-4 BF+〉

必要資源:暴食×3 共鳴

回復効果を受けた時、(暴食最大共鳴数×3)だけ挑発値を各スキルスロットに均等に得る。

 

〈サポートパッシブ:ツバつけときやす〉

必要資源:暴食×3 保有

現在体力の最も少ない味方1名にクイック2を付与。

付与対象がG社人格であった場合、効果が強化され、クイック4を付与。

 

【台詞】

〈人格獲得〉

んお…あっ課長代理〜、あんたもご一緒し…あ、いらん、そぉ…じゃあ部長どのは?…いらない?ちぇー、付き合いわるぅ…。

 

〈同期化進行〉

あァ、まだ足りない、酔えない…もっとはち切れるほど呑んで呑んでのんで…神よ、俺は暴食の罪を…。

 

〈朝の挨拶〉

おはようごぜぇますぅ。ささ、起き抜けの一杯…なんでそんなに顔を顰めるんれす?

 

〈昼の挨拶〉

未だ闘いは続いてやす。…補給も絶えず、こっちに走ってきやす!

 

〈夜の挨拶〉

そろそろ日が沈みゃす。寝るのはすきれす。…血に酔わなくても、震えが止まるから。ま、酔わなきゃ寝られんすけどねぃ、ふへぇへ!

 

〈対話1〉

ぼかぁ会社に雇ってもらってうれしいれす。お給料も貰えるし、安全れふから!

 

〈対話2〉

部長どのはかたくって嫌れす。あん人だっておタバコやってる癖にさぁ…。でも、たまに優しくて、好きれす。

 

〈対話3〉

課長代理は接し易い人れす。こんな見た目のぼくにも優しくしてくれやすから。…あの人だけは、このままでいてほしいれす。

 

〈同期化後対話1〉

蚊とバッタの組み合わせが珍しい?なんかそれ以外にも入ってるらしぃすよ?確か………なんしたっけ…?

 

〈同期化後対話2〉

あ、思い出しゃした。僕の施術は確か…()()()()()()()()プラスタイプ、だとか言ってやした。…思い出せてもなんだかわからんすね。

 

〈放置〉

あの…吸いに行っていいれす?おなかすいちゃった…。

 

〈人格編成〉

出撃れすかぁ、やったあ!

 

〈入場〉

補給!補給だぁっ!

 

〈戦闘中人格選択〉

んえっ、なんか問題でも?

 

〈攻撃開始〉

ヒャア我慢できねぃ!

 

〈敵混乱時〉

うぇへへへ、いただきゃーす!

 

〈混乱時〉

あーっ!!

 

〈敵討伐〉

ごっそさんした!

 

〈本人死亡〉

血が、血が足りな…ぁぁ…ブリジッタ…。

 

〈選択肢成功〉

ごほうびの血液パックありやす?

 

〈選択肢失敗〉

あちゃー…申し訳ないれす。

 

〈戦闘勝利〉

いぇーい、作戦成功れす!

 

〈EX勝利〉

血はワインってこういうことなんだ!G社ばんじゃ〜い!!!

 

〈戦闘敗北〉

作戦失敗…次こそは、つぎこそは飲みたい…!!!




カロン:なぜだかフワンを気に入っている。

フワン:のんだくれ坊主。カロンに気に入られていることに戸惑いつつ、なんだかんだ仲良し。

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