アルコール・ヴィショップ   作:ミトコンドリアン

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お久しぶりのミトコンドリアンです。
お気に入りが一気に217件まで増えていてありがたい。見てくれる人のために、少しかかってもぼちぼちやりますわよ。

今回と、おそらく次で第一章は終わり。
少しばかり結末も変えるつもりではあるのでご期待ください。
では、どぞ。


煙に咽せる、血に咽せる。/リンバスカンパニー募集要項

 

 

「おい……おい……おい!寝てねえでとっとと起きろってんだよ!!!」

 

 ふと、頬や胸に筋肉質な硬さを感じていると、フワンのすぐそばから突如として、怒りに満ちた雷が轟いた。何事かと思って飛び起きる。

 

「おあっ!?………あっ、また寝てましたかおれ!」

「ああそうだよ!お前チビのくせに結構重てえしよ…これ以上寝てやがったら引っ叩いてでも起こしてたぜ!?」

「あ、ああ、すいません…降りますよっ」

 

 ひょい、と軽やかに地面へと降りる。ヒースクリフの、なぜか焦りの混ざった嵐のような怒号にたじたじのフワンはゆっくりと周りを見回して…首を傾げる。

 

「いつのまにお外に?」

 

 そう。周りの景色は先程までとは一変して屋外に。それも…血と泥と煙に包まれた、兵たちの怒号飛び交う…戦場へと変わっていたのだ。

 

「自我心道。心中にあるもう一つの道。ここはグレゴール氏の自我心道ということになります」

「じがしんどう………ああ、なるほど…()()教えてくださったアレか」

 

 むせかえる程の熱気と鉄錆の香りに満ちた戦場を見まわし、納得したように呟くフワン。酒気の抜けた顔で武器を取り、構える。

 

「…向き合わなけりゃいかんのでしょう、グレゴールさんが」

「向き合う…か?」

「あれ、教えてもらっとらんですか?」

 

 グレゴールが訳知り顔のフワンに怪訝な表情を返した。それを受けて、フワンは意外そうな顔をした後、武器を一瞥してから口を開く。

 

「…これは、()()がリンバス社に来て、暫くしてからとある人に言われた言葉です。…聞きたいですか?」

「向き合う……俺が…………ッ……教えて、くれないか?」

 

 少し迷い、しかし人の形をした方の手を見つめ、握りしめたグレゴールが強く返した。ファウストがほんの少しだけ目を細めてフワンを背後から見ているのにも気がつかないのか、フワンは納得したように頷き…

 

 

罪と向き合い、自我を守護せよ。(FACE THE SIN, SAVE THE E.G.O)…貴方の為に、祈るとしましょう」

 

 

 酒気のない、はっきりとした厳かな発音で、うやうやしくそう言い放ったのだ。

 

「は…?お、おい、どういう…」

「おい!君たち何してるの!気でも狂った!?早く避難しろ!」

 

 グレゴールの戸惑いの声は、()()話しかけてきた旧G社の兵士によってかき消されるのであった。

 

ーーーーーー

 

 繰り返す、繰り返す。向こうで旗が倒れ、こちらでは血潮が溢れ、煙と鉄条網とがぐるぐるに絡み合い…地獄が延々と続いていた。何度も何度も同じ場所を回り、その度に旧G社の兵士…トーマは語りかけてくる。

 

「君たち何してるの!気でも「トーマ、すまない後にしてくれ」ッ、わかりました課長!」

 

 またもや敬礼を返すトーマを他所に、グレゴールを含めた囚人達は戦場を駆ける。何人かの顔には、ノイローゼになりそうだという感情がそのまま貼り付いていた。

 

「俺の罪と向き合う…向き合う、自我を…?」

「ちょっとグレッグ〜、ぶつぶつ言ってないで、なんとかコレ抜け出せない?もう二十回は繰り返してるけど?」

「抜け出せないからこうして探っているのだろう!?」

 

 ロージャが漏らした文句にウーティスが反応する。囚人達の空気がだんだんと悪くなっていくのを感じて、ダンテが少し身構えると…から、と、何かが落ちる音がした。そちらを見れば、ユーリが落としたのであろう何かをさっと拾っているのが見えた。それは、先程使用したガスマスク。…アヤの死体から拾ったものだった。

 

「おっとと…早く…」

 

 走りながらおぼつかない手つきでガスマスクを括っている。…気持ちはわかる、かつての同僚の装備だ。形見として身につけておきたいのだろう。しかし、ウーティスなどからは冷ややかな視線が浴びせられていて、ユーリはそれを知りながらもそうしていたが…

 

「……反対です」

「え?」

「そのガスマスク。反対に結ばないとまた簡単に落ちますよ」

 

 ぶっきらぼうな、しかし確かな優しさの伴うアドバイスがイシュメールから飛び出した。結び方を簡単にレクチャーする彼女に、ユーリは少しだけ笑みを浮かべ、やわらかくお礼を言っていた。その背後から、フワンも口を挟む。

 

「彼女の遺品…。葬儀をするときは、それを棺桶に。彼女を偲び、我等が覚えていてやるのです。それをあなたは守っているのです。悪いことではないですよ、ユーリさん」

「…葬儀、ですか」

 

 ユーリが、そしてイシュメールも意外そうにフワンを見ていた。もう酒気など血と煙に塗り替えられ、青い顔で震えながらもしっかりと言う彼にユーリが問いを返した。

 

「できますかね…お葬式」

「できるならそうしてあげなさい。あと…あなた方には馴染みはないでしょうが…おれが弔ってもいいです。嫌なら葬儀代だけ出させてください」

「あなた…お坊さん、なんでしたっけ」

「ええ。生憎ながら、()()()()ですがね」

 

 眉間に皺を集めながら言ったフワンに、ユーリはほっと息をつき…

 

「…いいえ。少なくとも、今の言葉は…立派ですよ、フワンさん」

「………………………」

 

 黙ってしまったフワンの心中を知ってか知らずか、そんな言葉をかけたのだった。

 

「君たち何してるの!気でも………」

 

 アルコール切れで震える瞳が、ユーリの背中を追いかけていた。

 

ーーーーー

 

「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」「君たち何してるの!」

 

ーーーーー

 

 繰り返す、繰り返す。繰り返して繰り返しては繰り返す。いくら歩みを進めども、心中の戦争は終わらない。それに加えて…その地獄はどんどんと深みを増していく。

 

 屍山血河は高く広く。軍旗は血に濡れはためかず。血溜まりの血はどす黒く濁り、泥と脳漿とが混ざって一歩踏むたびに靴底に張り付く。世界がひっくり返ってしまいそうなほどの怒号の中、両軍共に手段を選ばず…旧G社の兵士たちの姿も、人外のそれに寄っていく。

 

「ゔ、ぁ…がぁちょ…ここはあぶなぃよ……」

 

 トーマ。かつてのグレゴールの部下の姿すら、悲惨に歪んでしまっていた。落ち窪んだ眼窩からは線虫のようなものがまろび出て蠢く。背中には透明なタンパク質の羽が生え、身体のあちこちからキチン質の外骨格が突き出して。…あと一歩進めば、もう人の姿すら留めないだろう。そんな様相に耐え切れなくなったか、それか単純に繰り返しにうんざりしているのか、ロージャが不快感を露わにして口を開いた。

 

「……もう聞き飽きてから三十五回くらいだから言うけど。私たちはイカれてなんかいないし、その老化爆弾なんかにも当たらないから」

 

 他の囚人も、はっきり言って彼女の発言におおよそ同意していた。特にグレゴール、そしてウーティスはもうこの戦場の空気を取り入れたくはないだろう。…それを、彼女は彼女なりに代弁したの、だが。

 

「…………え…?」

 

 その言葉をトーマが聞いた途端…音が途切れた。まるでスピーカーのつまみを…いや、音を入力するコードをそのまま抜いてしまった時のように、ふつ、と戦場が静かになったのだ。ロージャ含めた囚人達がその異変に辺りを見回すと…旧G社の兵士たちは、皆一様に空を見上げていた。

 

「…な、なあ」

 

 視線を戻す。トーマも悲痛な表情を浮かべ、空を見上げて…指まで指していた。残った瞳は、血と少ない涙に濡れていて…

 

「助けて…くれよ」

 

 からからに乾いて潰れた喉で…小さな、ひそやかな声で。

 

「死にたく、ない」

 

 しかし必死に、兵士たちの総意を…代弁した後に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天から柱が落ちてくる。

 

「…は?」

 

 それは、空を見上げていたトーマを容赦なく叩き潰す。虫を始末したその肌色の柱の先は平たく、5本の突起が突き出していて、その下敷きになったトーマをさらにねじって捻り潰して…………

 

「…………お手て、だ」

 

 フワンの口から漏れた言葉は…もう、皆分かっていることの再確認だった。

 

〈は、走れえーっ!!!!〉

 

 内臓を震わす警笛に従って、一斉に踵を返して走り出す。

 

「総員退避ィッ!!!!」

「今やってます!!!!!!」

 

 シンクレアの驚愕と焦りに満ちた叫びが戦場を木霊する。一行が走り出した途端に、天から何本もの腕が、掌が落ちてくる。走った場所の隣に、背後に掌が落ち、飛沫を跳ね上げるのがわかった。

 

「お、おいおいおいおい!!このままじゃ全員揃ってぺっちゃんこに伸されちまうぞ!!なんか案ねぇのか!?」

「…思索中です。心象風景内は不可思議かつ不確定な現象が多く、ファウストですらも一概にこれ、といった判断を下すことは予測不可能な危険につながる可能性の方が高いため、推奨されません」

「はぁ!?チッ、頭でっかちじゃダメだな…誰かなんかねえのかよ!」

 

 ヒースクリフの怒鳴り声はこの状況でもよく通る。しかし、皆返事を返さないと言うことは、意見は何もないと言うことである。それに歯噛みするヒースクリフだったが…背後からこんなやりとりが聞こえた。

 

「ひゅ、ひゅう、かひゅ、はへ、た、たすけ、たすけ…!!」

「…フワン殿?フ、フワン殿の様子が変であります!!」

 

 ドンキホーテが報告した通りに、フワンは精細を欠いていた。息は切れ、さらに真っ青な顔でふらふらなまま足を踏み出している。何かが彼を刺激したのだ。

 

「…確かに、()()()()()()()掌だな」

〈えっ、フワンこれでもダメなの!?〉

 

 そう。良秀の言う通りである。自分よりも大きな存在が、こちらに迫ってくる。その状況がフワンの精神を刺激していた。彼はもうこれ以上走れないのか、だんだんと速度を落としていき…

 

「…この手…マニキュアが塗ってある。それも丁寧に……ッ、こっちだおチビさん!」

「お、わっ…!」

 

 グレゴールが飛び出した。ふらついたフワンの手を引っ張ると、あわや掌の下敷、という間一髪のところで抜け出す。フワンの手を引きながら走り、グレゴールは声を張り上げた。

 

「なあファウストさん!ここは本当に、俺の心の中なんだよな!?」

「はい。黄金の枝が共鳴したことにより…「今はいい!…そして、なあ、神父のおチビさん」

「は、はひ」

 

 グレゴールはフワンの方へ振り返る。

 

「罪と…向き合う。そう言ってたよな」

「え、ええ」

「……………じゃあ、俺は…俺たちは、アレから逃げちゃダメだ」

 

 そう呟いたグレゴールはゆっくりと速度を落としていく。周りの囚人達はそれをギョッとした表情で見る。

 

「お、おい!酸欠で頭パーになっちまったのか!?」

「もしあの手があの人のものなら…俺の事を逃さないだろうから」

 

 歯を噛み締め、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるグレゴール。ここは彼の心の中で、この手のひらもおそらく彼にとってのトラウマの一つなのだろう。…しかし、彼は今しっかりとそれを見据えていた。イカれた様子など微塵も感じ取れなかった。

 

「………管理人の旦那」

〈………………〉

 

 燃える時計を鋭く見つめ、一言。それを受けたダンテは、しばしの沈黙の後…

 

〈…わかった。このままじゃ結局逃げ切れない。……総員、止まって〉

 

 彼も腹を括って、囚人達に号令をかけた。皆はゆっくりと立ち止まり、ダンテの近くへ。息を整えながら空を見上げ、少しして…それはやってきた。ゆっくりと、掌を広げてこちらへ落ちてくる。

 

「ひゅ…ひゅ…う、ぅ、ぅ…」

 

 グレゴールは形を留めている方の手に握ったフワンから震えが伝わってくるのを知覚していた。そちらを見れば、やはり蒼白な顔面で滝のような汗をかいている。呼吸も浅い。涙まで流しだしそうだ。それにいい気分がしなかった彼は…

 

「うわ、えっと……ああもういいや。暫くじっとしてろ、おチビさん」

「んぇ?っ、もご…!」

 

 彼の後頭部をぐいっと近くに寄せ、彼の胴体に埋めてしまった。身体で目隠しをされたせいでくぐもったフワンの声が腹から伝わってきて…

 

 頭上の掌が速度を緩めた。そしてゆっくりと、まるで硝子細工を崩すまいとするかのように慎重に、かき集めるように囚人達を掴む。ふんわりと優しく握られた後、一行はわずかな浮遊感を感じ…

 

 どこかへ運ばれている…そんな結論に至ったのだった。

 

ーーーーー

 

〈わ、わわわ…っ!?〉

 

 暗闇が拓く。遠ざかっていく柔らかな香水の香り。ずっと脚がぶらりんと放られていたダンテは、バランスを崩しながらもなんとか着地した。急いで周りを確認して、ユーリを含めた皆が無事だとわかってほっと胸を撫で下ろす。

 

〈よかった…みんなとりあえず無事だね。怪我は…ずっと時計回せなかったし溜まってるかな〉

「左肘関節が外れて5分程前から赤く腫れ上がっている。脱臼、ないし骨折と見られる」

「……………左手の指が幾つか無くなりにける」

「左眼が見えてないでありまする。シンクレア君、どうなってるか見てくれまいか?」

「…わ…目が…ぐ、ぐちゃっと潰れて…!!」

〈………回すね〜〉

 

 自我心道に安全な場所など存在しなかった。戦闘も起きていたので、囚人達の負傷も溜まっている。ダンテは苦痛に耐えながらも意識を彼方へと離脱させ、門を開き囚人達を再生させる。傍目に見ていたユーリにとっては何度見ても慣れない光景だ。

 

〈ハア、ハア…これに慣れなきゃいけないのか…〉

「かたじけない、管理人殿!」

「ありがとねダンテ〜、だいぶすっきり…で。グレッグ、そろそろ離してあげたら?」

 

 斧を片手に固まった肩を回していたロージャは、不意にグレゴールへ呼びかけた。彼は何のことだか一瞬わからなかったが…まあ、すぐに気がついた。

 

「んむー、もがもがもが…」

「え?…………あっ、忘れてた」

「ぷはっ…ご、ごめんなさい。見苦しいところを…」

 

 グレゴールは自分に向かって謝罪するフワンの顔を見た。未だ真っ青で涙に濡れた顔。自分のシャツを見ると、涙のシミができていた。それに気づいてから、誤魔化すようにグレゴールは笑ってみる。

 

「これぐらいすぐ乾くさ。血の汚れよりよっぽどいい」

「いえ、そうではなくて…脚を、引っ張ってしまって」

「ああ………まあ、結局死んでないし、いいさ」

 

 未だ責を感じているのか俯いたままの少年にかける言葉が見つからなくて、当たり障りのない返事をしながらタバコに火をつけた。ちり、と紙と草とが燃えていく。

 

「それに…あんたの言葉のお陰で結構早く決心がついた。脚を引っ張るばかりでもないさ」

 

 ぷは、と紫煙を吐き出しながら、安心させたいがためにニヒルで下手な笑みを見せる。つまんだ煙草の先でフワンを指すようにして、続けた。

 

「なんだ…俺の為に祈ってくれるそうじゃないか?あんたは」

 

 あんたの説法、まあほんの少し…できるだけ実践してみることにしたよ。小さく呟いて、右手の側面でとんとんとフワンの肩を叩いてやった。その褐色に艶めくキチン質の甲殻を横目で見つめ、フワンは再び煙草を咥えたグレゴールに呼応するように、彼が煙を吐き出すのに合わせて…ぷは、と息を吐いた。

 

「…………祈ります。おれは…誰のためだって」

 

ーーーーー

 

〈この先だ。ファウストが言う気配の出所…〉

「では、この隔離室の奥、向こうに潜んでいるでしょう」

〈黄金の枝が“根差した”幻想体が、だったよね〉

「ふう…長かったけど、漸くたどり着いたな」

 

 重厚な扉を前にして、ダンテ一行は立ち止まっている。この先にある“黄金の枝”を奪回するため、武器の確認をしたり周りを警戒したり、それぞれ準備を整えている。

 

「ようやく終わるんですね…帰ったら、カロンさんに地図の読み方を教えてあげるのもいいかもしれませんね」

「ああ、いいな。きっとカロンも喜ぶだろう」

「そんなわけ…」

 

 ユーリの呑気な言葉にシンクレアが目を伏せながらボソリと呟く。フワンの助け舟が来るまで相当に手こずったのは記憶に新しいらしかった。

 

「まあ…もし手こずったならおれもお助けします。覚えておいて損はないですし…ぅ゛お゛〜、あたまいて…」

「最後の言葉が無かったらもう少し見直してたんですけど…」

 

 手を軽く振りながらシンクレアとユーリに話しかけるが、しかし真っ青な顔でこめかみを押さえて呻くフワンに、シンクレアは複雑そうな言葉を漏らす。…そんなやりとりにどこかおかしみを感じたのだろう、ユーリがころころと笑って、二人の方を見ながら言う。

 

「…帰る場所があるって、いいことですね」

 

 その言葉に、一部を除いた囚人たちも少しだけ柔らかな雰囲気に包まれる。

 

「え〜?じゃあユーリもウチに入社したりする?…今窓口開いてるかとか何も知らないけど!」

「私はファウストさんに勧誘されましたし…みんなもたぶん窓口は通してない、ですよね?」

「おや、そうであったか?当人のときは赤い視線殿が直々に迎えに来てくださったが…確かに、書類を送って面接などをした訳ではないな…」

 

 ロージャ、イシュメール、ドンキホーテの言葉に、何人かの囚人も頷く。他のリンバス・カンパニーの社員は分からないが、囚人たちはみなスカウト入社だ。書類選考や面接なんかを挟む普通の入社の仕方をしておらず、オファーを受ける形でここに乗っている、或いは…乗せられている。であるからして、この会社の選抜要項などは存じない。わかるのはファウストくらいだろう。しかし、件の彼女はただ黙ってダンテのそばに立っているだけだ。

 

「へえ、みなさんヘッドハンティングみたいに入ったんですね…じゃあ、フワンさんもその歳でそうなんですか?」

 

 ユーリは目を輝かせる。彼女は囚人一行をスカウトされた精鋭たちだと認識し直したようで、羨望の眼差しを一行にむけ始めた。そして、それはフワンへも降り注ぐ。彼女の問いに、フワンは頬をぽりぽりと手袋の指で掻き…

 

「んや、おれは…()()()()というか…?」

「………えーっと、才能を認められて外堀を埋められたってこと、ですか!」

 

 フワンの言い回しを肯定的に捉えたユーリだった。しかし…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、普通にヴェルギリウスにバチボコにされて…」

 

 ………嫌な沈黙が辺りを包む。絶句したユーリを始めとした一行がゆっくりとファウストに目を向けると、目を閉じて何やら考え事をしていた彼女がゆっくりと眼を開き、一人ずつと眼を合わせ…

 

「はい。我が社のとある部署の人員とヴェルギリウス氏の協力の下彼を捕縛しました」

 

「ひゅこっ…」

 

 なので“バチボコ”という表現は…あまり適切ではありませんが、まあ当てはまりますね。そう結んだ彼女に、ユーリは喉が締まっていくような吸気音で返事にならない返事を返した。

 

「ア、でもいいんですよ?肋骨何本かと、脚と腕の骨だけで勘弁してもらいましたから」

「この体躯に…複・雑・骨・折?こ・こう」

「オイ、チビ…なんて?」

「シンクレアです…前半はそのまま、後半は“この場合は好感が持てん”だと」

 

 ふへーは、と青い顔で笑うフワンに、良秀はくわえ煙草で品評。明らかに穏やかではないやり方をされていたことが判明し、ユーリがたらりと一筋の冷や汗を垂らした。

 

「まあ、入社するなら歓迎すよ、ユーリさん!」

「…………」

〈……………そろそろ、行こうか〉

 

 ダンテはそんな空気に耐えかねて、皆に号令をかけるのだった。

 

 

【To Be Continued…】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING

 

『ひとつ、ふたつと草を喰み…

踏み鳴らせ、そのつま先で!』

 

『美味い草のある場所を前にすると、神経が告げるのさ…

そう、良・作があるやもな、と』

 

『おぉい、うるさいぞ?黙って集中しろ。

くたばりたくないんなら…真面目に挑むように』

 

WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING

 




フワン:ヴェルにバチボコにされて連行された。その後何やかんやあって入社。今は別に気にしてないし、むしろ…。

ファウスト:バチボコにするのが一番早い方法だったので実行しました。

ユーリ:…私も、殴られたりしないよ、ね…?

グレゴール:原作よりも少しだけ早く覚悟が決まってきた。

ーーーーー
いかがでしたか?
今回の最後のヤツは、新規人格がチラ見せされる時のアレをイメージしております。どれが誰で何の人格なのか予想してみてね!
もしよければ感想・評価夜露死苦。飛んで喜びます。
では、また次回。
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