アルコール・ヴィショップ   作:ミトコンドリアン

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こんばんわ、ミトコンドリアンです。
お気に入り239件、感想評価ありがとうございます。もっと感想くれていいのよ(乞食)

今回申し訳ありませんが短めでつまらんかもしれません。
フワンの直近の過去をチラ見せする回となっております。
もし、この小説にフワンの謎を求めるならば、読んでいってください。

では、どうぞ。


かつての記憶と口ごたえ/“お土産”

 

「ねえ、いつまでウチの末っ子の背後に隠れてるわけ?」

「…ご、めんなさい。まら見下ろされるのが苦手れ…あは、ちか、近づかんでくらさい…」

 

 責めるような彼女の声に、いっそう彼の服の裾を掴む手を強くしたのを覚えている。ぼくと彼との身体からは、運動直後に体温が汗とともに揮発していくような雰囲気、そして香りがはっきりとわかった。

 

「…これからこの子をシャワーに連れて行かなければならないんです。どいてくれませんか?」

「答えてくれるまでどかない!」

 

 ぼくがはっきりとしない笑みを浮かべる間にも、ぼくの前でキッパリと自分の意思を伝えた彼は、にべもなく断られたことに小さくため息をついた。それに少し気の毒になって、今度は自分から彼女に話しかける。

 

「…そんなに、その…シェキナーが見たいれすか?」

「うん!だってさ?そんなにかっこいいネーミングに、あんたみたいなちびすけでもうちの末っ子と1()5()()()ぶっつづけでやりあえるなんてさ。そんな奴が使ってる見たことない武器なんて見てみたいに決まってる!」

「………この子の強さはそれに起因するものではない、と研究員が言っていたじゃあないですか」

「え、そお?…でもいいじゃん見せてよ、乱暴にしないから!」

 

 指を開いたり閉じたり、脚踏みをしたりして彼女はぼくに乞う。その様子にさらに大きなため息をついた彼は、ぼくの背を軽く押す。

 

「…思うんだけどさ。いつの間にその子と仲良くなったわけ?ほら、その子さ、あんた()()()()じゃん?」

「……最初は。思うところは無いわけではないです。でも、事情が事情です」

「だからって仲良すぎじゃない?ほら…あたしが動くと庇うみたいに横に動くし!」

「ふぅ…行こう。君がしたくないなら仕方ない」

 

 きらりと光る彼のメガネに、ぼくは歩くのを急かされたような気がした。でも、それと同時に…彼女の様子に、思い出すこともあった。

 

『ねえ、いいじゃあん!ちょうだいよお!』

 

 記憶の中の愛しい声と、彼女が重なって…つい、優しくしてあげたくなった。彼女の方が遥かに年上なのに。ウィスキーの入った頭は、ついそんな感情を浮かばせてしまう。

 

「………はちのお兄さん、ちょっと待ってくらさい。…えーと、助手のおねぇさん、約束してくれやすか?」

「……え、見せてくれるの!?」

「乱暴に使わない、刃を他人に向けない、動かすときはゆっくり、刃を握らない……それがまもれたら、いいれすよ」

「なんか言い方気になるけどわかった!」

 

 彼女がぼくの注意に示した所感を聞いて、少しだけ口角を上げる彼が視界の端に映ったが、彼のためにもそれは口の中に押し留めた。シェキナーの弓と矢を差し出すと、彼女はゆっくりと慎重に手に取った。

 

「おお…思ったより軽いんだ…え、でも金属だよね…指で弾くぐらいならいい?」

「………………かるく、ならいいれす」

「やた!」

 

 彼女は興奮を抑えるかのように、ゆっくりと指を刃に近づけて…はじく。ぴぃーーーん………と、金属の共鳴する美しい音が鳴り響く。

 

「すっごいな、X社の特殊合金…じゃないか。中だけ別の素材ってわけでもなさそう…それに、刃こぼれも見当たらない…二人とも訓練の直後でしょ?」

「ええ。今回は16分と3秒粘られました。まだまだ精進すべきですね」

「ならそうとう打ち合った後だろうに…なのにこんなに綺麗なんだ」

「その剣、軽そうな割に頑丈ですよ。…まあ、刃こぼれがないのは彼の技量もあるのやもしれませんが」

 

 矢を返すときに軽くありがとう!と言ってくれたのが、なんだかうれしかった。彼女は弓を掲げ、見上げる。

 

「ほほーお…い い 仕 事 し て ま す ね ぇ 〜」

「そ、そうれすか?」

「うんうん、最初は東部のシと同じようなものかと思ったけど…それよりもっと威力が重視されてる感じだね。弦の張りも綺麗だし…」

 

 彼女が弦に指をかけて軽く引くも、その弓は応えない。

 

「…こりゃ、思い切り引かなきゃ無理かも」

「そうれすね。ぼくもこの身体になるまでは引けませんれしたよ」

「じゃあキミのパァドレ?さんは引けてたんだ…へえ〜、ほぉ〜ん」

 

 どうやら矢よりも弓の方がお気に召したようで、眺めている時間が長かった。

 

「ねえ、これどこのどいつが作ったのかパァドレさんに聞いてた?工房製じゃあなさそうだけど」

「ええ、すこし昔に」

「そっか!ならさ、おねえさんに教えてみな?」

 

 にっこりとした無邪気な笑顔が、やはりぼくの心の底にある何かを刺激した。なんだか教えてあげたくなったから、教えてやることにした。

 

「それは…矢の方は違いやすけど、弓の方はパァドレの相棒さんが手ずから作ったもんれす」

「…へえ、個人のテイラーメイドってこと!?」

「あの人、昔はトレスに行きたかったって言ってやしたから」

 

 興奮を抑えきれぬ様子で、しかしこれ以上取り上げているのも酷だと思ったのだろうか、名残惜しそうに弓も返してくれた。そしてぱん!と手を合わせてしゃがみ、ぼくに目を合わせて懇願する。

 

「最後に一つお願い!その人の名前教えて!!」

「エズラ、もうそろそろ…」

「はちのお兄さん、いいんれす。…じゃあ助手のお兄さん、よく聞いててくらさいね?」

 

 爛々と輝く目でこくこくと頷き、懐からメモ帳を取り出した彼女に向かって、僕はゆっくりと口を開いて…

 

「ホセ。ホセ・メルキオール神父(パァドレ)です、それを作り上げたのは」

 

ーーーーー

 

 身体をゆする手の感触と、もう聴き慣れてしまった声で目が覚めた。

 

「…起きて。ねえ起きて司教さん」

「んがっ!………あ、ああ…カロンさんでしたか」

 

 なんだか少しだけ懐かしい夢を見た気がする。ひょいと寝台から降りて、壁にかけてある制服を手に取った。時計も同時に見たが、まだ始業時間まで随分とある。

 

「なんの用事で?」

「ヴェルが呼んでた。昨日のじっけんのこと」

「あ、なるほど…どうも」

 

 抉るような脳の痛みの中、ベッドサイドに置いてある酒瓶を引っ掴み、起き抜けのひとくち。喉を焼く安いアルコールの感覚が胃に落ちていき…ぷは、と息を吐いた。

 

「…………よくないよ、お酒」

「…」

 

 カロンは珍しく、眉を下げてフワンを見ていた。ベッドに腰掛けるフワンの横について、肩に手を置く。

 

「今更…やめられないの、わかってるでしょう?」

「身体に悪い。それに…おいしくない」

「あは…」

 

 笑いが溢れた。自嘲するような笑いであった。寝台から立ち上がり、二歩三歩歩いて…カロンの方に振り返り、言うのだ。

 

()()の笑顔、好きれしょ?」

「………………………うん」

 

 彼の頬には赤みがさして、すっかりと酒精が回っていた。

 

ーーーーー

 

 メフィストフェレス車内に重苦しい沈黙が流れている。…その原因は、ダンテ達囚人一行が黄金の枝の回収に失敗したこと…そして、それをヴェルギリウスが不満に思っていることだった。イシュメールとロージャが空気に耐えかねて彼に抗議するも、彼は訊く耳を持たない。

 

「ハア…後生だから、これ以上俺に恥を…」

「………ヴェルギリウっさん」

 

 ヴェルギリウスの言葉を、フワンが遮った。その事実に車内に緊張が走る。

 

「……何だ、呑んだくれ」

「契約のあれこれがあるのは理解してやすけど…“黄金の枝を狙ってる奴らは他にもいるから警戒してネ⭐︎”ぐらいは言えなかったんれすか」

 

 ピースを横に向けて目のところに持っていきながら、茶目っ気たっぷりにフワンが言うと、さらに場の雰囲気が凍る。ヴェルギリウスの目が赤い光を発し始める。

 

「フワン……酒で気が大きくなったらしいな」

「真っ当な意見と言ってもらいたいもんれすね…もちろん、ぼくらが黄金の枝を取って来れなかったのは失態れす。それは叱ってもらっていい」

「貴重で膨大n」「“貴重で膨大な可能性を持つ物なんだ。狙えるならば誰でも狙う…そんなことも予想がつかないなんて、囚人達の管理人ともあろうお方が…意外と間抜けらしいな?”とでも言うんれすか?」

 

 軽いモノマネをしながらフワンに言われ、ヴェルギリウスが立ち上がった。囚人達は身構える。ダンテも例外ではなく、フワンのそれ以上の狼藉を許すまじと制止にかかるため立ち上がる。

 

〈フワン、その辺で大丈夫だからやめ…〉

「まあ確かに?管理人サンはちょびっとおとぼけさんれすね」

〈え?〉

 

 いきなり背後から刺された気分になって、ダンテは固まってしまう。ダンテの背後から押し殺したような笑い声が聞こえた。たぶんヒースクリフだ。

 

「れも、あんたが言ってくれれば警戒はできたのやもしれやせん。ここはひとつ、みんなダメなところがあったということで!」

「…………………」

 

 絶対零度の視線がフワンを射抜く。前はそれに震えていたのに、今回は気丈にもそれに睨み返している。

 

「まあ?分かりますよ?映えある特色“赤い視線”サマなら警戒なんてしなくてもいいれすもんね!つよつよなんれすもんね!」

 

 言外に“客観性足りてないんじゃないれすかあ?”と言い放ち、けらけらと笑うフワンに向けて、ヴェルギリウスが右の拳をゆっくりと上に上げた。ダンテの視界の端で、ロージャが青い顔で目を覆うのが見えて…

 

げ ん

こ つ

 

「ぎゃん!!」

 

 頭頂部を押さえてフワンがバスの床にばたっと倒れ込んだ。柘榴ジュースとフグの白子が飛び散るのを覚悟していたダンテは、拍子抜けしてシートにすとんと座り込んだ。

 

「ハァ…さて、フワンのことはいい。“お小言”に戻ろうか」

「うごうごうご、のうみそ、のうみそがぁぁぁあ…」

 

 床で悶えるフワンを見下ろして、軽く笑みを浮かべたヴェルギリウス。右の拳をぱっぱと払い、ダンテ達に向き直った。

 

「助言に聴き従い,懲らしめを受け入れなさいよおおお…」

「うちのロジオンには期待しているよ。何せ、今回の旅路ではいいガイドになってもらえそうだからな…」

 

ーーーーー

 

「ほえ〜…いろんなものがいっぱいれすねえ」

「余りキョロキョロすんなよ、田舎っぺだと思われっぞ?」

 

 興味深そうにあたりを見回していたフワンの挙動をヒースクリフが咎めた。ダンテ達は今回の作戦実行のため、協力人員として招集されたLCクリア部署の人間と合流することになった。落ち合う場所である質屋にゾロゾロと入ってきたのだが…

 

「あんさんら!いぃつまで入り浸っとんの?トランプでもするかえ、それとも麻雀?」

「………あいつは何て…」

 

 店主らしき男性が出てきて、ヒースクリフ達と何やら会話を始めていた。自分の挙動を見咎める存在がいなくなったので、フワンは質屋の中を歩き回り始めた。

 

「ふぅん…へぇ…………あっ」

 

 ぴた、と彼の歩みが止まった。その視線の先には起き上がり小法師、やじろべえ、独楽…小さな子供用からマニアックなものまで、様々なおもちゃが並んでいる。どうやら質に出されたものはここで売られるようで、目の前にあるのは玩具のコーナーらしい。

 

 フワンは黙ったまま、今までのように棚を流し見るのではなく、並べられているものの一つ一つをじっくりと眺めはじめた。一人でに回り続けている独楽や、揺れ続けている起き上がり小法師などを一つ一つ見て…あるもので視線が止まった。

 

「あ…」

 

 ぬいぐるみだ。指人形より少し大きいぐらいの、小さなクマのぬいぐるみ。綺麗にちょこんと座っていて、生地も上等なのが遠目でもわかった。フワンが歩いて寄っていくと、ステッチも綺麗で歪みひとつない。可愛らしいつぶらな瞳が、フワンには何か自分に訴えかけているようにも見えた。…ゆっくりと、それを手に取る。

 

「これの価値がわからんとは。マア、そんなぼろっちい指輪をつけとるぐらいじゃしのぅ?」

「……………てめえ、今何つったよ…!」

 

 戻ってみれば、何やら店主とヒースクリフの雰囲気が険難なものになっていた。これ幸い、とフワンは割って入って、カウンターにクマのぬいぐるみを置いた。

 

「ごしゅじん、これくらさいな」

「………は?」

「んお、そいつを買うんですかい…じゃ、麻雀?トランプ?」

 

 豆鉄砲を喰らったように固まったヒースクリフ。周りの人間もあまりの空気の読めなさに絶句しているが、フワンと店主は構わずやり取りを続けた。

 

「えーと…この五行易で」

「おお、ぼっちゃん勝負師だねぇ…じゃあ、こいつだ」

 

 店主はカウンターの下から八面のサイコロを二つと小さな器を出してきて、フワンに触らせた。イカサマなどしていない、という公平性を確認するためのものだろう。フワンは指先でサイコロを見て、器も見て…

 

「問題ないれす。おなしゃす!」

「よしきた!じゃあいくえ?それっ!」

 

 からころころんと器の中でサイコロが転がって、止まる。店主はそれを見つめ…眉を顰めた。

 

「あちゃあ。ぼっちゃん運が悪いよ、壊滅的だの。凶だ、それもこの先ずっと…三百万眼になっちゃうけんど、ぼっちゃん払えるんけ?」

「さ、さんびゃくま…そのちっせえクマがかよ…?」

「運が悪いとこうなるらしいですね。………なんでフワンさんは仕事中に買い物してるんですか?」

 

 口々に言うヒースクリフとイシュメール。ふっかけられたフワンを見かねたのか、ホンルが彼の肩をポンポンと叩いた。

 

「もし払えないなら、このハンカチを売って僕が立て替えましょうか?このハンカチももう古めですし、別に家にいっぱいあるので…」

「………んや、けっこうれす。払えやすから」

「へえ、見かけによらずお金持ちなんですね!」

 

 ニコニコ笑うホンルに、へらへらと笑って返したフワンは、懐から一枚のカードを取り出した。白地に金の文字が入ったカードだ。それを見てホンルが少しだけ目を丸くしたのを見て、イシュメールとヒースクリフが口をあんぐりと開けながらゆっくり視線をフワンへ滑らせる。

 

「これでおなしゃす」

「おお、本当に払えるのか!じゃあ、この機械に差して…」

「包んでくださることってできやすか?」

「ん。あいわかった」

 

 取引が成立し、テキパキとテディベアをラッピングする店主。その背中を複雑な感情で見る囚人達であったが…さらに後ろから声がかけられた。

 

「15分も遅れておいて買い物なんて、随分と余裕なんですねえ。まさか時計が読めなくなったわけではないでしょう?」

「聞いてるぞお?前回の任務を台無しにしてくれたって。類を見ない天才に、()()()()()()()か所属してる部隊だって期待されてたんだけどな?」

 

 一行が振り向いてみれば、カジノディーラーの服装に、険しい顔を笑みで隠した男女二人組がこちらに近づいてきていた。

 

「…この方々が、今回の協力員であるLCCの…」

「私がソード、こっちがエピです」

「…まあなんだ?握手でもしておいた方が」

 

 皮肉っぽい笑みを浮かべ、エピが手を差し出した。それにぱっと表情を明るくしたホンルが、滑るように彼の方へと移動し…

 

「わあ、お会いできてうれしいです〜!」

 

 がっちりとその手を掴んだ。エピとソードは、より一層冷ややかな視線で囚人達を見回した。

 

「…喜んでくれるかな………」

 

 ほのかに笑みを浮かべ、しかし寂しげに手の中の小包を見つめるフワンにも、例外なくそれは向けられるのだった。

 

【To Be Continued…】

 

ーーーーー

 

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『わたしは黒檀の木で、あなた方が枝です。わたしにとどまり、わたしもとどまるならば…』

 

 

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はちのお兄さん:どこぞのイエローハープーン。フワンをバチボコにした人員のひとり。

助手のおねぇさん:何処ぞの工房オタク。フワンをバチボコにした人員のひとり。

ホセ・メルキオール:名前のみ登場。フワンの“パァドレ”の親友だった。

フワン:我慢ならなくなると普通に特色にも口答えする。“あのモルモット”。

ホンル:フワンさん、そのカードを持ってるだなんて、意外にもお金持ちだったんですね(^^)

ーーーーー
いかがでしたか?
よければ感想、評価よろしくお願いします。
では、また次回。
感想多めにもらえると嬉しいかも(強欲)
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