アルコール・ヴィショップ   作:ミトコンドリアン

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お久しぶりです、ミトコンドリアンです。
現実でのゴタゴタにひと段落ついたのでようやく投稿できました。
お気に入りもいつのまにやら325件!感想・評価もありがたいものです。

今回も過去チラチラ多め。少しウザいかもしれませんが…二次創作小説なのだから、この程度は多めに見てもらえませんか…だめ?そっか…(爆発四散)


ユースティティア・トラブルメーカー/シンクレール・ハラベ・タパティオ

 

『…貴方ももうこんなに強くなったんだ?』

 

 記憶の中で、白い影が笑う。

 

『…………うん。()()()のおかげだよ』

『強化施術も受けさせて、みっちり技術を教え込んで…()()を上書きできたみたいでよかった。これで貴方も一人前だね』

『…そっか』

 

 白い影に向かって笑みを作ると、彼女は細くしなやかな指をおれの肩に這わせてくる。そのままそれは頬へ流れた。

 

『貴方も立派になった…とってもかっこいいわよ、ジョージ

 

 頬を撫でる手を、やんわりと払う。

 

『……行ってもいいかな。あの子のお迎えに行かなきゃだから。おれの仕事でしょ?』

『………………そっか。わかったわ、行ってきなさい』

 

 不服そうに彼女は答えた。おれは剣を腰に戻して、部屋を出て行こうとして…彼女の声に引き留められるのだ。

 

『ねえ、ジョージ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしのこと、()()()()って呼ばないで』

 

 

 

ーーーーー

 

「…なんだか最近、フラッシュバック多いれす…」

 

 ラッピングされた小箱を眺め、親指でそっと撫でて…また、過去の記憶がちらついた。眉間をつまみ、ぐいっと引っ張るようにほぐしていると…

 

「他人の貴重品をむやみに簒奪しようとは!!!!!まさに悪人の行動としか言いようがない!!!!!!!!」

「ぎゃん!?」

〈だっ、ダメだドンキホーテ!!〉

 

 突然すぐ横から聞こえてきた大声に耳を押さえてしまった。慌ててそちらを見れば、ランスを肩に構えて猛進するドンキさんと、その背中に手を伸ばす管理人さんがいて…

 

「成敗!!!!」

「こ゜っ!?」

 

 カッキーーン!という音が聞こえてきそうなほど気持ちのいいフルスイングで、ドンキさんが店主に詰め寄っていたごろつきを薙ぎ倒すではないか!

 

「「〈………………〉」」

 

 情けない悲鳴をあげて倒れたごろつきを見て、視線を管理人さんの方へ戻す。ソードさん、エピさんも唖然とした様子でドンキさん、ごろつきを見て…冷ややかな視線を管理人さんに向けた。

 

〈そう見つめたって無理だよ、私じゃあいつの統制はできないんだって…!!〉

 

 情けない自己弁護が聞こえてくるが、それはエピさんソードさんには届いていないようだ。視線を前に戻すと、満足げなドンキさんの顔と、驚き喜ぶ店主がいる。

 

「お、おお…はは、あんやぁいい気味ですなぁ!しかしまあ、もうちっとつよぉく叩いたってバチは当たらんかったでしょうがねえ?」

「ヴェルギリウスが“悪人を処断するのはどうでもいいが…作戦外の人物まで巻き込むと厄介なことになるだろう”と申しておりました故、加減したのでありまする!!」

〈…それ言外に“やめろ”って言ってたんじゃない?〉

「まことか!?」

 

 管理人さんの方に振り向いて驚愕するドンキさん。しかし、すぐに気を取り直し、ランスの柄を床に、片方の手は腰に当て得意げに言い放つ。

 

「信念を守らんが故に、どうしようもなかったのだ!許せ!!」

〈……………〉

 

 管理人さんの時計の音が、とても大きなため息に聞こえた。

 

「しかし、起きたことはしようがないではありませぬか?こうしてまた正義を為せたのであるから、万々歳でありましょう!!」

 

 はっはっはー!と笑うドンキさん。眩しい笑顔。高らかな笑い声に…………“正義”。

 

「……………あ」

 

 また、かつての記憶が蘇ってきた。

 

ーーー

 

『いいかジョージ。この世界には、人それぞれに正義がある。正義と正義がぶつかり合うから争いが起こるんだ』

『………じゃあ、なんでもせいぎになっちゃうなら、いつまでたってもけんかはなくならないですね』

『いいや。一つだけ方法があるのさ』

『へえ。おしえてください!』

 

『いつも聴かせてやる聖書の教えを、子々孫々に広げていけば…“善行”を正義とする人間が沢山いれば、いつかなくなるさ』

 

ーーー

 

…………い…………や………い…………やあい、フワン殿!!」

「ぎゃん?!??」

 

 今度は耳元から轟く声に、驚いて床に転がってしまった。見上げれば、また腰に手を当ててこちらを見下ろすドンキさんがいた。

 

「やっと反応したか。さっきからボーーっとすることが多いようだが、どこか体調が良くないのであるか?」

「…………すんません、なんか最近あんまし意識が…」

 

 ふんす、と鼻から息を吐いたドンキさんは…僕の手を強引に掴み、ぐいっと引っ張る。

 

「ほら、共に行こうではないか!先程のごろつきの仲間が表で皆と諍いを………ああっ!」

「え、あっ?」

 

 いつもの調子で喋っていたのに、突然謝ってぼくの手から慌てて手を離した。少し戸惑ったが…理由はすぐに察せられた。

 

「す、すまぬ…そういえば、異性に触れられるのが苦手なのだったな。悪いことをした…」

「………………そう、れすけど…」

 

 しかし。不思議と嫌悪感が湧かなかったのは…

 

ーーー

『さあジョージ…正義の味方、参上だ!』

ーーー

 

 かつてのパァドレと…彼女が、かけ離れているようで、どこか同じだったからだろう。

 

「…今回は大丈夫れした。さ、僕たちも参戦しやしょ」

「うむ!ついてくるがよい!」

 

 踵を返して店の外へずんずん進むドンキさんの背中に、僕は思わず語りかける。

 

「貴方の“正義”、ちょっと荒っぽいれすけど…応援したくなりやすね!」

「…ううむ?お、おう…」

 

 こちらを向くことなく放たれたどこか戸惑いと困惑の混ざった返事に、僕はただ微笑むのだった。

 

 嗚呼、懐かしや、懐かしや。

 

ーーーーー

 

『あ、アニキ…こいつら、人の体臭で変なことするって噂の集団じゃ…』

『なぁ〜にぃ〜ッ!?うちの家族んモンでそんなことさせるかい!!』

 

〈……まだ来るの?〉

「ハァ、同感だ。まあ…あっちから来てくれる分手間も省けるってもんだろッ!」

 

 グレゴールが先陣を切って、ヒュルリと伸ばした虫腕で先制をとった。防御していたぽんぽん派の構成員の腕をズタズタに引き裂いていく。

 

〈仕方ないか。ホンル、シンクレア前に!〉

「は〜い」「わ、分かりました!」

 

 長物を持った二人が遠心力を乗せて武器を振り回す。勢いのついた月刀やハルバードに防御は意味をなさないとわかるのか、ぽんぽん派の構成員たちも逃げに徹し始めた。戦場は膠着する。

 

「ふうん、ちょろちょろ逃げて面倒ですねえ。実家のネズミを思い出しますよ」

「ほお、金持ちの家にもネズミは出るんだな?」

〈ふむ…追い詰めるか、それとも…フワンはまだなの?〉

「ドンキホーテさんが連れ戻しに行ってるはずです」

 

 敵と睨み合いながら会話を交わす。シンクレアの言葉が終わったあたりで、痺れを切らした敵がひとり飛び出してくる。

 

『ごちゃごちゃ話しやがって…くらえっ!』

「ち、近づかないで…うわあっ!?」

『くへへ、隙ありいっ!!』

 

 シンクレアが前に出てハルバードを翳した。しかし、返しの刃が飛ぶ前に、敵が握っていた拳を開き、中の何かをシンクレアの顔に向けてぶちまける。それは白い粉に砂利の混ざった目潰し粉だった。シンクレアの視界が奪われ、その好奇に敵が飛び込み…

 

『死ねやあごべろばっ!?

「…っ、これは!?」

 

 突然、視界外から飛んできた何かに腹を貫かれ、敵が横に転がった。涙で視界を晴らしたシンクレアがその正体に気がつき、それが飛来した方向を見ると…

 

「お〜…スジいいれすね。初回でおなかの真ん中はじょーずじょーず」

「……胸を、狙ったのだがな」

「あ〜、ね…そこはまあ、おいおい調整していきやしょ?」

 

 そこには、感心したように声を上げるフワン、そして照れくさそうにしているドンキホーテがいた。みれば、飛んできた物体は彼女のランスであった。

 

〈二人ともようやく戻ったのか!〉

「すまぬ!だがシンクレア君の窮地には間に合ったようで良かった!」

「すんません、なんか最近ぼ〜っとすること多くってェ…」

 

 なにやら死体のそばにかがんだフワンをよそに、彼女はランスを引き抜き、ぶうんと横に薙ぐ。躙り寄る敵がぴくりと下がり、ランスについた血がぱたたと払い落とされた。ぽんぽん派のボスの喉笛めがけて構える彼女の横にグレゴール、シンクレアとホンル、そしてフワンが並ぶ。

 

〈よし。5人揃った…一転攻勢だ!行け!〉

「「「「「了解!」」」」」

 

 ダンテの指示のもと、それぞれの得物を翻して突撃する。グレゴールが敵の腕を飛ばし、シンクレアが頭をかち割る。ホンルは首を裂き、ドンキホーテは体重を乗せた槍で心の臓をひと突きに。それぞれが勢いに乗って敵を打ちのめしていく。

 

「ん〜…あなた」

『く、くそっ、なんだこいつら死ぬのが怖くね、ぎゃあっ!?』

 

 フワンが敵に近づき、手に握ったものをぶちまけた。フワンが先の敵の骸から目潰し粉を盗んでいたのだ。

 

「ふへ、こりゃいいや…許してくださいね」

『見えねえっ…ぐああっ!!』

 

 目を覆う敵に体格に見合わぬ剛剣を振り下ろし、血飛沫が舞い、制服と彼の頬とを赤黒く彩っていく。そのまま前転で体当たりをするようにごろんと地面に敵を転がせば、肩から入った剣は体重が乗って胴体にめり込み、敵は絶命。前転した勢いで剣を引き抜き、戦場を流し見、品定めをして…

 

「ほうら、さっさと降参してもいいんですよ?」

『チッ、優男が生意気に………ゔっ!?』

 

 ホンルが月刀を優雅に振り回し制していた敵目掛けて射られた矢は、したがって背に吸い込まれたらしい。胸を突き通されよろめいた敵に、遠心力の乗った容赦のない刃が迫り…首が真上に飛んだ。血飛沫がホンルの武器を濡らしていく。

 

「お手伝いありがとうございます〜。おかげで楽でしたよ」

「うい。…ほかは、どうれすかね?」

 

 ホンルとフワンの周りは片付いている。びゅおんと血振りをしながらホンルが他の囚人の様子を伺うと、そちらもそろそろ片付く頃であった。

 

「“俺の腕は…変貌していた”」

「をおっ、凄まじい威力…当人も負けておられませぬ!!」

『こ、こいつらイカれてる!逃げるぞおめぇらぁ!!』

 

 “ある日突然”の一撃が大地へと叩きつけられ、巻き込まれ害虫のように潰された子分を目の当たりにしたぽんぽん派のボスが子分たちに号令をかけた。ぽんぽん派の構成員はみな逃走を始めてしまう。ダンテはその後ろ姿を確認し、対処法を弾き出した。

 

 一人も逃したくない。敵は複数、逃走を阻害できる人員配置ではない。ならどうするか。…広範囲攻撃(広域E.G.O)だ。

 

〈フワン!E.G.Oを使うよ!!〉

「………あい、わかりゃした!!」

 

 先の地面に向かってシェキナーを放ち、巻き取ることで加速したフワンが宙に踊り出る。ダンテがPDAを操作し、罪悪の鎖を繋げ…フワンのE.G.Oをセットした!

 

〈今だ、やれ!!!〉

 

 空中で、フワンの装いが変わっていく。身体をゆったりと覆う制服のコートは黒に裏地の紫が映えるマントに。内側の制服は、黒檀の枝が巻き付いたかのようなサーコートに。そして最後に出現したのは、彼の頭上に黒々と輝く…紫の宝石があしらわれた王冠。

 

 「“わたしは黒檀の木で、あなた方が枝です。わたしにとどまり、わたしもとどまるならば…”」

 

 フワンなりの解釈で、上書きされた自我の意思が朗唱された。彼が袖口からヒュルリと伸ばした枝が地面に突き立てられ、地中に潜り…ぽんぽん派が逃げる方向から突き出した。

 

『なっ、なんだあっ』『い、痛え!痛えよお!』

 

 地面から次々と突き出てくる枝は敵の手足を刺し貫く。丈夫な枝はそれだけで敵の行動を阻害する楔と化し、敵は痛みと枝という二つの要因によってその場に釘付けにされてしまった。もう逃げられず、抵抗することもままならないだろう。

 

「フウ…これで終わりか?いや、運動不足も解消されてきた気がするな…」

「後は楽ですね〜」

「……抵抗できぬものを一方的に…いや、すまぬ。これも正義のためなのだ…!」

 

 グレゴール、ホンル、ドンキホーテがゆっくりと武器を片手に歩み、作業的にとどめを刺していく。しかし、やはりまだ人を殺すことに慣れていないのだろう。シンクレアだけは皆の後ろで、その様子から目を逸らすように目を伏せていた。

 

 さらに、その薄く小さな背中を、フワンがじっと見ていたのだった。

 

ーーーーー

 

〈ハァ…ハァ…危なかった〜〉

「誰のせいですか誰の…!」

 

 身体はともかくとして、疲労を隠せない一行。階を登るダンテの背中を、イシュメールを筆頭とした一部の囚人たちが冷たく白い目で見る。どうしてこうなっちゃったのか、映像を投げやりなダイジェストでご覧いただこう。

 

ーーー

「これは願望シール、幸運のタトゥーシールです」

「ポーカーフェイスはギャンブルにおいて重要だからな。時計の顔色なんてわからないだろ?それに、俺の直感が…」

ーーー

「おお!この煌びやかなものはなんなのだ!?」

〈ほんとだなんだろ〜…あっ〉

『イカサマしたな!?警備員さんこっちです!!!!!!!!』

「(絶句するエピソード)」

ーーー

 

 エピとソード達の役割もおじゃん。彼らを抜いたいつもの一行で余計な苦労をして最上階を目指すことになった。ダンテは責任を感じながらも、やってしまったことは仕方ないと気を持ち直し…2階にたどり着いた。

 

〈…雰囲気が変わった?〉

「また別の組織が管轄しているフロアのようですね」

 

 一階はギャンブル狂いの巣窟といった様相を呈していて、はっきり言って下品で根暗だったが…打って変わってこのフロアにはバイオリン、ギターにビウエラ、ギタロンにトランペットまでうすらと、しかし賑やかに聴こえてくる。テーブルについている人間もどこか楽しげで、小粋なディーラーはポンチョにソンブレロの装いだ。

 

「………マリアッチ?」

 

 彼らを見て呟いた人間がいた。囚人たちが一斉に振り向いた先には、シンクレア……の前に立つフワンだった。

 

「こ、この人たちのこと知ってるんですか?」

 

 意外そうにシンクレアが問いかける。浮世から離れていそうなフワンがこうした組織を知っているのは珍しく感じたのだろう。他の囚人たちも同様だ。その視線に、フワンはどこかやりづらそうな表情で、スキットルを少しずつ口に含みながら答えた。

 

「んく…たぶんマリアッチ、れす。陽気な音楽、お酒、笑顔が大好きな人たちれす。…雰囲気を壊すやつらには容赦しやせんが」

「たぶん…?貴様、まさか憶測で話しているわけではないだろうな!」

 

 曖昧な態度にウーティスが片眉を上げる。スキットルのふたを捻りながら、フワンも首を傾げていた。

 

「いやぁ…流れてる音楽とか雰囲気とかはおんなじなんれすけど、()()()が違うんれすよねえ」

()()…服装か?」

「ええ。ぼくがいたとこのマリアッチは真っ赤なシャツを着てて…」

 

『おいおい!なんだお前ら辛気臭い顔して、この階のルールを知らねえのか!?悲しい顔は帽子で隠すぐらいしなきゃあ無粋ってもんだぜ?』

 

「うるせ…ああ、マリアッチでまちがいないれす。やだなあ、かったるいなあ…」

 

 だいたいはにこやかにしているフワンが、一瞬だけ心からのしかめ面を見せ…すぐに酒気でふやけた笑顔に戻った。前に出て、急に割り込んできたマリアッチの構成員に話しかけに行く。そのマリアッチは良秀の目の前にいた。

 

「…俺の顔を見て言ったか?く・へする…「ああ、ちょっと待ってなamigo(兄弟)。こん人は元からこう言う顔なんだ、ぼくから謝らせてもらうぜ」……いきなりなんだ?の・ぼ」

 

『ん、どうやらこの辺のルールがわかるやつもいるみてぇだな?ちっとばかし若すぎる気もするが…年齢制限とかねえしな!ワハハ!』

 

 彼は掴みかかろうとする良秀と男の間に割り込み、やかましい身振り手振りを交えながらいやに明るい声でしゃべり出した。皆が困惑する中、その様子を見た男は嬉しそうにフワンの方へ目線を移した。二人は何やらにこやかにやりとりを始めている。

 

〈…ここはフワンに任せてみる?〉

「………不安は残りますが、確かに相手方の扱いを心得ているようです。その判断に私も賛成しましょう、管理人様」

「うっし、んじゃちょっと休憩すっか?俺はあっち見てくるからよ」

〈え?離れるのは危ないんじゃ…〉

「休息は取るるに取るべしと我は思ふ」

 

 フワンがなんとかしてくれそうな雰囲気だったので、ヒースクリフがふらりと離れ、その辺りの椅子にどっかりと腰掛けた。それを咎めようとしたダンテだったが、隣にいたイサンの意見も聞いて…まあいいか、と伸ばしかけた手を下ろした。その時だった。

 

『お前さんは坊ちゃんのクセにノリがいいなあ!歓迎するぜ。この階のルールに忠実なのはいいことさ、なんせ…』

 

『ああっ、クソ!クソクソクソ、また負けちまったァァァァァ…』

『おやお客様。ここの規則をお忘れで?』

『で、でも全財産だったんだよぉぅぅぅぅ…!』

『…何度も雰囲気を壊すようならば、お客様で“パニャータパーティー”をすることになりますが?』

『ひ、ひいいい…』

 

『おお、やってらやってら…なに、踊ってりゃ負けに負けた悲しみもすっ飛んでくさ!』

「………こっちにもパニャータパーティーってあるんれすね」

 

 悲壮感に包まれていた客の一人が、その言葉を言われた途端に悲鳴と慟哭をきつく飲み込み、ディーラーに渡されたマラカスを握って踊り始めた。……なんだあれ、とダンテは思った。

 

「そのパニャータパーティーっての、相当恐ろしい拷問みたいですね…」

「もともとは子供向けの行事れす。お誕生日とかにやることが多いれすね」

「…………あなたのいた所では子供が進んで拷問を…?」

 

 眉を顰めるイシュメールに、フワンは慌てて掌を振った。

 

「やや、ちがいやすちがいやす。元は動物の形をしたくす玉にお菓子を詰めて、棒で叩いたりして割る、って行事れす…」

「へえ?なんか拷問としては楽しそうすぎ……待って、そういうこと?」

 

 横で聴いていたロージャが察したように息を呑む。

 

「……まあ、それをお客様でやるってことは…()()()()()()()()()()()…ってことれす…」

『おうおう、心配しなくたっていいぜ?おめぇさんらはまだルールを犯しちゃいないしな』

 

 一気に暗い雰囲気になった一行に、フワンと話していた男が割り込んだ。

 

『賭博、ってえのは元より楽しむもんだ。人生賭けるからいけねえのよ。それに…このフロアじゃ、その怒りも悲しみも、ダンスによって楽しみに昇華させるのさ』

『ぼっちゃんが言うには、おめぇさんらは上の階まで進みたいらしいが…それなら、それ相応の“モン”、見せてもらわねえとな?』

 

 男がそう言うと、品定めをするかのように腕組みして一行を眺め始めた。この男が言っていることと、状況をひっくるめて考えるに…

 

〈君たちの眼鏡にかなうダンスをしないと、上には通してくれないってこと…?〉

「…チッ、コンテンポラリーは趣味じゃねえ。き・や」

「き、斬った方が早いなんて、これ以上騒ぎを起こすのは…!」

「同意する」「ム、ムルソーさんまで…!?」

「しかし、下で騒ぎを起こしたのだから、拒否してこれ以上消耗するのも愚策と言えるかもしれんな」「でも、踊れる人いるんですか…?」

 

 ダンテの出した結論に、囚人達はみな乗り気ではない。一人を除いては、だったが。

 

「ふふん!ダンスならば、当人が教えてしんぜよう!!」

 

 高らかに宣言したドンキホーテが槍をその辺りの机に立てかけ、なにやら手足を振ってしゃかしゃか踊り始める。………ダンテの目から見ても、これは…あんまり……

 

『あー、ダメだなこの人は』『動作に真心がこもってないので今回はここまで』『心が無色透明の時にするダンスほど退屈で無意味なものはないね』

「う…うぬら、多少無礼ではないか」

「キホーテさん、気にしないでくらさい。彼らきびしすぎなんれすよ…」

 

 いつのまにか増えていたディーラー達が、どこから取り出したのか“0”と書かれた板付きの棒を三人とも掲げ、口々に文句を言っている。ドンキホーテはむっとしながらも、落ち込んでダンテ達の後ろへ下がっていく。

 

 さて、乗り気だったドンキホーテの踊りは酷評された。と言うことは、他の人たちに踊ってもらうことになるが…

 

〈そのダンス?ってのがわからないから私には無理かな。ホンルはできる?〉

「変面なら、少ないですけど何人か講師がついて教えてくれましたね。使うのは化粧と面と扇子と〜…」

〈調達は無理そうだね…他の人たちは?〉

 

 一縷の望みを持って、ダンテが呼びかけるが…

 

「まあ、舞踏会で上品ぶってる奴らの足を踏みまくったことならあるな?」「私の心が恐ろしいと云ふなり。」「私は船で半生を過ごしたんですよ、そんなことできるわけ…!」「踊りならば!…そ、そんな目で見ないでくだされ!」「フッ、久しぶりにつる・まいをやるのも悪くないかもな」「リズムを取るなど、点呼の際ぐらいですが…管理人様のご命令とあらば…ッ」「大抵のことは上手くできるんだけど〜ダンスは難しくって〜…アハ…」「興奮した腕が観客の方にすっ飛んでく以外は大丈夫かもな?」「ファウストは経験がありませんが、任務のためならば。しかし、彼らが求めているのはもっと不完全な…言わばダイヤの原石のような…」

 

 大半の囚人は口々にきっぱりと、若しくはやんわりと断り…やってくれるという囚人も、ダンテの判断でやめさせることにした。そして、残っている候補は…二人だけ。

 

〈フワンと、シンクレア…ううん、ここはフワンに頼んだ方がいいかな?〉

「そ、そうですね。この人たちにも詳しいですし、お願いしますフワンさん」

 

 ダンテと…衆人環視の中で踊ることを避けられそうで少し嬉しいシンクレアが彼に視線を向ける。彼はスキットルの口を咥えながら、いまだにこやかな表情で…ぷは、と口を離し、言った。

 

()()

〈そっか、じゃあよろし…………え?〉

「きこえませんれした?……いやれす

 

 空気が冷えていく。にべもない返答に、シンクレアが慌てて彼の肩を掴んだ。

 

「ちょ、ちょっとフワンさん!?ここはあなたが踊る流れでしょう!?ほら、さっきはうまく対応してたじゃないですか!」

「………踊りませんよ、絶対に」

「な、なんで…!?」

 

 陽気な雰囲気でマリアッチの対応をしていた彼の様子を見ていた囚人達は、てっきり今回もうまく捌いてくれると思っていたのだが。彼の態度を見て、審査員らしいマリアッチの面々も参加してくる。

 

『おいおい、そんなに断ることはないじゃないか』『一番見込みがありそうなぼっちゃんが拒否したので今回はここまで』『これは舞うことに一過言ありそうな雰囲気のクセして踊らない人間の屑ことぼっちゃんだね』

「……………………」

 

 だんだんフワンの表情が変わってくる。顔の赤みが引いていき、顔に影がさす。肩を掴んでいたシンクレアには…ぎり、という歯軋りの音が聞こえた。

 

「踊りたく、ありません。いや。ぜっっったい嫌。死んだってごめんです。踊るくらいなら…」

 

 背負ったシェキナーに手をかけ、今にもそれを抜かんとするフワン。いつも上機嫌な彼の口から飛び出してきた強い拒否に、皆一同あっけにとられ…

 

「じゃ、じゃあシンクレア!!」

「は、はいぃ!?」

 

 慌ててロージャがプランBに移った。フワンを制止していたシンクレアが彼女の方へと振り向く。

 

「小さい頃に少しだけ齧ったことがあるんでしょ?」

「齧った…って言ったって、学校でマラカス基礎を少し履修しただけですけど…え、なんでそんなの見抜けたんですか?」

「簡単よ〜シンクル。歩き方も話し方もいいとこの坊ちゃまって感じだし?逆に学がない人も…わかりやすいんだよね〜、ぷぷ…」

「あ?おいお前今なんて…」

「ささ、シンクレアくん、これから君にしかできない大事な任務ですよ〜?」

 

 頭に青筋を浮かべたヒースクリフを無視し、ロージャがシンクレアの両肩を掴んでどこかへ連れていく。抵抗するも、彼女の力に叶うはずもなく、暗がりにその華奢な肢体を引き摺り込まれていき………

 

ーーーーー

 

「…本当に言ってるんですか!?」

 

 一組のマラカスを持たされたシンクレアが、テーブルの上で不安そうに声を上げた。下から見上げる囚人たちの視線にも耐えられないのだろう。ロージャはそんな彼に励ましの言葉を贈る。

 

「いいえ、シンクレア。あなたにしかできないの。あなたじゃないとダメなのよ〜?」

「……わかり、ました…」

 

 その言葉を受けて、ようやく覚悟を決めたのだろう。小さくつぶやき、肩の力を抜き…悲壮感を漂わせる顔で俯く。マラカスを掲げ…振りおろす。

 

 シャカ!!

 

『ん?』『おや?』『………』

 

 チャカ、シャカシャカ、タッタカシャカシャカ…

 

『お、おお…!』『それがDestiny…!?』『つよい』

 

 シャンシャカ、ドゥビドゥバァ…

 

『暗い感情と痛み…それらを今、このスピリット・バリア、エンドレス・ダンスにて克服しようと足掻いているのか…!』『静かに燃えたぎる…その様はまさしく篝火に組み敷かれた種火ッ!!』『それが今にも燃えだして灰が舞うこの様はまさに黎明舞踏会だね』

 

〈…なんじゃそりゃ〉

「あはは…でも見て!?反応良くない!?」

 

 ロージャの言う通り、ダンスの反響は凄まじいものだった。彼らは踊り終えたシンクレアの手を引き、口々に褒め称える。

 

『ブラボー!おおブラボー!』『君はこっちにきた方がいいんだその方が輝けるんだ!!』『これは踊るために生まれてきた期待の新人ことシンクレアくんだね』

「あー、はいはいダメですよ〜、この子はうちの社員なので引き抜きはそこまで!」

 

 手刀を切って勧誘の手を離したロージャ。まあ何はともあれ、これで先に進むことができそうだ。

 

『そうか…君たちは上に行くんだったな。なら仕方ない』『(アンニュイマリアッチ)』『上の人たちは僕達よりも頭が硬いから気をつけた方がいいね』

 

 マリアッチ達も快く一行を送り出してくれるようだ。

 

「そうか…僕は…“デーモン・マン”…!?」

〈ま、まずい!シンクレアが変な思想に目覚めてしまう!みんな早く行こう!!〉

「オッケー!はーいシンクル、マラカスは置いてね〜」

 

 何やらポーズを決め始めたシンクレアにマラカスを強制的に手放させ、ロージャが連行していく。他の面々もどこからか取ってきた帽子や楽器を置き、いそいとダンテに続くのだった。

 

ーーーーー

 

『にしても…あの金髪の坊ちゃんの踊りもよかったが、俺はあの黒髪の坊ちゃんのダンスも見たかったぜ』『でもあの子が拒否したので見ることはできません』『にべもなく拒否されると踊りを見ることはできないから詰みだね』

 

 歩きタバコを咥えていれば、背後からぶつくさ言うひ・あ共の声が聞こえる。

 

『シンクレア坊ちゃんの痛みと哀しみ、激情に溢れた魂のダンスは素晴らしかった』『でもあの坊ちゃんの踊りも鑑賞者(かんしょうもの)のみなさまは期待していたのでは?』『諦念と憎しみ…そして()に溢れた彼の魂もきっと素晴らしい舞踊を見せてくれたはずけど、なぜ踊ってくれないのかはわからアニアね』

 

 ………愛、ねえ。…なんでこいつらは魂とやらの色を勝手に見れるんだか。

 

『それにあの足運びに立ち振る舞い』『経験者の可能性が高いと言うことは踊りの素晴らしさは約束されたはずだ!』『あんなクセ、()()()に舞ってなければ染みつかないのにね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()………………」

 

 心当たりが一つだけあった。だが…頭の中で朧げにあるソレと、あの坊主の格好は結びつかない。それが何だか面白くて…ぷふ、と口から煙と共に空気が漏れる。

 

「アレは女だったし、ノッポだったし…何もかもどうでもいいみてぇな目してやがった。似ても似つかねえ…」

 

 滅多切りにされた記憶の中の人影だとしても重なることはない。それなのにどうしてか思い出した。…おりゃあ、どうやら歳をとったらしい。歳をとると、何かにつけて記憶を振り返るらしいから。

 

〈おーい、良秀、行くよー〉

「カチカチ急かすな、今・い」

 

 しかし。もし、万が一…いや奥が一、アイツが本当に“そう”ならば…

 

「滅多斬りにしてやるだけさ」

 

 半分余った煙草を贅沢にも揉み消して…気乗りはしないが、目の前の背中に刃を突き立てる想像をする。

 

 ちいさく、曲がった背中だった。

 

【To Be Continued…】

 

ーーーーー

 

“わたしは黒檀の木で、あなた方が枝です。わたしにとどまり、わたしもとどまるならば…”

 

“離れるな…ここにいなさい…枝から離れては、なにもできやしない癖に……!!

 

 

 

E.G.O 黒い枝

 

 

危険ランク:HE

攻撃属性:貫通

罪悪属性:暴食

E.G.Oコスト:暴食×4 傲慢×2 憤怒×1

属性耐性: 〈憤怒〉脆弱〈色欲〉普通〈怠惰〉普通〈暴食〉耐性〈憂鬱〉抵抗〈傲慢〉普通〈嫉妬〉普通

 

〈覚醒スキル〉

精神消耗量:20 基本威力:15 コイン威力:+15 マッチ威力:15〜30攻撃加重値◽️◽️◽️◽️ スキルレベル:人格レベル+0

 

I[的中時]次のターンに束縛3を付与

[的中時]次のターンに攻撃威力減少3を付与

[的中時]次のターンに(付与した束縛の合計)だけ束縛を得る

[的中時]次のターンに攻撃威力減少3を得る

 

〈侵食スキル〉

精神消耗量:20(OC時:30)基本威力:35 コイン威力:-15 マッチ威力:35〜20 攻撃加重値◽️◽️◽️◽️ スキルレベル:人格レベル+0

 

[的中時]次のターンに束縛5を付与

[的中時]次のターンに暴食脆弱を付与

[的中時]次のターンに(付与した束縛の合計)だけ束縛を得る

 

パッシブ:枝でのつながり

ターン終了時、(敵に付与されている束縛の合計)×2だけ体力を回復

 




フワン:踊りたくない坊主。意外にもダーティな戦い方をする。「マリアッチは…前、住んでたところでよく見かけたんれすよね。ギャングではありやすが、人当たりはいいれす。…ギャングではありますがね」

ダンテ:どうしてこんなことになったんですか(現場猫)

シンクレア:やはりまだ人を殺す感覚には慣れない。かわいいね…。いつか己の中の“デーモン・マン”が目覚めるかもしれない。

良秀:できるだけ子供は斬りたくない。

ーーー
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