TOA-レプリカ協奏曲-   作:スノードロップアウト

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監視者達の囁き

 

 ガタゴト、ガタゴト……。

 揺れる荷馬車の上でマルセル・オスロー、もとい現在はマルセル・サザンクロスは、ぼぅっと青空と白い雲、そして空に浮かぶ譜石と音譜帯を眺めていた。ある程度、傷が癒えて戦線を離れてバチカルに向かう途中である。

 何故こうなった? そんな疑問が浮かんでは消えていく。

 全ての始まりは自分がヴァン・グランツというローレライ教団の上層部兼神託の盾騎士団トップの男の甘言に乗せられてケセドニア北部の戦争に参加したせいである。

 でも自分は、ローレライ教団の預言のあり方をどうにかしたかっただけで、こんな命を狙われるような人生になるとは、楽観的に思ってなかった。

 なんとかなるかー、とは思ってはいなかった。ただ、あまりに楽観的に人と、世界のあり方を信頼し過ぎていたのである。

 より良い未来になるために、預言は詳らかにするべき、というマルセルの希望は『すべてを預言の通りするべし』とする派閥にとって都合が悪かったのだ。

 人の死を詠んだ預言は、秘匿されるべきものらしい。そんなこと、あっていいはずがない。マルセルは今でも、そう強く信じている。

 

 「姉さん、元気かなぁ」

 

 なし崩し的に姉になったネビリムではなく、血の繋がった実際の姉、ジゼルを想う。

 自分の死亡届は速やかにダアトに送られた。

 ネビリムいわく、身内の死にショックを受けない人は少ないので、死亡通知がジゼルに届いてからマルセルの生存を伝えるそうだ。

 先に知らせてあげたい気もするが、ネビリムにはネビリムなりの考えがあるのだろうとひとまず納得した。

 

 早くに親を亡くし、姉のジゼルは親のように面倒を見てくれた。そんな姉が健やかな世界で生きて欲しい。

 マルセルが教団の改革に走り出した大きな理由である。優しい人が優しいままで在る世界。マルセルは、そんな未来を夢見ていた。

 

 「バチカル、遠いなぁ……」

 

 陸路のキムラスカは大変だ。砂漠を越えなければならないのだから。

 

 

────────────────

 

 

 停戦要請

 それがマルクト側から提示され、キムラスカ軍の本陣では軍事会議が開かれた。

 ネビリムは、参加できる立場ではないので噂話を聞いた程度である。

 どうやら会議では要求を呑むべき停戦派と、ガンガン攻めるべきの継戦派で分かれたらしい。

 双方の言い分だが、

 停戦派は『キムラスカ軍の疲弊が深刻でこれ以上は続けるべきではない』

 継戦派は『セシル将軍の極秘作戦(本人は作戦実行を強く否定してる)が成功したんだからやり返せる』

 というものらしい。

 

 ネビリムの見立てでは、この戦争はこれを機に収束するだろうと踏んでいる。

 ケセドニアの商人たちは、この停戦要請がキムラスカ軍に届いた時に、停滞していた物資の流通のために素早く動き出した。

 溜まっていた貿易商を売るために両国のあちこちに行って『マルクトがキムラスカに停戦を申し出た』と噂にするだろう。

 キムラスカ側は疲弊が激しく、戦争を続行することは難しい。マルクトには余裕がありこのまま戦えばキムラスカは惨敗必須だ。

 特にマルクト側の総大将は、この停戦要請に乗じて崩れかけた軍の再編成を行なっている。停戦要求というカードを切ったマルクトは下手に出ているのではない。

 あくまで『キムラスカが戦争を続けるのは構いませんが、次は殺しますよ?』という脅しでもある。一旦、時間をかけて現状を把握させ相手を冷静にさせた上で軍がどうするかをマルクト側がコントロールしようとしていた。

 キムラスカと言えば、マルクトからの突然の停戦要請で浮き足立っている。

 これでは100回戦って100回キムラスカが惨敗するだろう。

 

 正直、マルクト軍が破竹の勢いで勝ち続けて落とし所が無くなっていたが、ネビリムの単独襲撃により『この辺でやめとかない?こっちも痛手を被ったしさ』という提案の大義名分を得たとも言える。

 

 「マルクトの戦上手の総大将が継戦をしない、か」

 

 相手への底知れなさを再確認しつつ、ネビリムはただキムラスカ軍が何を選ぶのか、どうでも良さそうに待つのだった。

 

 

────────────────

 

 

 停戦要請がマルクトからの送られた2日後。キムラスカ軍に激震が走った。

 再び、マルクト軍から電報が入ったのである。

 この作戦の総大将が、その名を明かした。死霊使いジェイド。

 マルクト帝国皇帝の懐刀であり、数々の戦争でキムラスカ側に煮湯を飲ませてきた戦場の悪夢。

 

 その日からキムラスカ軍の戦意は、へし折られた。

 勝てる勝てないの話ではない。あの存在と対峙するのは心から震え上がるほど、ただただ恐ろしかったのだ。

 前線の戦意喪失、更にケセドニアの商人たちが広めたマルクトからの停戦要請により、世論は大きく停戦へと傾いた。

 キムラスカはマルクトから花を持たされる形で、ケセドニア北部の停戦受け入れ、この戦争の幕は閉じた。

 

 本来であれば、数多くの犠牲を出し、多くの禍根を残すはずだった戦争は、比較的に良い方向で終わりを迎えた。

 たった一つ、とある陣営の思惑から外れたことを除き、この戦争はまだ平和的な終わりだったのである。

 

 大きな窓に陽の光はなく、夜のようにくらい。しかし今は夜ではない。

 暗雲が窓の外に広がる不穏な場所で複数の人物たちが話し合いをしていた。

 

 「この事態をどう見る、諸君」

 

 厳かに響く老人の声に、樽のように太った男が声を上げる。

 

 「本来であれば、この戦争はまだ続くはずでした。預言に詠まれた死者の数を大幅に減らしております。預言を成就させるのであれば、停戦受理をするべきではありません」

 「しかし、大詠師モース。キムラスカとマルクト両国からの停戦要請です。いくら神託の盾騎士団が出兵してるからと言ってダアトが停戦を拒むことは難しいでしょう。預言を完全に成就出来なかったことは遺憾ですが、ひとまず預言の通りに戦争が起こったのです。今は良しとしましょう」

 「甘いな、ヴァン・グランツ。預言には、キムラスカの『惨敗』が詠まれていたのだぞ? まだ本軍が壊滅していないのに戦争が終わったのだ。事態は深刻であると捉えるべきである!」

 

 ヴァンの言葉にモースは声を荒げた。

 それとは違い、ヴァンは静かに語る。

 その声は低く、その場にいた人物達に響いた。

 

 「キムラスカが負けた事は事実。預言を大きく外れていない、と私は考えます」

 

 しばらくの沈黙の後。

 

 「私も、そう思う」

 「預言に詠まれた未曾有の繁栄まであと数年。ここで世論を無視して戦争を長引かせれば逆に預言から外れてしまうのでは?」

 「そうですのぅ、此度は預言の完璧な成就とはなりませんでした。しかし、結果はおおよそ一致しております。我々が詠み違えた可能性も考慮し、ここは静観するのが良いかと」

 

 会議室の老人たちは各々、今回の停戦は仕方ない事態であるとした。

 

 「し、しかし……」

 

 だがモースは食い下がる。それに助け舟を出すように再びヴァンは静かに提案した。

 

 「ですが、私も大詠師モースの語るように預言から離れた要因を探るべきだと思います」

 「ほう。ではヴァン、お前ならどうやって預言から外れた要因が何であるか調べる?」

 

 ヴァンの提案に取りまとめ役が問う。

 

 「ひとまずは、停戦の決定打を調べるべきでしょう。なぜマルクトが優勢だったにも関わらず停戦要請をしたのか。その理由を突き止めねばなりません」

 

 取りまとめ役の老人が考えるように指でテーブルを叩く。

 そして、頷いた。

 

 「ではそうしよう。戦時中の情報をローレライ教団ならびに神託の盾騎士団は細かく調べるように。この戦争を詳しく分析せねばならん。全てはユリアの預言、未曾有の繁栄のために」

 

 集められた各々が、その言葉に同意を示し会議は終わった。

 全員が部屋から出ていく。

 

 その会議が行われてる部屋。部屋の大きな柱の物陰で一人の少女が最初から話を聞いていたとは知らずに。

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