TOA-レプリカ協奏曲-   作:スノードロップアウト

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レプリカ

 

 

レプリカ

 

 目の前には導師イオンが二人。全く同じ顔、同じ身体的特徴。

 影武者であったとしても、ここまで精巧に模倣する事はできないだろう。

 その二人を遠巻きに観察しながらネビリムとジゼルが話し合っていた。

 

 「あれどうする?」

 「……ここに置いておく事はできない。連れて行く」

 「拾ったペットは最後まで責任持ちなさいよ?」

 

 ネビリムは目の前の少年たちに、限りなく厄介事の匂いを感じ取った。

 徒労と要らない苦労を強いられそうなことに関わるつもりはない、とはっきり意思表示する。

 

 「冗談でもそんな事を言うな。あの二人は人だ」

 「それは悪かったわ。ごめんなさい」

 

 ジゼルは毅然とした態度でネビリムの物言いを戒めれば、彼女も素直に謝った。

 ひとまずは、二人を連れて行くことが決まる。

 改めて身元の確認と現状の把握のためにジゼルは少年と目線を合わせて語りかけた。

 

 「貴方は導師イオンで間違いないですか?」

 「……違う」

 「そう。なら、貴方の名前は?」

 「なんで教えなきゃいけないわけ?どうせアンタも僕を殺そうとするんだろ?」

 

 吐き捨てる様に言う少年は、警戒心を露わにする。

 

 「殺すつもりはない。というより理由がない。私は貴方たちを保護するだけだ」

 「……」

 

 極めて合理的な答え。ジゼルはあえて、そう答えた。目の前にいる少年は安易に他人を信じれる状況ではない。恐らくだが、理論的、合理的な内容であれば納得をしてくれると踏んだからだ。

 今、どんな優しい言葉を掛けても信頼を勝ち取る事は出来ない。

 目の前の少年は鋭い視線で睨みながら、ジゼルの言葉を反芻し、吟味し、理解すると攻撃的な様子を潜ませた。

 

 「……わかった。でも変な動きしたら容赦しないよ。それで保護ってなにをするの?」

 「ひとまず安全な場所に、と言いたいところだが私たちは人を追っている。そいつを見つけるまで、君たちには付き合ってもらう」

 「ここで大人しく待つよ。それじゃダメ?」

 

 連れ歩くよりは、と思いジゼルが頷こうとすると、後ろからネビリムが出てくる。

 

 「安全じゃないわよ、ここ。今は私が遠ざけてるけど私が離れれば魔物は戻ってくるわよ。自己の安全を優先するなら辛いだろうけど私たちについてくる事をお勧めするわ」

 「どういうことさ?」

 「この周りに魔物が居ないんじゃないの。私を怖がって出てきてないの」

 「……そんなわけ」

 

 鼻で笑った少年は、さっきのネビリムが起こした殺人を知らない。それゆえに、ネビリムの発言を何一つ信じていなかった。

 間近で見ていたジゼルは、ネビリムの言葉に真実味を感じていた。

 そういえば、あのローレライ教団の死体はどこだろう、とジゼルが視線を巡らせ探すが見当たらない。ネビリムを見ると視線が合う。意図を察したネビリムは無言で指でとある方向を指す。

 そこには赤黒くどろどろとした溶岩が流れていた。ジゼルは、そっと一連の流れを記憶から弾き出した。

 世の中、知らなくてもいい事はある、と。

 

 「ついて行くのは、この際構わないけど、コイツどうするのさ?」

 「そう言えば、この子は先ほどから全く喋らないな……」

 

 動かない同じ顔の少年を指す。ジゼルは微動だにしない少年の前に座り一通り確認をしてみる。

 しかし、導師イオンと全く同じ顔でただぼーっとしている。目の前で手を振れば体が僅かにぴくりと動くことから、目の前の出来事は認識しているらしい。

 しかし、どういう訳か発語も行動もしない。

 

 「コイツは刷り込みが少ないんだ。ほとんど生まれたばかりの赤ん坊だよ」

 「刷り込み?」

 「なんだ、本当に知らないんだ」

 

 相手が本当に自分たちについて知らないことを知ると少年は自嘲気味に笑う。

 

 「ま、外見とは違って赤ん坊のそれをどうするのって聞いてるんだ。置いて行く?」

 「いや、連れて行く」

 

 ジゼルは何も喋らない少年の手を握り立ち上がらせる。立ち上がり、歩くという行為に問題はないらしい。

 

 「そろそろ名前がないと呼び方が不便だな。二人の名前は?」

 「僕は識別としてシンクって呼ばれてた。コイツは知らない」

 「シンクか。ではこっちの子は、仮名だがノイとでも呼ぼう」

 

 仮の名前を与えられた導師に瓜二つの少年、ノイ。彼は笑うことも泣くことはない。

 ただ言われるがままに歩く。そんな人形のようなノイに声をかけても、虚な反応を返してくるだけだった。

 

 「……会話の訓練が必要だな」

 「こいつに構ってどうするのさ。何にもならないのに。善意の自己満足って奴?」

 

 呆れた、と呟くシンクは人の善意を嘲笑う。

 

 「なんの役にも立たない人形を拾って何しようってのさ?」

 「いや、なにも」

 「はぁ?それじゃなんで僕たちを拾ったんだよ。なにかさせるつもりじゃないの?」

 「何も望んでいない。というより、拾った事が成り行きだ。その後の事は何も考えてない」

 

 シンクから送られる疑惑の眼差しにうんざりした様にジゼルが返す。

 本当に拾った事自体が偶然なのだ。

 そんなに疑われては、たまったものではない。

 

 「ふーん」

 

 そして二人の会話をネビリムは興味深そうに聞いていた。

 なんとも『人らしい』会話だ。

 今までネビリムがしていた、仕事や役割のための会話ではない。

 ジゼルとシンクがしている話は、行動の根源についての話だ。

 なぜ助けるのか。助けた側からすれば、人道だからとしか言えない。

 そうあるべき、と培って来た人生がジゼルにはあるのだろう。

 

 しかしシンクの人生は、ジゼルの様な人生ではなかったようだ。

 『目的や理由があったから助けた』つまり、理由のない優しさをシンクは、まったく知らないのだろう。

 どちらかと言えばネビリムの感性はシンクにより近い。

 理由なき善意は移ろいやすく、信用できるものではない。きっと何かしら理由があるはずだと。

 シンクは確信と安心を欲している。拾われて自分たちが、あっさり捨てられないと確信できるものが欲しいのだ。しかしネビリムにもジゼルにもそれを示すことはできない。

 結局は、シンクの理解できる答えは返ってくるとかはなく、四人で火山の中を歩くこととなる。

 

 ネビリムを先頭に、シンクとノイを真ん中、最後尾にジゼルの並びで進行する。

 迷いのないネビリムの足運びにシンクは疑問を呈した。

 

 「あんた、迷いなく歩くけどこの火山に何度か来たことあるの?」

 「もちろん初めての体験よ。ただ音素の流れを辿ってるの」

 「音素の流れを、辿る?」

 

 疑うようなシンクの声音にネビリムは頷く。

 

 「そう。譜陣に刻まれた転送譜術の音素の流れを体のフォンスロットで知覚しておおよその方向を割り出してるの。さて、そろそろ辿り着くわよ」

 

 風が吹いてくる大きな横穴。

 その先を行く前に、シンクは足を止めた。

 

 「僕はここで待ってるよ。流石に疲れたから休憩する」

 「それなら、ここからあまり離れないようにね。私が遠くに行くと魔物が戻ってくるわ」

 「確かに道中で合わなかった……。早く用事済ませて来なよ」

 

 シンクは岩の上に腰を下ろして早く行けと言わんばかりに手を振る。

 そんな態度のシンクを見て、ジゼルはノイの手を引いてシンクの隣りに座らせた。

 

 「……なんのつもりさ」

 「離れるなと言われているのに、返事をしないシンクへの監視を頼もうかと思った。ノイ、シンクから目を離さないように」

 「……ん」

 

 初めて声を出したノイは、ジゼルの言葉に頷く。

 ジゼルは、少し驚きノイの頭を優しく撫でる。

 

 「帰って来たらまたお話ししましょう」

 

 こくん、とノイは頷く。それが返事の一つだと、いつの間にか会話の中から学んだようだ。

 そしてノイは、シンクの服の裾を強く掴む。

 

 「ちょっ!?離しなよ」

 「んん……」

 

 首を横に張るノイは、じっとシンクを見つめる。

 目を離さない、という強い意志が伝わってくるようだった。

 まだ不安だが、二人からしばらく離れることにする。

 ジゼルとネビリムがこの火山に来た理由がある。ジゼルは後ろ髪を引かれる思いで二人を置いて奥に向かう。

 

 薄暗い横穴の壁は滑らかで、どうやら人工的に掘った穴のようだ。

 足音と気配を殺して歩く二人の耳に、誰かの会話する声が聞こえてくる。

 一人は、少年の声。それはまるで文章を読み上げるように朗々としおり、よく耳に響く。

 ネビリムは少しだけ空いて、本格的に足音すら立たないようにする。

 そのまま穴の外、やたらと開けた場所の中で物が乱雑に積み上げられた場所に身を潜ませ、声のする方角を覗き見る。

 

 広々とした空間の奥に置かれた大きな石。

 石に手をついて、緑髪の少年が預言を読み上げていた。

 その光景を遅れて来たジゼルも一緒に確認する。

 

 内容は、ND2015にケセドニア北部の平原にてキムラスカとマルクトの軍事衝突が勃発。マルクト側の戦略により、大きく押されたキムラスカの要請でダアトの教団がキムラスカ側に友軍派兵を行うも、戦況を覆すことはできず。キムラスカ軍、ローレライ教団は甚大な損害を受ける。そして平原には夥しい数のキムラスカ軍と教団の兵士の死体が並ぶだろう、と。

 

 教団の中でも上位の役職でしか知ることのできない戦争の預言。

 秘預言が今まさに読み上げられていた。

 多くの人の死、戦争といった人々の安寧を妨げる預言は公開されること無く、秘匿されてしまう。

 それを故意に調べれば死罪にもなる程の禁忌である。

 あまりに悲惨な内容に、ジゼルの顔色が悪くなり声を出さないように唇を噛み締める。

 ネビリムとジゼルの視界の先で、緑髪の少年が地面に倒れ込んだ。

 

 「うっ……はぁ…はぁ!」

 「ふむ、やはり預言ではキムラスカの圧倒的な敗北ではないか!ケセドニア北部の最終的な両軍の損害率では、大敗とは呼べん!これは事態を重く見るべきか……」

 

 苦しむ少年に目を向けず、大詠師モースは苛立たしげに声を荒げていた。周りにいる詠師たちも改めて記録を取りながら預言の文章を読み直す。

 

 「確かに大詠師の仰る通りです。しかし既に停戦が結ばれ、戦争の継続は出来ません。後は戦争がなぜ短期間で終わったのか。その分析をするしかないでしょう」

 「だろうな。ユリアの預言は絶対だ。この預言通りに進めば、人類は未曾有の大繁栄を得る!人々のため、預言の遵守を揺るがすことは許されん。両軍から此度の戦争の報告書を入手するのだ」

 「既にマルクト軍に居る間諜に命を出しております」

 「手際がいいな。では私は、インゴベルト陛下に個人的に接触して聞き出そう」

 

 話を纏めると、大詠師モースは地面に横たわり苦しむ少年にようやく目を向ける。

 

 「あれはいつ終わる?」

 「もうそろそろかと。処分しましょうか?」

 「そうだな。処分を……いやちょうど始まったか。ではあれは捨てておけ。行くぞ」

 

 少年がぼんやりと明るくほのかな光を放つのを見て大詠師たちは火山を後にした。転送譜陣でダアトへと戻って行く。

 物陰に隠れ潜んでいたジゼルは、一目散に少年に駆け出す。

 ネビリムは周辺を警戒しつつ、危険がないことを確認するとジゼルの後に続いた。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 「はぁ、……う、ぐぅ……」

 

 苦しみの中、緑髪の少年は小さな結晶のような石ころを握り込む。

 

 「僕は……」

 

 その手の中にある宝物は預言。

 それは本来の未来で起こる小さな事柄を示した結晶。

 自分の体が一秒ごとに解けて消えて行く。死の恐怖の中で、生きる道筋を探すために詠んだ預言には自分の生存は記されなかった。しかし、ほんの少し先の未来で自分が誰と出会い、どんな名前をもらったのかは、知ることができた。

 

 「しっかりしろ!!」

 

 抱き起こされた視界の中で、青い瞳の女性が必死に治癒術を施す。

 何一つ意味なんてないのに、自分を助けようとしてくれることが、とても嬉しくて涙が溢れた。

 

 「名前……あったんだ……」

 「名前?」

 「ぼく、ね……無垢なる者って、言うんだ……」

 

 手の中にある預言を大切な宝物を優しい人に見せる。

 自分の最期に誰かに共有したかった。

 預言を渡された女性は、短い預言を読む。

 

 「……そう、アナタの名前はフローリアンなのね。とても素敵な名前よ」

 「僕の、名前、フローリアン……ありがと。おしえて、くれて……」

 

 体を構築する音素が乖離現象を起こし、一つの命が粒子となって消えて行く。

 苦しくて辛いのに、少年は笑顔だった。自分にとって一番の宝物をもらったような顔をしている。

 

 「きみの、名前は……なぁに?」

 「ジゼルよ。ジゼル・オスロー」

 「綺麗な、名前だね……ジゼル」

 

 ついに、フローリアンの指先まで消えて行く。

 待てなくなった預言の石をジゼルに預け、フローリアンは笑った。

 

 「ジゼルが持ってて……。ぼくの、生きた、証を……」

 

 こんな大事な物を他人に預けるな、と本当なら言いたかった。しかしジゼルはその言葉を飲み込んで、フローリアンが安心して逝けるように笑って応える。

 

 「任せなさい。ちゃんと大事に持っておくから」

 「よかった……」

 

 目を閉じたフローリアンの身体が、光の粒子となって消えて行く。

 腕の中にあった重みが一瞬で弾けて消えてしまった。

 そこに命があった痕跡すら残らず、フローリアンの人生が儚く終わる。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 「……」

 

 残された預言の石を握りしめて、ジゼルは黙祷する。

 

 「今のは、音素の乖離現象ね」

 

 後からやってきたネビリムは、フローリアンに起こった現象を断定する。

 

 「普通の死に方ではなかった。あれは一体なんだ?顔も導師イオンそのものだった」

 「…………わからない。私の中でも知識が無いみたいね。でも物を複製させる技術の知識はある。『レプリカ』というのだけど」

 「生体レプリカか……。しかしだいぶ前に生体レプリカ技術は禁忌指定され、研究することは違法とされるが……」

 

 先ほどの、フローリアンが行った惑星預言の読み上げを思い出しジゼルは目を伏せる。

 導師とは、誰もが成れる訳ではない。ローレライ教団の最高責任者である導師は『ダアト式譜術』という特殊な譜術が扱える素質と、第七音素を卓越して扱える先天的な素質が必須になる。

 導師ほどの素質のある人間は、まだオールドラントに落ちてきていない預言を、預言の石のカケラを通して読み上げることが出来る。

 それほどの卓越した素質を持つ人間が何人も居るはずがない。安定してユリアの預言を読もうとすれば、『導師と同じ素質を持つ存在を人為的に作る』方法に人は流れるはずである。

 

 「禁忌を破った奴らが居るのか……」

 

 しかも、レプリカという存在を備品のように切り捨てるやり方で使う連中が教団にいる。

 あれほど人と何も変わらない、生きている彼らを平気で捨ててしまえる奴らが。

 それだけでジゼルの頭が熱を持つほどの怒りに包まれる。

 

 「その上、戦争の結果を知りながら、ローレライ教団は派兵したのか!なら、私の弟は、マルセルが死んだのは教団の奴らが見殺しにしたのと同じではないか!」

 

 ジゼルの信じていたもの全てが崩れて行く。

 預言を守れば人類には繁栄が訪れる。その裏側にある「繁栄のためならどんな犠牲も厭わない」とする教団の理念を知り、嫌悪感が込み上げた。

 

 「死んだ人数と、繁栄した未来で生まれてくる人類の総数を思えば、執政者が取る選択は決まってるようなものよね?」

 「……だが綺麗事を言う者たちは、いつも自分が切り捨てられる側である事を想定しない。いつだって、切り捨てて生き残る側として考える」

 

 ネビリムの無慈悲な分析に、ジゼルの感情の火が燃え上がる。

 

 「だから犠牲を美しく飾り立てる!世界を繁栄に導くために犠牲が必要なら、まず真っ先に自分が死んで見せろ!!フローリアンは、生きようとしていたのに、生きたかったのに!!」

 「私に言っても仕方のない事よ。私は『犠牲を尊ぶ人の思考』を想像して言っただけ。それで、その怒りのまま大詠師や神託の盾騎士団の主席総長でも暗殺するつもりかしら?」

 「…っ!」

 

 目を逸らしたジゼルの横顔を見てネビリムは、予感が確信に変わる。

 

 「バカな真似はやめなさい」

 「そんな事は分かっている!しかし、人を人とも思わない奴らを、この世から消すためなら、なんだってする!!」

 「やめなさいっ!」

 

 鋭い叱責にジゼルと、言った本人がひどく驚いた顔をした。

 ネビリムは自分が声を荒げたことに、酷く狼狽える。

 

 「えっ、あ、あの、ごめんなさい?そんな強く言うつもりはなくて……」

 「……いや、いい。今ので少し頭が冷えた」

 

 ジゼルは自分が感情に振り回され、無謀な思考に染まっていた事を恥じる。

 あの叱責がなければ、火山を出て真っ先にあの大詠師を殺しに行ったかもしれない。

 落ち着きを取り戻し始めたジゼルとは逆に、いつも不敵で余裕を感じさせていたネビリムが混乱している様子だ。

 頭を抱え、なぜさっき感情が昂ってしまったのかを必死で紐解こうとしている。

 

 「なぜ?なぜ私はあんな事?」

 

 ふつふつと、疑問が浮かんでは答えを得られずに消えていく。

 ジゼルが我が身を顧みずに、教団への憤りから無謀な行動を起こそうとしたことに感情が吹き出したわけでは無い。

 ただなにか、酷く苦しく、自分の喉すら掻きむしりたくなる衝動に駆られた。この感情と衝動に名前をつけることが出来ないでいる。

 

 「ダメね。これ以上は自分の行動理由を考えても意味がないわ……」

 「……少し前から疑問だったのだが、アナタは自分の行動に困惑する場面がある。普通の人なら『さっきは怒り過ぎた』とか、どんな感情だったのかは大まかに把握できるがアナタにはそれがないように感じる。何かあったのか?」

 

 冷静を取り戻した青い瞳に射抜かれて、動揺して揺れる赤い瞳。

 それは隠し切れない不安をぽつりと吐露した。

 

 「分からない。だって記憶がないんだもの。あるのは知識とか情報だけ。私は自分の足で歩いてまだ半年も経ってないのよ?」

 「思ったより複雑な事情だな。だがこれだけは確信して言える。私の首を締め上げた時の衝動と、さっき叱ってくれた衝動は根本的に別物だ」

 「別物?」

 「言葉にすると難しい。直感で曖昧な表現になるが」

 

 ジゼルは自分の首筋を撫でる。死の恐怖の中、ネビリムが見せた不可解な行動を思い出す。

 殺そうとしてくる意志に逆らうように止めたネビリムの片腕。その行動について、彼女自身が驚いていた。

 

 「アナタには、もしかしたら記憶を失う前の自分の人格のようなものが残っているかもしれないという事だ」




新年度、思ったよりやること多くて書く暇もありませんでしたが、またゆっくり書いていきます!
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