たとえ死んでも、おれは女は蹴らん(無理無謀)   作:ミツヒコ

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一章?プロローグ?のエピローグです。
リハビリマンという名前だった通り、こちらの作品はリハビリで投稿していたものなので、一旦かなりの間書けていない元の作品の更新に戻ります。こちらもタイミングを見ながら更新しますので、今後もよろしくお願いします。ついでに真名開放しておきます。






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事の顛末

 

 

 

 

 

 結局、大事な物というのは謎のタブレット端末だった。『シッテムの箱』と呼ばれるソレを駆使して、先生はサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会へ移譲。

 その後はトントン拍子に事態も収束していき、D.U.は元の穏やかな雰囲気を取り戻していた。暴動の痕跡は街の彼方此方に残ってはいるが、それを引き起こした生徒達の姿は完全になくなっている。

 大半はヴァルキューレの生徒達によって捕えられ、矯正局へと逆戻り。運良く逃げ延びた生徒は散り散りになったものの、行く先はブラックマーケット等の仄暗い場所しかない。捕えられるのも時間の問題だろう。

 

“アロナがありがとうって言ってたよ。サンジがコレを確保してくれてなかったら、キヴォトスの平和は守られなかったって”

「どういたしましたって伝えといてくれ。そのイマジナリー彼女に」

“イマジナリーでもないし、彼女でもないよ”

 

 既にハスミ達はそれぞれの学園に戻り、チナツもサンジの怪我の処置を終わらせた後、名残惜しそうに去っていった。先生は就任早々仕事を始め、サンジは自分の出来る仕事をしようと買い出しに出掛けた。

 それが大体三十分程前のこと。今は先生がパソコンのキーボードをカタカタと鳴らし、サンジがキッチンで野菜の皮を剥いている。

 

「店にあったので作れるのがラタトゥイユぐらいだったんだが、それで良いか?」

“どうして有り合わせの物でそんなお洒落な食べ物が出てくるの……”

「暴動のせいで店も荒れ放題だったんだよ。何軒か回って使えそうなのをかき集めたら、こうなった。旬じゃねェんだけどな」

“そっか”

「それにそこまで洒落た料理じゃねェ。パンはどうする?」

“欲しいかも”

 

 包帯だらけの生徒に無理はさせたくなかったものの、料理素人の独身男性が手を出すわけにもいかず、先生は大人しくキーボードを叩き続ける。地下室で残骸と化した事務机の発注をしたり、書類の雛形を用意したり。

 そんな彼の作業を邪魔したのは、キッチンから漂い始めた食欲を唆る匂いだった。正確には、ニンニクの香りである。

 

 到着早々トラブルに巻き込まれ、水分補給ぐらいしかする暇のなかった先生。そのまま食事もせずに仕事に移行した彼に、ニンニクの香りとジューという如何にも料理をしていますという音を与えたら、どうなるかは目に見えている。

 集中力は完全に途切れ、作業の進行速度は落ちる一方。シャーレのホームページでも作ろうとしていたのだが、デカデカと連邦捜査部という言葉が打ち込まれているだけだ。シャーレという文字すら存在していない。

 

“……それにしても、本当に帰らなくて良かったの?”

 

 諦めて、先生は事務椅子に体を預けた。話でもして気を紛らわせようと思ったのだ。

 

「帰ってくるなって言われたんだよ」

“え!?”

「ああ、別に虐められてるとかじゃねェんだ。善意だと思う」

 

 言葉通り、落ち込んでいる様子はなかった。虐めに慣れているから気にしていないという風でもなく、先生は首を傾げた。

 

“善意?”

「若干ショックだけどな」

 

 サンジは先生に向け、通信端末を放り投げた。突然のことではあったものの、先生もそこまで鈍臭いわけではない。上手いこと両手で挟み込み、画面を見た。そこに映し出されているのは、キヴォトスで一番利用されているであろうモモトークというアプリのチャット画面。先生もつい先程登録し、騒動で知り合ったサンジ達とは既に連絡先を交換している。

 

【イブキちゃん達が手伝ってくれることになったので、サンジ先輩は暫くお休みで大丈夫です。何とかします。貰った公欠は使い切っちゃってください。ついでと言っては何ですが、あの議長にサンジ先輩のありがたみも教え込みます。色々と言われるとは思いますけど、急いで帰ってくる必要はないです。帰ってくる時は言ってください】

 

 確かに落ち込む要素がなかった。しかし、サンジ本人は少しショックを受けたらしい。目の焦点があっていない、太ったニワトリか何か。それが涎と一緒に長い舌を垂らして、全身を使って発狂しているスタンプを送り返している。

 ただ、何か大変な事態が起こっているから戻ってくるべきではないとか、勝手にいなくなるような人はもう帰ってこなくて良いとか、そういう類の言葉を叩きつけられたわけではない。

 むしろ、普段は働き過ぎだから休めという気遣いである。そんな彼に今も料理をさせているというのは大丈夫なのかと僅かに考えたものの、とりあえず気にしないことにした。

 

“この子は給食部の子?”

「ああ、後輩だ。後は風紀委員会のヒナちゃんからも似たようなことが送られてきたよ」

 

 生徒の交友関係自体は多少気になったものの、これ以上見るのも野暮だと思い、先生は端末の画面を暗くした。そのまま手元に置き、コンロの前で作業を続ける背中を眺める。

 

“怪我は大丈夫なの?”

「チナツちゃんが大袈裟にしただけだ。これぐらいなら怪我にも入らねェよ。ゲヘナの治安をナメんな」

“そんなに酷いんだ”

「誘拐、拉致監禁、恐喝。ここら辺は日常茶飯事だな」

“本当に学校?”

 

 確かに治安が悪いのは事実だが、それが日常茶飯事なのはサンジぐらいだ。後はフウカが度々美食研究会に連れ去られることはあるが、それも日常茶飯事ではない。

 

「第一校舎は崩壊寸前だな。勉強してる奴は第二校舎に集まってる」

“が、学級崩壊を越えて学校崩壊……”

 

 サンジのせいでゲヘナに対する妙な偏見が生まれ始めた先生の前に、赤っぽいソースに塗れた色取り取りの野菜の乗った皿が置かれた。

 先に言っていた通り、料理の名はラタトゥイユ。異国の郷土料理であり、夏野菜を中心にした煮込みである。あまり頻繁に食べる物ではないし、本物を食べる機会も中々ないものだ。先生自身、食べたことがあるのかないのか、記憶が定かではなかった。

 

“これ、本当にサンジが?”

「おれ以外に作れるとしたら、フウカちゃんぐらいだ。レトルトでこのレベルが作れるなら、おれはその会社に弟子入りする」

 

 宝石箱というフレーズを思い出しながら、先生は皿を持ち上げた。美味しそうという言葉は当然のこと、美しいという言葉も似合う。まだ二十になっていない少年が作る料理とは思えなかったのだ。

 

“ごめんね、つい”

「よく言われるから、気にすんな。それよりパンは焼くか?」

 

 サンジの手の中にあったのは、よくある五枚切りの食パン。少し潰れてしまっているせいか、半額のシールが貼ってあった。

 

“そのままで良いよ”

「まあ、焼く器具もフライパンぐらいしかねェんだけどな」

 

 受け取った食パンを千切り、浸す。引き上げたパンに引っ付いたパプリカとソース。それらを取りこぼさないよう、自分の口の中へ。噛むまでもなく、先生はその目を丸くした。

 

「クソうめェだろ」

 

 ニッと片頬を上げる少年の姿は若干悪そうだったものの、そんなことは気にもならなかった。大袈裟なぐらいに何度も頷き、一枚のパンを即座に腹の中に収めてしまった。

 その勢いのまま、まだ残っている料理を口に含んでいく。先生が自分の空腹具合に気付いたのは、皿を空にした後のことだった。

 

「まだいるか?」

“もちろん!”

 

 子供を見るような目で、サンジは笑う。

 子供のような顔で、先生は頷く。

 

“何処かのレストランにいた?”

「ほぼ独学だ」

“凄いね。初めて食べたよ、こんなに美味しい料理は”

 

 男二人の早めの晩餐はゆっくりと過ぎていった。

 

 

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