まだ序章も序章なのですが、二人の絡みを書きたかったので内容が進まなかったです。申し訳ない。
それから、一瞬日刊一位になっていました。皆さんありがとうございます。
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連邦生徒会がシャーレに大事な物を隠したらしい。
そんな曖昧な噂話が闊歩した結果、矯正局を脱走した生徒達が暴動を起こした。それに巻き込まれたり、便乗して暴れたりする生徒も多数。キヴォトスでも中々見ない規模の騒動に発展している。
連邦生徒会がその機能を取り戻す為には、シャーレの部室を奪還する必要があるのだが、シャーレ周辺は暴動の影響で近寄るのが難しい。特に先生はヘイローのない生身の人間。銃弾飛び交う中、呑気に散歩気分で近づけるはずもない。
ならば、丁度良く文句を言いに来たメンバーに協力を要請したら良いのではないか。生徒会長代行を務めている七神リンからそんなアドバイスを受け、先生は五人の前に現れたのだった。
“信じてくれるの?”
先生からの問い掛けに対し、サンジは頷く。
「嘘を言う理由がねェ。おれ達があの場にいよォがいまいが、連邦生徒会には別に支障はねェはずだ」
“ほら、私が君達を連れ出した後、君達が探してる連邦生徒会長がこっそり出てくるとかさ”
「連邦生徒会長はもういねェって聞いてる。それにもしまだいるなら、この状態のキヴォトスを見て何もしない人じゃねェだろ。生徒会長なんて、大なり小なり街を愛してなきゃなれねェよ」
そして、ついでとばかりに伝えられたのは、連邦生徒会長が行方不明になったという衝撃的な事実。それに驚かなかったのは、既に伝えられていたサンジだけ。普段は落ち着いているチナツや、冷静沈着という言葉が似合うトリニティから来た二人組ですら、驚愕の二文字が表情に出てきてしまっていた。
もし仮に伝えられていなかったとしたら、サンジも他四人と同様の反応をしていただろう。今回の話はそれぐらい現実味のない物だった。
「あー、いや、マコトちゃんはゲヘナも好きだろうけど……」
そうやって決まった三十キロ程度の行軍。シャーレへ向かう道すがら、サンジは先生の隣で話をしていた。
本来ならば、女子生徒達と共にいたい。好き好んで男の隣に立つような趣味はない。しかし、マコトから色々と事情を聞いているのはサンジ一人。それに加えて、彼は女子生徒相手ではまともに戦闘もできない。襲い掛かってくる女子生徒達の対処はユウカ達に任せ、彼が先生の弾除けになる方が良い。適材適所というヤツだ。
「まあ、あの生徒会長が仕事に嫌気が差して逃げ出したとも思えねェ。代役としてアンタを用意してるってことは、色々と考えた上で失踪したんだろォな」
“サンジは連邦生徒会長のことを知ってるの?”
「画面とか紙面越しでしか知らねェ。責任感がある立派なレディだってことしか知らん」
“そっか”
シャーレの部室に近づくにつれ、段々と銃声が大きくなっていく。抑え込もうとしている生徒も大勢いるようだが、暴徒側は矯正局にいた筋金入りの不良達だ。
いくら普段から治安維持活動に精を出している生徒達といえど、進行を多少遅らせるだけで手一杯らしく、少しずつ暴動は拡大しているようだった。それに伴い、流れ弾も飛んでくるようになっている。
「チナツちゃん、前衛は任せても大丈夫かい?」
「はい。サンジ先輩は先生を頼みます」
「ありがとう、助かるよ」
それだけ確認して、サンジは再び先生の隣に戻ってきた。
口振りから判断するのであれば、彼はかなり女性を大切に扱っている。年上である先生を相手にする時より、年下の女子生徒を相手にしている時の方が口調や表情が柔らかいのだから、そう思わない方が難しい。
だが、そこで生じる疑問が一つ。前線に飛び出す方が、それらしいのではないだろうか。そう考えた先生は、それを解消する為に口に出すことにした。
“ところで、サンジは戦わないの?”
「おれはたとえ、そうしなきゃ首を圧し折られるとしても、女だけは絶対に蹴らねェ。男と化け物と食材相手なら任せろ」
なるほど、そういう感じの子なのか。
先生は声は出さずに納得をしつつ、爪先に力を入れて少しだけ背伸びをした。
“見える限りだといないね”
「だろうな」
遠くから見る限り、いるのは女子生徒らしき暴徒達のみ。ヘルメット等で覆面状態になっている生徒もいるにはいるが、下半身はズボンではなくスカートが大半。大抵は男性と比べると華奢な体躯をしている上、響いてくる怒声も女性らしい高音ばかり。
それらから判断すると、彼らの視界の中にいる暴徒達は女子生徒ばかりだった。言葉通りならば、少年は彼女達相手に足を出すことは出来ないということになる。
“えっと……蹴らないけど、銃は撃つとか”
「何言ってんだ。しねェに決まってるだろ」
“やっぱりしないんだ”
比喩表現だとは理解しながらも、自分の誤解という可能性も考慮して質問した先生だったが、それは無駄に終わった。
実際、サンジはユウカ達のように武器を構える様子がない。今も両手はポケットに突っ込まれていて、そもそも銃を持っているのかも怪しいぐらいだ。
“なら、女の子が乗ってる戦車とかを蹴るのも難しい?”
「何言ってんだバカ野郎!レディが怪我したらどォするつもりだ!」
“ご、ごめんって”
女性が乗っているから対処できないが、女性が乗っていなければ余裕といった様子ではある。それ自体は非常に心強いのだが、問題は現在進行形で戦力外になっていることだ。
先生の指揮能力があれば、ユウカ達四人だけでも十二分に戦える。しかし、人数は多いに越したことはない。不測の事態に対処する為にも、彼が戦える手段を模索していたのだが、先生はもう諦めることにした。
「良いか、先生。おれはレディが怪我するぐらいなら、お前が顔面にブルーベリーと見間違われるぐらいの青痣を作る方が良いと思ってる」
“酷い!”
「おれはお前の命より、百万人のレディを優先する」
“更に酷くなってるよ!?”
前後を逆にすればプロポーズにしても良いであろう台詞は、良い声で出力されていることも相まって、かなり最悪なことになっている。
「だが、先生をシャーレまで送り届けなかった場合、女の子達はこれからも毎日辛い生活を送らなきゃならねェ。だから護衛は完璧にしてやる。もしてめぇを戦車で轢き殺そうっていうなら、履帯をぶっ壊すぐらいはするさ」
“そっちの方が難しいと思うんだけど”
この子は普段、どうやってキヴォトスで生きているのだろう。
そんな疑問が先生の頭の中に現れるのと同時に、視界に飛び込んで来るものがあった。
「サンジ先輩!」
「先生!気をつけてください!」
前を守っていたスズミ達の頭上を通過したのは、楕円形の爆発物。所謂、手榴弾と呼ばれる物。当然、ピンは抜かれている。
ハスミが咄嗟に撃ち抜こうとしたものの、それをすれば先生に危害が及ぶ。空中で爆発するだけなら良いが、手榴弾は爆発するだけでなく、破片や残骸を飛ばすことによって傷を負わせることを目的としている。その為、気軽に撃ち抜くこともできない。
先生も咄嗟に動き出したが、爆発の範囲から逃れられるかは五分五分。そんな状況下で、サンジは舌打ちと共に宙に飛び出した。
“サンジ!?”
足を止めると共に、前に飛び出した生徒へ手を伸ばす。しかし、その心配は杞憂に終わった。
サンジはそれを足の甲と足首の間に上手く乗せると、跳び上がった勢いを全てそれに繋げる。そして頭を地面に向けると同時に、更に高く遠い位置へ飛ばしたのである。さながら、サッカーのオーバーヘッドキックだった。
“え、ええ……”
簡単そうにしていたが、その難易度は単なるオーバーヘッドキックの何十倍と上だろう。既に爆発の準備を終えている手榴弾を、爆発しないように足に乗せるという繊細な操作。そもそも、空中でそれをするという曲芸師も真っ青な技術。それを頭で描いたとしても、実行に移すだけの度胸も必要である。
単なる足技と表現するには、あまりにも人間離れしていた。銃撃戦を平気な顔で行うユウカ達も、外の人間である先生としては中々に人間離れした生徒達ではあったが、サンジのそれは最早化け物の領域だ。
そしてそのまま、手榴弾は空中で砕け散った。先生の元まで届いたのはささやかな爆風ぐらいなもので、破片は地面に落ちる音が微かに聞こえただけ。スーツに煤が付着することすらなかった。
爆発地点の下に誰かいるということもなく、事前にそれを確認する余裕があったことも窺える。
「大丈夫か?」
“う、うん。サンジこそ怪我はない?足は平気なの?”
「このぐらい、別に何ともねェ」
くるりとヒーローのように着地した少年の姿は、数秒前と一切変わらない。怪我をしている様子もなく、小洒落たスーツも高そうな革靴も全く汚れていない。
「皆〜、おれの活躍、どうだった〜?」
先生の内心など知らないサンジは、いつも通りに声を弛ませながら四人に駆け寄っていく。先程の格好良いと言っても全く問題ない足技は何処へ行ったのか、両手両足だけでなく全身ふにゃふにゃになってしまっている。ゴム製のそういう玩具のように見えなくもない。
「どう、と言われましても……」
「凄かったです」
「凄いとかの話ではないような」
「そ、そんな……」
ハスミ、スズミ、ユウカ。彼とほぼ初対面の少女達の反応は三者三様というわけにもいかず、全員が同じように若干引いているぐらいの反応だった。そして、褒められることもなく項垂れるサンジ。
それを見て、先生も安堵する。キヴォトスではサンジのような生徒がそれなりにいるのかと思ってしまったが、そうではないことを認識できたからだ。
「サンジ先輩、見直しましたよ」
「惚れ直した!?」
「そうは言ってないです」
チナツの言葉で多少は持ち直したものの、やはりテンションは駆け出した時よりも随分下がってしまっている。
“ありがとう、サンジ”
少しは元気を出してもらおうという気持ちと、単純な感謝の気持ち。それらを合わせて言葉にした先生だったが、そんな彼を見るサンジの目は何とも言えないものだった。
「手榴弾程度じゃダメだったか……」
“違うと思うよ。というか、アレ以上の物をどうするつもりなんだい”
肩を落としながら、先程と同じように先生の隣にやって来るサンジ。しかし、すぐに何かを思いついたように目を見開いた。
「先生、提案があるんだが」
“何?”
「おれの為に戦車の前に出てみてくれねェか。安心してくれ、履帯も砲塔もぶっ壊すから」
“サンジの実力は理解したけど、流石にそれは私の心臓が保たないかな”
「大丈夫だ。チナツちゃんは元々救急医学部だから、心臓マッサージぐらいならしてくれる」
“そういう問題じゃないよ!”
あまりにも緊張感のないまま、即席の小隊は進軍を続けた。