今日も今日とてあざみーと調査。例によって事務所の前で合流と。
「ジャスミンさん! ジャスミンさん! 今度の休日って空いてますか!?」
帰ってきたご主人様に飛びつくワンコのごとく、到着早々あざみーが駆け寄ってきた。
「どうどう。落ち着きなって。空いてるよ。どしたん?」
「本当ですか!? じゃあ新しくオープンしたフルーツパーラーに行きましょう!」
「あー。あそこね……」
「……?」
首を傾げるあざみーはまさしく小動物のようで、頭をがしがし撫でてやりたくなる。
「甘い物好きなのかなって思ったんですけど……ダメですか?」
「ダメっつーことはないんだけどさ。その……飲み合わせとか平気だよね?」
「だ、大丈夫ですよ! ……やっぱりまだ気になります?」
「正直トラウマ……」
あれ以来菓子類を口にしていない。ストレスで禿げそう。
「私が調べたところ、健康被害の報告はありませんでした!」
「え? SNS調査したの?」
「はい! それはもう念入りに!」
「はー。仕事じゃないのにそこまで。若いっていいねえ」
「え? ジャスミンさんって何歳なんですか?」
「ちょい待ち! その質問は乙女にしちゃいかんでしょ」
「…………」
「何故メガネかけたし。念視じゃ見えんでしょ?」
「えへへ……。浮かび上がらないかなって」
どうしてあざみーがそこまでしてくれたか。推測するのは難しいことじゃなかった。
「なら行くか。待ち合わせは駅前でいい?」
「……! はい! やった……! デートですね!」
「いるよなー。女子二人のお出かけをデートって言うやつ。…………」
もちろん私のトラウマ克服のためなんだろうけど……。今の感じ、ちょっと引っかかるな。なんと言うか……喜びすぎのような。
あっという間に休日がやってきた。休日はそうであってくれるなよ。ともあれ待ち合わせ場所に行くと、あざみーが先に着いていた。早いな……。三十分前だぞ。
「待った?」
「いえ! 今来たばかりです!」
「へえ? ここに着く電車は到着時間ピッタリ、二十五分前、四十五分前のはずだけど?」
「も、もう。意地悪言わないで下さい」
「はは。じゃ、行くか」
「はい!」
さて、デートとしゃれこみますか。と言っても予約の時間までショッピングモールでブラブラするだけだけど。
「どうですか? 似合いますか?」
「あざみーほどフリフリが似合う子もおらんわな」
「そうですか? ジャスミンさんも似合うと思いますよ」
「やー。きついっしょ」
「そんなことないですって! ほら。騙されたと思って!」
「えー」
なんか着る流れになっちまった。何をそんな目をキラキラさせとるんだ。……着てみたけど。
「騙されたわ」
「何を言ってるんですか! すっごく可愛いですよ!」
「お、おう」
そう真正面から可愛いって言われると照れるわ。……ま、たまにはこんな冒険も悪くないかな。
「えーと次は……」
「え」
「これとか……これもいいですね!」
「あ……あざみー?」
「まだまだ時間はたっぷりありますからね……!」
「ひえ」
こんな冒険はたまにでいい……! それが私の遺言だった。
「つっっっかれた」
なんとか蘇生したわ。
「すいません。やり過ぎちゃいました……」
「あー、いいよ。あざみーがそんなわがまま言うの珍しいからさ」
「そ、そうですか?」
「おかげで甘いモン食いたくなったしな」
「あっ! もうこんな時間なんですね。行きましょう!」
……そうだ。少なくとも約束した日からそう。元々明るいとはいえ、やけにハイテンションだ。いっそのこと私に恋してるとかなら平和で良いんだが……。
「プリン・ア・ラ・モードのお客様ー」
「あ、私です! わぁ……! 美味しそう!」
時折不安そうな顔をして、その分大きく安心しているような印象だ。
「それではフルーツワッフルのお客様」
「来た来た」
「そっちも美味しそうですね!」
「おばさんになると体がクリームを受け付けんのよ」
「またまた〜」
「あざみーが食べさせてくれたらいけるかもよ?」
「え? そうなんですか? どうぞ!」
……あざみーにこの手のからかいは通用しないことは分かった。ただまあ自分で口にするのが怖いところはある。甘えてみるか。……! 口にした瞬間、そんな甘さごと染み渡るようにクリームが溶けていった。
「うまっ……」
「えへへ。良かったです!」
やっぱり甘いモンがない人生なんて人生じゃないわ。
「私にも一口下さい!」
「おー、じゃあそっちの皿に。……?」
なんだその何かを期待していますと言わんばかりの目は。私にも「あーん」をやれってことか!? そりゃ私から言い出したんだが……。あー、もう。そんな顔をするなよ。しゃあねえ!
「ほら」
「あむっ」
なんかやる側にとっては餌やりみたいだなこれ。それはもう嬉しそうにモグモグしてるわ。
「美味しいです!」
「だろうな」
幸せに満たされた顔を見て矛盾した感情が逆巻いた。一つはいろいろ傷付くようなこともあった彼女が、私といる時間で安心を抱いてくれる喜び。もう一つは今の安心が先の不安から来ていることへの憐憫の情だった。ようやく分かったよ。四枚目のイルミナカードを持っていた眉崎が呪いにかけられた挙句行方不明になったばかりなんだ。残り二枚……タイムリミットはすぐそこまで迫っている。予言の成就が己に何をもたらすのか。不安で仕方ないんだ。だから……。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした! 美味しかったー!」
「私も。誘ってくれてありがと」
「こちらこそ! ジャスミンさんと来れて良かったです!」
まるで慌てて思い出を作っているようで、いたたまれなかった。肩を支えるように抱きしめて、無責任に「大丈夫だ」と伝えたくなる。未来など分かるはずもないのに。
「送っていこうか?」
「いえ! 大丈夫ですよ」
「そっか。あざみー……その」
「……?」
言葉に詰まると、あざみーはさながら待てと言われたワンコのように次の言葉に期待していた。何を言うのが正解かなんて、答えの出ない問いかけなんだろう。それでも。
「また明日な」
「はい! また明日!」
予言なんてクソ食らえだ。過去はともかく、未来は誰にも見えたりしない。明日さえ何が起こるかも分からない中で、私達は生きているんだ。