第三次世界大戦、人類史上初の核戦争となったそれが残す傷跡に呻きながらも、文明は着実に再生を続けていた。
20年前に、”百鬼夜行”と呼ばれる事件が起こるまでは。
出所不明の化け物共が湧き上がり、無人兵器が人類に反旗を翻したあの日、再生は終わり、化け物の駆除のための核によって第三次世界大戦によって汚染されていた地上は多くがさらに汚染され封鎖された。
そんな現在、まともな採掘や開発はごく一部の領域を除いて不可能となっている上、ロストテクノロジーとなった技術も多数。
それ故、その魑魅魍魎が百鬼夜行している封鎖区域内に残された電子機器や情報、無人兵器の残骸や化け物―――エンドブリンガーの死骸は非常に高値がつく。
それらを討伐・回収、時に機動兵器のパーツとしてカスタマイズする、スカベンジャーとジャンカーを兼ねるラプターとして名をはせたのはいつのことだったか。
仕事道具であり相棒だった機動兵器はとっくのとうにスクラップとなり、新造するためにこうして装輪装甲車で仕事をする羽目になった。
しかもそれがなんと、40年も前に放棄され、無人兵器蔓延るこの都市――旧洋上技研都市テセウスという屈指の危険地帯での技術回収という…なぜ自分はこんな場所を選んだのか、過去の自分を呪いたい。
どうして今こんなことを思い出しているのか?背後からミサイルと無人兵器が迫ってきているからだ。
つまり走馬灯である
《損傷甚大、脱出機構作動》
愛車の動力バッテリーが爆発するのを背に感じながら、宙に放り出された。
《背部R2外装、脱落》
生きてる!?全身義体だからそう簡単に死にはしないが、今のは流石に死んだと思った…!
どうにかリアクションホイールをぶん回して着地し、駆けだす。
とにかく遮蔽を、あわよくば新たな移動の足を!
処理限界スレスレの演算回路に鞭打って、ロック表示がグリーンのハッチを発見。
レーザー通信で開かせ、一気にスライディング!
入りきったタイミングでドアが再び閉鎖された。
本当に危なかった。
長い間傭兵生活をしているが人生最大のピンチだったと言えるだろう。
ここは…どうやら機動兵器、それも有人型の格納庫らしい。
手探りでなにやらカバーのついたスイッチを見つけ出す。
こんなことになるなら格安パーツではなく暗視機能がついたものにすればよかったな。
意を決して押し込むと、照明がついた。
そしてメンテナンスブースの一つが埋まっているのが目に入る。
その主は純白の装甲をまとった10メートルの巨人。
その四肢には部位ごとに切れ目が入っていた。
ストライクキャバルリィ、通称SCと呼ばれる兵器。
原初の機動兵器たるベーシックキャバルリィ、BCから派生したそれは、全身のフレームと駆動系を高度にモジュール化し、容易に換装できるようにしたものだ。
専用機を欲しがるエースパイロットと、その専用機のコストを可能な限り抑えたい軍上層部のオーダーに応じて開発されたこのカテゴリの機動兵器は、運用、改修の容易さと、個による数の打破のための性能の両立というコンセプトに基づいて開発された。
最初は既存の専用機の設計をこの規格に合う形に置き換えた機体がその機体の主たちに渡った。
全く同じ戦い方をするエースはめったにいない。それゆえ全く同じ機体は存在しない。バリエーションに富んだデータは進歩を促す。
そして新たな部品が開発されるとエースは自らの機体の不満点を埋めるためそれらを採用し、またデータが…というサイクルが完成した。
そのサイクルの中で、あらゆる戦場に立つエースにとってはピーキー過ぎて選ばれなかったパーツが誕生したとしても、それらは一般兵向けの特化機や局地戦機体への改修素材として使用できるため無駄がない。
結果としてオーダーを出した両者に快く受け入れられたこの兵器カテゴリは軍の枠に留まらず普及し、PMC、独立傭兵へと広がり、コスト面や配備数こそBCに譲るものの戦場の主役となっている。
BC乗り時代からずっと、喉から手が出るほど欲しかった機体が、そして今まさに望んでいた移動の足が目の前にあった。
キャットウォークを駆けあがり、コックピットハッチすぐそばの小さなカバーを開く。
内部にあるコントロールパネルの液晶画面のバックライトは緑色であった。
つまり未施錠、乗るしかない。
ハッチが開くや否や身体を滑り込ませ、こちらも刺さったままだった物理キーを捻る。
<胸部予備吸気口解放、ジェネレーター始動開始。フェーズ1~20までクリア、イグニッション。>
<オペレーティングシステム、起動…初期設定を開始してください>
カメラ速度設定、スティック感度設定、キーアサイン、それぞれをかつての愛機のように設定。
<設定完了。起動オプション受諾、システム緊急起動、戦闘モードへ移行。>
モニターが映し出す外景、真っ暗だったそれは次の瞬間シャッターが追撃らしきミサイルの爆風で損傷したことで明るくなる。
機体を起動したことで外の無人兵器共に居場所がばれたらしい。
<オートマタ未搭乗を検知。姿勢制御性能及び火器管制性能低下、モーション:プリセットオンリー、システムオレンジ、現状での戦闘は推奨できません>
コンソールを操作し、機体情報を呼び出す。
[機体名:ProtoLucifer]
[ジェネレーター:<MITSUKAWA>GNE-G102V 出力:1170]
[FCS:<Silicon Valley Advanced Computing Research Institute>SCFCS-2-093]
[メインブースター:<Träume von Vögeln Industrie>TVV-07 forerunner-M2 ]
[サブブースター:<Träume von Vögeln Industrie>TVV-07 forerunner-S2 ]
[関節ユニット:<Armstrong Industries> worker-Ⅱ]
[コア兵装:<Aegis weapon systems>CWU-008_AS/ES:007]
[頭部:ProtoLucifer]
[コア:ProtoLucifer]
[肩部:ProtoLucifer]
[腕部:ProtoLucifer]
[腰部:ProtoLucifer]
[脚部:ProtoLucifer]
[strike weapon:none]
[L-slot1:none]
[L-slot2:<fireworkers industries>SML-MLT4-01:L ]
[L-hand:<MITSUKAWA>SAKURA-AR-2(桜式突撃砲弐型)]
[R-slot1:none]
[R-slot2:<fireworkers industries>SML-MLT4-01:R]
[R-hand:<Kruger and Carter Laser Laboratory>KCLL-LB02]
[EN容量:3260]
[EN充電速度:40]
なんだこれ!?
ジェネレーターは劣悪な初期型、FCSやブースター、防御システムは現行から三世代も前の骨董品、関節ユニットに至っては作業用なのにフレームは最新の第五世代並のスペック。
何を考えて組み立てられたのか全くわからない機体だな…
コンソールにコマンドを入力し、銃器と左腕のレーザーブレードの動作確認…問題なし。
しかし当然劣化しているはず、威力は低下しているだろう。
ふと、この機体を売りに出したらいくらになるだろうか、と考えてシャッターを何か巨大な質量が叩く音が響いたことで正気に戻る。
センサーに反応、アンノウン6、おそらく一つは元愛車か?
まだどこかが生きているようだ。
自動脱出機構が作動している時点でほぼ確実にスクラップだろうが。
正面から馬鹿正直に出れば一斉攻撃を喰らうのは見えているので右肩のミサイルを斉射し天井を破壊、全ブースターを最大出力で吹かして宙に躍り出る。
思ったより高く上がれなかったのとENコンデンサーがほぼ空になった。
運用し続けるならジェネレーターと関節ユニットの交換は必須だな…
開けた視界に映るは、まるでキャンプファイヤーを囲むかのように燃え盛る愛車を取り巻く無人兵器共。
意外なことに元愛車は後部が大破しているだけで原型をとどめ、センサーを光らせている。
しかしあの状態ではやはりスクラップは免れないか。
敵討ちだと無人兵器共にマルチロックした左肩のミサイルを食らわせてやる。
内装がひどく、性能不足こそ感じたもののいつぞや乗ったBCよりもよりもずっと思いのままに動かせた。
これがSCか。もしもオートマタを、AIを同乗させて攻撃や機動のリアルタイム制御をさせたら…
なるほど、乗って全能感を感じるものが多いのも頷ける。
右手のライフルでまず二機、残りの敵へミサイルをマルチロック。
これでも喰らってろ。
ライフルで追いたて、思った通りにミサイルが命中する。
急降下しながらブレードを起動、ミサイルを喰らってなお耐えていた生き残りをもれなく残骸に変えた。
安全を確保すると、元愛車へアクセスする。
メインコンピュータが無事のようだがあいにく持ってはいけない。中身のデータを全部引っこ抜くと、プログラムを走らせてデータを復元不可能なレベルで破壊した。
抜き取ったデータの一つ、ここに来るまでに使った大型輸送ヘリのコントロールソフトを立ち上げ、ここへ向かうように指示。
いくらヘリにエネルギーシールドなどの防御機構があり、都市の防衛システムが停止しているとはいえ安全ではない。
だからすれすれの低空飛行をするようにと指定。
あと帰還して一文無しは笑えないので、最低限黒字になるように敵機と愛車の残骸を回収するため着陸次第コンテナを解放するように指示を出した。
ヘリのシステムから移動開始の連絡を受け、すぐさまスキャンモードを起動。
武装や火器管制システムの全電力が回され、普段は抑えられているその性能を遺憾なく発揮したセンサーが敵影を捉えた。
離れた建造物の裏で動いている無人兵器の増援のシルエットがモニターとレーダーに映る。
思ったより数が少ない。
唯一の帰りの足、先程呼び出したヘリが無事に到着するには、隠れているより撃破したほうが良いと判断。
ビルなどの建造物を足場として使いながら、ミサイルとライフルで確実に撃破する。
一機、二機、三機…
後方物陰より近接格闘型、突進を躱してレーザーブレードを突き刺し、空いた穴にライフルを打ち込む。
右腕残弾なし、物陰に隠れてリロード。
前腕部内のコンテナからサブアームが予備マガジンを取り出し装填する。
残マガジン10。
遠方から飛んできた狙撃をアラートに従いSS、ステップスラストという急加速で躱し、ミサイルをVLSモードで発射。
レーダー上から最後の光点が消えた
これで、終わりか…?いや、あっさりしすぎている。
銃を再び構えたその時。
<高熱源反応、高速接近>
そんな警告が耳に入り、すぐさま動く。止まっていてはいい的だ。
レーダーに視線を向けると、すさまじい速度で接近する光点が一つ。
<敵ハイエンドSCを確認… ハウンド です>