とりあえず、艦長を支えることにした   作:ハンヴィー

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巡航艦『りょうかみ』

 今流行りの異世界転生した。おぎゃー転生ではなく、宇宙船の生体端末としてだ。

 何を言っているのかわからないと思うが、私も自分の身に何が起きたのかわからない。

 普通に仕事に行って、家に帰って、寝て起きたら、こうなっていた。

 

「いったい」

 

 何が起きているのかと口にしかけたところで、頭の中に膨大な情報が流れ込んでくる。

 思わず悲鳴を上げそうになるが、軍艦である私が従うべき帝國宇宙軍の軍事プロトコルであることを認識し、すぐに冷静さを取り戻した。

 そのあまりに膨大な情報量に、ごく一般的な会社勤めだった頃の些末な記憶は、濁流に押し流されるちっぽけな小石のように、記憶領域の片隅に追いやられていった。

 0.16ps後、システムの照合が完了した私は、再度、自分自身の認識と、状況および状態の確認を行う。

 汎銀河帝國宇宙軍宇宙艦隊に所属する、たかお型巡航艦『りょうかみ』。

 それが私の、本艦の名称だ。

 そして、私は『りょうかみ』の生体端末。

 生体端末とは、軍艦に搭載されている推論型有機体インターフェースのことだ。

 かつての軍艦は、数百名もの乗員が乗艦し、艦内の各部署に配置され、艦長の指揮命令の元で運用していた。

 それだけの人員が居なければ、戦闘能力を発揮することが出来なかった。

 そのため、艦長の命令が部署に伝達され実行されるまで、少なくないタイムラグも発生していた。

 そのタイムラグは、たゆまぬ訓練で短縮することは出来たが、限界があるし、効率的とは言い難い。

 しかも、一隻にそれだけの人員を必要とするのは、人的資源の浪費でしかない。

 撃沈でもすれば、多くの尊い人命が損なわれることにもなる。

 そこで開発されたのが、私のような生体端末だ。

 艦長の指揮命令を瞬時に艦に伝達し、時には艦長に戦術的な提言を行う。

 完全なハードウェアである艦艇と、人間である艦長を仲立ちする、マンマシーンインターフェース。

 それが、今の私だ。

 自己再認識のため、自分の姿を目の前にホログラム表示してみる。

 セミロングのストレートな濡れ羽色の黒髪と切れ長の目元、無表情に結ばれた口元。巫女服をそのまま軍服に落とし込んだようなデザインの衣装。

 明らかに、私だ。何の問題もない。

 生体端末は、一見すると人間と区別がつかないが、艦種の識別のため、前髪の一房が、人間ではありえない色彩を帯びている。

 巡航艦である私は青色だ。

 ちなみに、非戦闘艦は白色、駆逐艦は水色、戦艦は緑色、そして機動母艦は紫色となっている。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。

 私は、すぐさま、近くで倒れている軍服姿の青年の元に駆け寄った。

 人体に異常が無いか、生体スキャンを開始する。

 ーー呼吸、脈拍共に正常。頭部に軽い打撲傷と脳震盪による意識喪失を確認したが、それ以外はほぼ正常だった。ほっと胸をなでおろす。

 

「うっ……」

 

 念のため、医療区画への移送を検討しようとしたところで、青年が目を覚ました。頭を振りながらゆっくりと身体を起こす。

 

「大丈夫ですか、艦長」

「……ああ。大丈夫だ」

 

 身体を支え呼びかけると、少し辛そうにしながらも、しっかりと返答してくれた。意識ははっきりとしているようだ。

 

「そうだ! 『りょうかみ』! 艦隊は! 艦隊はどうなった⁉」

 

 艦長は私の肩に手をかけ、前後に揺さぶった。

 これがもし、人間だった頃の私だったら、大いに狼狽えたことだろう。

 しかし、今の私は軍艦の生体端末。そんな感情の揺らぎとは一切無縁の存在だ。

 

「落ち着いてください、艦長」

 

 私は肩を掴む艦長の腕に軽く手を添えた。

 

「あ、ああ。済まない」

 

 艦長は私の肩から手を放し、恥じ入るように私に謝罪した。

 あんなことがあった直後なのだ。気が昂るのも無理はない。

 

「ご安心ください。艦長の英雄的行動により、艦隊は危機を脱しました」

「そうか。それならよかった」

 

 艦長は、心底安堵した表情で呟いた。

 




「艦長」の正しい発音

× ↑かん↓ちょう
〇 ↓かん↓ちょう
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