とりあえず、艦長を支えることにした   作:ハンヴィー

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乱数跳躍

 オリオン腕の片隅にあるちっぽけな太陽系の第三惑星に発生した我々人類が、銀河に雄飛してから幾星霜もの歳月が流れた。

 人類はその活動圏を銀河系のオリオン腕全域に拡大していた。

 艦長と私の母国、汎銀河帝國は、オリオン腕に広大な版図を持つ大帝國だ。

 我が帝國は、現在ある国と交戦状態に陥っていた。

 敵国の名は、全宇宙人民平等共和国。共産主義という全時代的なカルトを信奉する拡張主義の軍事国家だ。

 国力自体は帝國の十分の一以下と歯牙にかけるほどの事もない小国なのだが、身の程をわきまえず、日頃から帝國に要らぬ内政干渉をかけてきていた。

 その理由というのが実に噴飯物で、頂点に皇室を戴く立憲君主国である我が帝國が「時代遅れで平等ではない」からとかいう常軌を逸した理屈だった。

 そんな低能相手にまともに取り合うわけもなく、帝國は丁寧な無視を貫いていたのだが、そうも言っていられない事態が起こってしまった。

 共和国軍が帝國の庇護下にある衛星国に、突然侵攻を開始したのだ。

 宣戦布告の大義名分というのが『帝國による不平等からの解放と、真の平等主義を授与するために』というのだから、全くもって理解しがたい。

 いや、むしろ理解出来るほうが問題だ。彼らと同列の思考形態ということになってしまう。

 ともあれ、衛星国が侵攻を受けたとあっては座視するわけにはいかず、すぐさま衛星国の防衛のため、討伐艦隊が派遣されることになった。

 討伐艦隊は、衛星国に最も近い呉鎮守府第四機動艦隊群から抽出された戦力で編成され、現地に急派された。

 私ーー本艦『りょうかみ』もその一隻だった。

 本艦は、主攻部隊ではなく、衛星国の最前線から、非戦闘員を後方に移送する輸送艦隊の護衛任務にあたっていた。

 護衛艦隊は、こんごう型戦艦『つるぎ』を旗艦とし、本艦と同型の姉妹艦『ほたか』『てしお』で構成されていた。

 輸送艦隊は全部で十五隻。それに対して、護衛の戦闘艦は本艦を含め四隻だ。

 護衛艦隊の旗艦である『つるぎ』を先頭に、後方に『ほたか』、左右に『てしお』、本艦という布陣だった。

 通常、船団護衛には小型で機動力の高い駆逐艦が最適なのだが、非戦闘員の中に、衛星国の政府要人が乗艦しているとかで、護衛任務にはオーバースペック過ぎる戦艦と巡航艦が配置されたのだ。

 本来なら、何の問題もない容易な任務のはずだった。

 何故なら、国際条約において、非武装の船舶に対する攻撃は禁止されているからだ。

 オリオン条約と呼ばれるこの戦時条約は、かつて地球上で人類が生活していた頃にも存在した、ジュネーヴ条約やハーグ陸戦条約といったものと同じ、捕虜や非戦闘員の取り扱いについて制定した星間条約だ。

 ほとんどの星間国家が批准しており、当然のことながら、帝國と共和国も批准している。

 しかし、相手は共和国とは名ばかりの全体主義の共産主義国家。条約は破るためにあると思っているような連中だ。

 案の定、共和国軍は、非武装の輸送艦隊に攻撃を仕掛けてきた。護衛艦隊の十倍にも及ぶ大艦隊でだ。

 共和国軍の労働級突撃艦は、帝國軍の艦艇に比べ、粗製乱造で性能はかなり劣る。しかし、性能を極限まで削り切った結果、量産性だけは目を見張るものがあり、戦闘では味方の損害に構わず、ひたすら突撃してくる厄介な存在だ。

 だが、如何に数が多いとはいえ、こちらは帝國宇宙軍が誇る戦艦と巡航艦だ。四隻は巧みに連携し、敵艦隊の輸送艦隊への接近を阻止せしめた。

 我が方の艦隊が放つ重イオンビームの直撃を受け、次々と敵艦は爆散していった。

 業を煮やしたのか血迷ったのか、共和国艦隊は、常軌を逸した賭けに出てきた。

 なんと、我が方目掛けて突撃するとともに、乱数跳躍を敢行したのだ。

 通常、空間跳躍には綿密な座標の算定が必要不可欠だ。広大な宇宙空間では、僅かな誤差でも現出先に数十光年のずれが発生するからだ。

 その結果、恒星の真っ只中に現出してしまう可能性だってある。座標を設定しない乱数跳躍が、どれほど危険な行為であるかは火を見るより明らかだ。

 攻撃に失敗し自暴自棄になった共和国艦隊は、ほぼ自殺行為と言える乱数跳躍に我が方の艦隊を巻き込もうとしたのだ。

 乱数跳躍の兆候をいち早く察知したのは、本艦の艦長だった。

 艦長は本艦を盾にして、敵艦の特攻を阻止しようとしたのだ。

 その結果、何とか撃沈には成功したのだが、撃沈直前に発動した敵艦の乱数跳躍に巻き込まれ、どことも知れぬ未知の宙域に現出してしまったのだ。

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