とりあえず、艦長を支えることにした   作:ハンヴィー

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行動方針

 艦長と私の間で、そんなやり取りが行われてからほんの数十秒後。

 シートにもたれかかった艦長は、すぐに安らかな寝息を立て始めた。やはり、かなりの疲労が溜まっていたのだろう。

 その間に、艦の修復を完了させることにする。

 敵艦隊の残骸は十分にあり、本艦の機能を十全な状態に復旧することは可能だ。

並行して、周辺宙域の捜索だ。やらなければならない事はたくさんある。

 

「それにしても、酷い有様だ」

 

 残骸の合間に漂う共和国軍兵士の残骸と思われるタンパク質化合物は、一つとして原形を留めているものは無い。手足や頭部など、辛うじて人体のパーツを留めているものがあるが、それすらも大きく損壊している。DNA鑑定でもしなければ、個体の識別は不可能だろう。

 共和国軍の艦艇は、生体端末を搭載しないため、艦種にもよるが常時百人以上の乗組員が乗艦している。

 今回の一連の戦闘だけでも、かなりの戦死者が出たはずだ。

 そういえば、共和国は、私達生体端末の存在についても批判的な言論を展開していた。

 曰く、女性の性消費の象徴だとかなんとか。

それで、大量の戦死者を出す羽目になっているのだから、全くもって理解に苦しむ。

 もっとも、敵国の人間が千人死のうが千垓人死のうが知ったことではない。むしろ、敵国の国力が漸減するのは喜ばしいことだ。

 私は意識を切り替え、艦の修復と周辺捜索に注力することにした。

 そして3時間56分21秒後。

 艦体の損傷は、完全に復旧した。

 また、同時進行で行っていた周辺宙域の捜索で、ある程度の状況を把握することもできた。

 良くお休みのところ少し心苦しいが、報告のため艦長に起床していただくことにする。

 

「艦長。起きてください」

 

 何度か軽く肩を揺すってみるが、一向に目を覚ます気配がない。

 この手段は使いたくなかったが仕方がない。

 私は艦長の手を握り、体内の生体電流を刺激した。

 

「うおっ!?」

 

 身体に軽い電気ショックを受けた艦長は、文字通り飛び起きた。

 

「お休みのところ申し訳ありません、艦長」

「い、いや。構わない」

 

 艦長は制帽を被り直し、居住まいを正した。

 

「報告を」

「かしこまりました」

 

 私は艦長の周囲に、いくつかの空中投影ディスプレイを表示させた。

 

「ハードウェアとしての艦の機能は完全に復旧しました」

 

 艦長の正面に投影したディスプレイに、本艦の武器システム、防御システム、生命維持システム、推進システムといった、艦の主要システムの復旧状態を提示する。

 あわせて、先の戦闘で消費した推進剤、対艦純粋水爆ミサイル、光子魚雷の弾頭についての補充が完了したことも報告した。

 快く資材を提供してくれた共和国軍には感謝しかない。

 いや、その理屈はおかしいか。

 もとはと言えば、彼らが条約を無視して攻撃を仕掛けてきたことが問題だ。

 

「続いて、周辺宙域の捜索結果の報告です」

 

 ディスプレイの表示を本艦の捜索センサーや探査ドローンから得た情報に切り替える。

 

「各種センサー及び測量手段を駆使して計測したところ、本艦の現在位置は未踏宙域であることが確定いたしました」

「……そうか。それで、周辺の天体状況は?」

「現在位置は、ある恒星系のエッジワース・カイパーベルトです」

 

 エッジワース・カイパーベルトは、星系の惑星公転面の外側にディスク上に広がる空間で、無数の小惑星や準惑星が散乱している宙域のことだ。

 

「まさか、そんな空間に現出していたとはな。天体と衝突して、宇宙(うみ)の藻屑となっていた可能性もあったわけだ」

「はい。僥倖でした」

「僥倖か。まあ、そうだな。そう考えた方が建設的か」

 

 艦長はそう言って皮肉っぽく笑った。

 

「報告を続けてもよろしいでしょうか」

「頼む」

「恒星のタイプは、典型的なG型主系列星。オリオン国際天文学連合による惑星の定義にあてはめた場合、惑星数は8となります」

 

 なんの偶然か、人類発祥の地である太陽系と同じ惑星数だ。

 惑星の内訳についてだが、これも太陽系と同じだった。

 地球型の岩石惑星が四、木星型ガス惑星が二、海王星型氷塊惑星が二だ。

 

「そして、星系第三惑星が、我々人類が生存可能な大気組成を有しています」

「ほう。人類発祥の地である太陽系と同じというわけか」

 

 艦長もそこに気づいたらしく、意外そうな表情をしていた。

 

「星系内の電磁波を計測したところ、天体の放出する電磁波とは異なる、明らかに指向性を持った電波が飛び交っていることが確認できました」

「確認する。惑星から宇宙空間に放射されているのではなく、宇宙空間を飛び交っているのだな?」

「左様です、艦長」

 

 艦長の確認に私は頷いた。

 

「この星系には、宇宙空間に進出可能な文明を持つ知的生命体が存在する可能性があります」

「となると、我々の現出を察知している可能性も考えられるな」

 

 空間跳躍による現出時には、空間歪曲を伴う時空震が発生する。この時観測される空間歪曲値は、現出対象の質量に比例する。全長680メートルの本艦の現出時には、かなり大規模な時空震が発生しているはずだ。

 この星系の治安維持機構が、調査のためこの宙域に戦力を派遣する可能性は十分考えられる話だ。

 そして、おそらくは、人類が初めて遭遇するであろう、異星文明ということになる。

 

「さっさとお暇したいところだが、空間座標を完全に喪失している状態では、それも難しいか」

 

 空間跳躍には、宇宙図上の座標産出が肝要であることは先に述べたとおりだ。

 それを喪失している以上、空間跳躍で帝國領に跳躍することは不可能だ。

 もちろん、乱数跳躍など沙汰の限りだ。

 

「彼らとの接触はいずれ避けられないとしても、いましばらく時間が欲しい。身を潜めるための拠点を構築したいと考えるがどうか」

「適当な判断だと思います、艦長。最適と思われる宙域をピックアップいたします」

 

 投影型ディスプレイにいくつかの候補地を表示する。

 その中には、エッジワース・カイパーベルトのみならず、オールトの雲という星系外縁部天体が球殻状に星系を包み込む宙域も候補地として提示した。

 

 艦長はわずかに考え込むそぶりを見せたが、すぐに顔を上げた。

 

「『りょうかみ』。エッジワース・カイパーベルトのポイントEG-4922に向かう」

 

 艦長が指定したのは、カイパーベルトの中でも、特に天体密集率が高い空間だった。

 身を潜めるには最適の場所と言えるだろう。

 

「この宙域に恒久的に活動可能な拠点を構築し、来るべき異星文明との遭遇に備える」

「承知しました」

「では、早速移動するとしよう」

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