とりあえず、艦長を支えることにした   作:ハンヴィー

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デフラグとガベージコレクション1

「報告します。拠点の構築が完了いたしました」

 

 制限が解除された物質再構成機能をフルに活用し、私は活動拠点の構築を急ピッチで完了させた。

 天体に偽装するため、付近を遊弋していた10Km前後の小惑星を重力安定空間に固定し内部に設備を構築していった。

 複数の艦艇が収容可能なドッグ設備、浄水設備、居住設備、食料生産設備などを備えた大規模な基地だ。

 更に、基地の周囲には、岩石などに偽装した防衛用の戦闘衛星を配置して自衛機能を付与している。

 

「おお、凄いな……」

 

 艦を降りた艦長が、施設内を見回し、感嘆の声を上げた。

 吶喊工事だったため、まだ必要最低限の設備しか整っていない状況だが、艦長には満足いただけたようだ。

 

「続いて、僚艦の建造を開始します」

 

 そして、建造が完了したら、生体端末の生産を行わなければならない。

 

「いや。その前に、休息を取るんだ、『りょうかみ』」

 

 艦長は強い口調で言った。

 生体端末である私には、人間のような疲労や、それに伴う身体能力や思考能力の低下などは発生しない。もちろん、病気になることもない。

 しかしながら、稼働時間過多による光量子演算装置の高負荷、記憶領域の断片化などが発生し、情報処理能力に遅延やロスが発生する確率が増大する。

 それを防ぐためには、機能の大部分をシャットダウンしてスリープモードに入り、断片化した情報の最適化やプロセスの再起動、システム領域の再構成を行う必要がある。

 その状態は、見かけ上人間の睡眠状態によく似ているため、艦長はしばしば、休息という表現を用いていた。

 

「共和国軍との戦闘からこちら、君は艦の機能を最大限に発揮し続けている。艦の修復作業と拠点構築作業で、かなりの負荷が掛かっているのでは無いか?」

 

 自己診断ルーチンを回してみるが、光量子演算装置の使用率は40%前後で、記憶領域の使用率・情報断片化率共に規定値を遥かに下回っている。スタックしているプロセスも存在しない。

 

「この程度であれば、まだ活動に支障はありませんが」

「休めるときに休んでおかなくては、いざというときに実力が発揮できんだろう。違うか?」

 

 確かに、艦長のおっしゃることはもっともだ。

 この先、何か不測の事態が発生し、再構成の時間が取れず、能力が発揮できない事態に陥ってしまう可能性は十分に考えられる事だ。

 

「承知しました。お気遣いに感謝します、艦長」

「その間に、俺もきちんと休ませてもらうことにするよ」

 

 満足な休息を取れていないのは艦長も同じようだ。

 艦の修復時に多少の休息を取ったとはいえ、ごく短時間でしかない。

 

「承知しました。何かあれば、叩き起こしてください」

「叩き起こすわけにはいかんが、了解した」

 

 ちょっとした軽口の応酬の後、艦長は艦長室へ向かい、私は本艦の調整ルームに入った。

 調整ルームの寝台に仰向けに横たわった私は、すぐさまスリープモードに入った。

 私は、仮想空間に一人佇み、目の前に渦巻く膨大な情報の一つ一つをピックアップして精査のうえ、優先度や時系列順に最適化し、記憶領域に格納していく。情報の重要性と再利用性を確認し、不要と判断したデータは、記憶領域確保のため削除を実行する。

 膨大なデータの中に、記憶領域の片隅に転がっていた、ある記憶情報を発見した。

 それは、私が人間だった頃の記憶だ。

 ごく普通の家庭に育ち、ごく普通の教育を経て、ごく普通の企業に就職したどこにでもいるような、二十代中頃程度の年齢の女だった。

 人生に波風が立たないことが最大の幸せと考えていたようで、仕事も人間関係も卒なくこなすが、職場では極力目立たず、人間関係に関しては、決して相手に深入りせず深入りさせず、上辺だけの付き合いに終始していたようだ。

 そんな私が、何故、軍艦の生体端末になってしまったのかはわからないが、これについては、推論に推論を重ねたところで、答えが出てくるとは思えない。

 特筆すべき情報ではないし、今後参照する機会も皆無のデータではあるが、現在の私を構成する要素の一つであることは間違いない。

 ひとまず記憶領域の片隅に配置しておくことにした。

 

「これは……」

 

 次のデータをピックアップした時、それが艦長と初めてお会いした頃の記憶情報であることに気づいた。

 情報の整合性の確認と最適化のため、記憶情報の内容を再生してみる。

 

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 記録日時:皇紀5685年 星歴3965年 帝國標準時4月4日 14:58:22

 再生開始

 

 場所は呉鎮守府の工廠。竣工したばかりの本艦の舷側で、私は艦長として着任する士官の到着を待っていた。

 着任予定の士官は、ハンモックナンバー2。つまり、士官大学校次席卒業のエリートだと聞いている。

 この度、艦長養成課程を修了し、二等宙佐として着任する予定だ。

 やがて、一人の青年士官が現れ、タラップを登ってくる様子が見えた。タラップを登りきったところで、私は海軍式の敬礼を以って彼を出迎えた。

 

「ようこそ、『りょうかみ』へ。歓迎いたします」

 

 青年士官は目を見張った後、少し慌てたように答礼した。

 

「本日より、艦長として着任した。生体認証を」

「承知しました。失礼いたします」

 

 青年士官の両頬に手を添え、彼の瞳を覗き込む。

 少し緊張しているのか、青年は僅かに頬を紅潮させている。僅かに動悸の乱れも感じられる。

 

「光彩パターン確認。照合完了」

 

 次に、私の右の掌と、彼の左の掌を重ね合わせる。

 

「指紋パターン確認。照合完了」

 

 最後は、声紋パターンの照合だ。

 

「何か言葉を発していただけますか」

「あ、いや。急に言われても……」

「声紋パターン確認。照合完了。只今を以って、本艦『りょうかみ』の艦長として承認されました。ご協力ありがとうございます」

「あ、うん。そうか」

 

 この瞬間、青年士官は本艦の艦長として承認された。

 

「若輩の身だが、よろしく頼む」

「こちらこそ。本艦も竣工したばかりの新造艦です。不束者ですが、宜しくお願いいたします」

「ところで、その……」

 

 艦長は居心地悪そうに身じろぎした。

 

「そろそろ、離れてもらえないだろうか」

「申し訳ありません。続いて、艦長の遺伝子情報のサンプルを取得いたします」

 

 遺伝子情報のサンプリングは重要だ。

 もし、戦傷や事故で四肢を失ったり、臓器に深刻な損傷を受けた場合、採集した遺伝子サンプルを元に細胞を再生し、失われた部位を修復するからだ。

 

「では、失礼いたします」

「っ!?」

 

 私は、再度艦長の頬に両手を添えると、唇を重ねた。

 そのまま、艦長の口腔に舌を差し入れると、口内を舐るようにして口腔粘膜を採集した。

 傍から見れば、恋人同士の接吻に見えるかもしれないが、決してそんな浮かれたものではない。

 いうなれば、これは医療行為に近いものなのだ。

 

「失礼いたしました。お手数をおかけいたしました」

 

 十分な量の遺伝子情報を採集した私は、ゆっくりと艦長から離れた。

 

「艦長。どうかなさいましたか?」

「あ、い、いや……」

 

 艦長は私から目を逸らし、咳払いをした。

 

「と、ところで、君のことはなんと呼べば良い?」

「私は、本艦『りょうかみ』の推論型有機体インターフェースです。『りょうかみ』の機能の一部にすぎません。どうぞ、『りょうかみ』とお呼びください」

「わかった」

「では、こちらへ。艦内を案内いたします」

 

 

EOF

再生終了

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 この記憶情報が作成されたのは、日数にして六か月ほど前の事だ。

 艦長が本艦に着任された時の記憶情報だ。現在の私を構成する重要な記憶情報の一つだ。

 深層領域へと格納し、次の記憶情報を精査のため再生する。

 

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