とりあえず、艦長を支えることにした   作:ハンヴィー

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デフラグとガベージコレクション2

 今度のデータは、共和国艦隊との戦闘が発生する少し前の記憶情報だった。

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 記録日時:皇紀5685年 星歴3965年 帝國標準時10月2日 19:58:25

 再生開始

 

「……というわけで、女子会です!」

「わーい!」

「待ってましたー!」

 

 本艦は現在、共和国に攻撃を受けた衛星国から、非戦闘員を収容した輸送艦隊の護衛任務に就いている。

 その最中、僅かな時間を使い、護衛艦隊の旗艦である『つるぎ』の提案で、共有仮想空間で女子会なるものが開かれることとなった。

『つるぎ』の言葉に歓声を上げたのは、僚艦の『てしお』と『ほたか』だ。

 私はどう反応すべきか判断に迷った挙句、無言で彼女達の様子を見守っていた。

 

「どうしたんですか、『りょうかみ』さん」

 

 心配そうに小首を傾げたのは、今回の女子会とやらを主催した護衛艦隊の旗艦『つるぎ』だ。

 

「別に、どうもしていませんが」

 

 少し戸惑い気味に答えると、『てしお』と『ほたか』が詰め寄ってきた。

 

「えー、何かノリ悪いー」

「もしかして、緊張してる?」

 

 別に緊張はしていないが、彼女達の妙なテンションについていけないのは確かだ。

 

「まあまあ。『てしお』さん、『ほたか』さん、落ち着きなさい。『りょうかみ』さんは、こういうのは始めてでしょう?」

「ええ。そうですね」

 

 とりなすような『つるぎ』の言葉に私は頷いた。

 そもそも、私は女子会なるものが始まるなどとは想定していなかった。

 護衛任務についてのミーティングのようなものだと考えていたのだ。

 

「では、これを機に、他の艦艇とのコミュニケーションを学ぶと良いわ」

「作戦上のコミュニケーションに、支障は無いはずですが」

 

 護衛艦隊の我々四隻はもとより、護衛対象の輸送艦隊とも、常に顕密なデータリンクで結ばれていて、何か異変があれば瞬時に情報共有がなされる環境が構築されている。

 これ以上に最適なコミュニケーションなどあるのだろうか。

 

「もー! そうじゃないわよ、『りょうかみ』!」

「ようするに、親睦を深めるために、楽しくおしゃべりしようってことよ」

「親睦、ですか」

 

 人間同士の間柄なら、円滑な人間関係を構築する手段の一つとして、日常的に親睦を深めるというのは有効ではある。しかし、プロトコルで制御されている私達軍艦の生体端末に、果たしてそんな必要があるのだろうか。

 

「『りょうかみ』って硬いなぁ。そんなんで、艦長さんと上手くやれてるの?」

「艦長との関係は、おおむね良好です」

「とても、そうは思えないねえ」

 

『てしお』と『ほたか』の二隻は、何故か私に懐疑的な視線を向けている。

 

「確かに、少し心配ね」

 

 頬に手を当てながら、『つるぎ』は困ったような笑みを浮かべている。

 

「そうだわ、『りょうかみ』さん。あなたのこれまでの記憶情報を私達三隻に見せてもらえないかしら?」

「それは別に構いませんが……」

 

『つるぎ』の意図は不明だが、別段隠し立てする必要もない情報だ。自分の日々の行動に何ら問題は無いはずだ。

 別段、秘匿するような情報でもなかったため、彼女の言うままに、艦長が着任された時からの記録データを共有空間に転送した。

 

「……これは」

「う、うわあ……」

「え、なにこれ。なにこれ……」

 

 何故か、三隻は顔を赤くして絶句していた。

 

「ええと、『りょうかみ』さん?」

 

『つるぎ』が若干引きながら、ためらい気味に尋ねてきた。

 

「その、艦長さんの遺伝子情報を採集したときのことだけど、聞いてもいいかしら?」

「何でしょうか」

「どうして、あんな事をしたの?」

 

 あんな事とは。いったい、何のことだろうか。

 思い当たる節が無い私は、小首を傾げた。

 

「だだだ、だって、『りょうかみ』のやった方法って……」

「まるっきり、キスじゃない! しかも、かなりディープなほう!」

 

『てしお』と『ほたか』が口々に言い募った。

 何を言い出すかと思えば、そんな事か。

 私は失笑しそうになってしまった。

 

「それが最適だと判断したからです」

「さ、最適!?」

「ディープキスが最適!?」

「二隻とも落ち着いて。『りょうかみ』さん。説明していただけるかしら? なぜ、それが最適だと判断したのかしら?」

 

 説明するも何も。考えるまでもないことだと思うのだが。

 

「遺伝子情報の採集とはいえ、艦長の身体を傷つけるわけにはいかなかったのです。したがって、口腔粘膜から採集させていただきました」

 

 私は、至極常識的な回答をしたはずだが、何故か三隻は困惑したような笑みを浮かべている。

 

「それなら、毛髪や爪を少し切ってもらえば良かったのではなくて?」

「あっ」

 

 私は思わず声を上げてしまった。

 たしかに、『つるぎ』の言うとおりだ。盲点だった。毛髪や爪なら、痛覚が無い。迂闊にも、指摘されるまで全く気が付かなかった。

 

「天然さんなのかしら……」

「もしかして、天然を装った隠れ恋愛強者……!?」

「『りょうかみ』……! 恐ろしい子……!」

 

 なぜか、三隻で顔を寄せ合い、私の方にちらちらと視線を送りながら、ヒソヒソと内緒話に興じている。

 実際、気分の良いものではない。

 

「でも、これって使えるんじゃ……?」

「そ、そうね! 試してみる価値、あるかも! 遺伝子情報を最新のものに更新するとかなんとか、理由付けて、艦長に協力してもらおうかな!」

「『てしお』さん、『ほたか』さん。落ち着けなさい」

 

 やけに興奮気味の二隻を宥めつつ、『つるぎ』は、どこか慈愛に満ちたような目で私を見つめて来た。

 

「『りょうかみ』さんは、距離感の詰め方とか、対人関係の機微とか、そういったことを少し学ぶ必要があるわね」

 

 少しばかり教示的な『つるぎ』に、『てしお』と『ほたか』が、そのとおりだとばかりに何度も頷いている。

 

「もう少し、具体的に話していただけますか」

 

 納得のいかない物言いではあったが、『つるぎ』はこの艦隊の旗艦であるし、実戦経験もある熟練艦だ。『ほたか』『てしお』の二隻は、実戦経験こそ無いものの、私よりも先任だ。

 そこまで言うのなら、大人しく先達のアドバイスを聞いてやろうと考えたその時だ。

 共有空間内に警告音が鳴り響いた。敵襲を知らせる警報だ。

 その瞬間、楽しげだった三隻の顔から一瞬にして人間らしい表情の一切が消失した。おそらく、私の表情もそうなっていることだろう。

 

「あらあら。悪い子ちゃん達がおイタをしにきたみたいね。残念だけど、今日の女子会はお開きね」

「無粋よねえ、全く。これだから共産主義者は……」

「『りょうかみ』! また後でお話しましょ!」

 

 口々にそう言って、彼女達は共有仮想空間からログアウトしていった。私も同様にログアウトし、意識を現実世界に向ける。

 艦長と本艦の初陣が始まろうとしている。

 

 

EOF

再生終了

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 共有仮想空間での僚艦との他愛もない会話の記憶情報だ。

 のんびりとしたやりとりをしているように見えるが、人間の体感にすると、僅か3psという短時間で行われたものだ。

 この直後、未踏宙域に飛ばさられる原因となった、共和国艦隊との戦闘に突入することとなる。

 

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