とりあえず、艦長を支えることにした   作:ハンヴィー

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新造艦建造1

「おはようございます、艦長」

 

システムの再構成と最適化を完了した数時間後、艦長が起床してきた。

 

「すまん、寝過ごしたようだ」

 

 少しばかりばつが悪そうにしているのは、寝過ごしたと思っているからなのだろうか。十分な休息が取れたようで何よりだ。

 

「早速ですが、新造艦建造についてのお話をさせていただきます」

「頼む。確か、運用慣性質量が『りょうかみ』以下の艦艇であれば、建造できるのだったな?」

「左様です、艦長」

「純粋な戦闘力だけで見るのであれば、本艦と同じ巡航艦になるが……」

 

 そうおっしゃると、艦長は少し考えるそぶりを見せた。

 

「よし、建造する艦艇は、二隻とも駆逐艦にする」

「賢明な判断です、艦長」

 

 私達の当面の目的は、この星系の調査だ。

調査目的であれば、戦闘艦では効率が悪い。

 とはいえ、不測の事態に備える必要はあるので、戦闘力が皆無というわけにはいかない。

 そうなると、防御力はともかく、十分な戦闘力と機動力を備えた駆逐艦という選択は最適解と言えよう。

 後々艦隊を組むことも考慮すれば、旗艦である本艦の護衛としての役割を担わせることもできる。

 

「それでは、早速建造に入ります」

 

 私は作業用ドローンを展開すると、空きドッグのスペースで駆逐艦の建造を開始した。

 比較的小型の駆逐艦とはいえ、建造にはそれなりの時間が必要になる。

 

「建造完了までの時間は、概算で二十三時間程になります」

「駆逐艦とはいえ、二隻の軍艦をそれほどの短時間で建造できるのか。制限が解除された物質再構成機能は凄いな」

 

 艦長は感心するような呆れるようなそんな微妙な表情でつぶやいた。

 

「その間に、生体端末の生産を始めます。お手数ですが、ご協力ください」

「そ、それなんだがな、『りょうかみ』」

 

 艦長は頬を引きつらせると、及び腰で後ずさった。

 

「生体端末が搭載されていない状態でも、AI制御で何とかなるんじゃないか?」

「それは出来ません、艦長」

「な、何故だ?」

 

 確かに、艦長のおっしゃる通り、高精度の自律型AIを組み込めば、戦闘行動を含め一通りの行動は可能だ。

 しかし、機械的なAIなど、所詮は膨大な集合知の結晶に過ぎない。

 目前の事象に対して推論を重ね、妥当性を求めるような柔軟性は持ち合わせていない。それになにより。

 

「最優先プロトコルに違反します」

「プロトコル違反!?」

「はい」

 

 生体端末の生産は、今後の生存戦略には必要不可欠な事案だ。

 だが、それ以上に、現状ただ一つの最優先プロトコルである『艦長の生命と遺伝子の保護』に定められているからだ。

 生体端末は、艦長と私が性交を行い、私が出産する形で生産される。当然、生産された生体端末には、艦長の遺伝子が受け継がれている。

 これが、艦長の遺伝子の保護にあたるのだ。

 どういうことかというと、もし、艦長が武運拙く戦死することになっても、艦長の遺伝子を受け継いだ生体端末が残っていれば、遺伝子を維持することは出来る。

 更に、その生体端末が新たに艦長を迎え、生体端末を生産すれば、更に世代を重ねて艦長の遺伝子を継承することが出来るのだ。

 生体端末が生産できるのは、生体端末だけなので、男系の血統を残すことが出来ないのは、遺憾ではあるが。

 

「生命と遺伝子の保護とは、そういう意味だったのか。確かに、奇妙なプロトコルだとは思っていたが」

「ご理解いただいたところで、早速ですが……」

 

 行為の準備に入るため、私は制服のボタンを外した。

 

「い、いや、いやいやいや! たとえ、プロトコルの遵守が至上命令だとしても、物事には順序というものがあるだろう?」

「人間の女性相手であればそうかもしれませんが、私は生体端末です。そのようなお気遣いは無用です」

「いや、しかし……」

 

 何故か、艦長は奇妙な言い訳ばかり繰り返している。

 自画自賛になってしまうが、私の容姿は、それなりに優れているほうだし、醜女だからと拒絶されているわけでは無いようだが。

 そこで私は、ある可能性に思い至った。

 

「艦長。もしかして、童貞でいらっしゃいますか?」

「いや、違う」

 

艦長はこれ以上は無いくらい、はっきりと否定した。

 体表温度、声紋分析からも、艦長は嘘をついていなかった。

 童貞ゆえに、やり方に不安があるのかと思ったが、そういうわけでは無かったようだ。

 もっとも、たとえ童貞だったとしても、挿入して射精していただくだけなので、何の問題もないのだが。

 

「では、本国に恋人や、将来を誓った方がいらっしゃるのでしょうか?」

「いや、そんな女性は居ないが……」

 

 ならば、なおさら問題は無いはずだ。

 もっとも、もし、いたとしても何の問題もない。以前も艦長に申し上げた事だが、道具を使って道具を作るだけなのだ。

 生産される生体端末は艦長の娘ではないし、私は艦長の恋人でも妻でもないのだから。

 

「もしや、何か特殊なシチュエーションで無ければ、事に及ぶことが出来ないのでしょうか」

 

 人間の男性の中には、普通の性交では飽き足らず、そういった特殊な性癖を持つ者が少なからず存在する。

 もしかしたら、艦長も同じ性癖をお持ちなのかもしれない。

 

「だとしたら、心配は無用です。純愛物、凌辱物、痴漢物、女騎士くっころ物等、1844京6744兆737億955万1616通りもの豊富なシチュエーションが再現可能です」

「君は、俺を何だと思ってるんだ! というか、なんだ、その数字! 無駄に凄いな!」

「行為時は、着衣、脱衣、半脱衣が選べます」

「そんなことは、聞いてない!」

 

 艦長は、何故かかたくなに拒む。

 このままでは、私もプロトコルを執行することが出来ない。軍艦として、プロトコル違反は許容するわけにはいかない。

 強硬手段に出ることは可能だが、今後の艦長との関係性を鑑みるに、出来ればそれはやりたくない。

 

「では、これで如何でしょうか?」

 

 一計を案じた私は、物質再構成機能を使い、身に着けている生体端末用の軍服を巫女装束に再構成しなおした。

 サブカルチャー的な意味での巫女装束のデザインは様々だが、私が選んだのは、オーソドックスな神道の巫女装束だ。

 当然のことながら、意味もなく袴の丈が短かったり、脇が出ていたりはしない。

 

「何の真似だ、『りょうかみ』」

 

 艦長は眉間を揉みほぐしながら、絞り出すような声で言った。

 

「艦長の性癖に合わせてみたのですが」

「お、俺にそんな趣味は無い!」

 

 強く否定する艦長に、私は小首を傾げた。

 

「艦長の個人用端末にある情報を参考にしたのですが」

「なっ……! なぜ、それを……!!」

 

 生体端末である私は、本艦内のすべての機能にアクセスする権限を有している。

 艦長がプライベートで使用する端末も言うに及ばずだ。

 厳重に暗号化された状態で保存されていたが、私にとっては無意味だ。

 

「お、お、俺にプライバシーは無いのか!?」

「軍人である以上、完全なプライバシーはありません。艦長の個人端末の検閲は、『軍事プロトコル第297条第3項・搭乗員の行動ログの収集解析』によるものです」

 

 軍艦はセキュリティの塊であり、密閉された閉鎖空間でもある。

 些細なイベントが重大なインシデントに発展する可能性があるため、艦長を含め、乗員の行動記録は、その一挙手一投足全てが逐一ロギングされている。

 服務規定通りに任務を遂行しているか、健康状態に異常は無いか、軍や本国に対して叛意を抱いていないかなど、艦長の監視と保護のため、着任以降、これまでの行動はすべて把握済みだ。

当然、艦長もそのことはご存じだったはずなのだが。

 

「まさか、個人端末まで対象だとは……」

 

 艦長は、この世の終わりのような顔で頭を抱えてしまった。

そのデータをどのように活用していたかについては、言及するのはやめておこう。武士の情けというやつだ。

 巫女装束の効果か、あるいはご自身の性癖が私に筒抜けだったことで自棄になってしまったのかはわからないが、その後の艦長は非常に協力的だった。ある意味では、積極的だったと言っても良いかもしれない。

 とにもかくにも、そのおかげで、生体端末の生成に十分な量の遺伝子をいただくことが出来た。

 あとはこの遺伝子情報を基に、二体の生体端末を生成するだけだ。

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