〇年後に死ぬジオン士官ちゃん   作:むにゃ枕

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◯年後に死ぬジオン士官ちゃん
01.ドキドキ士官学校


 私の家族は宇宙一良い家族だった。だった、というのは、もう私の家族が存在していないからだ。10年前のあの日、私の家族はなくなってしまった。父と母を殺したのは、地球連邦政府と親連邦的なコロニー政権だ。

 

 私の家族は、父と母。そして私の3人だった。人類が宇宙に進出したことを考えると、3人家族は、保守的で慎ましやかな家庭だろう。

 父と母の出会いは、普通の人よりも遅かった。コロニー独立の思想に共鳴し、使命感に燃えた父は、誰かと恋愛することを考えていなかった。

 自分が結婚し娘を設けるということも、若いころの父は想像すらしていなかっただろう。

 

 ジオン・ズム・ダイクンとデギン・ザビ。サイド3(ムンゾ)には、2人の偉大な人物がいた。

 ダイクンは思想家として非常に優れていた。しかし、政治家としてはツメの甘い人物だった。

 デギン・ザビは、思想家としては頭角を現さなかったものの、政治的な実務能力が非常に高かった。

 

 優れた思想家のジオン・ズム・ダイクン。優れた実務家のデギン・ザビ。2人はスペースノイド独立の両輪だった。

 だが、ジオン・ズム・ダイクンは死んだ。ザビ家による暗殺だとか、病死だとかいろいろなことが言われている。真相は不明だ。私は病死だろうと思っている。

 ともかく、ダイクンは死んだのだ。ここで、空転が生じる。両輪が支えていたものが壊れてしまったのだ。ダイクンを支持するダイクン派は、ザビ家により駆逐され、排斥された。

 

 私の父、バリオ・ラグナスはザビ家を支持した。そして、権力の座に留まることに成功した。

 父は、ザビ派の中でも穏健派だった。武力ではなく、話し合いによる緩やかなスペースノイド解放をモットーとしていた。

 父の主張は、サイド3でも、おおむね受け入れられていた。

 

 父がジオン議会議員としてサイド2に話し合いのために向かったことが、私たち家族の破滅のはじまりだった。

 

 両親は、私を過保護に扱っていた。なんでも、私は昔に風邪を引き、高熱で生死を彷徨ったらしい。その際に、私は変なことを口走っていたようだ。

「宇宙世紀にTS転生したンゴねぇ」「美少女ワイ。かわいい」「あっ、白鳥が見える!!キラキラがッ!!」

「刻が見えるゥ!」「うぎゃああああ!ワイの存在が消えるッ゙!死にたくないィィ!助けて野獣先輩!助けてェ゙!」

 記録を見ると、医者はせん妄だと診断していた。この事件以来、両親は私に対して、非常に過保護になっていたようだ。

 

 サイド2での話し合いは無事に終わった。父の目指す、言論を通しサイドが連帯し、コロニーが地球から独立するという試みは上手く行くように思えた。

 しかし、そうはならなかった。車が爆発し、炎が私たちを包んだ。父と母は、私を守りながら、必死に車の外に這い出た。

 

 待っていたのは銃弾だった。父と母は、私の盾になって死んだ。

 警察が現場に来た時には、テロリストは撃たれて死んでいた。恐らく、口封じに誰かに殺されたのだろう。

 

 サイド2警察の捜査の結果、犯人はサイド2の住民でありジオンに憎しみを持っていたことが判明した。単独犯だったことも分かった。

 単独犯? 単独犯だと? ありえない。間違いなく組織的な犯行だった。父が生きていて困るのは、間違いなく連邦政府だ。コロニーの団結を阻止するために、連邦政府が父を殺したのだ。

 

 事件で負った顔の火傷痕を見る度に、私の憎しみは強くなる。連邦政府も連邦に良い顔をするスペースノイドも、存在してはいけない。父と母を私から奪った憎き存在だ。

 

 病院から一人きりの家に帰るのは、たまらなく寂しかった。どうして、という言葉が何度も心に過った。

 両親の友人だったギレン閣下や、デラーズ大佐は私を気にかけてくれた。元気になったふりをしたけれど、私はいつも寂しかった。

 これ以上、私から何も奪わせない。だから、連邦政府を滅ぼす。私の決意は揺るがない。

 

 

 

「イリス・ラグナス」

「はい!」

 

 士官学校の入学式で、私はようやくスタートラインに立てたことを自覚する。ジオン軍に入って、連邦軍をブチ殺すのだ。連邦兵をたくさん殺すためには、出世しなければならない。

 軍で出世して偉くなって、連邦政府を滅ぼすのだ。

 

 入学式が終わった。士官学校は寮生活のため、私は女子寮へと向かう。大した荷物はないけれど、荷ほどきをしなければならない。

 知った顔がいる。ガルマ・ザビだ。私に気が付いたガルマがこちらに手を振った。

 

「やあ、イリス! 君がここに居るのを見て安心したよ。父さんは、君が士官学校に入学したことを黙っていたんだ。ギレン兄さんが話してくれなければ、僕は君が入学したことを知れなかったよ」

「ガルマ様。お久しぶりです」

「僕と君の仲じゃないか。様なんて付けないでくれよ」

「周りの目が有りますので。それに、私たちは異性です。ザビ家の男が、とドズル校長に言われますよ」

「う。そうだな。分かった」

 

 ガルマは、モジモジとしている。ザビ家の一員という単語に彼は弱い。家族への若干のコンプレックスを抱えているようだ。気にしなくていいのに。

 

「ガルマって騙されやすいでしょ。私とガルマは友達だから、2人の時とか、信頼できる人といる時なら、普通に話して大丈夫だよ」

 

 小声で耳打ちすると、ガルマはパアッと顔を輝かせた。単純すぎる。私に惚れているわけでもないのに。どうも、やり辛さを覚えてしまう。

 

 私とガルマが知り合いなのは、ギレン閣下のおかげだ。一人になった私を心配し、ガルマを紹介してくれたのだ。

 ガルマ・ザビは真っ直ぐで実直だ。素直な性格と、ザビ家の一員として相応しくなろうと努力する負けず嫌いなところがある。

 男女の友情は成立しないとよく言われている。今のところ、私とガルマは良い友人だ。

 

 ガルマと別れる。先程から彼を視線で追っていた男がいた。金髪にサングラスをしている。背もそこそこ有り、サングラスの下のパーツも整っているようだ。

 特徴的な風貌だったので、彼の名前は覚えている。シャア・アズナブルだ。ガルマはザビ家の御曹司であり、かなり目立つ。だから目で追うのもおかしくはない。けれど私は、シャアの視線に何となく嫌なものを感じた。

 

「こんにちは。確かシャア・アズナブルだよね? 私はイリス・ラグナス。同級生。よろしく」

「シャア・アズナブルだ。よろしく。イリス」

 

 シャアは、私が話し掛けたことを訝しんでいるようだ。少し困惑しているように見える。サングラスのおかげで目の周りは分からないし、彼はクールな感じがするけれど、警戒しているのは伝わってくる。

 

「あんまり人のことをジロジロ見るものじゃないよ。ガルマは確かにザビ家の御曹司だけれど、悪い人間ではないんだ。親の仇もかくやと睨む必要はないと思うな」

「僕は、彼を睨んでいたか?」

「見る人が見れば、そう見えるね。ま、男の子ってそんなものかもね。自分が一番になりたいって思うんでしょ?」

「……士官学校に入ったからには一番になりたいとは思うものだろう?」

「そうだね。ハンモックナンバーは出世に影響するから」

 

 彼は、出世に燃えているようだ。私もハンモックナンバーの上位を狙っている。同類といったところだろう。士官学生は仲間でありライバルでも有るのだ。

 

「志望はどこ? 私は宙航機か艦艇を志望してるよ」

「君と同じだ。軍の花形部署だな。上を目指せるところが良い」

「へぇ。野心家じゃん。私もそう。よろしく、シャア」

「よろしくイリス」

 

 シャアは悪い人間ではなさそうだ。かといって良い人間というわけでもない。ガルマのように純真なお坊ちゃまには見えなかった。

 それに、彼にはどこかで見たような雰囲気がある。

 

「ああ。私か」

 

 シャアと別れたあとに、既視感の正体が分かった。私自身だ。鏡に写る、火傷の痕が目立つ茶髪の女。

 あの陰気な雰囲気が彼にはある。何かが過去にあったのだろう。自分の中で過去は整理できていないので、人には聞かないようにしている。

 

「あら、遅かったのね」

「知り合いと話しをしてたんだ」

「へぇ。案外、顔が広いのね。私はゼナ・ミア」

「イリス・ラグナス。よろしくゼナ」

 

 ルームメイトとなったのは、ゼナ・ミアだった。勝気な感じで、美人だ。私は顔に火傷があるから、あまり自分の容姿に自信はない。だから、美人なゼナが少し羨ましい。

 ゼナとは良い関係を築けそうだ。

 

「ゼナは、どうして士官学校に?」

「そうね、簡単に言ってしまえばジオニズムに惚れたから」

「へぇ。すごいね。私は単に連邦が憎いからなのに」

「動機なんて人それぞれでしょ」

 

 確かにその通りだ。士官学校は私にとって通過点だ。ここで、多くの人と知り合い将来のためにする。学ぶことは多くあるのだ。頑張らなければ。

 

 

 士官学校は厳格である。朝はラッパで叩き起こされる。そして上級生が寝具などのチェックにやってくる。少しでも寝具が乱れているとやり直しだ。軍隊という場所は大変厳しいものである。

 女子生徒は朝3キロのランニングを行う。体力は軍人に必須だからだ。男子生徒は5キロである。私たち女子生徒は、体力や体格で男子生徒に劣るため、待遇では恵まれているのである。

 

 その後、座学が行われる。ジオン軍は宇宙艦隊が主役な軍だ。そのため、宇宙について徹底的に叩き込まれる。しかし、宇宙艦隊だけがジオン軍の仕事ではない。

 宇宙世紀になっても、歩兵は必要だ。コロニーを制圧するにも宇宙海賊のフネを制圧するにしても、兵士が乗り込むことが必須となる。

 

 歩兵だけではない。歩兵を援護する輸送車や装甲兵員輸送車、歩兵戦闘車、戦車といった職種も健在だ。

 バイタルパートにミサイルを1発撃ち込まれれば、コロニーはおしまいだ。しかし、そうならない場合もある。住民を守る最後の盾が陸戦部隊なのである。

 

「男子たち頑張るねぇ」

「シャアくん、ダントツだよね」

  

 娯楽が制限されるためか、女子生徒たちは男子たちを品評している。若い男女がいれば自然なことかもしれない。私は、品評には参加していないが。

 

「ガルマさまは御曹司だけど、シャアくんの方が良いよね……」

「お家は良いけど、それだけだよね」

 

 こらこら酷いことを言うんじゃない。聞こえてないと思ってるだろうけど、結構聞こえているからな……

 陰口が聞こえていたのか、ガルマがペースを上げた。しかし、そのせいで体力を失ったのか、ダウンしてしまった。

 

「あー。御曹司だもんね」

「ねー」

 

 哀れガルマ。女子生徒の中の君のイメージは御曹司で決まってしまった。

 

 私たち士官学生も長距離行軍がある。兵士の気持ちを理解するため、根性を付けるためのものだ。完全充足の重装備を背負って行う行軍は大変つらいものだ。

 

「え? イリスは行軍に参加するの?」

「うん。やりたいから」

「女子は免除なのに、わざわざ参加するなんて意識が高いねぇ」

 

 参加しても途中で棄権すれば良いのだ。何事も経験である。連邦政府を打倒するためには根性が必要なのだ。

 

 完全充足だとめちゃくちゃ重い。ちょっと参加して後悔した。最後尾をえっちらおっちら歩いていると、雨が降り出した。カッパを被り、ヘロヘロになりながらなんとかゴールに辿り着く。

 

「ラグナス! ガルマとシャアの奴を見なかったか?」

「いえ、見てません」

 

 私が完走したのに、全然褒められなかった。トップだったガルマとシャアがまだゴールに辿り着いていないらしい。それは大変だ。

 しかし、ヘトヘトの私に出来ることはない。捜索隊が頑張るのを応援するくらいしかできない。

 

 雨が酷くなってきた。これは死体が発見されるコースかもしれない。R.I.P.ガルマ&シャア。

 

「戻ってきたぞ! 2人とも無事だ!」

 

 死んだだろう2人に御祈りをしていたら戻ってきた。足を痛めたガルマをシャアが介助している。死んでなくてよかった。

 成績上位が空いたな。ハンモックナンバーが上がるぜ。なんてちょっと思ってしまった……

 

 この件が切っ掛けだったのだろう。2人の仲は急速に深まった。傍目には親友のように思える。

 

 コイツら仲良いな。しかもお互いに勉強を教え合ったりして高め合っているので、全く隙がない。

 

「お熱いねぇお二人さん。新婚ですか?」

「イリス、冗談はよせ」

「私とガルマはそういう関係ではない」

「えぇ〜? 本当に〜?」

 

 ガルマとシャアがやれやれといった様子で、首を振る。コイツら……

 

「じゃあ、シャアとくっついて居ないなら、ガルマの好みはどんな女の子なの?」

「ば、バカ。お前に教えるわけないだろ」

 

 何故かガルマは、顔を真っ赤にしていた。もしかして私か?? いや、でも全くアプローチされたことないし。謎である。

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