ジャブローは、南米に存在する。南米と、ボカした表現をするのは、ジオン軍の諜報網ではジャブローの正確な場所が分からないからだ。
今回、私はアスタロスを用いてジャブローの地表上の密林を除去することを考えた。森林は戦闘に邪魔だし、防御側の隠蔽に有利だ。
アスタロスが寄生した植物が枯死すれば、視界が開けるだろう。
ジャブローだって完全に自活出来るわけではない。必ず外部とのやり取りが生じるはずだ。
そのやり取りを可視化出来れば、ジャブロー攻略の糸口になるはずである。
「新型MS。ザク・マリンタイプ。これを使いアマゾンを遡上する。ジャブローが存在すると想定される地点を目標とし、ガウ攻撃空母からアスタロスを投下する。
今回はペアでの潜入任務だ。私とレーカ少尉。ヴォルフ曹長とナヴィ伍長でガウへ赤外線誘導を行う」
「はい! 質問です。アタシたちは2日間ずっとコクピット内ですか?」
「レーカ少尉、残念ながらそうなる」
「えーーー。やだーー」
ザクは目立ちすぎる。オムツや使い捨てトイレを使用すれば理論上はずっとコクピットにいても問題ない。連邦軍に存在がバレたら袋叩きに合うのは明確だ。
ジャブローの周辺は連邦の庭だ。完全に存在を秘匿しなければいけない。
ブリーフィングが終わった。ハルトマン小隊は留守番なので、気楽そうだ。レーカ少尉は、いつも通り何も考えていなさそうである。
ヴォルフ曹長の顔色は悪い。妻子を連邦に殺されたというのに、覚悟が足りないようだ。
ナヴィ伍長は、早々に姿を消していた。多分、研究施設の温室に行ったのだろう。
協働する部隊と諸々の打ち合わせを行う。今回はユーコン級潜水艦と、ガウ攻撃空母と連携した作戦だ。
ユーコン級潜水艦で、南米に近づき、ザク・マリンタイプでアマゾン川を遡上する。
そして、2箇所の推定ジャブロー付近で、赤外線誘導を実施。ガウ攻撃空母からこの誘導を目印にアスタロスを散布するという算段だ。
散布後は一目散に撤退。異変を感じた連邦軍よりも先に、逃げられれば私たちの勝ちだ。十分勝算はある。
ジャブローの入り口を見つけ、アスタロスによる環境破壊も観測できるのだ。一石二鳥である。
ユーコン級によるアマゾン川への接近と、ザク・マリンタイプによる遡上は、ほとんど問題なく行った。
二手に分かれるというところで、問題が生じた。南米の熱帯雨林は深過ぎて、地図が意味を為さないのだ。特にヴォルフ曹長の担当側は酷い。雨季で川の形が変わっている。
「アマゾンに沿って遡上したは良いですけど、支流がどれか分かりません。これでは、ジャブローに近付くどころかこちらが遭難します」
「そうだな。隠密というのは無理があった。現地民のコーディネーターを雇う必要が有りそうだな。ナヴィ伍長、ルウムで見せた物探しの才能を生かしてくれたまえ」
「……はい」
緊張しているのか、ナヴィ伍長の声が沈んでいる。まあ、確かにこんな場所にいたら、おかしくなるのも当然だろう。
早めに蹴りを付けたかったが、長丁場になりそうだ。
「今後はペアで、行動する。何か有れば私に連絡しろ。頼んだぞ」
「は、了解しました」
「…………了解しました」
私とレーカ少尉は、順当に目的地に近付けた。何となく分かるというのは便利だ。
「これ、誰にも言うなって言われてるんですけど、大尉には話します。私ってニュータイプの才能が有るんですよ。大尉もそうだって、少佐が言ってました」
「ニュータイプ? 政治と宗教の話はしたくない。野球の話の方がマシだ」
以前、地球降下作戦の際に、レテクト少佐にもニュータイプだと言われた記憶がある。ニュータイプねぇ。よく分からない概念だ。
私は、新しい人類とか、新しい種類の人間なのだろうか。
「ニュータイプっていうのは、すごいんですよ!」
「ほう。どこが凄いんだ?」
「ザクに上手く乗れます! 私、セイバーフィッシュに乗ったこと無いのに、乗れましたよ!」
セイバーフィッシュにマニュアルも読まずに乗り込む、ザクを二機撃墜した。確かに常人が出来ることではない。
「それは確かにすごいな。しかし、人間は生まれ持った素質と努力により、天才に並ぶことが出来る。レーカ少尉が天才なだけで、新しい種類の人間やら、進化した人類とは言えないのではないか?」
「うー。そう言われると。そうです。でも、私って、ニュータイプだと思いますよ。普通の人は、セイバーフィッシュを初見で操縦するなんてできません」
ぐうの音も出ない。じゃあ、レーカ少尉はニュータイプだ。
「大尉だって私と同じです。ザクをいとも容易く扱ったって」
「そうだな。じゃあ、私もニュータイプというやつなのかもしれん」
「そうですよ!」
しかし、話を聞いているとニュータイプは、単なる戦争とか人殺しが上手いやつってことになってしまう。
人類の革新を夢見ていたジオン・ズム・ダイクンからしたら酷い話だ。進化した人類は、その才能を人殺しに生かしているのだから。
「人殺しが上手いだけの新しい人類が、私たちか。ニュータイプというのは、皮肉なものだな」
「でも、おかげでスコアを稼げてお給料がアップしてますよ! 良いじゃないですか。ニュータイプって」
現金なやつめ。給料が上がるのは確かにニュータイプの利点だ。
私たちは、目標地点に到達した。赤外線誘導の準備が完了したため、ガウと通信を行う。
「こちら、トーチ1、準備が完了した。ファットマン、応答されたし」
「ファットマンより、トーチ1、感度良好。連邦に気付かれないうちに仕事をしよう」
「うわぁぁ! メイデイ! メイデイ! メイデイ! 助けてくれ! 機体から火がぁ!」
「どうした!?」
「連邦の戦闘機だ!! あー、ダメだ。母さん…!」
ガウがやられた。無線を傍受されたのか?? スクランブルか?? それとも、まさか……
「こちら、ナヴィン機。緊急事態が発生しました!」
「ん? どうした?」
ナヴィ伍長のザク・マリンタイプが、視界に入った。トラブルが起きたらしい。
「ヴォルフ曹長が……」
「なんだ? はっきり言え」
ナヴィ機の赤外線誘導が起動している?? 考えたくないが、嫌な現実も認めなければならない。
「やってください! ヘリオ大尉!」
――目の前の部下が、敵に内通している。
「ぐぅッッ、ビームだとォォ!! 伍長ゥ、裏切ったなぁ!」
連邦軍による狙撃だ。完全なアンブッシュである。辛うじて回避できたのは、私のニュータイプとしての才能かもしれない。
これ以上、一方的に撃たれるわけにはいかない。ナヴィ機に肉薄し、ヒートナイフで斬りつける。
「なぜだ!? なぜ裏切った!」
「分からないでしょうね! 人を人とも思わない貴女には!! この期に及んでアスタロスなんてモノを嬉々として撒くんですから!! わ、わたしは大尉を殺します! 覚悟は出来ました!」
アスタロスの研究施設で、私はナヴィ伍長に、私を殺す覚悟があるか聞いた。その返答だろう。
「そうか。レーカ少尉! 連邦軍を片付けろ!」
「えぇぇ!? 敵、3機も居ますよ!? しかもビーム撃ってきますよ! 連邦の新型モビルスーツです!!」
「やれるだろ! やらなきゃ死ぬぞ!」
ナヴィ伍長は、近接戦に持ち込んだというのに存外よく粘る。私の動きが見えているように、ヒートナイフを防ぐ。
「よくやるな!! 訓練では手を抜いてたのかぁ??」
「誰かを守るためなら、わたしだって強くなれますから!!」
「なっ、くぅ」
ナヴィ機が、ヒートナイフを振るう速度は、私の予想よりも早かった。咄嗟に、ナイフを投げることで、致命的な損傷を避けられた。
「大尉がガンキャノンを鹵獲したので、ジャブローは新型モビルスーツの開発を急がせました。その成果がジムです。レーカ少尉は、今頃死んでいるでしょう」
「……私は、部下を信じている」
「遺言は、それで良いんですか?」
「遺言を伝える相手などいない! 父も母も連邦に殺された!」
時間を稼ごうと、60mm機関砲をばら撒く。全く当たらないので、途中でやめた。機体のスペックが同じなら、パイロットの腕が勝負を左右する。
私が、目の前の裏切りロリナードに負けているということか?
「大尉も、戦争がなければ良かったですよね。でも、そうはなりませんでした。だから、ここでわたしが貴女を殺します。」
「クソ! 待て、私は上司だぞ! ナヴィ。お願いだ。許してくれ。頼む。助けてくれ。殺すなんて、寝覚めが悪くなるぞ。私は、利用価値がある。な、分かるだろ!? なぁ」
「心ある研究員の方が、アスタロスをすり替えています。貴女のやったことは無駄でした!」
「ま、待て。話せばわかる。ナイフを下ろして。やめて、やだ」
馬乗りになった、ナヴィ機が、コクピットの私に向けヒートナイフを構えている。赤熱し、バチバチという音を立てるのが、たまらなく恐ろしかった。
「貴女が殺した人も、同じことを言ったはずです! でも、容赦しなかった。みんなの痛みが悲しみが、わたしには見えます! イリス・ラグナス! お前を殺す!」
「や、やだ! パパぁ!ママぁ! たすけて! いや、いやぁ。パパぁ!」
思わず目を瞑る。冷や汗が身体全体を覆う。膀胱が緩んだのか、股が温かくなった。
「…………?」
しかし、死は訪れなかった。ゆっくり目を開くと、そこにはザク・マリンタイプの姿があった。てきだ。ころされる。こわい。
「ひっ、ひぁあぁ。やだ、しにたくない。パパぁ」
「……うわっ」
「ちょっと、ヴォルフ曹長、それは酷いですよ。大尉だって女の子なんですよ!」
「そうか…?」
「そうですよ!」
何やら言っているが、私には判断がつかない。どうして、私は死んでいないんだ??
「連邦MSは、残り1機です。ヴォルフ曹長と一緒に2機やりました。なかなか強かったですよ! でも、絆パワーで倒しました!」
「ナヴィ伍長、本当に裏切ったのか……」
「ナヴィちゃん、良い子だったのに。残念ですね」
ジムという敵のMSが、ナヴィ機と合流しこちらを牽制している。敵は掌を庇っている。味方パイロットを保護しているのだろう。
「曹長、追いますか? どうします?」
「いや、追う必要はないだろう。ジムも鹵獲出来た。これで、失敗は補えるはずだ」
「分かりました。じゃあ、帰りましょう」
「壊れた大尉はどうするんだ??」
「叩けば治るんじゃないですか?? えい、えい」
「おい、バカ! やめろ!」
揺れる…、なに、こわい。やめて、いやだ。
「やだ。やだよぉ。ママぁ。うわーん」
「……これちょっと面白いですよ。いつもクール系なのにめっちゃ泣いてるし。もっと揺すろうかな?」
「やめとけ。上官だぞ」
「実は、録画してるんですよね。後で高値で売れるかもしれませんよ」
「……はぁ、勝手にしろ」
気が付いたら、私は、全裸でジャバジャバ水を掛けられていた。なんで?? なんで、全裸で水を掛けられてるの??
「大尉、正気に戻ったんですね! 良かったです!」
「なんで私は、裸で洗われてるんだ!?」
「おしっこ臭かったんで洗いました!」
人間って、車やバイクのように洗って良いものだっけ??? 重大な疑問が生じた。
「ヴォルフ曹長、この馬鹿を…っ、ダメだ。何でもない!」
全裸なんだよ今。とんだ痴女になるところだった。ところどころ火傷跡は有るし、あまり綺麗な身体ではないが、異性に見せたくはない。
堂々と私のパンツとかブラが干されていて、げんなりしてしまう。プライバシーという単語が、レーカ少尉からは欠落しているようだ。
「ヴォルフ曹長。迎えのユーコン級までの距離はどれくらいだ?」
「…………ざっと5時間程度です。鹵獲した敵MSがあるのと、大尉が気絶したせいで遅延してます。オートで曳航してきたんですが、なかなか難しいですね」
敵のジムというMSを鹵獲出来たのは、失点を回復するのに十分すぎる働きだ。今回の作戦の失敗で、私の首が飛ぶことは無さそうだ。
こちらをチラチラ見ているヴォルフ曹長。そういえばまだ、服を着ていなかった……私、全裸じゃん!??
「……大尉。服を着てください。色々見えてます」
顔に血がのぼっているのが分かる。まだ、頭が上手く働いていないようだった。
「…………忘れろ」
「は?」
「私の裸を見たことを忘れろと言っている! 2度は言わんぞ」
「言っておきますが、私は亡き妻一筋です。貴女のような畜生で人非人な女の裸では何も感じませんよ」
それはそれで、ムカつくなぁ……興奮していると言われたら言われたでキモいけど。
無事にユーコン級と合流し、私たちはキャリフォルニア・ベースへと帰還した。
ジムを鹵獲した功績で、作戦の失敗はチャラだろうと思っていたのだが、そうは甘くなかった。
「イリス・ラグナス大尉。スパイ容疑で逮捕する」
「は?? 私がスパイ??」
「ナヴィ・ナヴィン伍長と共謀し、連邦へ内通していただろう」
「なんだと!! 私はジオンのために1将校として貢献しただけだ!! 連邦のスパイだと!!」
「うるさい女だ。文句は断頭台で言ったらどうかね?」
なんで!? どうしてこうなった!?