〇年後に死ぬジオン士官ちゃん   作:むにゃ枕

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ティターンズ士官ちゃんの✕✕が〇〇するまで
13.ふたつめのプロローグ


【オーガスタ研究所では、戦後とあるプロジェクトが行われていた。プロジェクト名は、リユースプロジェクト。

 このプロジェクトは、元ジオン軍のエースを催眠やマインドコントロールで洗脳し、連邦軍に対する忠誠心を植え付け、戦線に投入しようというものであった。

 この計画は明らかに荒唐無稽である。混乱していた戦時と戦後すぐならばまだしも、戦後の混乱が収まる頃には予算が凍結され、廃案となっていた。

 計画の責任者であったナヴィ・ナヴィン研究員は、この荒唐無稽な計画を立てたというのに、オーガスタ研究所に残っていた。

 彼女がクビにならなかった理由は明らかではない。この計画が成功しており、被験体が軍に高く評価されたためという噂がある。この噂は、明らかに荒唐無稽である。

 ただ、プロジェクトは動いており、そこでは戦争犯罪人であった✕✕✕・✕✕✕✕という女性が処刑されている。

 ナヴィ・ナヴィンは、当時上官であった某氏と付き合っており、彼が彼女可愛さで予算を流したというのが、筆者の予想する陳腐な真相だ。

 いつの時代も人は恋をする。読者諸賢も、こんな与太話に付き合わず、実社会で恋人を作り家庭を持った方が良いのではないだろうか。】

 

――月刊ルー、UC0082、8月号「下半身も新世代(ニュータイプ)!? アムロ・レイの酒池肉林特集」より

 

 

 ナヴィ・ナヴィンは、くだらない記事の載っていた雑誌をゴミ箱に投げ捨てた。

 このつまらない記事は連邦軍の世論工作がうまく行っている証拠だ。けれども、この書かれようはいかがなものか。

 

 ナヴィが当時付き合っていた男は、研究に没頭する彼女を捨て、ジャブローのモグラの仲間入りを果たしていた。

 ナヴィに残されたのは、ジオン時代に上官であった強化人間、アイリス・オーガスタだけである。

 

 ナヴィが男に振られた原因は、偏執的にアイリスを弄っていたからであった。

 

 筋肉や骨、関節を強化し、記憶や細胞にも手を入れた。

 男は、当初はナヴィを認めていたものの、生命倫理に反する行いをし続ける彼女に失望したようだった。

 

 ジオンのクローン促成技術を応用した擬似的な若返り。それを取り入れたアプローチは、成功というのには効果が微妙過ぎた。

 莫大なコストを掛け、美容整形と同様の結果を得たのだ。それならば、素直に美容整形を受ければいい。

 

 アイリスの顔から、特徴的なやけど跡は消えていた。肌も、綺麗になっている。しかし、目に見える部分での変化はそれだけだった。

 

 二年を掛けて改造され教育されたイリス・ラグナスは、しっかりとアイリス・オーガスタとなっていた。

 

「アイリス。あなたの使命は分かりますか?」

 

 連邦軍少尉の服装をし、折り目正しく椅子に座るアイリス。どこから見ても強化人間には見えない。元々、本人に狂気が入っていたかもしれないが、狂人特有の揺らぎは全くと言っていいほど感じ取れなかった。

 対角線上に座り、腕を組んでいるナヴィが質問をする。

 

「使命? そんなものは有りません。ただ、やらなきゃならないことは有ります。ジオンを滅ぼし、スペースノイドを殲滅することです」

 

 アイリスの瞳は、イリス・ラグナスだったころと全く変わっていない。幼さを感じさせる単純な思考だ。

 彼女の深層心理には、両親を失った悲しみが有る。どこかで、両親の影を追っているのだろう。愚直さと、単純な思考は変わっていない。

 

 彼女がアースノイドや地球連邦を憎悪する根源には、両親を失った悲しみが有る。

 ナヴィはその記憶を書き換えた。彼女の両親を殺したのは、ジオンとそれに組したスペースノイドが行ったコロニー落としである。そう記憶を改竄したのだ。

 

「あなたは、UC0082、9月から連邦軍軌道艦隊へ出向します。そこで、バスク・オムがあなたのマスター(主人)となります。彼は、あなたを上手く使ってくれるでしょう」

「はい。ナヴィ研究員。お世話になりました」

 

 ナヴィは彼女の戦う理由を書き換えただけだ。イリスは異様に催眠に掛かりやすかった。けれど付け焼き刃の洗脳はいつか破綻するだろう。

 その時に、この大量虐殺者はどんな反応をするだろうか。壊れるかもしれない。惨めな負の感情に溺れて自殺するかもしれない。そう思うと、ナヴィは昏い欲望で、とても愉しい気分になれる。

 

 バスク・オムにアイリスを預けるのも、溶接眼鏡と禿頭というビジュアルが気持ち悪かったからだ。思想もヤバそうだし、巻き込まれて死んでもナヴィの心は痛まない。

 

「あなたの復讐を果たしてください」

 

 この言葉には、ナヴィ自身の世界への復讐も含まれているのだろう。

 

 

 

 地球連邦軌道艦隊に、バスク・オムはいた。バスクは権力欲に塗れた男だ。けれども、それだけの分かりやすい単純な男ではない。作戦の神様を自称し、前線に出る気質もある。

 とは言え、結局は、地球連邦軍に巣食う寄生虫や癌と言える類の人間だ。

 

 そんなバスクの元に、一人の少尉が送られてきた。アイリス・オーガスタ特務少尉である。彼女はオーガスタ研究所の製造した強化人間だという。乗騎はペイルライダー・キャバルリー。これも特殊な機体だ。

 

 バスクは、アイリスにほとんど興味を抱いていなかった。戦争を決めるのは、兵器と兵士の数である。たった一機のスペシャルは、戦術を変えられても戦争を変えることは出来ない。

 戦術、作戦術、戦略という区分で戦争は大きくなっていく。バスクは作戦という分野においては無類の自信を抱えていた。

 

 周囲はバスクをそれほど評価していない。バスクの単なる自信過剰だ。一年戦争による将校の戦死で上の椅子が空いていることも、バスクの出世を後押ししていた。

 

 書類に一通り目を通すと、バスクは従兵にアイリスを呼ぶように命じた。

 

 新米少尉らしくない様子で、アイリス・オーガスタは現れた。顔や動きは訓練された兵士のソレだ。けれども、指揮官としての風格がある。

 

「貴様が、アイリス・オーガスタ少尉か。話は聞いている」

 

 バスク・オムが見るところによると、アイリスは、極めて普通の兵士だった。強化人間とは聞いていたが、そこまで狂っている様子はない。

 

「この私の部下になるのだ。貴様は、スペースノイドやジオンをどう思う?」

 

 アイリスの人形のような瞳に炎が宿った。怜悧な容貌が憎しみで歪む。ブラウンのセミロングの髪が少し揺れた。

 

「殺すべき敵です。私から両親を奪った憎むべき敵。ジオンもスペースノイドも滅ぼさなければいけません。私の大切な人を奪ったんです。なら、復讐されても当然ですよね。だから、殺します。お前たちがやったのは、こういうことなんだってはっきり分かるように殺し返します!」

 

 真っ直ぐに答えるアイリスを見て、バスクは瞠目した。彼女こそバスクが真に求めていた人材だった。

 

「その通りだ。よく分かっている。下がってよろしい」

 

 アイリスは、先ほどの激情が嘘のように行儀正しく一礼し、部屋を後にした。

 

「オーガスタからの使い。そうだ、ゲーツ・キャパと言ったな。あの男を呼べ」

 

 バスクはすっかり強化人間を運用することに、前向きな気持ちになっていた。ああいう清々しいまでの思想を持った人間ならば、強化されていようがなんだろうが、バスクにとっては同志である。

 

「ゲーツ・キャパ中尉。参上しました」

「うむ。楽にしろ。ゲーツ中尉。私は、彼女を気に入ったよ。仕様書には目を通した。具体的な方法を教えてくれないか?」

 

 ゲーツは、調整を行いバスクをマスターとして登録すること。また、アイリス・オーガスタの精神が極めて安定しており長いスパンで運用できることなどを、詳細に説明した。

 この説明を聞き、バスクの機嫌はますます良くなった。

 

「彼女は、道具ではあるがなかなか見どころがある。ナヴィン研究員によろしく伝えてくれ」

「はっ。了解しました」

 

 ゲーツはバスクに、アイリスの原材料が何であるかを教えなかった。知らないものは、教えられないからである。

 アイリス・オーガスタが、頓挫したリユースプロジェクトの被検体であったこと。ノイアー・ガイストのイリス・ラグナスだったことは、極めて限定的な範囲でのみ開示されていた情報だった。

 

 バスクは、貴重な駒を獲得できたことに喜んでいた。ゲーツも、商談が上手く行ったことに安堵していた。

 

「ぱぱ……?」

 

 再調整を終え、バスクをマスターとして認識しているはずのアイリス。彼女の様子がおかしかった。

 

「ゲーツ中尉、これはどういうことだ?」

「想定範囲内です。彼女の心的外傷に上書きするように調整しましたので」

 

 装置から出て裸のままだったアイリスは、バスクに抱き着いた。

 

「これは、どうすればいい?」

「頭を撫でればよいかと……」

 

 バスクが大型犬を撫でるようにアイリスの頭を撫でる。ふにゃりとした笑顔をアイリスは浮かべた。しばらくそうしていると彼女の瞳に理性の色が戻った。

 耳まで真っ赤にしたり、青くなったりと、表情を二転三転させていた。

 

「……失礼しました。こ、これはその……いえ、違うんです」

「構わん。この程度ならな」

 

 バスクは鷹揚に笑う。調整が済んだ今、アイリスがバスクを裏切ることはない。彼女は決して裏切らない非常に便利な駒となったのだ。あとは、指し手であるバスクが上手く使えるかにかかっている。そこらの盆暗よりも、バスクは彼女を上手く使えると自負していた。

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