〇年後に死ぬジオン士官ちゃん   作:むにゃ枕

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14.バスク大佐(パパ)

 私の家族は宇宙一良い家族だった。だった、というのは、もう私の家族が存在していないからだ。地球にコロニーが落ちてきたあの日、私の家族はなくなってしまった。父と母を殺したのは、ジオンと親ジオンなスペースノイドだ。

 

 家族は、父と母。そして私の3人だった。別に、特別なこともなく普通に生活をしていた。けれども、あのコロニー落としで全てが一変した。

 

 そういう人はこの地球上にいっぱいいると思う。私は、両親を殺したジオンもスペースノイドも絶対に許さない。一人残らず殺してやりたかった。

 連邦軍に志願した私は、入隊試験で特別な才能があることが分かった。アムロ・レイをはじめとする戦争で活躍したニュータイプ。その力が、私にもあるのだ。

 

 オーガスタ研究所という施設に送られた私は、手術やいろいろな勉強をして、一人前の兵士になった。特務少尉として、バスク・オム大佐のもとで働くことが出来るという。

 

 地球軌道艦隊に送られてから、私は再調整を受けた。バスク大佐をマスターとし、私を安定させるための処置だ。

 再調整を受けた私は、少し変になっていたようだった。バスク大佐をパパと口走ってしまうなんて…! 学校の先生をお母さんと呼んでしまうような気分だ。

 

「パパは、政治家で。ジオンのために……奔走して??」

「アイリス少尉。どうしました?」

 

 ちょっと変なことを言ってしまった。だって、私の両親はコロニー落としで死んだのだ。ジオンの政治家なんかじゃない。

 

「大丈夫。ゲーツ中尉。なんだか、ちょっと疲れてるみたい」

「そうですか。なら良かったです。ナヴィン研究員に伝えたいことは有りますか?」

 

 ナヴィン研究員にはとてもお世話になっている。私をジオンを殺すために最適化してくれたのだから。

 

「ありがとうって伝えておいて。私、バスク大佐のもとでジオンをたくさん殺すから」

「分かりました。健闘を祈りますよ」

 

 バスク大佐に頭を撫でられた時、心の奥底が蕩けるような感覚があった。本当の父親じゃないとは分かっているのに、自分が認められて、全てを委ねられるように思えたのだ。

 ずっと、そうされていたかった。調整され弄られたことで生じた感情だとしても手放したくないとさえ思ってしまった。

 

 愛とは麻薬だ。もっと愛されたいし、もっと認められたい。ずっと私のそばに居て私を愛して承認してほしい。そう思ってしまうのは罪なのだろうか?

 

 私の機体であるペイルライダー・キャバルリーは、オーガスタ研究所に残された試作機を組み上げたものである。

 搭載されているHADESは、機体を搭乗者に合わせるOSではなく、搭乗者を機体に合わせるようなピーキーなシステムだ。

 

 私のような強化人間でなくては、その性能を万全に扱えないだろう。

 

「アレが、特務少尉さんか?」

「ああ。何でもスペシャルらしいぜ」

 

 MSパイロットはエリートだ。一年戦争のような大規模戦争では、例外的に促成栽培されたパイロットが生じる。しかし、0082の現在では、その例外もかなり数を減らしている。

 教育を受け、花形のパイロットとなった彼らは、大体においてプライドが高い。

 

 そんなプライドの塊のようなところに、私のような正規の過程を踏んでいないパイロットを入れたらどうなるか? そう。対立が起こる。

 

「よう。嬢ちゃん。俺たちのような一般兵とは馴れ合えないのか?」

「はい。貴方方のような粗野なパイロットモドキと一緒にされたくありません」

「あ? おいおいおい少尉さんよ〜。女だからって殴られないとでも思ってんのか!?」

「ええ。連邦軍では軍内部での暴力行為は禁じられています」

「そうかよ。御高説どうもッ!!」

 

 中尉の階級章を付けた男は、私に向けて手を振り上げた。拳を作ってはいない。平手打ちにするつもりだったのだろう。

 

 男の腕を掴み、反動を利用して投げ飛ばす。ひっくり返った男は、目を白黒させていた。

 

「おい、フレッドが派手にのされてるぜ」

「よっ、良い格好だな」

 

 野次を受けて、フレッドは顔を真っ赤にさせている。

 

「この、クソアマが。ぶっ殺してやる!」

「パイロットなら、その腕で証明したらどうです?」

「なんだと…??」

「おやおや、もしかして負けるのが怖いんですか? なんならお仲間も一緒で構いませんよ」

「言ったな。よし、テメエら。MSを出せ。ジム・カスタムの慣らしには丁度良いだろ」

 

 フレッド中尉は、もう冷静になっていた。ジム・カスタムはオーガスタで研究された機体だ。先行機に乗ったことは有るが良い機体だった。

 

「フレッド中尉、申請はどうします?」

「ジム・カスタムのテストのためとしろ。勝てばバスク大佐なら細かいことは言わん。模擬戦用のペイント弾は入っているな?」

「はっ、問題有りません」

 

 フレッドの小隊はよく訓練されているようだった。キビキビと動き、チェック・リストを熟し、ジム・カスタムに素早く乗り込んでいく。

 

「進路オールグリーン。発艦を許可します」

「ありがとよ。俺が勝ったら酒を奢ってやる」

「おう。頑張れよ」

 

 フレッド中尉は、管制官とも良い関係を築いているようだ。これは、完全にアウェイだな。

 

「アイリス・オーガスタ。ペイルライダー・キャバルリー出ます」

「あー、どうぞ」

 

 先発したフレッド隊は、艦を影にしていた。発艦した直後には死角となる位置だ。やり口が汚いが、クレバーではある。

 

「ふんぬらばー!」

 

 推進力を活かして、無茶な機動をさせる。

 

「なんで避けられるんだよ…? 本物のニュータイプだって言うのか?」

「ええ。弱々クソ雑魚のフレなんとかさんとは違って」

「はははは。4対1だぜ。いつまで、そんなデカい口が叩けるかな?」

 

 卑怯な手段を用いた奴が言う台詞ではない。とは言え、コイツらはそこそこの腕がある。機動兵器を機動し続けるのは、大変なことなのだ。よっぽどの腕がなければ止まってしまう。フレッド隊は動き続けていた。

 

「チョコマカと避けやがって……援護しろ。近接で仕留める」

 

 長引かせれば無断で訓練を行ったことが露見してしまうのだろう。フレッドは私を仕留めに来た。

 

「ニュータイプを相手するには数で押す。面で制圧する。ニュータイプをぶつける。といった方法が有ります」

「そうかよ」

「4対1では足りませんよ」

「コイツ、まだ速くなるのか…! 手を抜いてやがった!」

 

 フレッド機にペイント弾を当てる。小隊長が脱落したために動揺が広がったのか機動が止まった。そうなると単なるカモだ。

 

「あークソ。これじゃあ大目玉だぜ」

「奢ってやるとか何とか言ってませんでしたか?」

「嬢ちゃんには言ってない」

「嬢ちゃんじゃなくて、アイリス・オーガスタです」

「分かった。アイリス少尉。酒保で奢ってやるよ」 

「やったー。ありがとうございます」

 

 殴り合えば仲良くなれるのだ。やっぱり言葉では分かり合えない。

 格納庫に戻ると、バスク大佐をはじめとするお偉方が揃っていた。

 

「フレッド中尉、勝手なことをしてくれたな。何か弁明は有るか?」

「はっ。有りません。アイリス少尉がムカついたので喧嘩を売りました」

「そうか。そこに直れ」

 

 バスクの拳がフレッドの頬に叩き込まれた。フレッドは口を切ったようで血が出ている。

 

「ありがとうございます!」

「よし」

 

 パパ、じゃなかった。バスク大佐に殴られるのは嫌だ。嫌われてしまうかもしれない。

 

「アイリス少尉。よくやった。お前は素晴らしいな」

 

 パパが頭を撫でてくれる。とてもうれしい。心が満たされている感じがする。

 

「あっ……」

「なんだ、物足りないか? 続きは戦果を挙げたらだ」

 

 手が離れてしまうと、とても寂しい気分になる。もっと私を愛して承認してほしいのに。

 けれど、ジオンを殺せば褒められて撫でられるのだ。早く、ジオンを殺したい。

 

 幸せな気分のまま、フレッド小隊と落ち合った。フレッドの頬は腫れており、とても大変そうだった。

 

「よう。ご機嫌だな」

「うん。パパに褒めてもらったから」

 

 フレッドは、怪訝な顔をした。彼にバスク大佐(パパ)との関係を説明しなければならないようだ。

 

「私が強化人間なのは知ってるでしょ?」

「なんとなく知ってる」

「強化人間だから、マスターが必要なの。マスターがいないと私は安定しない。だから、バスク大佐が父親の影として登録されているの。バスク大佐(パパ)に撫でられると安心できる」

「お前自身は、それで良いのか?」

「構わない」

「そうか。飲めよ」

 

 フレッドの奢りだったので、散々飲み明かした。目覚めたら自分から胃液とアンモニアの臭いがした。

 

「お前は、もう酒を飲むな」

 

 出会い頭にフレッドからそう言われた。なんでだ。気分よく飲めたはずなのに……

 

「この酒乱め。強化人間だから力が強いってのは知ってたけどよ。人を殴ろうとする。物を壊そうとする。良いか。もう、お前は絶対に酒を飲んじゃいけない」

「そんなに…?」

「そんなにだ。何が有っても酒を飲むな」

 

 すごい神妙な顔をしていたので、黙って頷いた。

 

 

 地球軌道艦隊は、読んで字のごとく地球の軌道を監視するのが任務である。

 地球から宇宙に上がろうとするジオン残党を狩ること。地球へ降りようとするジオン残党を殲滅することも任務のうちに含まれている。

 

「フレッド中尉、今回の任務も一緒なんですね」

「お前のお守り役を任せれちまったらしい」

「で、今回はどんな任務なんですか?」

「ああ。タレコミがあった。コムサイを降下させようとする連中がいるらしい。組織名はデラーズ・フリート。サイド5の暗礁宙域に潜む、ギレン派の残党だよ」

「へー。なら殺さないといけませんね」

「ああ。そうだな」

「死んだジオンだけが良いジオンですから」

「お前はそういう奴だよな」

「なんです、議論ですか? 論破してやりますよ」

「争うつもりはないよ。仕事だから殺す。それだけだよ」

 

 フレッドはジオンに対する憎しみが足りていないようだ。命乞いをするやつも、普通に暮らしている市民もコロニー落としを容認したクズだ。殺さなくてはいけない。

 

「目標を発見。ムサイ級3隻、チベ級1隻。大規模な艦隊です」

「情報と違うな。4隻を相手取るのはなかなかだぞ。こっちは2隻だ。味方と合流し万全を期すべきだな」

 

 軟弱者め。それではコムサイを地上へ降ろしてしまう。コムサイの降下を阻止するのが任務なのだ。

 

「アイリス・オーガスタ。ペイルライダー・キャバルリー出ます」

「おい! 待て、まだ発艦許可は出てないぞ!?」

 

 管制官め、それではコムサイを見逃してしまう。拙速が必要なのだ。

 

「クソ! アイリス少尉を無駄死にさせるな! 全機援護しろ!」

 

 こちらに回頭しようとするチベのブリッジを吹き飛ばす。それから、ムサイを1隻沈める。

 

「間に合わなかったか……」

 

 1機のコムサイの降下を許してしまった。残りを沈めれば良い。

 

「ふーん。ゲルググか。良い機体だけど、それじゃキャバルリーには勝てない!」

 

 フレッド隊のジム・カスタムが横合いから殴り付ける。母艦のサラミスも突っ込んできてムサイを1隻沈めた。

 

「潮時か…こちら、ジオン軍少佐、アーノルドだ武装解除する。降伏を認めてくれ」

 

 ムサイの指揮官はやりきったような声色で、降伏を申し込んできた。通すわけないだろ。死ね。

 

 残った2隻のうち、指揮官が乗ってる方のブリッジを吹き飛ばす。残されたもう1隻のムサイは、驚きのあまり対空砲火すら撃ってこない。

 

「それじゃ! 死ねよぉ!」

 

 ジオン残党を全滅させた。コムサイを1機降ろしてしまったのは失点だが、これならバスク大佐(パパ)に褒めてもらえるだろう。

 

 デラーズ・フリートが何をしようが、全部ぶっ殺せば良い。私とキャバルリーなら、何が来ようとも殺せるから。

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