漏れ聞こえた情報を統合すると、ジョン・コーウェン中将のやらかしにより、核入りのガンダム試作2号機が奪取されたという。
コンペイトウで行われた観艦式に、2号機が乱入。核弾頭が使用される事態となった。この観艦式襲撃事件でグリーン・ワイアット大将が死亡。艦艇もかなりの数が失われた。かなりの大失態だ。
私がそこにいれば、実行犯のアナベル・ガトーを殺せていたはずだ。こうはならなかっただろうに。
「アイリス少尉。バスク大佐から呼び出しだ。今度は何をやらかしたんだ?」
やらかしたとは人聞きが悪い。私が明確にやらかしたのは、
ちょっと作戦で失敗して、コロニーに穴を開けたことは有る。それは
「アイリス少尉。アナハイムの尻尾を掴んだ。奴らは、我々にガンダム4号機を引き渡す。その対価として見逃すことを要求している」
「それはとても良いことですね。ガンダムが引き渡されたら、即刻アナハイム社の社員を皆殺しにしましょう。ジオンに与するルナリアンなんて不要ですから」
「その通りだ。やはり、貴様は話が分かるな」
「パパのためなら、みんな殺してやります」
「ああ。そうだ。それで良い。お前は可愛い私の娘だよ」
バスク大佐は私を娘として認めてくれている。とはいえ、それは言葉の上だけだ。そう言うと私が喜ぶから言ってくれるだけのリップサービスである。
バスク大佐の感情が伴っていなくても、その言葉だけで魂の底から震えてしまう。
「みんな殺します。みんなみんな殺します」
「期待している」
民間の輸送艦でグラナダに入港し、アナハイムからガンダム4号機と担当エンジニアを受け取る。
入れ替わりにペガサス級強襲揚陸艦グレイ・ファントムが入港した。グレイ・ファントムには、連邦軍特殊部隊エコーズが満載されている。
ジオンに内通しているオサリバン常務を殺害し、デラーズ・フリートをはじめとするジオン残党と取引をしていた証拠を完全に抑えること。これがエコーズの目的だ。
艦隊に戻り、
「アイリス少尉。エコーズの連中は作戦を完遂したらしい。これでデラーズ・フリートの根拠地が掴めた」
「その話を振ってくるということは、またフレッド中尉と一緒の任務なんですか?」
「お前……それはコッチの台詞だよ。バスク大佐もお前みたいな酒乱の問題児を押し付けやがって」
フレッド中尉は頬を抑えていた。この間、酒を飲んだ私が殴ったらしい。ネチネチ言われた。チッ、反省してまーす。
「バスク大佐は、イリス・ラグナスというジオン士官の供述書から、連中の目的をコロニー落としだと考えている」
「ほうほう」
「奴らの根拠地である茨の園に、アナハイムのオサリバン常務が核パルスエンジンを納入している。グズグズしていたら、廃コロニーが地球に落とされるかもしれん。我々地球軌道艦隊で、茨の園を制圧する」
言われてみれば納得できる話だ。敵に先手を取られる前にこちらが先にぶっ潰してしまえば良い。
「バスク大佐はソーラー・システムを使うつもりだ。暗礁宙域ごと焼いていけば、連中も尻尾を見せるだろうというお考えらしい」
「大胆不敵ですね。素晴らしい案です」
「大胆不敵ねぇ……かなり乱暴だぞ。強権も時には必要になるけどよぉ」
地球を守るためだ。スペース・デブリごと焼いてしまえば良いのだ。
バスク・オム大佐は、ジャミトフ・ハイマン准将、ジーン・コリニー大将の許可を得て、サイド5のデブリ宙域に地球軌道艦隊を出撃させた。
ジャミトフ派の影響下にある艦隊も参加している。かなりの規模となっていた。残党をソーラー・システムで焼いて誘き出し、叩くという単純明快な任務である。
「こちら、オケアンコントロール。座標364に高熱原体が3つ」
「フレッド隊了解。ムサイか?」
「はっ。照合結果ムサイ級です」
「オーケー。オーダーは撃沈と。オーバー」
フレッドのジム・カスタムが、掌を振った。先発しろということだ。私の
「アイリス少尉。俺たちにも、ちょっとは残しておいてくれよ」
「嫌ですよ。あれは全部、私の獲物です」
「欲張りだな」
「全部落としたら、中尉にお酒を奢ってもらいます」
「は? ふざけんなよボケ。お前が壊した備品を補填してるのは俺なんだぞ! 漏らすは吐くは脱ぐは殴るはで、最悪なんだから」
「じゃあ、追い付いてくださいねぇ」
フレッド隊の速度が露骨に上がった。しかし、量産機とワンオフの特機では性能が違う。
ロング・レンジ・ビームライフルでムサイ3隻の艦橋をぶち抜く。護衛機も展開しないとは、舐められたものだ。
「あー。テメェ、終わらせやがった。良いか。酒は飲むな。絶対だからな」
「えー。やだー」
「ヤダじゃない。禁酒だ。クソ、誰かこいつに再調整を施して禁酒を書き込んでくれ」
パトロール艦隊が沈められたのだ。敵もすぐに攻撃を受けていると勘付くだろう。しかし、そうなる前にソーラー・システムを撃ちまくれば良い。
「警告します。ソーラー・システム発射まで残り5分です。射界から全機退避してください。繰り返し警告します。全機退避してください」
エコーズがアナハイム社から接収した資料には、デラーズ・フリートの根拠地である茨の園の座標が記されていた。
その座標を中心にソーラー・システムをぶち込めば、テロリストを屠殺出来るという寸法だ。
「ソーラー・システム発射まで、5、4、3、2、1。発射!」
正義の光が、薄汚いジオン残党の住処を焼いていく。素晴らしい光景だ。思わず拍手してしまう。
「バンサーイ! 連邦万歳!」
「はっ、ははははは。ざまあみろジオンめ!」
「くたばれ宇宙人」
ジャミトフ配下は真っ直ぐで気持ちが良い人が多いので、みんなこの結果に喜んでいるようだ。よかったよかった。
一方的に害虫を屠殺出来るのだから、大規模破壊兵器は最高だ。
「高熱源反応多数。デラーズ・フリートです」
巣を壊されて怒った虫が湧いてきた。とは言え、こちらにはソーラー・システムがある。虫を潰すのは簡単だ。
「ソーラー・システム再発射可能まで10分です。MS隊は、それまでコントロール艦の防御をお願いします」
退路を求めるような動きをするデラーズ・フリートの艦艇を沈める。そうすると、まだ組織的に動けている敵艦隊が、こちらに通信を入れてきた。
「こちらはアクシズ所属艦隊のテクナ・レテクト少佐だ。我々はアクシズの所属艦隊であり、連邦軍と条約を結んでいる。攻撃は条約違反だ」
「うるせぇ! 死ね!」
条約なんてクソ喰らえである。アクシズ艦隊もジオン。ジオン殺すべし。というわけで、先頭から食っていく。
「クソッ、こうなったら……ガトー少佐、ぶっつけ本番だが頼んだ」
アクシズ艦隊から、クソデカモビルアーマーが出現する。デカいだけなら単なるマトだ。
「なるほど。Iフィールドか。厄介かもね」
私のガーベラはロング・レンジ・ビーム・ライフルが主武装だ。ビュンビュン飛び回って、中遠距離からMSや戦艦を沈めるコンセプトである。Iフィールド付きのクソデカMAとやり合う仕様ではない。
「ソーラー・システム、発射まで3分。コントロール艦とパネルの防御を引き続き行ってください」
「報告! アルビオン級と不明MSです。識別名デンドロビウム接近しています」
アルビオン? ああ。あの試作2号機を盗まれた間抜けな船か。失点を回復しに来たのだろうが、もう遅い。
「フレッド。敵のデカいのはIフィールドを積んでいる。実弾系を使用するよう通達してくれ」
「はいはい。部下のお前に命令されるとはねぇ。こちら、フレッド中尉、オケアンコントロールへ。敵大型MAにミサイル、実弾を集中させてほしい」
「オケアンコントロール了解。各艦艇に優先的にターゲティングするようにした」
デカブツを無視して、敵MSや敵艦を沈めていると、敵大型MAがこちらを狙いはじめた。ガーベラの推力は一級品だ。当たるわけがない。
「そこのガンダムのパイロット…! 逃げるな、私と戦え! このアナベル・ガトーと!」
「嫌だね。それに、もう時間切れだよ」
再充填されたソーラー・システムが、敵大型MAを中心に放たれる。私は、MAを盾にしたのでほぼ無傷だ。
「連邦め、このような手を使いおって!!」
「そりゃ使えるものは使うでしょ。お前たちみたいな虫けらに使うのが惜しいけどねぇ」
「クソ! せめて、一矢でも報いてくれる!」
テロリストめ。やはり、サイド3にGGガスを注入しなければ…! やられたら、やり返す。
両親の仇である連邦軍を滅ぼ…………連邦軍…?? ジオンではなくて…??
「どうした、私を止めるのだろう……」
「あ? 頭痛くなるから、さっさと死ねよ」
ガトーと揉み合っていたら、戦艦の大口径砲から放たれた極太のビームがこちらに飛んできた。当然、そんなもの当たらない。
撃ってきたのはグワジン級だ。となれば、敵の大将であるエギーユ・デラーズが出てきたのだろう。
「デラーズ閣下。駄目です」
「ふ…。儂とてア・バオア・クーでの死に損ないだ。コロニーは落とせなんだが、死に場所は見つけられた」
「閣下……」
エギーユ・デラーズだと。あのクソハゲが。確かに、両親なきあとの私の面倒を見てくれた恩人ではある。だが、ア・バオア・クーで逃げ出して戦線を崩壊させたカスだ。
「私は、何を考えている……このモヤモヤしたものはなんだ??」
「閣下は、やらせはせん!」
ガトーの相手は、私ではない。ようやく戦場にやってきたアルビオン隊だ。
「ふっ、くくく。良き最期だ。このエギーユ・デラーズを殺すガンダムよ。名を名乗れ」
「こいつは、ガーベラ。それで、私はアイリス・オーガスタ。これで満足?」
「イリスか……生きていたとは。ア・バオア・クー以来だな。奇妙な巡り合わせだ」
「誰のことを言っている…?」
「感傷に浸っただけだ。忘れろ。連邦軍の士官よ」
その先を聞いたら、何かが壊れてしまいそうな気がして、私は引き金を引いた。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
「パパ、ママ。それにギレン総帥と、デラーズ……? なんだ、この記憶は…!? 思い出したらダメだ。これが、本当なら、私は同胞を……」
「おい! アイリス! エネルギーが底をついてるぞ! おい! 聞こえているのか!」
「……うるさい」
「ほら、戦闘は終わった。俺たちの勝利だ。勝ったんだよ! ジオンから地球を守ったんだ」
違う。私は、ジオンの独立のために戦っていたはずなんだ。
本当に…? 本当にそうなのだろうか。ただ、理由を付けて殺しを楽しんでいただけなんじゃないだろうか??
「正義ってさ。楽しいよね。だって正しいことをしているから。多分、私は正しさで人を殴って傷つけて殺したかった」
「……大丈夫か?」
「大丈夫じゃない。壊したかったものを守りたかったって知っておかしくなってるところ」
「あー。よく分からんが、心境の変化じゃないか?」
「違うよ。私は、バスク・オムをマスターとして認識させられた何者にもなれなかったもの」
「面倒だな。もういい。俺が酒を奢ってやるよ」
酒とどこからか手に入れたドラッグをキメた私は、警備を薙ぎ倒し、バスク大佐の私室に突入したらしい。
「で、それから、バスク大佐に延々と絡んだんだ。頭を撫でさせたり、ハグさせたりしてたぜ。キスも強要してたな。
バスク大佐ってあんまり温厚な人間じゃないだろ? 大佐もお前のしつこさにブチギレたんだが、あえなく返り討ちに遭ったよ。強化人間って生身でも強くて厄介だよな……」
なるほど。いや、なるほどではない。
私は
だから、これで良いはずなんだ。必死に自分に言い聞かせるけれど、心は全く納得していなかった。
早く誰かに、自分を殺してほしい。誰か、私を楽にしてくれ。