私は独房に入れられていた。理由は単純。暴れたからである。
「では、再調整のほどをお願いします。ナヴィン研究員」
「はい。お任せください」
独房に表れたのは、ナヴィ・ナヴィンだった。一年戦争で、私の部下だった女だ。そして、私を弄繰り回した奴でもある。
「あはっ。良い格好ですね。どうです? 今の気持ちは? あれほど真摯にジオンのことを思っていたあなたが、同胞を殺したんですから」
手足が拘束されていなければ、今すぐに目の前の女を殺してやりたい気分だった。
「あっ、口枷されてるから喋れないんだ。へぇ、そうそう。あなたは、自分の本質に気が付いていますか?」
本質だと? 決まっている。両親の仇を討つために、連邦政府を滅ぼし、親連邦的なスペースノイドを殺すことだ。
「私が書き換えたのは、イリス・ラグナスの両親に関する記憶だけなんです。たったそれだけなのに、あなたは容易に反転した。ジオンを滅ぼし、スペースノイドを殺すでしたっけ? できっこないのに、子供みたい。結局、あなたは両親の愛を受けられなかった哀れな子供なんですよ」
違う。そんなことはあり得ない。私はジオンのために努力してきたのだ。
「私は、そんな人間じゃない!! スペースノイドの独立のために…! ジオニズムの理想のために…!」
「あら、口枷が外れちゃいましたね。だったら、あなたの理想を言葉で語ってください」
「そんなの、簡単だ。アースノイドを殺して私と同じ目に遭わせてやれば…!」
ナヴィは、心底うんざりしたような瞳で私を見下していた。
「まだ分かってなかったんですか? あなたは、人殺しを楽しんでいたんですよ。スペースノイドの未来だとか、ジオンの独立なんて後回しで、人を殺すことを楽しんでいた」
「違う。私には、罪悪感だって……」
「無いでしょう。そんなもの」
ないはずがない。コロニー落としをした時も……サクラメントの街を焼いた時だって……マハルの掃除をした時も……私は……
「夜中に誰かの悲鳴で目を覚ましますか? 誰かが自分を殺しに来ると思いますか? 黒焦げの死体がまだ私を睨んでいるんです。イリス隊長、全部あなたと私のやったことなんですよ。罪の意識に囚われていないんだよ! お前は!」
「それの何が悪い? 両親を殺したカスを虐殺しただけだぞ」
「子供が、妊婦が老人があなたの大好きなパパとママを殺しましたか? 少しでも想像力があれば、誰かに共感出来ていれば、虐殺なんてことは出来なかったんですよ。アスタロスを前にしてもそうだった。お前は自分の復讐に囚われていた化物なんだよ!!」
化け物、なんて酷い言いぐさだ。私は、ジオンの勝利のために自分なりに努力しただけだったのに。
「じゃあ、ナヴィ、お前は違うのか?」
「いいえ。私も同じですよ。あなたを強化したのも世界への八つ当たりです。私も外道ですよ」
「はっ。なんだ、みんなそうなんじゃないか」
「ええ。人間って弱いですから」
「だったら、私も許されて良いはずじゃないか。みんな殺してやる。パパとママがいて幸せそうな奴はみんな殺す。私の尊厳を破壊したお前も、ゲーツ・キャパも、父親面してるバスク・オムも殺してやる。みんなみんな殺してやる!」
枷を外そう。外に出て私のガーベラでみんな殺してやる。
「あー。ナヴィンです。鎮静措置を」
「強化は失敗したのか?」
「いえ、成功です。不安定になりましたが、洗練されましたよ」
拘束服を着せられているが、無事に独房から出ることはできた。バスク・オムが、私を睨む。視線には怯えが混じっている。コイツは利用価値が有るのでまだ殺さない。いっぱい殺す為の道具だ。
「アイリス・オーガスタ。調子はどうだ?」
「はっ。すこぶる良好です。コロニーを落としたスペースノイド共をぶち殺してやりましょう」
コロニーを落とされて尚、地球に縋り付いている無様なアースノイドも殺す。幸せそうな奴は敵。
私が不幸になっているんだ。お前らも不幸になれ。
デラーズ・フリートによるコロニー落とし未遂。通称デラーズ紛争を経て、ティターンズは成立した。過激思想を持つスペースノイドから、地球を守るという分かりやすい組織だ。
スペースノイドが、自分たちに過激思想がないと訴えても無駄である。デラーズ紛争という実例が起きてしまったのだから。
「アイリス中尉。ティターンズの制服が似合ってるじゃないか」
「そりゃ、どうも」
フレッドは、出世コースから外され私の監視役となったようだ。大尉に昇進しているものの閑職に回されたと言っても良いだろう。
「この前の任務、お前は嬉々としてやってたよな。大きな声では言えないが、俺はアレが正しいとは思えん。コロニー落としをしたスペースノイドは憎いけどよ、G3ガスで老若男女皆殺しってのはおかしいぜ」
アレとは、30バンチの暴動鎮圧のためにG3ガスを注入した任務だ。私は麻痺してるが、こういうのはやってはいけないはずなのだ。でも、私より幸せそうな奴が死んだから嬉しい。
「私が言い触らすとは考えないんですか?」
「狂人の言うことを信じる奴は居ないだろ。ここに来たばっかの頃はマトモだったのになぁ……あの時の俺にお前に絡むなと言ってやりたかったよ」
「……狂ってませんが?」
「どこがだよ。後ろから揉めた奴を撃ち殺しやがって。ジェイソンの件では、俺も絞られたからな。良いか。味方は殺すな。市民も一応は殺すな。降伏した敵は、あー、まぁ、殺しても良い。分かったか?」
「はい。みんな殺します」
「だから、殺して良い奴だけ殺せって言ってんの。味方を殺すな!」
「私強化人間。命令従う」
「クソ! わざとらしい……あんまりふざけてると処分されるからな」
「上手く立ち回れば良いんでしょう?」
「あーもう。それで良いよ。できるだけ味方は殺さないように」
よし、勝ったな。ちょっとムカついた奴は殺しても良い。バレなきゃ犯罪じゃないのだ。
「侵入者…? こちら、オーガスタ1。侵入者を発見。排除しますか?」
「おい。待て。アイリス中尉。ライフルは撃つなよ。ここはコロニー内なんだから」
「チッ、仕方ないですね」
ノーマルスーツを着ている男に向けて、バルカンを連射する。的が小さいから当たらない。だが狙いは男ではない、その退路だ。
「そこの男。動くと撃ちますよ」
「その声、イリス・ラグナスか…? 死んだと聞いたが」
コイツ、この声はシャア・アズナブルか。エゥーゴに与したのだろう。懐かしい顔だが、動きが止まったので狙いやすい。死ね!
「おい、アイリス中尉。動いてないのに撃つな。ティターンズのフレッド・レッド大尉です。降伏に応じていただけませんか?」
私が撃てないように前に出るフレッドのジム・クゥエル。邪魔だ。殺そうかな。
「ティターンズにも、マトモな士官は居るものだな」
「それで、返答は?」
「悪いが、ノーだ」
ヌルっと出てきた2機のMSが、シャアを回収していく。私のガンダムMK-Ⅱで追いつこうとしたが、上手く行かなかった。奴ら、逃げやがった。
「帰投するぞ。あとは守備隊がやるだろう」
フレッドと共に、基地に戻ることとなった。テスト飛行なのだから仕方がない。
「やぁ。ジェリド・メサ中尉。俺のこと覚えているか?」
「フレッド大尉! お久しぶりです」
ジェリドとフレッドは知り合いのようだった。私のジェリド、そしてカクリコンがガンダムMK-Ⅱのテストパイロットを務める。
「ティターンズらしくなってよく来てくれた」
カクリコンもジェリドとの再会に嬉しそうだ。私は、別にコイツらのことどうも思わないな。
「カミーユ、会えやしないわよ」
ふと、改札の前で少女の声がした。民間人だろう。
「カミーユ? 女の名前なのに、なんだ男か?」
少女の隣にいたのは少年だった。ジェリドの嘲りは、確かに少し傲慢に思えた。
そして、カミーユと呼ばれた少年がこちらにツカツカと歩み寄ってくる。それから、ジェリドに向けて拳を振り上げた。
「おっと。少年、これはティターンズに対する暴行だね。さて、これから私がやるのは正当防衛だぞ」
カミーユがジェリドに向けた拳を、私は簡単に受け止めた。
「なんだよ! あんた!」
「ふっ!」
「うごッ」
カミーユのボディに一発入れる。そして、顔にもう一発。
「うっ……」
情けない。私が強化人間とはいえたった2発で気絶するなど。床に転がっているカミーユを足蹴にしようとすると、フレッドが立ち塞がった。
「何の真似ですか? これは正当防衛ですよ」
「お前こそ何をやっている。正当防衛の範疇は越えているぞ」
むっ、そう来たか。このまま嬲り殺しにしようとしたのに。
「薄汚いスペースノイドの一匹くらい殺しても構わないでしょう?」
「出来るだけ軋轢は避けるように言ったはずだ。ジェリド、カクリコン、後は任せた」
ジェリドとカクリコンがあたふたしている。ヤバい女とか、イカれてるとか言いやがって。後ろから撃つぞ。
「MK-Ⅱで出るぞ。エゥーゴのMSなら殺しても良い」
「まだ鼠の始末が終わってなかったんですか? 警備隊は無能ですね」
「お前が警備隊の隊長を半殺しにしなけりゃ協働出来たんだがな……」
「ちょっとなんのことかわかりませんね」
ジェリドがガンダムMK-2に乗り込み、出撃していた。カミーユは、カクリコンが警備隊に引き渡すらしい
「ジェリド! なに落ちてやがる!」
「すみませんフレッド大尉」
ジェリドは、操作をミスって無様にビルに突っ込んだ。
「ちっ、どいつもこいつも使えない。殺し合おう。シャア・アズナブル」
「クソ! 保ってくれよリック・ディアス」
「赤い彗星がなんだ!! 雑魚め」
シャアのリック・ディアスをぶち壊していたら、2機のガンダムMK-Ⅱが奪われていた。
「おい、お前ら何をやっている!! ブチ殺すぞ!」
「落ち着けアイリス。カクリコンが人質になったんだ」
「アァ? カクリコンごと殺せば良いだろうボケカスがァ!」
ノーマルスーツで間抜けに地面に立っているカクリコンを踏み殺そうと、一歩踏み出す。フレッドのジム・クゥエルが庇うように前に出た。あークソ。邪魔するな!!
基地に帰投し、ブリーフィングに参加する。
「あー、無能共にイライラする!! バスク、早く殺させてくれ!」
バスク・オムの禿げ頭を引っ叩く。意外と良い音がした。
「おい! アイリス! やめろ! 処分されたいのか!?」
「うるさいうるさいうるさい! みんな殺してやる!」
フレッドと揉めていると、部屋に闖入者があった。ブライト・ノア中佐だ。
「バスク・オム大佐。なぜガンダムMk-Ⅱの訓練をこちらでやっていたのですか? グリーン・ノア2でやっていれば居住区への被害はなくてすみまし…」
バスクがブライトを殴り飛ばす。これ、私も便乗して良い奴では??
「一般将校は黙っていろ! 少年兵に頼って出世した屑将校がッ!」
「ッ……」
股間を蹴り飛ばした。ブライトは床に倒れ、ぴくぴくと蠢いている。
「こ、これがティターンズのやり方だと言うのですか?」
「あぁん?? やんのか陰茎頭??」
確かエマ・シーンという女だった。生意気にも口答えするのか? 殺してやろうか?
「なんて破廉恥な!」
「ティターンズは一般部隊じゃないんだよ! 分かったか!」
エマの頬を張る。結構良い音がして、エマはよろめいた。
「その辺にしておけアイリス中尉。コンテナを使ってエゥーゴの連中と交渉する。貴様に交渉を任せる」
ざわめきが広がる。私をエゥーゴの艦艇に送り込もうというのか…? 頭がおかしいのか…?
そして、コンテナ。私にやらせるのなら何か有るのだろう。