〇年後に死ぬジオン士官ちゃん   作:むにゃ枕

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16.改札バトル

 私は独房に入れられていた。理由は単純。暴れたからである。

 

「では、再調整のほどをお願いします。ナヴィン研究員」

「はい。お任せください」

 

 独房に表れたのは、ナヴィ・ナヴィンだった。一年戦争で、私の部下だった女だ。そして、私を弄繰り回した奴でもある。

 

「あはっ。良い格好ですね。どうです? 今の気持ちは? あれほど真摯にジオンのことを思っていたあなたが、同胞を殺したんですから」

 

 手足が拘束されていなければ、今すぐに目の前の女を殺してやりたい気分だった。

 

「あっ、口枷されてるから喋れないんだ。へぇ、そうそう。あなたは、自分の本質に気が付いていますか?」

 

 本質だと? 決まっている。両親の仇を討つために、連邦政府を滅ぼし、親連邦的なスペースノイドを殺すことだ。

 

「私が書き換えたのは、イリス・ラグナスの両親に関する記憶だけなんです。たったそれだけなのに、あなたは容易に反転した。ジオンを滅ぼし、スペースノイドを殺すでしたっけ? できっこないのに、子供みたい。結局、あなたは両親の愛を受けられなかった哀れな子供なんですよ」

 

 違う。そんなことはあり得ない。私はジオンのために努力してきたのだ。

 

「私は、そんな人間じゃない!! スペースノイドの独立のために…! ジオニズムの理想のために…!」

「あら、口枷が外れちゃいましたね。だったら、あなたの理想を言葉で語ってください」

「そんなの、簡単だ。アースノイドを殺して私と同じ目に遭わせてやれば…!」

 

 ナヴィは、心底うんざりしたような瞳で私を見下していた。

 

「まだ分かってなかったんですか? あなたは、人殺しを楽しんでいたんですよ。スペースノイドの未来だとか、ジオンの独立なんて後回しで、人を殺すことを楽しんでいた」

「違う。私には、罪悪感だって……」

「無いでしょう。そんなもの」

 

 ないはずがない。コロニー落としをした時も……サクラメントの街を焼いた時だって……マハルの掃除をした時も……私は……

 

「夜中に誰かの悲鳴で目を覚ましますか? 誰かが自分を殺しに来ると思いますか? 黒焦げの死体がまだ私を睨んでいるんです。イリス隊長、全部あなたと私のやったことなんですよ。罪の意識に囚われていないんだよ! お前は!」

「それの何が悪い? 両親を殺したカスを虐殺しただけだぞ」

「子供が、妊婦が老人があなたの大好きなパパとママを殺しましたか? 少しでも想像力があれば、誰かに共感出来ていれば、虐殺なんてことは出来なかったんですよ。アスタロスを前にしてもそうだった。お前は自分の復讐に囚われていた化物なんだよ!!」

 

 化け物、なんて酷い言いぐさだ。私は、ジオンの勝利のために自分なりに努力しただけだったのに。

 

「じゃあ、ナヴィ、お前は違うのか?」

「いいえ。私も同じですよ。あなたを強化したのも世界への八つ当たりです。私も外道ですよ」

「はっ。なんだ、みんなそうなんじゃないか」

「ええ。人間って弱いですから」

「だったら、私も許されて良いはずじゃないか。みんな殺してやる。パパとママがいて幸せそうな奴はみんな殺す。私の尊厳を破壊したお前も、ゲーツ・キャパも、父親面してるバスク・オムも殺してやる。みんなみんな殺してやる!」

 

 枷を外そう。外に出て私のガーベラでみんな殺してやる。

 

「あー。ナヴィンです。鎮静措置を」

「強化は失敗したのか?」

「いえ、成功です。不安定になりましたが、洗練されましたよ」

 

 拘束服を着せられているが、無事に独房から出ることはできた。バスク・オムが、私を睨む。視線には怯えが混じっている。コイツは利用価値が有るのでまだ殺さない。いっぱい殺す為の道具だ。

 

「アイリス・オーガスタ。調子はどうだ?」

「はっ。すこぶる良好です。コロニーを落としたスペースノイド共をぶち殺してやりましょう」

 

 コロニーを落とされて尚、地球に縋り付いている無様なアースノイドも殺す。幸せそうな奴は敵。

 私が不幸になっているんだ。お前らも不幸になれ。

 

 デラーズ・フリートによるコロニー落とし未遂。通称デラーズ紛争を経て、ティターンズは成立した。過激思想を持つスペースノイドから、地球を守るという分かりやすい組織だ。

 スペースノイドが、自分たちに過激思想がないと訴えても無駄である。デラーズ紛争という実例が起きてしまったのだから。

 

「アイリス中尉。ティターンズの制服が似合ってるじゃないか」

「そりゃ、どうも」

 

 フレッドは、出世コースから外され私の監視役となったようだ。大尉に昇進しているものの閑職に回されたと言っても良いだろう。

 

「この前の任務、お前は嬉々としてやってたよな。大きな声では言えないが、俺はアレが正しいとは思えん。コロニー落としをしたスペースノイドは憎いけどよ、G3ガスで老若男女皆殺しってのはおかしいぜ」

 

 アレとは、30バンチの暴動鎮圧のためにG3ガスを注入した任務だ。私は麻痺してるが、こういうのはやってはいけないはずなのだ。でも、私より幸せそうな奴が死んだから嬉しい。

 

「私が言い触らすとは考えないんですか?」

「狂人の言うことを信じる奴は居ないだろ。ここに来たばっかの頃はマトモだったのになぁ……あの時の俺にお前に絡むなと言ってやりたかったよ」

「……狂ってませんが?」

「どこがだよ。後ろから揉めた奴を撃ち殺しやがって。ジェイソンの件では、俺も絞られたからな。良いか。味方は殺すな。市民も一応は殺すな。降伏した敵は、あー、まぁ、殺しても良い。分かったか?」  

「はい。みんな殺します」

「だから、殺して良い奴だけ殺せって言ってんの。味方を殺すな!」

「私強化人間。命令従う」

「クソ! わざとらしい……あんまりふざけてると処分されるからな」

「上手く立ち回れば良いんでしょう?」

「あーもう。それで良いよ。できるだけ味方は殺さないように」

 

 よし、勝ったな。ちょっとムカついた奴は殺しても良い。バレなきゃ犯罪じゃないのだ。

 

 

 

「侵入者…? こちら、オーガスタ1。侵入者を発見。排除しますか?」

「おい。待て。アイリス中尉。ライフルは撃つなよ。ここはコロニー内なんだから」

「チッ、仕方ないですね」 

 

 ノーマルスーツを着ている男に向けて、バルカンを連射する。的が小さいから当たらない。だが狙いは男ではない、その退路だ。

 

「そこの男。動くと撃ちますよ」

「その声、イリス・ラグナスか…? 死んだと聞いたが」

 

 コイツ、この声はシャア・アズナブルか。エゥーゴに与したのだろう。懐かしい顔だが、動きが止まったので狙いやすい。死ね!

 

「おい、アイリス中尉。動いてないのに撃つな。ティターンズのフレッド・レッド大尉です。降伏に応じていただけませんか?」

 

 私が撃てないように前に出るフレッドのジム・クゥエル。邪魔だ。殺そうかな。

 

「ティターンズにも、マトモな士官は居るものだな」

「それで、返答は?」

「悪いが、ノーだ」

 

 ヌルっと出てきた2機のMSが、シャアを回収していく。私のガンダムMK-Ⅱで追いつこうとしたが、上手く行かなかった。奴ら、逃げやがった。

 

「帰投するぞ。あとは守備隊がやるだろう」

 

 フレッドと共に、基地に戻ることとなった。テスト飛行なのだから仕方がない。

 

「やぁ。ジェリド・メサ中尉。俺のこと覚えているか?」

「フレッド大尉! お久しぶりです」

 

 ジェリドとフレッドは知り合いのようだった。私のジェリド、そしてカクリコンがガンダムMK-Ⅱのテストパイロットを務める。

 

「ティターンズらしくなってよく来てくれた」

 

 カクリコンもジェリドとの再会に嬉しそうだ。私は、別にコイツらのことどうも思わないな。

 

「カミーユ、会えやしないわよ」

 

 ふと、改札の前で少女の声がした。民間人だろう。

 

「カミーユ? 女の名前なのに、なんだ男か?」

 

 少女の隣にいたのは少年だった。ジェリドの嘲りは、確かに少し傲慢に思えた。

 そして、カミーユと呼ばれた少年がこちらにツカツカと歩み寄ってくる。それから、ジェリドに向けて拳を振り上げた。

 

「おっと。少年、これはティターンズに対する暴行だね。さて、これから私がやるのは正当防衛だぞ」

 

 カミーユがジェリドに向けた拳を、私は簡単に受け止めた。

 

「なんだよ! あんた!」

「ふっ!」

「うごッ」

 

 カミーユのボディに一発入れる。そして、顔にもう一発。

 

「うっ……」

 

 情けない。私が強化人間とはいえたった2発で気絶するなど。床に転がっているカミーユを足蹴にしようとすると、フレッドが立ち塞がった。

 

「何の真似ですか? これは正当防衛ですよ」

「お前こそ何をやっている。正当防衛の範疇は越えているぞ」

 

 むっ、そう来たか。このまま嬲り殺しにしようとしたのに。

 

「薄汚いスペースノイドの一匹くらい殺しても構わないでしょう?」

「出来るだけ軋轢は避けるように言ったはずだ。ジェリド、カクリコン、後は任せた」

 

 ジェリドとカクリコンがあたふたしている。ヤバい女とか、イカれてるとか言いやがって。後ろから撃つぞ。

 

「MK-Ⅱで出るぞ。エゥーゴのMSなら殺しても良い」

「まだ鼠の始末が終わってなかったんですか? 警備隊は無能ですね」

「お前が警備隊の隊長を半殺しにしなけりゃ協働出来たんだがな……」

「ちょっとなんのことかわかりませんね」

 

 ジェリドがガンダムMK-2に乗り込み、出撃していた。カミーユは、カクリコンが警備隊に引き渡すらしい

 

「ジェリド! なに落ちてやがる!」

「すみませんフレッド大尉」

 

 ジェリドは、操作をミスって無様にビルに突っ込んだ。

 

「ちっ、どいつもこいつも使えない。殺し合おう。シャア・アズナブル」

「クソ! 保ってくれよリック・ディアス」

「赤い彗星がなんだ!! 雑魚め」

 

 シャアのリック・ディアスをぶち壊していたら、2機のガンダムMK-Ⅱが奪われていた。

 

「おい、お前ら何をやっている!! ブチ殺すぞ!」

「落ち着けアイリス。カクリコンが人質になったんだ」

「アァ? カクリコンごと殺せば良いだろうボケカスがァ!」

 

 ノーマルスーツで間抜けに地面に立っているカクリコンを踏み殺そうと、一歩踏み出す。フレッドのジム・クゥエルが庇うように前に出た。あークソ。邪魔するな!!

 

 基地に帰投し、ブリーフィングに参加する。

 

「あー、無能共にイライラする!! バスク、早く殺させてくれ!」

 

 バスク・オムの禿げ頭を引っ叩く。意外と良い音がした。

 

「おい! アイリス! やめろ! 処分されたいのか!?」

「うるさいうるさいうるさい! みんな殺してやる!」

 

 フレッドと揉めていると、部屋に闖入者があった。ブライト・ノア中佐だ。

 

「バスク・オム大佐。なぜガンダムMk-Ⅱの訓練をこちらでやっていたのですか? グリーン・ノア2でやっていれば居住区への被害はなくてすみまし…」

 

 バスクがブライトを殴り飛ばす。これ、私も便乗して良い奴では??

 

「一般将校は黙っていろ! 少年兵に頼って出世した屑将校がッ!」

「ッ……」

 

 股間を蹴り飛ばした。ブライトは床に倒れ、ぴくぴくと蠢いている。

 

「こ、これがティターンズのやり方だと言うのですか?」

「あぁん?? やんのか陰茎頭??」

 

 確かエマ・シーンという女だった。生意気にも口答えするのか? 殺してやろうか?

 

「なんて破廉恥な!」

「ティターンズは一般部隊じゃないんだよ! 分かったか!」

 

 エマの頬を張る。結構良い音がして、エマはよろめいた。

 

「その辺にしておけアイリス中尉。コンテナを使ってエゥーゴの連中と交渉する。貴様に交渉を任せる」

 

 ざわめきが広がる。私をエゥーゴの艦艇に送り込もうというのか…? 頭がおかしいのか…?

 

 そして、コンテナ。私にやらせるのなら何か有るのだろう。

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