〇年後に死ぬジオン士官ちゃん   作:むにゃ枕

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03.ザクたのしい

 モビルスーツの前身は作業機械である。巨大な人型の作業機械。それが軍事転用されたものが、モビルスーツだ。

 純軍事的に製作されたものが、欺瞞のため民間用とされたのかもしれない。複雑な経緯があり、私はそれを詳しく知らない。

 専門的な話にそこまで興味がないのだ。それに、歴史を紐解くよりも、最新鋭に追いつくことの方が、今の私には重要なように思えた。

 

「技術本部試験隊にようこそ。イリス・ラグナス少尉。ここはダークコロニーだ。MSの製造と訓練がこの場所でひっそりと行われている」

「はあ。そうですか」

「なんだ。リアクションが薄いな。君に総帥がご執心と聞いたのだが、その分では総帥の見込み違いだったもかもしれないな。MSというのは、ジオンの新しい牙になるんだ。存分に君の能力を振るってくれなければ困ってしまう」

 

 自己紹介もせずに、喋り散らかすこの男。彼が、私の上司になるようだ。誰なんだよ。名前を名乗れよ。

 モノクルを掛けたイケメンだが、こうも自分勝手だと困る。せめて、最低限のコミュニケーション能力を持っていてくれ。

 

「あー少佐殿。なんとお呼びすれば?」

「ザクだ。MS-05ザク。素晴らしいMSだろう?」

 

 駄目だコイツ。そっちじゃない。MSじゃなくて、人間の名前だよ。階級章から少佐であることは分かったが、目の前の男の名前を知らされていない。

 

「違います。少佐殿の名前です」

「んん? ああ。僕の名前か。テクナ・レテクトだ。ま、そんなことはどうでもいい。僕にとっては君の素質の方が重要だからね。あのギレン総帥の秘蔵っ子だろう。気になってしょうがない」

 

 私はいつの間に、ギレン総帥の秘蔵っ子になったのだろう。MSに関してはずぶの素人だというのに。

 謎の噂が飛び交っているのか??

 

「少尉、ザクのマニュアルだ。読んでおきたまえ。オリエンテーションが終了し次第、ザクのテストパイロットとして活躍してもらう」

「は。了解しました。質問なのですが、シミュレーターというものは挟まずに実機に乗るのですか?」

「ああ。その通りだ。シミュレーターを作るためのデータを稼ぐのが君の役目だ」

 

 容易く出世できるだろうと、MS搭乗員の道を選んだのだ。ちょっと安易に選択してしまったのかもしれない。少しだけ後悔した。

 

「他のテストパイロットたちとの顔合わせも終わった。教えることはこれくらいだろう。あとは、身体で覚えたまえ」

「レテクト少佐。まだMSについての座学などを受けていません。私には、教育が必要です」

 

 少佐は、きょとんとした表情を浮かべた。私の発言のどこに疑問があったというのだ。

 私は不器用ではなく、初めての事でもうまくこなせるタイプだ。しかし教育を受けるに越したことは無い。

 

「少尉。君が教科書を作るんだ。期待しているよ」

 

 無責任なことを言い残して、レテクト少佐は消えた。あの野郎、ふざけやがって。

 だが、仕事だ。私の役目は、ザクのテストパイロットである。やるからには、全うしなければならない。

 18メートルの巨人に近づく。堂々たる威容だ。

 

「あんた! 部外者はここに入っちゃ駄目だよ!」

「新任パイロットのイリス・ラグナス少尉です。よろしくお願いします」

「新任だって? しかも、女の子だ。珍しいね。あたしのことはマヌエラって呼んでくれ」

 

 マヌエラ曹長が、私をザクのもとに案内する。エレベーターでコクピットまで上がり、そのまま中に入る。

 細かなモニタがかなりのプレッシャーだった。

 

「ラグナス少尉。準備はいいかい?」

「はっ、はい。大丈夫です」

「フィールドまで大型エレベーターで運ぶよ。そのままじっとしてな」

 

 ザクが立っていた場所が、そのまませり上がっていく。なるほど、さっきまでいた場所は地下格納庫だったようだ。

 

「そのまま歩行。歩けるようだったら、歩行を継続して」

「了解」

 

 マニュアル読んだだけで操縦が出来るわけないだろ。出来たらそいつは化け物だ。出来るわけがないと思っていたのだが、ザクはすんなり歩いた。

 

「歩いちゃったよ……」

「少尉。筋が良いね。そのまま続けて」

 

 オートバランサーか何かが入っているのだろう。派手に転倒するのかと思ったが、すんなり歩いた。

 デカイ機械に乗っていると、非常に気持ちがいい。万能感がある。いやー。これは素晴らしい。

 

「マヌエラ曹長。出来ました! 次はどうしますか?」

「……まさか、本当に」

「聞こえていますか? 感度に問題がありますか?」

「すまない。考え事をしていた。次は、走らせてみて」

「はい。分かりました」

 

 めっちゃ楽しいな。すごい。これは、MSパイロットになって正解だった。

 

 その後も、マヌエラ曹長から出される指示をこなしていたら、一時間は軽く過ぎてしまった。曹長は途中から呆れたような口調になっていた。多分、大の大人がはしゃぎ過ぎたのが原因だろう。

 格納庫に戻り、ニコニコしながら歩いていると、整備兵や他のパイロットが私に注目している。

 ノーマルスーツって、かなり身体のラインが出るんだよね。露骨にみられると、恥ずかしいと言うよりコイツら……みたいな気持ちになる。

 

「どうだった?」

「楽しかったです。MSがこんなにも楽しいものだとは、思っていませんでした」

「そう。それはよかったわ」

 

 マヌエラ曹長の目が厳しい。これは、呆れられている感じだ。はしゃぎ過ぎた。これからは自重しなければ。

 

 

 私はひたすらザクに乗った。飛行時間は三桁後半に達したと思う。機材は順次アップデートされていくので、どんどん操縦がしやすくなっていった。

 

 しかし同時に、MS-05という機体の限界も見えてきた。第一の欠点はオーバーヒートだ。流体パルス構造のため、動力パイプが熱を持ってしまう。

 長時間稼働し続けると、熱暴走してしまう。

 

 第二の欠点は機動力だ。コイツ、けっこう遅い。私の操縦に付いてこない。多分、オーバーヒート防止のためにリミッターが付いてる。

 欠陥を報告するのが、私の仕事だ。この仕事のおかげで粗探しが上手になった気がする。

 

「少尉。ご苦労だった。君のおかげでMS-05の欠陥は洗い出せた。これで量産に移ることが出来る」

「量産されるんですか?」

「ああ。MS-05はMS05-bとして、量産することが決まった。また、君のテスト結果からMS-06の計画も動き出す」

「新型が出るのですか? テストも我々で?」

「ああ。我々は新型機のテストを行うこととなる。技術本部としては、教導機動大隊に負けるわけにはいかない。我々にも潤沢な予算が付いた。それにだ、キシリア閣下が上手くやったようだ。我々は、グラナダに移転することとなった」

 

 住み慣れたダークコロニーともおさらばである。グラナダの市長が事故死したというニュースは私も見た。状況が不審だったため、話題になっていたニュースだ。

 キシリア閣下の長い手が絡んでいたようだ。市長の後任となった人物は、親ジオン的な人物であり、私たちに非常に都合がいい。

 

 我々、技術本部試験隊のグラナダ試験場は、ダークコロニーの数倍の広さがあった。グラナダの外縁部のため、アクセスは非常に悪いが、軍用地というものは、えてしてそういうものだ。

 

「MS-06の調子はどうだ?」

「ばっちりです。でも、リミッターは要りません。慣れたパイロットなら、この機体を重く感じるでしょう」

「不満か?」

「いえ、不満点はそこだけです。良い機体ですよ」

 

 レテクト少佐のモノクルがキラリと光る。口の端を吊り上げ、悪そうな表情を浮かべる。

 

「おめでとう。少尉に実戦任務だ。教導機動大隊との合同任務になる。任務の目的はミノフスキー博士の亡命阻止だ。期待しているよ。あの汗臭いやつらに、一泡吹かせてやれ」

 

 私たち技術本部試験隊と、教導機動大隊は予算を奪い合う仲だ。任務概要を読む限り、今回のミノフスキー博士の亡命阻止計画は、元々教導機動大隊のみで行う予定だったようだ。

 技術本部試験隊が、無理やり私を捩じ込んだのだろう。予算争いの道具にされるのに思うところも有るが、貴重な実戦である。経験として活かしていきたい。

 

 今回の任務に捩じ込まれたのは私だけだ。教導機動大隊は、ゴリゴリの戦闘部隊である。技術本部試験隊のような、軟弱と詰られるような組織とは違う。

 教導機動大隊のランバ・ラル大尉は、ゲリラ戦の専門家でバリバリの軍人である。

 我らがテクナ・レテクト少佐は、似非イケメンモノクルもやしである。

 叩き上げと後方のエリート。対照的だ。

 

 教導機動大隊の練度と比肩するのは私くらいしかいなかったのだろう。好きこそものの上手なり。MS乗るの楽しいし、飛行時間も長いので、私の腕はそんじょそこらのパイロットの二回りくらい上だ。

 

 グラナダから教導機動大隊との集合場所へ向かう。見付けた。チカチカとモノアイで光通信を行う。向こうもコチラを視認したようだ。赤いザクだ。赤? いや、ピンクかもしれない。

 

 私のザクはMS-06のパッチワークだ。技術試験用なので塗装が間に合わないのだ。モスグリーン塗装をされているパーツと、下地のクリア塗装のみのパーツが混合している。デカデカと機体番号と赤いラインが入っている。

 カッコイイと思う人もいるが、ダサいなと思う人もいるだろう。私はどちらかと言うと後者だ。この機体はメディアに報道されないため、美麗な塗装をする必要がないのである。現場でのミスを減らすため、目立つ赤いラインと機体番号が入れられている。

 

「こちら、技術本部試験隊、イリス・ラグナス少尉だ。今回の合同任務、よろしく頼む」

「こちら、教導機動大隊シャア・アズナブル少尉だ。久しぶりだなイリス少尉。また会えて嬉しいよ」

 

 あの頓痴気カラーのザクに乗っているのはシャアだった。通信画面にはクソダサバイザーを付けた顔が映し出される。顔は良いはずなのだが……いや、よそう。

 

「シャア。軍に戻ったとは聞いていたが、まさか任務を共にするとは思わなかった」

「そうだな。思い出話はこれくらいにしよう。まずは任務だ」

 

 この機体はバカでかい対艦砲を持っている。ツィマッド社がコンペに出したヅダとかいう機体のオプションパーツだ。ヅダはオーバーヒートして爆発した欠陥機である。

 とはいえ、対艦砲は技術本部の興味を引いた。近接戦闘をするよりも遠距離から撃って当てた方が強い。単純な理屈である。ミノフスキー粒子がこの理屈をぶち壊したが、遠距離から撃って当てるのうち、()()()という部分がダメになっただけである。当たれば強いのだ。

 

『機動戦闘をしながら遠距離で当てれば良いじゃん!』『確かに!』なんて会話が有ったかは不明だ。

 私以外のテストパイロットは曲芸めいた芸当が出来なかったが、私は出来たので対艦ライフルは気に入っている。

 

「いたぞ! 博士を乗せた車だ」

「オルテガ、足止めしろ」

 

 連邦軍のMSモドキが、現れるかもしれない。ということで、私はスナイパーをしている。スポッターはシャアだ。

 歩いてくるよりも、フネを使うだろう。その艦を落とせば一網打尽というわけだ。

 

「見つけた」

「どこだ? 居ないぞ」

 

 使えないスポッターだ。ということで、連邦の艦に向けて全弾発射。何発か当たれば良いなと思ってぶっ放した。

 

「外したな」

「そんな日もある」

 

 残念ながら1発も当たらなかった。しかし、敵は焦ったようで、次々とMSを投下する。ミノフスキー博士への距離はかなりある。

 

「おい、シャア。どこに行く?」

「無論、前線だとも」

 

 スポッターが居なくなったので、対艦ライフルを置き、MMPマシンガンを持つ。これもテスト品だ。現行の120mmから口径を小さくしたやつである。

 

「中遠距離タイプか。なら、近接に持ち込めば良い」

 

 3点バーストを徹底しながら、連邦の木偶の坊を叩く。ザク相手に足を止めて射撃してはいけない。敵の重装甲低機動の機体の運用としては正しいが。

 正しいのだけれど、機動力のあるザク相手にやってはいけないことをしている。こちらの練度が高かったのと、情報が不足していたのが彼らの敗因だろう。

 

「嬢ちゃん。手が早いな。俺たちにも残しておいてくれよ!」

「はあ、ご勝手にどうぞ」

 

 ミノフスキー博士は捕らえられたようだ。兵隊ヤクザが、楽しそうに連邦の機体を破壊していく。

 

「降伏する気って有りますか?」

「ふざ、ふざけるな!!」

 

 一方的な展開になったので、私の分として残しておいた機体のパイロットに降伏を勧めてみた。

 あの兵隊ヤクザを見た私は冷静になったのだ。鹵獲すれば、私の評価が上がるかも知れない。

 

「ぐぅ、くそ。武器が……」

「降伏しましょう」

「ジオンには屈さない。くっ、殺せ」

 

 武器をぶっ壊しても降伏しなかったので、コクピットを殴りまくる。多分、気絶したかなぁって、ザクから降りてコクピットを無理やり開けたら、首が変な方向を向いた死体が有った。

 血や体液は漏れてないからセーフなはず……モビルスーツの鹵獲は、なかなか難しいという教訓を得た。

 

 ミノフスキー博士はどうなるのだろう。良い未来が待っていないことは確かだ。

 シャアにライフルを持たせ、連邦の鹵獲機を回収地点まで引き摺っていく。鹵獲したは良いけれど要らないって言われたらどうしよう。

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