〇年後に死ぬジオン士官ちゃん   作:むにゃ枕

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04.ここは穏便に暴力で……

 ミノフスキー博士を奪還してからしばらく経った。この間、私は報告書を書いたり、ザクに乗ったりしていた。私が提出した報告書がフィードバックされるのは、MS-06の次の機体になりそうである。

 

 鹵獲されたガンキャノンは、実験の結果、重装甲だが機動力が低いことが判明した。戦闘での印象と同じである。これを効率的に打倒するには、MS-06よりも出力が高く、機動力に特化した機体が必要となる。

 機動力と近接戦闘力をコンセプトにした機体の開発を、技術本部は目指すようだ。

 

 この新型機は開発しなくても、ザクのバリエーションで十分に役割を果たせる気もする。きちんと教育されたパイロットであれば、ザクでもガンキャノンを撃破可能である。

 まあ、駄作機であっても停滞するよりはマシだ。開発することが重要なのだ。

 

 

 戦争が近いのだろう。一度稼働させれば止められないものまで、最近は動かしている。大規模な戦時体制への転換が行われているのだ。

 経済的なメリットは全くない。戦争のための無駄な浪費だ。だが仕方がない。連邦政府を打倒するためである。

 

 連邦政府に戦争を吹っ掛けることには、私も大いに賛成だ。しかし、冷静になると勝てるビジョンが浮かばない。

 精神力で勝てるので有れば、私はもう連邦政府を打倒できている。一体、どうするのだろう。

 

 火傷痕が疼く。モビルスーツはゲームチェンジャーになるのだろうか? よく分からない。目の前の敵を殺すくらいしか、私には出来ないのだ。難しいことは、ジオンの首脳部や、将官クラスが考えるのだろう。

 

「おめでとう! イリス・ラグナス()()。出世だ。君のテストパイロットとしての功績と、月面での戦闘が認められた。中尉だよ。よかったね」

「ありがとうございます。それで、希望を出しておいた前線部隊への配置転換は有りますか?」

「いいや。君はウチの所属のままだよ」

 

 レテクト少佐の返答にガックリと肩を落としてしまった。私は前線で連邦兵を殺したいのに。こんなコミュ症モノクルもやしの下でずっとテストパイロットだなんて……

 

「まあまあ。話は最後まで聞くものだよ。君には小隊長として、実戦に参加してもらう。簡単に言えば、実戦での新兵器のテスト要員だね」

「はぁ。ま、まさか。あの欠陥機のヅダで戦えと?? 対艦ライフルは好きですけど、爆発する機体には乗りませんよ!」

 

 実戦でテストする機体なんてヅダ以外に無いだろう。ザクⅡが生産されているのだ。それでてんてこ舞いだ。実機が無いぞ。コイツ、私をヅダに乗せようとしてるな…!

 ザクより推力が有って速いのはいいけど、爆発するのが致命的すぎる。私はまだ、死にたくない。

 

「中尉が乗るのはザクⅡの改良機だよ。エース向けの機体を調整してもらう。ザクⅡR型ってところかな。それを君に試してもらう」

「それなら、喜んで乗ります、良かったぁ」

「君が僕を信用していないことが良く分かったよ」

 

 糸目でモノクル掛けてる技術系の少佐なんて、風体が怪しすぎる。いつ、私を強化人間とやらの実験体にするか分からない。

 なんとなく、信用しない方がいいんだよな。この人。そういうカンが働いている。

 

「君、何か失礼なことを考えていないかい??」

「いえ、特に何も考えていません」

「あっそうだ。イリス君は今日からギレン総帥の親衛隊になったんだった。新しい軍服を届けさせるよ」

 

 親衛隊?? 私が?? ちょっと意味がわからない。いきなり過ぎないか??

 

「今、親衛隊と言いましたか? 私が、親衛隊??」

「うん。僕も親衛隊入りだよ。なんでも、教導機動大隊がキシリア様の色が強いことを、ギレン総帥を支持するお歴々が憂慮していてね。元々、技術本部はギレン総帥の色が強いんだ。そういうことだね」

 

 どういうことだよ!? 何か過大評価されていないか?? 大変なことになっている気がする。政治的なものに巻き込まれている気がするんだが…!

 

「私は、一介の少尉、いえ、中尉ですよ」

「教導機動大隊の精鋭と比肩し、ガンキャノン2機を撃破、1機を鹵獲した。果たしてそれは、一介の中尉と言えるかな?」

「…………言えると、思います」

「本当に?? 本当に言えるかい?」

「………………言えませんね」

 

 結果を出し過ぎてしまったのだろう。完全に派閥抗争に巻き込まれた。派閥に入れば、出世しやすくなるし、そもそも両親がギレン派だったので今更ではある。

 ギレン総帥や、デラーズ大佐と会っているし、援助を受けているのだ。これで突然、キシリア様の部下になるとか言ったら、酷いことになるだろう。

 

「分かりました」

「ああ。そうだ。君の小隊メンバーを引き抜いておいた。技量は確かな連中だ。資料を渡しておく」

 

 少佐から受け取った資料を見る。私の部下は男3人のようだ。准尉に、曹長、軍曹とばらばらだ。彼らも私と同じく、突然出世し親衛隊に入れられたらしい。

 

 グエン・ハルトマン准尉。出身は主計課。月面バイクが好きで、そこからMSパイロットに転向という異色の経歴だ。褐色眼鏡である。

 

 ミロシュ・ヴォルフ曹長。絵に描いたようなおっさんだが、腹は出ていない。ギレン総帥のシンパだ。なんでも、地球で商売をしていたが、反ジオン運動に巻き込まれ妻子を失ったらしい。

 

 チン・ディック軍曹。チャラチャラしてる。関わりたくない。しかし部下だ。案外、真面目なのかもしれない。

 

「あたし、あんたの機付き長になるからね。よろしく頼むよ」

「マヌエラ機付き長~。あなただけが癒しです。うう。部下の癖が強すぎる」

 

 ハルトマン准尉は、めちゃくちゃ言葉遣いが丁寧で、けっこう嫌味を言う。名前からして、ドイツ系なのに、精神はイギリス人かよお前ぇ。操縦は上手い。しかし、コイツとペアを組みたくはない。

 

 ディック軍曹は、私の胸と会話している。あと、尻をガン見してくる。性欲の塊だ。コイツとも組みたくない。委員長タイプのハルトマン准尉と組んでくれ。操縦は上手いよ。クソ。返品理由がない。

 

 ヴォルフ曹長はマトモ枠だ。ギレン総帥をリスペクトしているようで、難しい話をけっこうしてくる。ごめん、エレズムの話とか、私は全然分からない。操縦は三人のうち一番下手だ。上澄みなんだろうけど、おじさんだから、学習能力が低いのだろう。努力している感じが有って、好感が持てる。

 

「ヴォルフ曹長。私のペアに任命する。励みたまえ」

「お、俺、いえ私ですか?」

「ああ。そうだ。小隊の中で私が、一番操縦が上手く、曹長が一番下手だ。小隊の能力発揮のために、最も効率的だと判断した」

「……分かりました。努力します」

 

 曹長は悔しそうな表情を浮かべた。あっ、ごめん。責めてるつもりじゃないんだ。もっともらしい理由を考えたけれど、あいつらと組みたくないだけなんだ。

 

「曹長の実力は責めていない。規範は重要だが、我々はペアだ。信頼関係が重要となる。私の前では、俺で構わない」

「はっ。了解しました」

 

 馬鹿真面目でいいな。嫌味准尉と、エロ軍曹に爪の垢を煎じて飲ませてやれ。

 

 我々技術本部試験隊は、ジオン公国軍の前線部隊の一翼を担うこととなった。私たちの正式名称は、技術本部試験隊前線テスト小隊だ。なんとなく意味は分かるが硬すぎる。

 もう少し、ソフトな部隊名称が欲しくなる。

 

「それならノイアー・ガイストで良いんじゃないか?」

 

 カッコイイ部隊名称を考えるべく、上司に相談すると、レテクト少佐にしては、真っ当な案を出してきた。

 

「ニューゴースト? 新しい幽霊ですか?」

「ああ。君たちは前線を転々とし新兵器のテストを行う。戦場に現れては消える。幽霊みたいじゃないか」

「なるほど。では、そうしましょう」

 

 技術本部試験隊改め、ノイアー・ガイストがここに動き出すこととなった。

 

 

 小隊として訓練することしばらく。ようやく私が満足する動きが出来るようになった。教導機動大隊の連中よりは劣るが、精鋭と言える動きは出来るようになった。

 

「こ、この動きで及第点ですか? 教導機動大隊の連中ってのは、化物なんですか?」

「向こうは教導隊だからな、全MS部隊の模範となるような部隊にならねばならない。そのため、練度はトップクラスだ」

「俺たちノイアー・ガイストは、技術本部の試験隊ですよ。そんな奴らのような練度が必要なんですか?」

 

 ヴォルフ曹長の疑問ももっともだ。教導機動大隊は、ギレン総帥の隷下にない。ドズル中将やキシリア少将が、ギレン総帥に叛意を持った時に、教導機動大隊は敵となる。

 私たちノイアー・ガイストは、教導機動大隊を抑える役割が有るのだ。味方同士で争うなど、愚の骨頂であるし、リソースの無駄だ。だが、可能性があるなら抑止力として存在しなければならない。

 こういうことを、ヴォルフ曹長に説明するのは面倒だな。そもそも曹長が知るべき情報ではない。

 

「政治だ。ギレン総帥の見栄だよ」

「総帥の……」

 

 ヴォルフ曹長はギレン総帥に心酔しているようなので、これで黙らせられると思ったのだが、そう上手くは行かなかった。納得していません、と顔に書いてある。

 

「私はエースだからな。エースには箔が必要だ。君たちも抑止力として鍛えられる必要がある」

「抑止力…? それは連邦にですか? それとも……」

 

 コイツ、何の変哲もないおっさんに見えてなかなか勘が良い。内輪でギスギスするのは勘弁して欲しい。

 

「囀る元気があるなら、ザクで訓練してやろう」

「いえ、遠慮しておきます。マヌエラ機付長が、これ以上の稼働は勘弁してくれと言っておりました。消耗品交換をしなければならないと」

「消耗品の交換はもう終わっている。言い訳はそれだけか?」

「か、勘弁して貰えませんか??」

「よし、やろうじゃないか」

 

 このあと、めちゃくちゃ訓練した。帰投のさなか、見慣れぬザクを見つけた。知らないバリエーションだ。

 

「曹長、あの機体は何だ?」

「ザクC型と聞いてます。核兵器の運用が出来るザクです」

「誰から聞いた? 私は聞いて居ないぞ。そんな機体が居たとは……」

「しまった…! 酔った他部隊のテストパイロットの連中です……中尉、忘れて頂けませんか?」

 

 マヌエラ機付長が消耗品交換と言い出したのは、このことに関係があるのだろう。核運用が出来るザク。これは、確かに関係者を絞るべきものだ。

 訓練で疲れていたから、ヴォルフ軍曹もつい口に出してしまったのだろう。秘匿されるべきものを喋ってしまった。

 

「そうか! 分かったぞ!」

「な、何がです!? もう訓練は懲り懲りですよ!」

「戦争に勝つ方法だ。MSによる核運用で、数倍の連邦軍を撃滅するならば、数に劣るジオンにも勝利の可能性がある」

 

 核をどこに使うか。勿論コロニーだろう。今ならば、まだ配置希望を出せるのではないか。両親を殺したサイド2は、幸い反ジオン親連邦的な姿勢を見せている。サイド2に核を撃ち込みたい。

 

「失礼します! 私のガイストをサイド2攻撃に組み込んで頂けませんか!?」

「なんだ騒々しい」

 

 レテクト少佐は、思い切り眉間にシワを寄せている。

 

「ヴォルフ曹長。そこの中尉は何を言っている?」

「は、自分にも分かりません」

 

 私は自分の仮説をぶち撒ける。コロニーに核を撃つだろうこと。それならば両親の仇であるサイド2攻撃に参加したいこと。私の話を聞いた少佐は、溜息を吐いた。

 

「割り当てはもう決まっている。アサクラ大佐の海兵隊だ」

「技術本部のアサクラ大佐ですよね? それならば、私たちを捩じ込める余地が有ります」

「……良いのか? サイド2には、特殊な攻撃が行われる。経歴に傷が付くぞ?」

「経歴への傷など気にしません。父と母を殺したテロリストは、サイド2の人間でした。その報いを受けさせる時が来たのです」

「分かった。アサクラ大佐には伝えておく。忠告はしたからな」

 

 レテクト少佐は、私がサイド2の攻撃に参加することを妙に嫌がった。サイド2にのみ核攻撃が行われるのだろうか? 嫌がる理由が思い浮かばなかったが、分からないことは分からないのだ。気にしないことにしよう。

 

「ヴォルフ曹長。少佐が嫌がったのは何故だと思う?」

「……中尉こそ、何故、嫌がらないんですか? 核攻撃が本気ならコロニーに住む民間人への虐殺ですよ。国際法違反だ」

「む? それはそうだが、ジオンが勝つためには仕方ないだろう?」

「コロニーには老人や女性、子供も赤ん坊も居るんですよ! 病院だって有る! そこを核で吹き飛ばすなんて!」

「……なら、ジオンが勝利する方法を挙げてみろ」

 

 曹長は黙り込んだ。核なしでジオンが勝利することは軍事的に不可能だからだ。

 

「言論です。言葉でスペースノイドは戦うべきなんですよ! 言葉にはチカラが有ります!」

 

 反射的に曹長を壁に叩きつける。そして殴りつけた。

 

「な、何を!?」

「私の父も母も、それで殺された! 言葉で分かり合おうとして! だから暴力しか無いんだよ! 私たちがされたように、野蛮な暴力で撃ち倒す! 分かったか!」

 

 曹長の顔を張ったら、気が済んだ。殴られた曹長は呆然としていた。よりによって、私の前で言葉だって? 言葉かよ。それで、分かり合えるんだったら父も母も死ななかった。

 曹長が軍を辞すかもしれないが、そうなっても仕方ない。私にも譲れないものは有るのだから。

 

 いよいよ戦争が始まる。陰惨で、野蛮な暴力が行使されるのだ。人類はまだ、それ以外の対話手段を使えるほど大人ではなかったのだろう。

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