〇年後に死ぬジオン士官ちゃん   作:むにゃ枕

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05.コロニー落とし

 ジオン公国軍と地球連邦軍との間で、戦争がはじまった。

 

 私は、ムサイ級ウラルの格納庫で、サイド2の宙域に到達するまで待機だ。暇な時間が有ると、少しこの先のことを考えてしまう。

 

 ノイアー・ガイスト隊はアサクラ大佐の指揮下に入っている。突撃機動軍の海兵隊と合同でサイド2の制圧任務を行うのだ。

 アサクラ大佐は技術本部の人間でギレン派である。海兵隊は突撃機動軍の所属だが、大佐の指揮下にあり実質ギレン派となっている。

 それはつまり、この任務がギレン派でなければ、出来ないよう後ろ暗い性質を含んでいることを意味する。

 

「海兵隊となると、着上陸でもするつもりなのか? ザクC型の存在を考えるとやはり核か?」

「戦争なんて碌でもないよイリス中尉。アンタの乗機はR型の試験機だ。物騒なことを言わないで」

 

 マヌエラ機付長がそう答える。残念ながらC型はガイストには配備されなかった。部隊にいるのは量産型と私のR型だけだ。高性能機なのに嬉しくない。

 

 特に何のトラブルもなくムサイ級ウラルは、サイド2の戦闘宙域に到達した。先行している海兵隊を援護する形だ。

 

「イリス・ラグナス、ザクR出る!」

「了解。どうぞ」

 

 ムサイの格納庫から、宇宙に向けて放たれる。無重力が気持ちいい。

 

「ガイスト隊は、ポイントαで集結。ポイントβで、海兵隊と合流する」

 

 連邦の駐留軍ははっきり言って雑魚だ。奇襲だったことも有り、数的優位もこちらにある。

 ポイントβで、海兵隊と合流したが、敵機は全く見えなかった。

 

「先行した海兵が全滅させているな……」

「戦果ゼロですね。これは中尉のミスですよ」

 

 ハルトマン准尉がチクチク嫌味を言う。うるせー。戦わなければ損害が生じないのだから、良いことなんだよ。

 

 海兵隊は、ほとんど味方に犠牲を出さずコロニーを制圧していた。首都バンチは無傷だ。ブリーフィングのオーダー通りである。

 

「アサクラ大佐。ノイアー・ガイスト隊到着しました」

「ご苦労。コロニー内部に侵入しシーマ隊を援護しろ」

「了解しました」

 

 コロニーへの侵入口にいる海兵隊のザクはMS-05だ。核は使わなかったようである。

 

「ヴォルフ曹長。あの艦艇に見覚えは有るか?」

「あー。色は違いますが、コロニー公社の空気注入艇ですかね?」

 

 曹長は、私の過去について調べて自分の中で納得したらしい。それで、まだ私の部下をやっている。真面目だ。

 

「空気注入艇…? 睡眠ガス、いや、毒ガスだな」

「ど、毒ガスですか!? 中尉、アサクラ大佐に中止の進言を!」

 

 コイツは何を言っているんだ? そんなことが出来るわけがない。そして、私に止めるメリットがない。

 

「サイド2は、私の仇だぞ。どうなろうと構わないだろう」

「……しかし」

「連邦の市民に、死んだ妻子を重ねているのか? 連邦に殺されたんだろう。曹長にも復讐する権利が有る。むしろ復讐を果たせたと喜ぶべきだ」

「…………」

 

「ハルトマン准尉、ディック軍曹はここに残れ。ヴォルフ曹長は、私に追随しろ」

「了解。戦果なしですから、中尉の采配に期待してますよ」

「嫌味か貴様」

「ええ。そうです」

 

 口が悪いハルトマン准尉を置いて、コロニー内部へと続く隔壁を開く。エアが抜ける。気密は保たれているようだ。

 降り立った市街地エリアでは人がたくさん倒れている。死体だ。死体の顔面は蒼白で、表情から苦しんだであろうことが見て取れる。

 

「ゔぇぇ゙ぇ゙ぇ」

「通信を切るぞ」

 

 ヴォルフ曹長が嘔吐していたので通信を切った。豆腐メンタルなのか…? 仕方ないだろ、戦場だぞ。

 

「私は知らなかった!……毒ガスだなんて知らなかったんだよぉぉー!!」

「……あのー。こちらノイアー・ガイスト隊、イリス・ラグナス中尉です。シーマ・ガラハウ中佐の指揮下に入ります」

「……中尉、アンタは毒ガスについて知ってたのかい?」

「は? いえ、知りませんでした。初耳です」

「なら、なんでそんなに落ち着いて居るんだ!!」

 

 いや、こっちとしたら、なんで初対面の中佐からレスバ仕掛けられてるんだよ???って気分なんだが! 復讐を果たしてスッキリしてるのに、部下は嘔吐するし、 上官はキレてるし……

 

「ま、まぁ落ち着きましょう。大丈夫ですよ。国際法にバリバリ違反してますが、ジオンが勝てば有耶無耶になります!!」

「…………」

 

 シーマ中佐は黙った。国際法違反がショックだったのか? いや、言動からして騙されて虐殺の主犯になったことか。

 

「いっぱい敵を倒して出世しましょう!! 偉くならなきゃヤバいですよ!! 処刑されちゃいます」

「アンタは、この惨状を見て何も思わないのかい??」

「子供が死んでいると可哀想だとは思いますよ」

「だったら!!」

「でも私のお父さんと、お母さんを殺した奴らですよ。自業自得です」

「は?」

「サイド2の市民が父と母を殺して、私の顔に火傷痕を残しました。だから、私はサイド2の市民が死んでいるのを見てスッキリしています。これってそんなにおかしいですか?」

 

 通信越しにシーマ中佐は、目を見開いていた。信じられないものを見るような目で、私を見ている。

 

「…………狂ってる」

 

 失礼だな。私は正気だよ。

 

 人が死ぬことは、とても大きな出来事だ。けれど、フィルターを通して紙面で見てしまえば、兵士の死は単なる数字になる。

 私にとって、目の前で起きていることは単なる敵の数字が減ったことに他ならない。

 

 シーマ中佐がレスバを仕掛けてきたが、任務は無事に終わった。ノーマルスーツを着た連邦の兵士が、脱出艇で逃げるトラブルは有ったが、シーマ中佐が追うなと命じたため、始末出来なかった。

 多分、私はシーマ中佐と相性が悪いんだろうな。人間関係は巡り合わせだ。仕方がない。

 

「突撃機動軍は、撤退するそうです。我々はどうします?」

「ハルトマン准尉は手柄が欲しいんだったな。なら、コロニーの移動に追従しよう」

「移動? このコロニーはどこに行くのです?」

「地球だよ」

 

 コロニーが動き出し、突撃機動軍の管轄宙域から宇宙攻撃軍の管轄宙域へと入る。海兵隊は宇宙攻撃軍にコロニーを任せ、去っていった。ノイアー・ガイストは親衛隊所属なので管轄に縛られない。

 親衛隊の特権は、こういう使い方も出来る。

 

「ギレン閣下の親衛隊か。困るな。こういうことをされると」

「でしょうね。私たちは部外者です。単独でコロニーの近接防御に使ってください。ザクも対核仕様では有りませんし」

「そうだな。それがいい。ガイスト隊は、コロニーの近接防御を頼む」

「了解しました」

 

 宇宙攻撃軍の大佐はかなり物分かりが良かった。私たちは、コロニー間近で敵を迎撃することになった。

 うっかり前線に出て、味方の核に融かされてはたまらない。なので、私たちの配置は真っ当と言えるはずだ。

 

 コロニーを地球に落とすべく、アイランドイフィッシュの周囲に展開しているジオン宇宙攻撃軍は大艦隊である。そして、コロニー落下を阻止するべく集結した連邦艦隊も巨大な艦隊だ。

 

 連邦艦隊が、ソラを覆いつくすように、ビームを斉射する。そして、その後をミサイルが追う。

 ジオン軍も同様に反撃するが、後方からだと味方の火線の方が少なく見える。

 

「核が混じってますね。連邦軍もやるときはやるようです」

「ああ。あの爆発が大きいやつか」

「ええ。そうです」

 

 准尉と撃ち合いを観戦する。時折、ビームやミサイルが飛んでくるが、こちらからはかなり距離が有り、回避動作は不要だ。

 しばらくして、連邦艦隊からいくつもの小さな光が浮かんでくる。バーニアが光っているのだ。

 

「爆撃機が来たな。仕事が出来るかもしれん」

「我々は後方です。ここまでの浸透を味方が許さないでしょう」

 

 果たして准尉の言は正しかった。ほとんどの敵機が、前線の味方により落とされる。全く、私たちの仕事がない。

 

「おっ、抜けたぞ。よし、来たぞ!」

「ようやく出番ですか?」

「あー。駄目か、落とされた」

 

 勇気と腕を兼ね備えたパブリク突撃艇だったが、MSには勝てなかったようだ。

 そうこうしているうちに、セイバーフィッシュの編隊が前線の防衛網を突破してきた。腕利きで運にも恵まれているようだ。

 

「来たぞ。セイバーフィッシュが3! 爆装機だ」

 

 准尉と軍曹のペアが先行する。教科書通りの綺麗な動きだ。2機のセイバーフィッシュはスペースデブリの仲間入りを果たした。

 隊長機らしき、最後の1機がなんとしても、一矢報いようとコロニーへ向かった。

 追うかと思ったが、その必要は無かった。

 

「ヴォルフ機、撃破しました」

「よくやった。体調は大丈夫か?」

「はい。自分は軍人です。何が正しいかはわかりません。それでも、命令は果たします」

「まぁ、ほどほどにな」

 

 悩みがちなおじさんのメンタルケアをしていると、宇宙攻撃軍から撤退の指令が下った。コロニーが阻止限界点を越えたのだろう。

 宇宙攻撃軍は、連邦軍と砲撃戦を行ったため、この戦闘でかなりの損害を受けている。

 アイランドイフィッシュが阻止限界点を越えたことで、最低限の役目を果たしたとして撤退するのだろう。

 

 このブリティッシュ作戦の指揮官キリング・ダニガン中将が、積極的でなかったのか。シーマ中佐の言動を考えると、そんな将校がいてもおかしくない。中将の人となりは知らないが、なんとなくそんな気がした。

 

 阻止限界点を越えてもしつこくビームを浴びせ続けた連邦軍により、コロニーは3つに分かれた。

 コロニーを地球に落とすことには成功したが、ジャブローを潰すという当初の目的は達成されなかった。

 

 とはいえ、地球連邦は、3つのサイドを失った。富の源泉であるスペースコロニー群を3つも失ったのだ。経済的な打撃は深刻だろう。

 また、地球にコロニーを落とされるという非常に政治的な作戦を止められなかった。これにより連邦政府の権威は失墜しただろう。

 

 連邦宇宙軍に残されたのはサイド5(ルウム)と、宇宙艦隊だ。これを潰してしまえば、連邦軍を地球に追い込める。宇宙の覇権を手に入れさえすれば、スペースノイドの独立は果たされるだろう。

 

「次はルウムだ。ここで勝利すれば連邦宇宙軍は瓦解する。そうすればジオンは勝利するだろう」

「中尉、恨みというものは怖いものですよ。コロニー落としで妻子を失ったら、あるいは夫を息子を失ったら、アースノイドはどうすると思います?」

「立ち直れないだろう。諦め嘆き悲しむだけだ」

「……あなたも私もそうなりましたか?」

「む? いや、曹長はともかく私は違う。復讐だな。親連邦的なスペースノイドとアースノイドを皆殺しにしてやりたいと思う」

 

 そこでようやく、私は気が付いた。サイド2首都バンチ、アイランドイフィッシュへのGGガスの注入や、地球へのコロニー落としはたくさんの()を生み出したのではないだろうか?

 大切な誰かを理不尽に奪われた()が、地球にも居るならば、それは戦争が終わらないことを意味する。

 

「不味いな。これでは、絶滅戦争が起きるぞ。お互いが死に絶えるまで、この戦争は終わらないんじゃないか?」

「そこまで野蛮だと思いたくは有りません。しかし、連邦政府が簡単に折れるとは思えませんね」

 

 ヴォルフ曹長の指摘は、私の楽観的な気分に水を差した。

 

 ひょっとすると、ジオンはパンドラの箱を開いてしまったのかもしれない。

 箱の奥から希望が現れるのは何時になるのだろうか。それは果たして本当の希望になるのだろうか。

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